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2023.03.14

ジャン=ポール・セレ前フランス刑法学会会長を招いて研究会を開催【犯罪学研究センター/矯正・保護総合センター共催】

フランスにおける行刑法典と社会内処遇

 2023年1月26日、27日の両日、龍谷大学犯罪学研究センター・司法福祉ユニットは、同矯正・保護総合センターとの共催により、最近までフランス刑法学会会長の任にあったポー大学法学部准教授ジャン=ポール・セレ氏を招いて、計3回の研究会を開催した。セレ氏は、道路交通法研究等のほか、行刑分野での国際比較等で知られ、多数の重要な業績を公刊している。近年は、特に2022年に施行されたフランス初の行刑法典のコンメンタール作りに取り組んでいる(今年5月にDalloz社から出版の予定)。

〔報告者〕
ジャン=ポール・セレ氏(ポー大学法学部・准教授、ポー大学刑事司法/行刑研究所・所長、フランス刑法学会前会長)*1
〔司会〕
赤池 一将氏(本学・法学部・教授、犯罪学研究センター「司法福祉」ユニット長)
〔通訳〕 
ハラス・ドリス(本学・犯罪学研究センター リサーチ・アシスタント/嘱託研究員)

 1月26日の第1回研究会での報告は「フランスにおける行刑の法典化は進歩として評価されるべきか?」 (La rédaction du code pénitentiaire en France. Une réelle avancée ?) と題され、2022年5月1日に施行したフランス行刑法典の総合的な解説を主な内容とするものであった。当報告で、セレ氏は、まず、フランスで初めて行刑法が法典化された理由について検討を行った。これまで、刑事訴訟法典の法律、デクレ、規則等のほか、行刑法の導入等、この分野における複雑な立法の交錯から、規定を参照する際に実務家が直面してきた困難が説明された。そして、そうした困難から法典化を進めた経緯と、これが行刑理論にもたらす影響と同時に、この動向が受刑者の刑事施設内での生活に及ぼす具体的な変化の可能性について検討が行われた*2。特に、この観点からは刑務作業のあり方が改めて問題化*3され 、一般社会における通常の雇用契約との同一の契約内容を規定する「刑務作業雇用契約」(contrat d’emploi pénitentiaire)が行刑法典と同時に導入された意義が議論された。
 報告の後半では、セレ氏はこのフランス行刑法典に対する批判を次の二つの観点から検討した。一つは、2022年の行刑法典は「オルドナンス」という立法方法の下で採択され、それゆえに国会で十分に議論が尽くされなかったことに関係する問題群である。もう一つは、これと関係するが、この法典の今後の修正点、特に、現行少年法である「少年刑事司法法典」との整合性、特に、この法典をいかに補完するかという問題、特に、少年を対象とする刑事・教育施設の運営が行刑法典において規定を欠く点であった。
 セレ氏は行刑法典の長所と短所を整理した上で、行刑規定の参照可能性が高まった点を高く評価し、立法方法の課題及び「刑の執行」をめぐる具体的立法の必要性を強調しました。
 翌日27日の第2回研究会(フリーディスカッション)においては、前日の議論を素材に、フランス行刑の立法や仕組みについての質疑が繰り返され、特に、フランスで導入された「刑務作業雇用契約」の具体的内容が焦点となる意見交換が行われた。日本の刑事施設における刑務作業との質的相違の理解を通じて、日本の現状の改善点が検討された。


〈ジャン=ポール・セレ准教授(ポー大学・法学部、フランス刑事法・行刑法研究所長)〉

〈ジャン=ポール・セレ准教授(ポー大学・法学部、フランス刑事法・行刑法研究所長)〉


〈赤池 一将教授(本学・法学部、犯罪学研究センター・司法福祉ユニット長)〉

〈赤池 一将教授(本学・法学部、犯罪学研究センター・司法福祉ユニット長)〉


〈ハラス・ドリス氏(本学・犯罪学研究センター リサーチ・アシスタント/嘱託研究員)

〈ハラス・ドリス氏(本学・犯罪学研究センター リサーチ・アシスタント/嘱託研究員)

 1月27日の第3回研究会において行われたセレ氏の第2報告は「フランスの社会内処遇と民間団体の関与−その長所と短所について−」 (Les associations et leurs activités en milieu ouvert. Un bilan en demi-teinte ?) であった。当報告では、社会内処遇における、フランスの特徴の一つである民間団体による活動*4の説明が行われ、これらの民間団体の法的位置づけや活動内容に関する情報共有が行われた上で、直面している問題点が分析された。
 報告の前半において、セレ氏は、フランスにおける刑事施設の過剰収容問題と社会内処遇の活発化の関係性を示しながら、現在フランスの受刑者の3分の2が社会内処遇の対象となっている点を強調した。また、セレ氏はこれらの受刑者の社会復帰に関わる民間団体の活動を紹介した上で、その活動の幅広さ(社会的活動、教育的活動、司法的活動など)や対象者の特徴(障害を持っている対象者の多さ、依存症問題に直面している対象者の多さ)について言及した。また、司法機関との必要不可欠な協力関係を指摘した。その際、2007年から刑事施設の過剰収容問題の解決方法として実施されてきた社会内処遇の活発化政策がもたらした「社会復帰・保護観察所」(Service pénitentiaire d'insertion et de probation)のマンパワー不足の緩和と民間団体の役割強化との関係についての説明が行われた。
 報告の後半において、セレ氏はこれらの民間団体の抱えている問題を中心に検討を行い、問題を5点指摘して検討を行ったが、特に、民間団体所属者が抱えているアイデンティティの問題に言及した。民間団体は、司法手続による処遇に関わることで、社会福祉士としてのアイデンティティを維持しながら、刑事司法の執行者となる。この相矛盾する二つの役割が、対象者との信頼関係を築く過程から、あらゆる活動の際に問題となる点が指摘されてきた。セレ氏は司法機関との協力関係の困難を問題化しつつ、司法と福祉の両者間の情報共有の少なさ、両者間の競争的な側面を指摘した。最後に、セレ氏は民間団体に与えられる予算の問題、民間団体所属者の訓練の問題と並べて、近年の厳罰化の動きが活動に与える悪影響を批判的に検討した。


<第3回研究会の様子(フランスの社会内処遇と民間団体の関与)①>

<第3回研究会の様子(フランスの社会内処遇と民間団体の関与)①>


<第3回研究会の様子(フランスの社会内処遇と民間団体の関与)②>

<第3回研究会の様子(フランスの社会内処遇と民間団体の関与)②>

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【補注】
*1 Jean-Paul Céré (Maître de Conférences à l’Université de Pau et des Pays de l’Adour, Directeur du Centre de Recherche sur la Justice Pénale et Pénitentiaire)
*2 このように、実務上の大規模な改正に至らない法典化は、フランス語で「codification à droit constant」と言われる。
*3 ここでいう、「刑務作業」(travail pénitentiaire)は、日本と異なり、受刑者が希望する際にのみ、一般社会の労働基準に類似した形で行われる刑事施設内での労働活動を指す。
*4 これらの民間団体は非営利活動を行う団体として「アソシアシオン(association)」とフランス語で呼ばれる。これらの団体は1901年7月1日の「アソシアシオン契約に関する法律 」に基づき、趣味・文化・スポーツ・社会貢献などを内容とした活動を行っている。