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2023.05.10

【犯罪学Café Talk】小正浩徳准教授(本学心理部 /犯罪学研究センター「臨床司法心理学」ユニット長)

心理学の視点から、“いのちの大切さ”と“コミュニケーション”について考える。

犯罪学研究センター(CrimRC)の研究活動に携わる研究者について、気軽に知っていただくコーナー「犯罪学CaféTalk」。研究の世界に馴染みのない方も、これから研究者を目指す学生の皆さんにも、是非読んでほしい内容です。
今回は、小正浩徳准教授(本学心理部/犯罪学研究センター 臨床司法心理学」ユニット長)に尋ねました。
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Q1. 小正先生の行っている研究や実践のその背景について教えてください。

──先生は学生時代から心理学を専攻されていたのですね。
「はい。私は京都教育大学そしてその後に京都教育大学大学院に進学しました。この大学に入学したのは、いくつか理由があります。一つは、将来教師になりかったことです。もう一つは、『人のこころ』特に『感じ方』『考え方』『言動』等に興味があり、これを学びたかったということですね。所属していた研究室の分野は、発達心理学・教育心理学です。」

──教員免許を取得し、そこから大学院に進学されたのはなぜですか。
「これもいくつか理由があります。最も大きな理由は心理学についてもう少し学び、研究したかったということがあります。でも、この理由の背景にはいろんな私自身の思いがあるのです。
教師になりたいと思って大学に入学したのですが、学生時に教育実習などを経験するなかで、自分は教師に向かないのではないかと思うようにもなっていました。そうなると、自分のキャリアの見直しが必要になったのですよね。その時に『人と違ったルートを歩みたい』ということをより考えるようになっていました。私が学生時代だったころは、大学院進学を考える人は今よりもさらに少ない時代でした。
 そして、大学で心理学を学ぶ中で、人の心の法則性や一般性だけでなく『わたしのこころ』という個別性とそれに関わることにも興味を持ち始めていたのです。」

──大学院生時代はどのようなことをされていたのでしょうか。
「研究としては、人の心の発達について行っていました。特に小学生に着目し、学校生活の中で体験するだろうクラスメイトとの葛藤場面をどう解決していくのか、これを相手の気持ちを推し量る力や共感性ということをキーワードにして考えていました。
また、『こころ』の個別性とそれに関わることの実践にも携わろうとしていました。つまりは、臨床心理学的な支援の現場に関わろうとしていたのですよね。私が大学院生当時はこうした現場に関われる機会は少なかったのです。しかしそこはやはり教育大というのか、『不登校』に関わることができる機会にめぐりあえました。当時京都教育大学には、児童精神科医の友久久雄先生(京都教育大学・龍谷大学名誉教授、浄土真宗本願寺派僧侶)や臨床心理学を専門とされる内田利広先生(現在、龍谷大学心理学部教授)たちがおられ、先生方のおかげで不登校児童生徒やその家族に関わる機会をいただくことができました。具体的には不登校児童生徒対象のキャンプや、不登校児童生徒の家庭に訪問し共に時間を過ごすといったことに関わることができたのです。」


Q2.いま最も関心を寄せているテーマは何ですか?

──先生の研究テーマは多岐にわたるように思うのですが、大学そして大学院などのこれまでのご経験が関係しているのでしょうか。
「そうですね。関係していると思います。先ほど『不登校』への関わりについてお話ししましたが、不登校状態にあるその人のことを知っていくと、そこにはさまざまなことが見えてきます。つまりは、『不登校』としての大枠は1つにまとめられても、その中にいる人たちの『こころ』は、当然ですが、多種多様なのです。そのことにあらためて気づかせてもらえる経験でした。
私の心理学における研究テーマというのか、興味関心の根っこにあたる部分は、『人は、他者や周りの世界をどう捉えているのか理解しているのか。人は、自分自身をどう捉えているのか理解しているのか』ということです。これに例えば不登校というキーワードを足せば、『子どもにとって学校はどんなところだろう(どのように映る)か。日常生活で接する人々(家族・友だち)との関係性はどうなっているのだろうか。子どもは、今の状況にある自分をどう見ているだろうか』となります。そして、このような子どもの『こころ』を知ろう、関わろうとするにはどうすればよいのか、となるのです。
私は大学教員だけではなく臨床心理士・公認心理師という側面もあります。いわゆる心理職として、不登校児童生徒やその家族への支援や、発達しょうがいのある方やその家族の支援、日常生活において悩まれる方への支援などを行ってきました。こうした支援に携わるなかでの出会いや大学教員として学生に出会うことなどと、先ほどの『興味関心の根っこ』とが合わさることによって『こころ』をより理解しようとしています。」

──先生の研究について、今もっとも関心を寄せていることとは。
死生観及び死生観教育です。『死』ということについて2つエピソードがあるのです。一つは、私のもっとも古い記憶は、『黒猫の死』なんですよね。1歳から2歳くらいの間の記憶です。それのせいかは分かりませんが、私にとって『死』は怖いものとなっています。同時に、幼少期から私は『死』を折にふれ考えるようになりました。もう一つは、祖父の『死』です。これは大人になってからの出来事です。祖父の葬儀に僧侶に来ていただきましてお経をあげてもらいました。その際、ご法話もいただいたのですが、そのご法話を聞く中でふと、『この体験はカウンセリングとよく似ているな』と思いつきました。いわゆる心理カウンセリングというと、多くの方は生活のしづらさや悩みをなくすためにと思われるかもしれません。日常を生きやすいものにする、確かにそういう側面もあります。でも心理カウンセリングには、今まで気づいていなかった自分自身のありように思いめぐらしそして気づくという側面もある、と私は考えています。このご法話を聞く中で私は、祖父の死を通して自分の『死』のありようを自然と思いめぐらしていたのですよね。これは同時『死』は怖いけれどそれに向き合うのは『自分が生きる』とは何かを考えることにもなるなあ、とご法話を聞く中で思っていたのです。そういうことに思いめぐらす自分に気づき、『心理カウンセリングと似ている』と思ったのですよね。そしてその後『死』とは『生きる』とは、と考えていくにつれ、人は一人で生きているわけでないということに思い至りました。ちょうど2010年より少し前のことでしょうか。そのころはすでに心理職としてカウンセリングを行っていたのですが、対人支援において、その人の『こころ』に関わるとは『いのち』に関わることであり、他者の『いのち』に関わる者としてまず自分自身の『いのち』に向きあうことが必要なのではないかと思うようになったのです。『いのち』つまりは今この時代に生まれ死んでいくという自分自身に向き合うことで、その有難さ感謝そこから他者への敬意と優しさが芽生えていくのではないか、こうした経験をすることが人と関わる職に就く者には大切なことではないか、と考えています。これが、死生観や死生観教育への関心になっているのです。そして仏教の大学である本学で働かせていただくご縁もあり、そのような教育の可能性を模索できたら良いなと思っています。もうかれこれ15年近くは考えていることなので、今というよりもライフワークに近いものになっていますね。学生たちにとって自分の死を考える経験の有用性を、大学における講義実践やインタビューなどによって明らかにしようとしています。」

Q3.2023年4月に龍谷大学に心理学部が開設されました。近年、国家資格である公認心理師制度も始まりましたが、いま資格を持って働く心理職に期待されているのはどのようなことでしょうか?

──心理学の分野における資格について教えてください。
「心理学の分野における資格として最も認知度の高いと思われるのは、臨床心理士公認心理師だと思います。臨床心理士は1980年代後半にできた資格で、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会(以下、協会)によって認定されます。つまり、民間資格なのです。ですが、この資格を得るためには、協会によって定められたカリキュラムを実施している臨床心理士養成に関する指定大学院または専門職大学院を修了し、資格試験を受けなければなりません。
公認心理師は、2015年に制定された公認心理法に基づく国家資格です。この資格を得るためには、基本的には大学ならびに大学院において定められた科目の単位を修得したうえで、資格試験を受けなければなりません。
臨床心理士も公認心理師もどちらも心理学の知見を用いて相談者に関わりますが、臨床心理士はさまざまにある心理学のうち臨床心理学により特化していると考えていただければと思います。
ちなみに、龍谷大学は、臨床心理士資格と公認心理師資格の両方を受験できるようにコースを整えています。」

──心理学の知見を用いて相談者に関わるとは、具体的にどのようなことをするのでしょうか。
「臨床心理士は相談者に関わる際の専門性を4つに分けることができます。①相談者やその関係者達の悩みのありようなどを深く捉えようとする心理査定(アセスメント)、②相談者やその関係者たちに関わっていく心理面接(カウンセリング)、③地域に住まう人々への支援(コンサルテーション等)を行う地域援助、そして④このような関わりから得られた成果の理論化やその検証等を行っていく調査・研究です。
公認心理師は、4つの業務があります。①支援を要する者の心理状態の観察・分析、②支援を要する者に対する心理に関する相談、助言、指導等、③支援を要する者の関係者に対する相談、助言、指導等、④心の健康に関する知識の普及のための教育や情報の提供です。
一般の方々からみれば、臨床心理士も公認心理師もよく似ているように見えると思います。どちらも『こころ』に関わる資格ではありますが、臨床心理士は悩みを抱えられた方の『自己実現』に寄与するべく臨床心理学をもとにした支援を行います。公認心理師は、国家資格でもあることから、『国民の心の健康』の保持増進に寄与するべく心理学をもとにした支援を行うのです。
役割が重なる部分がありますが、細かくみていくと期待されるところは異なるのです。」


Q4.先生が2020年度から担当されている“法学と臨床心理学を融合した講義”は学際的でユニークな取り組みですが、どのような目的で始められたのでしょうか。

「悩みを抱えた人への支援のために現場に出ると、そこでは、医療や福祉、教育そして司法などいろいろな専門家に出会います。そして、そのような専門家の方々と連携、協働することになります。協働すると、悩みを抱えられた人への支援に対する着眼点や考え方に違いを知ることになります。ですが、この違いがあることが大切なのです。そして、連携、協働がうまく機能するかどうかは、専門性の特色や考え方の違いを理解したうえで一緒に関わることができる能力にかかってきます。こうしたことを社会に出てから学ぶのではなく、大学生として専門分野を学んでいるうちから理解する一助になればというのがこの講義の目的です。
 このことをいわゆる座学的に説明するのではなく、実体験してもらおうというのが法学と臨床心理学を融合することです。それは、同じ学部に入学した者同士では、その学部の専門性を学ぶなかで思考のプロセスや着眼点、ひいいては興味関心が似てくると思います。そのため議論をしても、自分たちが日々学んでいる論理の組み立て方や、その領域に即した解決を導きやすくなるでしょう。もちろん専門的知識を深めるうえでは良いことです。ですが、これだと一定した見方、考え方になっていきます。そこで、同一の課題について、学部が違うとつまり専門性が異なるとどう理解し関わろうとするのかを、法学を学ぶ学生と臨床心理学を学ぶ学生とを一緒のグループにしてディスカッションすれば座学以上に学生にいわゆる生きた知識として吸収してもらえるのではないかと考えたのです。
これは、何も法学と臨床心理学の支援のあり方を学んでもらおうということだけではないのです。学生生活そして社会に出れば、いま自分が理解できないことに多くふれることになります。そのことを認識し、多様な考え方や知識、そうした者を持っている人たちに出会うことが将来の役に立つかもしれません。 
幸いにして、本学は総合大学ですから多様な専門性を持つ先生、学生がいます。ですので、同じ領域だけで固まらないで、いろいろな人と接する機会を学生に提供したいとも考えているのです。
つまり、社会に出たときに求められる連携や協働に関する力だけでなく、一人ひとりの学生の視野の広さを育てるきっかけになりたいということが、この講義を試みている理由です。今は法学部との連携ですが、いずれは本学の他学部全てとの合同講義も企画してみたいですね。
この考え方は、犯罪学研究センターの『個々の学問領域が独立して研究するのではなく、さまざまな知見を集積して意見を交わしながらより深く対象について考えていこう』というスタイルと同一と思いますし、私の興味関心の根っこから育ってきたものの一つになっているのです。」

Q5.最後に、小正先生にとって「研究」とは?


チャレンジ!です。これは大学や大学院での体験が大きいのですが、学内・学外活動からいただくことができた関係性がいまの私になっています。時代もありますが、私の学生時代は、心理職に就くチャンスが限られていました。そのため、少しでも関係しそうなことがあると進んで飛び込んでいました。どんどんチャレンジすること。言い換えるならば、いろいろな世界に身を置き知ろうとすること、一期一会を大切にすることでしょうか。そういった挑戦が、将来の自分を形作るのではないかと思います。そして、『あれ?これはどういうことだろう?』と日々の出会いの中で生まれた疑問にチャレンジ!しようとする『研究』にもつながっているように思います。」

小正 浩徳(こまさひろのり)
本学心理学部心理学科准教授、犯罪学研究センター「臨床司法心理学」ユニット長
<プロフィール>
研究分野は、臨床心理学、不登校支援/発達障がい児・者支援、死生観教育。
犯罪学研究センター「臨床司法心理学」ユニットでは、差別や偏見という心理的働き(スティグマ:stigma)に着目した研究などを行っている。2021年度より学際的試みとして法学部や文学部の1・2回生を対象とした「法学と臨床心理学の融合による講義」を実施。その他、コロナ禍以降にオンライン講義体制を望む学生について、社交不安傾向から検討している。