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2023.05.23

多文化共生のあり方を学ぶ【社会共生実習】

 社会学部の「社会共生実習(多文化共生のコミュニティ・デザイン~定住外国人にとって住みやすい日本になるには?~)」(担当教員:現代福祉学科 准教授 川中大輔)では、5/20(日)に受講生全員で実習を受け入れていただいているコミュニティパートナーの現場に赴き、今日に至る歴史や背景、活動について学びました。

 はじめに「社会福祉法人カトリック京都司教区カリタス会 希望の家」(以下、「希望の家」)へお邪魔しました。
 こちらでは、前川修さん(希望の家館長/京都市地域・多文化交流ネットワークサロン所長)に出迎えていただき、希望の家の成り立ちやご自身の東九条地域での思い出話をお聞かせいただきました。


前川修さん

 希望の家が建つ山王学区の岩本町は、もともと被差別部落とされていた地域です。戦後には、日本による植民地支配によって渡日した在日コリアンの方々や、ケガや病気等で仕事を失い行く当てのない人々が、鴨川や高瀬川といった洪水被害の危険がある川沿いにバラック小屋を建てて不法に住み着かざるを得なくなり、岩本町に在日コリアンが増えることとなります。バラック小屋は廃材で建てられたために大変燃えやすく、幾度となく死者が出る大火事にも見舞われました。
 そんな中、1959年に隣接する崇仁学区で米国人神父が未就学児を支援する施設として創設したのが希望の家でした。1960年代にはオリンピック開催に合わせて新幹線の敷設工事が始まり、バラック居住者は立ち退きを迫られました。立ち退き対象であった方々が身を寄せた第一棟目の集合住宅の築年数が50年以上となった2011年、新たな住まいと希望の家(児童館および地域福祉センター)、京都市地域・多文化交流ネットワークサロン、地域集会所が一体となった建物が現在地に建設されました。
 現在、これらの地域を含む東九条地区では、「京都駅東南部エリア活性化方針」の策定に基づいたまちづくりが進んでいます。具体的には、京都市立芸術大学の移転も契機の一つとした文化芸術の活動を基軸に、伝統産業、観光、教育などのあらゆる分野が融合した魅力的なまち、若者を中心とした学び・働き・交流する活気あるまち、高齢者や子ども・障がい者・国籍や文化的背景の異なる人などが互いの多様性を認め合えるまちとなることが目指されています。いまは高瀬川・須原通改修や南岩本児童公園改修、チームラボ建設などのさまざまな事業が進行中です。
 前川さんは、こうした動きに対して、歴史的にさまざまな差別を受けてきた住民の皆さんや地域の方々が安心して住み続けることができる環境を守っていくことができるのか、今まで住民の方々が築き上げてきたものが壊れてしまわないか、高齢者の方々が住みづらくならないか、本当の意味での多文化共生社会になるのかといった懸念を持っていることを教えてくださいました。


感想を共有する受講生たち


感想を共有する受講生たち


質疑応答の様子


住居が建設されていた堤防の現在の様子

 次に、「コミュニティカフェほっこり」(以下、「ほっこり」)へお邪魔しました。
 今年の10月で丸5年になるこのお店は、小林栄一さん(特定非営利活動法人 東九条地域活性化センターほっこり代表理事)と、在日コリアン2世である朴実(パクシル)さん、藤喬さんの3人が中心となって開設されました。


小林栄一さん


朴実(パクシル)さん

 ほっこりの活動内容は多岐にわたり、カフェ以外にも、外国ルーツの子どもたちが放課後に集まって勉強をしたり遊んだりする「ほっこりこどもクラブ」の運営や、コロナ禍に所得が低迷した世帯を対象として食料品や生活用品を各家庭の実情に即して配布する「年末支援事業」、投げ銭で地域の音楽家たちの演奏を楽しむことができる「ほっこりコンサート」、地域に関わる作家の作品を展示する「ほっこり美術館」、地域に暮らす・働く・活動する人々を招いて語るYouTubeチャンネル「ほっこりラジオ」、その他にも、「ほっこり通信」の発行、「4・3・2市」、「将棋倶楽部」、「高齢者スマホ相談会」、「読書会」、「ウクライナ支援事業」など、幅広い活動をされています。
 多岐にわたる活動の背景には、年齢や民族、価値観や心身の状態などのいろいろな「ちがい」を自然に表現できる場所として、またそうした人々が出会い、相談し、まちの将来を語れる場、まちの良さを発信できる場にしたいうという想いが詰まっています。
 また、第2・第4土曜日には、「ほっこりコンサート」でコラボしているフィリピンの音楽団体「ジャピノン・セッショニスタ」のメンバーが「多文化ランチ」と題してフィリピンの郷土料理を提供しておられます。小林さんたちは、そうした交流機会を通して、来日して定住している方々の実情を知り、それに即して支援活動をおこなっておられます。こうした活動は支援者が一方的に考えて動くのではなく、当事者と共につくる形で実現されています。
 底抜けのボランティア精神をもって活動されていることを知った受講生たちは、大変感銘を受けていました。


ジャピノン・セッショニスタのメンバー


感想を共有する受講生たち


質疑応答の様子


質疑応答の様子

 最後に、「特定非営利活動法人 京都コリアン生活センター エルファ」(以下、「エルファ」)へお邪魔しました。
 こちらでは、高齢者支援事業や障がい者支援事業、調理事業、多文化共生事業、子育て支援事業をおこなっておられます。
 エルファは特に在日コリアンの方々が多く暮らす地域に所在していますが、南珣賢(ナンスンヒョン)さん(エルファ副理事長 兼 事務局長)によると、健康保険や年金などといった生活に欠かせない国の社会保障制度に加入することができなかった1世の方々が高齢に対して、国籍の壁が無かった介護保険サービスを利用できることを伝えて回られるところから活動が始まっていったとのことでした。そのため、エルファの利用者はコリア語を母語とする方が多く、コリア語と日本語のバイリンガルで、さらに併設されている作業所では手話も含むトリリンガルでサービスが提供されています。
 南さん自身も在日コリアン2世ですが、ご両親やご自身、息子さんたちが受けてきた差別や偏見を体感してきたからこそ、「エルファに入りたいと思ってくれた方はどんな障がいをお持ちでも一人残らず受け入れる」のだという熱い想いで運営されています。


南珣賢(ナンスンヒョン)さん

 また、本プロジェクトのように、大学の実習もたくさん受け入れているのですが、近年は特に日本による植民地支配の歴史を知らない学生が増えて、戸惑うこともあるようです。中には実習を受け入れて利用者の方々を悲しませることにならないかと悩むこともあるそうです。しかし、そうした学生であればこそ、実習活動を通して新たな「気づき」を得てもらいたいと前向きにお話してくださいました。
 また、実習を受け入れる中では、学校では周囲に言い出せずにいたコリアンルーツの学生が「実は私もコリアンルーツです」とカミングアウトする場に遭遇することがしばしばあり、カミングアウトした学生らは利用者の方々の温かい歓迎や友人らの労いを受けて涙する場面もあるそうです。
 今なお差別や偏見に怯えてコリアンルーツであることを隠して生活している方も少なくないでしょう。南さんからは、この実習活動に参加してくれた学生たちには、そんな方々が「実は…」と話してくれる存在になってほしいと願っていることが伝えられました。


質疑応答の様子


質疑応答の様子


質疑応答の様子


質疑応答の様子

 今回、これら3つのコミュニティパートナーの現場でたくさんの情報を得た受講生たちは、次週の授業で振り返りをおこない、自身が今後活動する場を選定します。
 いずれの現場もさまざまに難しい問題を抱えながらも前向きに活動されている姿を見て、受講生たちがこの一年でどのような成長を見せてくれるのか、楽しみにしたいと思います。

社会学部「社会共生実習」について、詳しくはこちらの【専用ページ】をご覧ください。