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2023.05.26

環境DNA分野の世界の研究者が琵琶湖畔に集う国際学術大会を開催【生物多様性科学研究センター/先端理工学部】

Moving from knowledge into practice(知識から実践へ)

 2023年5月17日(水)〜19日(金)の3日間にわたり、環境DNA学会*1の国際学術大会(The eDNA Society International Meeting 2023: eDNA2023)が滋賀県大津市のピアザ淡海において開催されました。2018年の学会創設以来、初の国際大会となる今大会は、大会長を源 利文教授(神戸大学 大学院人間発達環境学研究科)、実行委員会委員長を山中裕樹准教授(本学先端理工学部/生物多様性科学研究センター長)が務めました。

 地球上で生物多様性の損失が同時多発的に起こっている現状を鑑み、本大会では、「Moving from knowledge into practice(知識から実践へ)」というテーマのもと、世界中の環境DNA研究者が一堂に会し、これまで蓄積してきた知識の実用化について議論する場を提供することを目的に掲げました。Covid-19に伴う入国規制緩和後の開催というタイミングもあり、琵琶湖畔の会場にはアジア・オセアニア・欧州・北米など22の国と地域*2から約250名の研究者が集いました。(※一部セッションは、対面会場とオンライン参加者を繋ぎハイブリッド形式で実施)
>> eDNA2023大会公式サイト】 【>>大会プログラム


会場:ピアザ淡海 滋賀県立県民交流センター(滋賀県大津市におの浜1-1-20)

会場:ピアザ淡海 滋賀県立県民交流センター(滋賀県大津市におの浜1-1-20)


盛況を呈した大会の様子。大会終了後の5月20日(土)・21日(日)にはエクスカーションを実施

盛況を呈した大会の様子。大会終了後の5月20日(土)・21日(日)にはエクスカーションを実施

 新規の生態系モニタリング手法である「環境DNA分析」。この分析技術を用いて生物種の特定に成功したとする最初の報告は2008年、フランスの研究チームによるものでした。日本では2009年頃から研究が始まり、当初琵琶湖とその周辺を対象としていました。近年、環境DNA関する学術論文数が劇的に増加するなど研究の裾野が広がると共に、中央省庁や地方自治体の生物モニタリング事業に利用されるようになるなど、社会的にも重要な生物モニタリング手法の一つであると認知されるようになりました。

 生態系の把握や自然保全に関わる行政や組織等のシステム運用・管理にあたって、環境DNAに基づくデータを適切に活用するためには、法律や政策の枠組みを更新する必要があります。山中准教授が座長を務めたPlenary Session 1では、「From innovation to practice: Using eDNA to support evidence-based management(革新から実践へ: エビデンスに基づく保全活動をサポートする環境DNAの活用)」をテーマに、調査分析・政策立案にかかる技術開発・モニタリングプログラムの立ち上げ・データの活用などの一連のステップに携わってきたアメリカの研究者4名が報告者として参加。報告者らは、生態系の評価・保全をサポートする長期モニタリングプログラムの構築や、経営上の管理決定において環境DNA分析を情報源とするための最新の知見などについて過去と現在の課題や実践を概観し、長期的な環境DNAの活用に向けて議論を展開しました。


山中准教授が座長を務めたPlenary Session 1の実施風景(5月17日午後)

山中准教授が座長を務めたPlenary Session 1の実施風景(5月17日午後)


 以下、「今大会を振り返って印象的だったこと」について、実行委員会委員長を務めた山中准教授のコメントを紹介します。

 「著名な研究者と認識しつつも、論文でしか知らなかった相手と直接に会えた!」とすごく喜んでいる研究者が多数いました。これは、私がアメリカ政府の研究機関がオーガナイズしている環境DNAのワークショップに2019年に参加したときに感じた感動と同じものです。実物のメジャーリーガーに直接何人もあえたような感覚です。
 そんな感覚を多くの人が感じつつ参加していた大会でしたので、活発な議論があり、コロナも終息しつつある中で、新たな研究のコラボレーションの議論や、環境DNA学会やEU、オセアニア、アジアの関連学会との間でのネットワーキングや環境DNA分析の国際的な技術の標準化等についても会期中に関連組織のメンバーが集まって議論でき、そうした動きの中で日本のチームが主体的に参加できる・貢献できる関係性の基盤ができたこと、そして、本学の生物多様性科学研究センターがそこでプレゼンスを発揮できたことは大変名誉なことです。

 日本における環境DNA研究発祥の地である滋賀県で、世界中のeDNA研究者が一堂に会して今回初の国際学術大会が開かれたことは、同分野の研究推進、また社会連携や国際発信の観点からも、極めて大きなインパクトを与える契機となることでしょう。
 生物多様性科学研究センターでは、今度とも「環境DNA分析」を主軸となる技術にすえ、生物多様性保全に向けた各種の活動や、政策判断に高解像度の生物多様性データを提供することを目標の一つとし、研究活動を展開していきます。


【補注】
*1 環境DNA学会
2018年4月に発足した一般社団法人 環境DNA学会は、初代会長の近藤 倫生教授(東北大学 大学院生命科学研究科)が龍谷大学所属時に立ち上げた組織です。環境DNA学を生態系の持続的利用や環境保全など、人類全体の幸福に資する学問分野として育成・発展させることを目的として、学会大会の開催や環境DNA技術指導セミナー、環境DNA技術標準化の提案などに取り組んでいます。
https://ednasociety.org/

*2 今大会の主な参加国・地域
Austria, Australia, Canada, Germany, China, Hong Kong, India, Indonesia, Italia, Japan, Korea, Norway, Philippines, Portugal, Russia, Singapore, South Africa, Switzerland, Taiwan, Turkey, Uruguay, USA