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2023.06.22

【法学部企画広報学生スタッフLeD’s】濵口 晶子先生インタビュー

1.濵口先生ってどんな人?

Q1.なぜ憲法学を研究しようと思ったのですか?


私が学生時代、学部で所属していたゼミは実は憲法ではなく刑法のゼミなんですよ。そこで刑法の勉強をしていくと、具体的な解釈論以上に、なぜ人が何かの犯罪によって処罰されるのか、国は刑罰をもって人を処罰しうるのかということの方に興味を持つようになりました。強力な強制力を発動する刑罰をもってしてでも守られるべき利益や人権とは何なのか、そこからそもそも国家権力の行使に関わるところの憲法にも興味が広がっていったのではないかと思います。だから、ゼミの先生とも相談して大学院に進むときは専攻を憲法に移していましたね。今でもその原点は変わらなくて、たとえば共謀罪(テロ等準備罪)のように、国家がいかなる場合に刑罰を発動すべきなのか、そのとき捜査権力はどこまで権力を行使しうるのかというような、人権と権力との根本的な関係にはずっと関心を持ち続けています。

それから、もともと人間は個人として尊重され(日本国憲法13条)、平等な存在(同14条)とあるのに、実際にはそうではありません。人間らしい生活(同25条)が送れていない人もたくさんいます。そういった現実に、法や政治はどうあるべきなのかに根本的に興味があったというのはありますね。自分が女性ということもあって、女性差別的な社会通念には常に疑問を感じてきました。なので「平等」という問題にはとりわけ関心が高かったと思います。そういうもともとの問題関心も憲法学を学びたいと思った理由で、実際刑法ゼミに所属しながら憲法のゼミも(単位取得に関係なく)掛け持ちして参加していました。

Q2.どうして研究者になられたのですか?

最初、法学部に入った時は周りも自分も司法試験を受けて、弁護士になろうと思っていました。人と関わって人の力になれるような仕事がしたくて、そういう面で、自分が依頼人の利益を考えて法的な問題を考えていくという、弁護士の仕事があっているかと。ただ、試験勉強をしていくうちに、どうしても突き詰める性格で、そもそもなんでこういう法律があるのか、その法律が間違っているのではないか、というように今の政治や裁判では実現できていない憲法的価値の問題を考えたいと思うようになりました。それはゼミでの学びと連動していて、徹底的に深く考えるのはゼミじゃないとできません。追究していく勉強の方が多分好きだったんですね。

なので、最初から研究者になりたいと思っていたわけでは全然なくて、思い悩む性格と突き詰めてちゃんと考える性格が最終的にはちゃんと研究をしようというところに落ち着いたという感じですかね。

Q3.最近のマイブームは何かありますか?

今は水曜日の夜にドラマの「相棒」と、木曜日の夜に「科捜研の女」の2つを観るのが習慣化してます(笑)。今日は帰ったら相棒を観るぞ!という感じで。刑事もののドラマって色々あるじゃないですか。でも相棒はちょっと他と違っていて、憲法・刑事法とも関係あるんですけど、警察組織の中の権力関係とか、警察以外の国会とか他の行政機関の権力の濫用という問題も描いていたり、生活保護、派遣切り、テロの恐怖、武器輸出、米軍基地、監視国家、家庭教育支援法、DVなど現実の社会問題に鋭く切り込んでいることに途中で気づきはじめたんですよ。そういう脚本が面白いと思うようになってから、TSUTAYAで借りて最初のシーズンからほぼ全部観るようになりました(笑)。

科捜研の女のマリコさんも、相棒の右京さんも出世とか組織のしがらみに囚われることなく自由で、自分たちが所属している捜査機関が持つ強大な権力が濫用されること、私欲のために歪んだ使われ方をされることを徹底的に嫌います。そういう姿勢も自分が共感できるポイントでしょうか。もっとも、二人のようにあんなに自由で振り切った行動を取れるかは自分には自信がありませんが、ああなりたいなぁとは思って観ています(笑)。

Q4.ドラえもんが好きだとお伺いしたのですが、ちなみにどの秘密道具が好きですか?

ムード盛り上げ楽団ですね(これ、わかる人どれくらいいるんでしょうか?・笑)。音楽隊のロボットがいて場面に合わせていろんな曲を流してくれるんですけど、それによって人の感情を引き出し、ときには自分も気づかないほどの潜在能力を目覚めさせてくれるんです。ドラえもんの道具ってどこでもドアとか、ビッグライトとか、人間にできないことを道具で実現するっていうのが普通じゃないですか。だけど、ムード盛り上げ楽団は基本的に人間の力がベースでそれをちょっとだけ後押しする道具なんです。人間にとって代わるのではなくて、人間の力をサポートするための科学技術というのがすごく素敵だなと思ったんですね。

ドラえもんという作品では、未来の道具を使って人を幸せにもできるけれど、使い方を間違うととんでもない結果ももたらすというシーンが多く描かれています。そこには技術が発達すればするほど、人間のおごりとか、悪意にこそ向き合わないといけないというメッセージが含まれているように思うんです。それはたとえば核兵器や環境破壊だったり今人類が直面している現実の問題にも通じているように感じています。


2.濵口ゼミってどんなゼミ?

Q1.濵口先生は「ゼミ」をどのようなものだと考えていますか?

講義は教員が大人数の学生の前に立って専門的知識とかその学問の情報を伝えるという感じで、どうしても一方向が基本にならざるを得ません。しかしゼミの場合は少人数なので、学生も教員も関係なく全員がゼミのメンバーの一人として積極的に質疑応答していくという形式で真剣に議論できる場です。日常生活の中で政治や憲法の問題を真剣に議論する機会はあまりないと思うんです。本当はプライベートな場でもしゃべってほしいですが、なかなかそういう場では気恥ずかしくて言えない事でも、ゼミはそういうことこそ、メインに話すことができます。1つのテーマやいろんな学問的な問題について真剣に議論できる場は貴重だと思うので、そういう意味でゼミは大事だと思います。教員でも気づかない発想で、ゼミ生が直感的に鋭い発言をすることもあって、私にとっても刺激になるんですよ。

もう一つは、徹底的に調べ、考える能力を身につけるところということもあると思います。ゼミのときには、あるテーマについて議論するにあたって、その基礎となる学問的議論や、根拠となる考え方を徹底的に問いかけるように促します。「ただなんとなく、そう思う」から、根拠ある説得的議論へ、それが大学での学問の作法です。それを身につけることができるのはゼミならではかなと思います。

Q2.どんな学生が集まっていますか?

性格とか個性は本当にバラバラですが、自分をしっかり持っていたり、興味関心がはっきりしている人など精神的に自立しているしっかりした人が多い気がします。私がのんびりした性格なので、ゼミ生がしっかりしてくるのかもしれませんね(笑)。あとは、私が大事にしているから、というのもありますが、他人の報告でも自分の報告でもそこからちゃんと学んで考えたい、という姿勢は強いように思います。

Q3.では、どんな学生に来てほしいと考えていますか?

やっぱり憲法や人権に興味がある人に来てほしいというのはありますけど、「ひっかかり」を感じられる人に来てほしいと思います。私もみんなと一緒に考えたいと思ってゼミをやっているので、どうしてなんだろう、なんでこういう事が起きるのだろうと、「ひっかかり」を感じて考えることができる、要するに自分の頭で考えられる人に来てほしいかなと感じます。なので、一方的に私から何かを教わりたいと思っている人は何か違うと感じてしまうかもしれません。ゼミでの研究テーマやゼミの進め方も全部ゼミ生たち自身で考えてもらっていますので、ゼミを作り上げるという過程においても自分で考えるという力は必要になってきますね。

もちろんゼミでの議論が行き詰まったり、間違った前提知識で進んでしまいそうなときは私から助け船を出してサポートしています。またゼミ生たちも、どうしたらもっと説得力のある議論ができるだろうか、この問題の本質に迫るには何が足りないのだろうか、とまずは自分の頭で考えた上で、相談に来てくれて一緒に考えることも多いです。学年が進むにつれて、自分の報告の前に相談を持ち掛けてくる回数がだんだんと増えていき、自然とゼミの時間以外でも自分の取り組んでいるテーマについて考えるようになる、そんなふうに成長していくゼミ生の姿を見るのがとても嬉しいです。

Q4.「ここは他のゼミには負けないぞ」という点があれば教えてください。

負けないぞといわれると難しいですね…。強いてあげるなら自主性ですかね。学生が自分で考えて自分で動くというところを私自身意識して指導しているところなので、自然とそうなるという感じですかね。先ほども述べましたが、自分で考える力をつけて、私のサポートがなくても正確な知識と根拠に基づいた議論ができるようになってほしいので、ゼミでの報告でも、卒業論文執筆の指導でも、細かいところも含めて徹底的に聞き返します。最初は大変だけど、それを繰り返していくうちに、指摘した疑問点に的確に答えることができるようになっていくので、そういう意味では粘り強さとか集中力は身についている子が多いのではないでしょうか。

Q5.ゼミで身に着けてほしい能力は何ですか?

正確な学問的知識を蓄えることも必要ですが、最終的にはそれを使って考えるところが重要になってきます。自分がこういうことに関心があるとか、どうしてこんな問題が起こるのだろう、なんで差別が無くならないんだろうといった興味関心から学問への入り口に入っていくので、関心を持つというところを自分で考えることができれば、勉強していくにつれ、その関心を学問的議論へと上手く展開できるように自然となっていきます。なので、身に着けてほしい能力というと、自分の頭でしっかり考えられるという事と、社会の物事にひっかかりを感じられるという事ですかね。

それからもう一つは、想像力だと思います。憲法学に限らず法学・政治学で扱う事例には、一見すると今の自分には関係ない(と思っている)事柄の方が多いのではないでしょうか。刑事事件の被疑者になることも、生活保護も受けることもないかもしれない。国会議員になることもないかもしれない。そうすると、自分に関係ある(と思っている)こと「だけ」を学ぼうとする。必要な知識だけ得られればそれでよい、という姿勢になりがちです。しかし、人間に基本的に備わっているはずの「権利」が脅かされている人が現実にいる。人間はあるべき正しさとは裏腹に、利己的な感情も差別的な感情も持ち合わせている不完全な生き物です。さらに力の差や置かれている環境の違いも相まって結局は弱い立場の人たちに生きづらさのしわ寄せが行ってしまうことも、歴史は証明しています。だからこそ、「自分は大丈夫、関係ない」、から、すべての人が人間らしく生きられる社会を構築するために国家・社会はどうあるべきなのか、思いをめぐらせることが絶対に必要で、そのためには自分が置かれた立場ではない、まさにいま、人間としての権利を脅かされている人の立場に立って考える、想像力が不可欠になってくるのだと思います。

Q6.最後に学生に向けて何かメッセージがあればお願いします。

学生の4年間は長いようであっという間に終わってしまいます。大学の授業を、卒業するための単位を取るためのものとあまり受け身に考えてほしくなくて、学ぶことを面白いと感じてほしいです。楽しいと感じられる瞬間が学問の中にあれば大学生活はより充実すると思います。大学の先生のようないろんな分野のエキスパートがいて、いろんな話が聞ける場というのは社会に出たらまずないので、実は学生の皆さんはすごく貴重な場にいます。いろんなことを知ることができて、いろんなことを学べることが面白いと思える機会が社会人になったらまずないという事を知ってもらえれば、すごく貴重な時間を過ごしているのだと実感できると思います。

また、自分の今の価値観に満足することなく、それも疑いつつ、いろんな意見や知識を吸収しながら自分を刷新していく姿勢も大事にしてください。生まれてから大学に入学するまでの間に得た自分の経験や知識から形成されている自分の価値観は、「その時点での」価値観にすぎません。学問の世界では社会の物事を見る見方にはいろいろあって、どんなものさしで見るのかも学問領域によって多様です。憲法学(法学)では、憲法という国家・社会のよって立つ規範に従って、社会的事象に切り込みます。そういう新しい視点を入れることによって、自分でも気づかなかった固定観念・視野の狭さに気づくことも多いですよ。でもそれこそが大学で学ぶ意義なのではと思います。ぜひ「自分」と向き合ってどんどん生まれ変わってください。


3.インタビューを終えて

ゼミとはどんな場所であるのか、大学で学ぶとは何なのかを今一度再確認することができたとても有意義な時間になりました。
また、インタビューはゼミが終わった直後にさせていただいたのですが、濵口先生のお誕生日が近かったという事で、ゼミ生からプレゼントを貰っておられました。濵口先生の親しみやすさもゼミ生の自主性の創造に少なからず関わっているのだと感じました。
では、次回の更新もお楽しみに。


【取材・記事】
法学部学生広報スタッフ LeD's
古 太恵人(法学部3年生)
前田 祐希(法学部2年生)