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2023.06.22

【法学部企画広報学生スタッフLeD’s】浜井 浩一先生インタビュー

1.浜井先生ってどんな人?

Q1.なぜ犯罪学を研究しようと思ったのですか。

話せば長くなるのですが、そもそも大学時代に心理学を専攻していて、就活の時に心理学を生かせる仕事は何かと探している内に、国家公務員上級甲種職(今で言う総合職)の中に心理学という分野があって、ここなら専門を生かせるのではと思ったのと、また、民間と違い公務員試験は試験が公平に行われ、高得点を取ればいい、勉強すれば結果につながる分かりやすさから公務員試験を受けようと思いました。そうと決めたら、せっかくなので公務員試験を極めてみようかと思い、公務員試験マニアとなっていろいろな公務員を受けたところ、ことごとく合格し、法務省なら心理学の専門を生かせるとおもい法務省に入省しました。法務省で心理技官になると、自動的に犯罪心理学会に入らないといけなくて、事務局をやらされたり、学会発表をさせられたりしました。そこで初めて研究というものに触れたわけです。公務員を続けて5年目ぐらいでもう少し勉強したくなり、政府の留学制度で留学すれば、仕事をしながら大学院生になれて勉強もできて一石二鳥だと思ってアメリカの大学院への留学制度に応募して合格しました。留学先が犯罪学・刑事司法学部だったので、そこで最先端の犯罪学を体系的なカリキュラムで勉強しました。そもそも、犯罪学を勉強したのはアメリカに留学したときからです。もともとは心理学が専門だったのですが、法務省に入って総合職として法令の立案をしたり、アジアからの留学生に対して英語で刑法を教えたり、刑法の英訳作業などもしました。アメリカで勉強した犯罪学はどちらかといえば社会学に近く、それも新鮮でした。アメリカの犯罪学は、実証科学なので、統計学が必須で、そこは心理学の勉強が生きたところです。私のことをウィキペディアで調べると心理学者でもあり社会学者でもあり法学者でもある。ある意味学際的で、それぞれの専門の人から見ればどれでもないかもしれない(笑)。それが犯罪学ですね。法律を使って人を更生させるわけですから、心理学も社会学も法学も社会福祉学も精神医学も全部知っていないとできない。私の特徴は良くも悪くも全部勉強し、すべてかじっている。通常は法学の人は法学、社会学の人は社会学、心理学の人は心理学でそれぞれの専門分野ですが、私の場合は与えられた業務の中で全部やるしかなかったので、それが幸いして日本有数の犯罪学者として現在に至っているわけです。

Q2.色々な経歴をお持ちですが大学の教員になろうと思ったのはなぜですか。

一言では言えないですね。先ほどの回答とかぶるのですが、留学先のアメリカの大学院で、研究の仕方や統計学を含めたデータ処理の仕方、論文の書き方の専門的な知識を得ました。研究も面白いと思いましたが、その時点では学者になろうとは思っていませんでした。また、官僚支配の日本で刑事政策を実践できるのは法務省にいるからこそで、法務省の仕事に未練があり、法務省で定年まで迎えるだろうと思っていました。その後、法務省から「国連の仕事があるけどどうする」と言われて、イタリアのローマにある国連犯罪司法研究所というところに2年間研究官として派遣されて、そこではひたすら国際比較の研究をしていました。国連には研修制度などなく、専門職として採用されると即戦力として活躍することが期待されていましたね。初日から世界の保護観察制度や刑事司法における精神障害者の処遇などのプロジェクトを任され、研究を推進し、シンポジウムやワークショップを企画しました。研究成果は、最終的には本にするのですが、私が初めて本屋さんで売っているような本を出版したのは英語の本でしたね。しかも、Routledgeという社会科学の分野では定評のある出版社でした。日本の紀伊国屋書店にも売っていて、自分の名前が表紙になり、一つの仕事が本になるというのは達成感を得ることができ、そのときに研究者の道も良いかなと思いました。国連から法務省に戻って、霞ヶ関に勤務し、権限はあるので仕事は面白かったのですが、同時に妙なエリート意識をもった閉鎖的な集団の中で少し戸惑いました。当時の霞ヶ関は不夜城で、とにかく終電を過ぎないと帰れない。終電よりも前に帰るとあそこの部署は暇だと思われるので皆必死です。国会待機も頻繁にありました。息苦しくなり、転勤を希望して隣の赤レンガの建物にあった法務総合研究所に異動させてもらいました。そこでは、犯罪白書を編集したり、論文を書いたりしていましたが、だんだん学会内での評価が法務省内での評価より高くなり、部内的にあいつは「学者」タイプだといわれるようになりました。霞ヶ関で学者呼ばわりされるということは、役人として向いていないというネガティブなイメージがあるので、出世コースから少し外れたりします。論文を書いているうちに、いくつかの大学に誘われて、福岡に転勤と内示が出た段階で、大学にお世話になることに決めて、京都の龍谷大学の教員になりました。それから15年ずっと龍谷大学です。

Q3.学生時代どのように過ごされていましたか。

心理学は理工系に近いのでひたすら実験をやって、実験レポートを書いていましたね。ゼミはなくて、心理学研究室で班別に分けさせられてネズミの実験をやったりしました。実験やる度に実験レポートを毎回提出しなければならなかったので、結構忙しかった。サークルは入って、途中でやめたりしましたね。サークル活動とかを最後までやり遂げたことがないので、そこが若干学生生活としては後悔しているとこかなぁと思います。体育会系のサークルに入るのも・・・それはそれで特殊な世界だし(笑)当時は、夏はテニス・冬はスキーをするようなサークルが多くて、それはそれでミーハーでした。実験が忙しいから同じ学科の人たちも部活動が続けられなくてサークルをやめたりするので、自分で企画して研究室のメンバーと行けばいいやとなりました(笑)。また、ただ勉強しているだけというのも面白くないと思って、ビリヤードを始めたんですよ。大学の周りにビリヤードバーがあったので、暇さえあれば、暇そうな友達を見つけては行っていました(笑)。そして3年生になって、そろそろ就職かなと思って公務員試験の勉強をしだして、さっき話したようにちょっとハマりました。勉強が結果に直結するし、公務員試験ってパターンが決まっているので、やればやるだけ点数が上がるので面白くなって突き詰めちゃいましたね。高校時代は、浪人するのが当たり前の時代だったから受験勉強せずに友人と映画を作ったりしてふらふら遊んでいて、浪人してから勉強するみたいな感じでした。予備校に通い始めて、名物講師の授業で勉強って面白いなと気づいて、入学当初ビリに近かった成績がトップに近い成績になって、『やればできるじゃん』という自信になったりもして・・・。それが、留学試験を受けたり、公務員試験受けたりするときの1つのきっかけになったりもしましたね。

Q4.今までどのような国に行かれましたか。

国連に勤務していたのでいろいろ行きましたが、やっぱりイタリアが1番思い出深いかな。イタリアは、ローマ帝国崩壊後は、いろいろな国に占領されたり、都市国家が乱立したりしていたので、地方色が凄く豊かで、実はイタリア料理というのは存在しない。それぞれの郷土料理が存在するだけです。イタリアの魅力は食事と景色とそこに暮らす人びと。料理は日本人の口に合うし、パスタやリゾットは最高です。地域色があるので、トスカーナ料理とローマ料理とピエモンテ料理は全然違います。北の方に行って、ピエモンテとかミラノの方に行ったりすると、スイスやフランスの影響をすごく強く受けているし、南の方に行けば、アラブのクスクスの影響を受けていたりするし。地産地消が基本で、イタリアはスローフード発祥の地なので、文化としての食を大事にする国。しかも素材を大事にする国なんです。特にトスカーナ地方が良いですよね。丘陵地帯で、良いワインやオリーブオイルができるところでもあるし。なによりも、レストランでハズレがないんですよね。

Q5.最近のマイブームは何かありますか。

趣味を見つけないといけないなとは思っているんですが(笑)。強いて言うならワイン集めかな。ワインセラーを持っているので、飲んだものはラベルをとっておいたり。下戸でアルコールは飲めないんですけど、味はわかるから美味しいワインはこういうのなんだっていうのはわかるんです。飲み比べとかしたり。気を付けないと倒れちゃうんですけど(笑)イタリアとか、どこかへ行ってワイン見つけたら買ってしまいますね。 後は、温泉めぐりや海外の動物園めぐりかな。最近は、水族館や美術館などの年バスにもはまっています。


2.浜井ゼミってどんなゼミ?

Q1.浜井先生は「ゼミ」をどのようなものと考えていますか。

学生の立場に立って考えると、少人数でしかも自分で調べて自分で考えて自分の意見を発表したりする機会があったり、先生と学生との距離が近いのはたぶんゼミしかないので…そういった意味で大学生活においてゼミってすごく大事だろうなって思う。同時にそれは教員にも言えますよね。大教室だけで教えてると、学生の名前と顔が一致しない。結局一方的に講義して終わっちゃうっていうところがあって、なんとなく寂しい。ゼミがあると大教室中にゼミ生がいたりするし、そういった意味で、ゼミ生からフィードバックがあったり、学生の考え方を理解できたりする、そういった意味でのインターフェースになっています。何より大教室でゼミ生を見るとほっとしたりします。そういう意味ではゼミは学生にとっても教員にとってもすごく大事だろうと思います。ゼミの雰囲気がよいと、大学での教員の居心地も良くなるし、学生の居心地もよいはずです。なので、居心地のいいゼミを作るっていうのが一番の目標なんですよね。基本的には、ゼミの居心地が良いと私自身の居心地が良くなって、そうすると当然学生の居心地も良いんだろうと勝手に思っています。ゼミ全体の雰囲気が良いと、卒論の出来も格段に良くなります。逆に、ゼミの雰囲気がバラバラだったなっていう印象を持ったとき、結構、卒論のできもあまり良くなかったり(笑)して、そういう時は自己嫌悪に陥るんですけど…。ゼミは学生と教員の相互作用で作られるので、教員が一人頑張っても空回りしてしまいます。こっちはなんとかして学生の興味を引こうと思ってるんだけど、こっちが頑張れば頑張るほど結局一方的な講義になってしまったり、教員の知識の披露になっちゃったりする。それでは意味がない。知識を教えるだけなら講義ですればいいだけなので…。かといって、議論を促しても学生から何も意見が出てこないと、しょうがないから私が一人で喋ってしまうっていう。そうなると悪循環です。

上手くいったゼミとそうでないゼミ…何が違うのか…。もちろん違うのは居心地の良さなんですよね。あっという間に時間が過ぎていく居心地のいいゼミと、結構時間が長く感じるゼミもある。私が頑張っているわりには思いが伝わっていないと感じる時には、学生も居心地が悪いはずです。で、居心地のいいゼミを作ろうっていうのが常に目標で、そのために色々試行錯誤している。だから最初に私のゼミだと、最初に自己紹介と他己紹介とやって、それからビブリオバトルをやるなど、グループワークでのウォーミングアップに力を入れています。心理学的のテクニックを使いながら雰囲気づくりをやっています。だからそれを始めてからはかなり良くなることが多い。でもやっぱりゼミの雰囲気は毎回違うんですよ。

Q2.ゼミではどのような活動をしていますか。

今の話につながりますが、居心地のいいゼミをつくるためと、犯罪学に関心を持ってもらうために、まずグループワーク的な作業を行っています。その中で力を入れているのが、ビブリオバトルです。ゼミ生にそれぞれ関心のある新書などの本を選んできてもらって、その本のどこがおもしろかった、といった魅力を5分間でプレゼンテーションしてもらうことをしています。他のゼミ生の報告を聞いて、読書に関心を持ったり、「そんなことがあるんだ」「そんな風にも考えられるんだ」っていうのを見つけてもらうようにしています。さっき話したように、教員が一方的に知識を披露したり教えたりするのではだめなので、ゼミ生に自分たちで調べて自分たちで考えること、それを自分の言葉で発表できるようになってもらうっていうのが一番なので、それを目標にしています。そのためにじゃあ何をするのが良いのかっていうところで、個別発表したりグループ発表したりしています。演習Ⅰ(2年後期~3年前期)ではグループ発表を中心に、演習Ⅱ(3年後期~4年後期)は卒論に向かっていくので、卒論のテーマを絞っていく、そのために個別発表を中心にしています。ただ、それだけでは面白くないので、自発的にいろんなことをやってほしいというのはあります。私が、施設参観を企画して学生を主導するよりも、学生の方からここに行ってみたいんですけど、みたいな提案があったほうが望ましいかなって思ったりしています。最低、一回はゼミ旅行をするようにはしています。

Q3.ゼミで身につけてほしい能力は何ですか。

犯罪学というのは他の法律学と違って実証科学なので、統計などを使って、高齢者犯罪だったり殺人だったり、それぞれのテーマが事実としてどうなのかということをまず自分で調べることが重要です。そのために、統計リテラシーを含めて、テーマの設定から研究の進め方を含めて何をどういう風に調べていけばいいかスキルを身につけることが大事です。犯罪という現象には色んな側面があるので、調べる対象、ターゲットをきちんと定めて、いろいろなことを比較しながら、自分なりに仮説を立てて、こういうことが言えるんじゃないか、っていうことを考えてもらう。常に事実を正確に理解することが重要で、集めてきた事実から何が言えるのか、十分なことが言えないと思ったら、そこに足らない事実は何なのか、ということを自分なりに考えて、不足している事実を調べてうめていく、事実が仮説にあわないときは、仮説を変更する。その繰り返しです。

Q4.「ここは他のゼミには負けないぞ」という点があれば教えてください。

常に自問自答しているところですね。私の売りは、統計学を含めて事実を調べ検証するスキルをもっていること、刑事政策の実務を経験していること、特に、犯罪者処遇の現場はすべて経験していること、結果として何千人もの具体的な犯罪者と会ってきたこと、犯罪白書を作っていたため、マクロなレベルでそれぞれの刑事司法機関の関係性を見ながら政策を評価できること、国連に勤務していたのでそれを国際的な視野で比較することできることです。日本は縦割り社会なので例えば刑務官の人は刑務所しか知らないし、警察官は警察のことしか知らないし、そういった中で現場、法務省で言えば少年院、少年鑑別所、少年刑務所、刑務所、保護観察所をすべて経験したのは多分日本中で私だけです。具体的な犯罪者をイメージしながら、日本の犯罪や刑罰を国際的な視野から評価することができます。これができるのは日本で私だけです。その経験を伝えることが出来るというのが私の、このゼミの一番の強みだと思っています。

Q5.最後に学生に向けて何かメッセージがあればお願いします。

ゼミというものは一つの「居場所」だと考えています。そしてその居場所は、学生たち自身の手で作っていくものです。つまりゼミが実りあるものになるかどうかは学生次第なのです。せっかくの学生生活なので、初めから先生任せにするのではなく、自分たちの手でゼミを居心地の良い場所にしてもらいたいと思います。雰囲気の良いゼミでは学生同士が自ずと切磋琢磨し、互いに助け合うことで相乗効果を生じ、卒業論文や就職にも良い結果が表れています。また、充実したゼミでの活動は良い学生生活にも繋がることでしょう。



3.インタビューを終えて

私たちがインタビューをする前に、法務省の人や毎日新聞の記者が浜井先生の下に来られていました。その後でのインタビューにもかかわらず、お時間を割いていただき、懐が大きい先生だと思いました。
また、インタビューの後も法学部学生広報企画団体LeD`sのゼミ生と仲良くお話ししていたのを見て、ゼミ生との仲の良さを感じました。
次回の更新もお楽しみに!


【取材・記事】
法学部学生広報スタッフ LeD's
射場 愛弥(法学部3回生)
藤田 のどか(法学部3回生)
前田 祐也(法学部3回生)
林 純平(法学部2回生)
前田 和哉(法学部2回生)