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2023.06.22

【法学部企画広報学生スタッフLeD’s】濱中 新吾先生インタビュー

1.濱中先生ってどんな人?

Q1.濱中先生は学生時代どのような学生だったのですか?

僕は、あんまり人と同じことをするのが好きじゃないんですよ。だから、なるたけちょっと外れているような学生でありたいというか、若い時に普通とやや外れた生活をしたい、というのがあって。皆さんもアルバイトされていると思うんですけど、大学1年生の時は、バーテンダーのバイトをやっていて、カクテルを作ってたんです。夜の8時ぐらいから入って、真夜中に終わります。朝の4時までやって次の日の朝一限目に英語の授業とかあるわけですから、もう授業を聞いていられないんですよ(笑)。僕が大学に入ったのは平成元年から4年なんですけど、平成初期のころの大学生って今よりいい加減なんですよ。先生もいい加減です(笑)。まずシラバスがなかったし、授業に出ておかないと何をやるかわからなかった。良くも悪くも昔の大学ってちょっといい加減だったんです。ろくに板書もせずに、行くまで何の話をするかわからなくて、しかも講義概要と全然違う授業をする。そういう授業があったらやる気なくなるでしょう?言い訳っぽいですけど、当時はそうだったんです。ただ現実としては国際社会が大きく動揺していて、それに対する知的好奇心に応えてくれる大学の講義ってないかな、って思ったら、一つだけあったんです。それが国際政治の授業をやっている教員で、一も二もなくそこのゼミに入ったんです。そこからたくさん本を読むようになって、それから本を買うのにお金に糸目をつけるなって指導教員が言うようになったので、僕もそれで一か月に本を買うのに五千円とか一万円とかを使うようになって、読むようになったので、その辺からちゃんとした学生になったのかなと思います。

Q2.濱中先生は比較政治学や国際政治学、そして中東政治学を専門にしていらっしゃいますが、なぜその研究をしようと思ったのですか?

ちょうど冷戦構造が崩壊する時期に私は大学の1回生で、世界の動揺、国際秩序の動揺をすごく感じる時期だったわけです。そんな風に国際情勢が大きく動くような出来事が立て続けに起こって、それで国際政治をやろうと思ったわけです。
比較政治、中東政治っていうのは、直接のきっかけは湾岸危機、湾岸戦争です。日本で暮らしていると平和ですよね。ですが、中東っていうと、皆さんもイメージあると思いますけど、とにかく戦争をしているという印象が強いんですよね。そうすると、あの地域はなんで戦争をしているのか、というのが素朴な疑問としてあったわけです。そこから中東の政治の研究を2回生の時にやろうと思って。湾岸戦争が始まったのが1991年の1月17日なので、そのころがちょうどゼミを考える時期でした。この大学は、ゼミが2回生の後期から始まりますけど、私のいた大学は3回生からでした。ただ、どこのゼミに行くかというのは2回生の終わりごろにおおよそ決めていて、ゼミの先生も入る予定の2回生を集めて勉強会をやっていたので、「もう中東にしよう」と決めた、というのが理由です。

Q3.濱中先生が学生時代に入っていらっしゃったゼミではどのようなことを研究なさっていたのですか?

僕が入っていたゼミでは、先生がメキシコのことをやっていたんですけど、南米の政治についてやりなさいってことは言わなくて、どこでもいいから研究するところを選べ、と言われました。さっきのような事情があるので、中東にしようってすぐ決めたんですけど。卒業論文を書くときに、中東でもどこかに絞らなくちゃいけなくなりました。どこか国を決めないと書くのが難しいので。そのときは出来事について、例えば湾岸戦争について調べようという発想にはならなくて、どこかの国を選ぶということを思い立ったんです。ゼミで読んでいた文献が『政治体制』というタイトルの山口定先生という人が書いた文献で、私を指導してくれた先生の先生筋にあたる人らしいんですけど、その文献を読むと民主主義の話がずっと出てきて。それで僕が最初に思い付いたのがトルコです。今は(トルコが民主主義かと言われると)かなり怪しいですけど。もう一つ思い付いたのがイスラエル。どっちにするか迷って、イスラエルにしました。理由はいっぱいありますが、一つは、日本語と英語で情報が多いこと。インターネットもない時代だし、外国の情報はテレビくらいですね。衛生放送もまだ一般的じゃなかったから。短波ラジオっていう、そのラジオから海外のニュースを聞くくらいしか、海外の情報を入れる方法がなかったんです。でもちょっとずつ海外の情報が入りやすくなってきて、私自身、現地に行くようになったのはもう少し後ですけど、調べることがやりやすくなりました。


2.濱中ゼミってどんなゼミ?

Q1.濱中先生はゼミをどのようなものだとお考えですか。


ゼミは大学教育の中核だと思っています。それは、私自身の経験でゼミに入って自分が変わったというか、自己革命を起こしたような、一定のまともな学生になったので。ゼミがなかったら自堕落な学生生活をおそらくずっと続けていたでしょうね。私が学生の頃はバブルだったから、そんな自堕落な学生でも就職はなんとかなった時代なんです。ただ、ゼミに入って、学問というのはここまで面白いものなのか、ということに気付いたというか、気づかされたというか。だから大学に入ってゼミに入らないというのは僕からしたら何をしに来たのか意味が分からないというぐらいなんです。たしかに昔と違って今は演習形式の講義があります。龍谷大学で言えば法政アクティブリサーチとか、そういう参加型のものってたしかにあるし、私自身も講義は結構入念に準備してやっています。ただ学生さんから見ると、基本的には与えられたテキストとか映像資料とかで勉強して、という受け身の学習ですよね。だからスタイルとしては高校までとあまり変わらなくて面白くない。ゼミなどの参加型のものだったら、自分で何をするか決められますよね。卒業論文なんて言うのはまるっきり自分で調べて書くものです。教員からの指導をきっちり受けないとまともなものはできないですけど、それでも何か調べて書くっていうのは自分の力がすごく伸びるんです。ある問題について一生懸命それを考える。近いことをやっている人がそばにいるとすごくありがたくて、そこで議論をする。その問題についてどう思うか。 学生さん側の努力にも依拠しますが、やっぱり研究や勉強を通じて自分を成長させる場じゃないですかね。私の場合は革命的に成長したと思っています。

Q2.濱中先生のゼミでは具体的にどのようなことをなさっているのですか。また、ここは他のゼミに負けない!というような魅力などあれば教えてください。

今、学生がやっていることというと、合同報告会が3回生であるので、そのテーマを学生たちが決めて、それに対して助言をするということをしています。負けないぞ、という特徴は、学生さんのモチベーションに合わせてやる、という形なので、学生さんが主体的に「こういうものを学びたいからゼミでやりませんか」と持ち込んでくれるとやりやすいかな、というところはありますね。この先、可能性があるとすると、私は統計分析が専門なので、中東のいろんな国で全国レベルの世論調査をやっています。ものすごくお金はかかるんですが、国から研究費を持ってきて、いろんなところで調査をやって、データを分析して、国際学会で報告して、英語のジャーナルに載せる、というのが僕の仕事なんです。だからそういうことがやりたいという学生が来たら、龍谷大学法学部の中だとものすごく特徴のあるゼミになると思います。ただ、ハードルが高い。教員に近いテーマをやって、データをとるのが学生さんだとお金がかかるので、教員の持っているデータを渡したり、大学院生だったら教員と一緒に研究して論文を二人で書いて、アメリカやヨーロッパに出かけて行って英語で話す。この大学の学生でもできると思いますよ。むちゃくちゃ勉強しないといけないけど(笑)。

Q3.今現在はどのような学生がゼミに集まっているのですか。

今は、海外情勢に興味を持っていたり、イスラームとか日本にあまり馴染みのない宗教に興味があったり、あるいは紛争と平和とか国際政治一般に通じるようなトピックスに興味がある、という人が多いです。その中からゼミの他の学生と議論できるような、関心を持つような、または自分が強い関心を抱いているトピックスを選んで研究する、という形です。今の4回生は「イスラーム世界におけるLGBT」に興味を持っています。中東の、イスラームの強い国だとすると、例えば同性愛者って国によっては死刑になるんです。イランとかサウジアラビアとか。でもそのなかでもLGBTの人って確率的に生まれてくるらしくて、環境とか、親がどういうタイプとかというのは、あまり関係ない。だから中東にも一定数いるはずなんです。ということは、そういう抑圧的な社会でそういう風に生まれた人はどのように自己形成していくのか。あるいはそのあたりをイスラームの規範からどう正当化できるのかできないのか、ということに興味をもって、コーランを読んだり、いろいろな書物を読んだり、自分で東京のモスクへ行って(一週間ぐらい居たらしいんですけど)インタビューしたり、ということをしています。

Q4.今ゼミに入っている学生やこれから入る学生に身に着けてほしい能力は何ですか。

語学力と数学力ですね。統計分析をするのに数学力が必要です。語学力と数学力っていろいろと使い勝手が良い能力なんですよ。語学が普遍的に使えるというのは説明しなくてもいいと思うんですけど、数学力は些末なことを言うと、例えば、公務員試験とか企業の試験のSPIのなかの非言語系というのは数学っぽい部分があって、数学に強いとあの試験にも強くなれます。入ってからで言うと、例えば民間企業だったら、いろいろな事業拡大とかマーケティングとかそういう場面で「定量化しろ」ってよく言われるんです。例えば「ある商品が20代の女性に売れそうだ」っていう説明は定性的なんですよ。じゃあ、「20代の女性の何人中何人がこれを好むんだ」というのが定量化です。別の言い方をすると具体的な数字を出せ、ということですね。企業でも、官公庁でも具体的な数字に基づいて何か説明することを「エビデンスを出す」と言うのですが、エビデンスに基づいて言わないと効果もわからない。今の自治体や国の政策は「今までやってきたから」とか「外国でやってきてうまくいってきたから」とかざっくりした理由でやっていることが多いんです。でも定量的に議論できるはずです。実際に私が見聞きした政策だと、高速道路の需要はどう変わるのかという問題。ある時間だけ安くするとか、ある時期だけタイミングを決めて高速道路を安くするとか、あるいは安くせず値段がそのままの路線とかを決めて、データを集めるんです。そのデータを分析することで、最適な高速道路の料金設定を考える、というのが定量化して証拠を出して何かを決めるというものです。企業でなにかサービスを売るのも基本的には同じです。こういうものを売ると、この時期にどういったターゲットにこのような感じで売れるようになりました、という証拠があったらそれを採用しよう、という風になるわけです。それに合わせた商品やサービスをつくる。だから、統計や数学が持っている力というのはすごく強いんです。

私も中東研究をやっていますが、データから言えることしか基本的には言わない、というスタンスを示しています。前の大学ではこのようなことを学生に教えていたのですが、前にいたところは理系のセクションだったので学生はそんなに嫌がらなかったけど、ここだとあまり興味を持つ人がいないので…。学部生でやりたいと言った人はまだいないですね。ただ、私もこの大学に来てまだ3年目なのでまだわからない。大学院に来る人は大体これをやります。だから院生には統計分析を教えています。

Q5.学生に向けて何かメッセージをお願いします。

多くの先生が言うことなので、月並みかもしれないんですが、人間が勉強だけできる時というのは限られています。だからしっかりやってほしい。ただ、大学の勉強というのは高校までの勉強と違って色々な意味で自由だし、楽しいと思います。高校までの勉強は僕の目から見ると「いかに短い時間で一つしかない答えにたどり着くか」という勉強だったと思います。でも、大学の勉強って違いますよね。まず、答えがあるかわからない。もっというと、何が問題かすらわからない。現実の世界の問題というのはそんなものばっかりです。そういう「何が問題かすら、わからないもの」を「これが問題なんだ」ということを見つけてきて、いろいろな人たちが考えてきたわけです。その結果成り立っているのが我々の文明なんです。我々の文明的な生活や知恵を支えているのは昔の人、先人がよくわからなかった問題を問題として掘り起こして、それにどうやって答えを与えるかというのを努力してきた結果、我々の生活があるわけです。勉強というのは人類が何万年もかけて進化してきたものを、ものすごく短期間で、18年くらいで人生の中に落とし込んで教えられます。大学になると、まさに先端のことができるわけで、まだ誰も取り組んでいない問題に取り組むことができるわけです。その人次第ですが。まだ誰も取り組んでいない問題に19歳とか20歳とかで取り組めるわけで。勉強というのはもうわかっていることを頭の中に入れる、理解することですが、だれもやっていないことを調べてこれが答えだと取り上げて、それに対してこういう答えなんじゃないかという風に考えることを研究と言います。大学生って研究していいんですよ。大学院生も研究していいし。やはり学生さんには「エンジョイ(研究を楽しめ)」と言いたいですね。


3.インタビューを終えて

研究などでお忙しいにもかかわらず、インタビューを喜んでお受けしていただいてとても嬉しく思いました。龍谷大学には法律学科しかありませんが、もちろん政治も学ぶことができます。そこで、政治に疑問が出てきた際、学生さんたちは、ぜひ、中東政治について濱中先生に質問してみてください。そこから一気に視野が広がるかもしれません。自分の可能性は無限。You, Unlimited.次回の教授インタビューも、乞うご期待ください。


【取材・記事】
加藤 綾乃(法学部1回生)
安川 宗一郎(法学部1回生)
北浦 歩実(法学部2回生)