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2023.07.24

生きづらさを感じている子どもたちの居場所「やんちゃ寺」に学ぶ【社会共生実習】

 社会学部の「社会共生実習(お寺の可能性を引き出そう!―社会におけるお寺の役割を考える―)」(担当教員:社会学科 教授 猪瀬優理、コミュニティマネジメント学科 准教授 古莊匡義)は、地域社会におけるお寺の役割と可能性について考えるプロジェクトで、例年、受講生自身が地域活動をしているお寺やお寺で地域活動をしている団体にアポイントをとって、その活動の背景や状況、展望などを教えていただくことで、今後の本プロジェクトにおける活動の参考にしています。

 今年度は、7/14(金)に佐藤すみれさん(10代の居場所「やんちゃ寺」代表)をお招きして、10代の居場所としてお寺を活用する意義と効果についてお話いただきました。その内容について、少しご紹介します。


佐藤すみれさん

 「私は現在、臨床心理士として仕事をしていますが、昔、いわゆるギャルだった時期があります。
 当時の自分には居場所がなく、小学校から通っていた卓球のクラブチームの練習場がオーナーの夜逃げによってなくなってしまい、好きだった男の子に酷い振られかたをして恋愛でも傷つき、家庭ではある日突然親からあと2カ月で死にますと宣言され、入った高校は進学校で入学していきなり大学進学に向けた受験勉強が始まり、自分の能力を伸ばす勉強ではなく社会で評価されるための力を伸ばす勉強を強要され、それが私にとってとても違和感のあるもので、まわりの友人は有名大学を目指して大手の就職先に勤めるというレールに何の違和感も持っておらず、孤独を感じていました。
 そんな中、地元のヤンキーたちと夜遊びしていれば自分が評価され求められているように錯覚するようになり、高校2年生の頃から夜遊び→朝帰り→朝寝る→夜起きるといった生活を繰り返していたため、出席日数も足りず成績もオール0という状況だったのですが、先生や周りの人たちには大変恵まれていて、成績はレポート提出等で救済してもらうことでなんとか卒業資格をもらい、金髪にギャルメイクという外見の変化については否定するのではなく、そうしなくてはいけない妥当な理由があってしているのだと理解して寄り添ってくれる人たちがいました。
 また、高校卒業と同時に夜の職業に就こうと考えていた私に、心理学を学べば自分のことも親のことも俯瞰できるのではないかと大学進学を勧めてくれる人もいて、奨学金制度のことなども教えてもらい、心理学を学ぶことができる大学に入りました。
 大学では、なぜグレるのかということを俯瞰的に学び知り、「だから私はしんどかったのか!」と、自分を理解することができました。
 大学院に進学すると、先輩や周りからカウンセラーらしくとか普通になることを強要され、臨床心理士の資格取得のために個性を消して耐えた時期もありました。その延長で、行政に就職した頃も自身のバックグラウンドを隠していましたが、過去の自分を知っている社会福祉士の知人に、この分野では学校から排除されているやんちゃ系の子たちに理解のある人がいないので、過去の経験を生かして、そういう子たちのための資源を作ってほしいと言われたことがキッカケで、10代の居場所「やんちゃ寺」という活動をはじめました。


 「やんちゃ寺」の活動は遍照寺(滋賀県草津市草津3-5-15)というお寺で土曜日に開催しています。
 ここでは、卓球をしたり、コーラフロートを作って食べたり、お堂でボードゲームをしたり、ただ寝て過ごしたりと、利用者が思い思いに自由に過ごすことで「話すことができる場所」を提供しています。また、親や先生、装った自分で接しなくてはならない友人たちとではなく、自分を偽る必要のない人たちと共生する場所になっています。
 臨床心理士としてやんちゃ系の子どもたちと話をしていると、共通して「滝に打たれたい」とか「修行をしたい」とか、「今の自分がすごく嫌いで自信がないので違う自分になりたい」、「自分を洗いたい」といった声を聴くことがよくありました。そんなこともあり、非日常で荘厳さを感じることができ、どんなに業を背負っていても受け止めてくれる感じがするお寺を活動拠点として選びました。
 「やんちゃ寺」の利用者は、通っている学校も学年も年齢もバラバラで、例えば13歳の子に19歳の友達ができます。先輩でもなく兄弟でもなく、スタッフもスタッフらしくはなく、普段は出会うことのない価値観の違う人たちが自然と混ざり合っていて、お寺だからこそそうした形ができているように思います。
 最初、遍照寺に活動の拠点としたい旨をお願いにあがったときは、地域の方々からそんなやんちゃな子たちばかり集めて何をする気なのか、下手をすればお寺を燃やされるのではないかといった批判や反対意見もいただきました。しかし、活動を見守ってもらっているうちに、ここはそういう子たちの強がりや鎧を脱ぐことができる場所であり、通い始めた頃は心を閉ざして笑顔もない子たちがどんどん笑うようになって元気になっていく様を地域の方々も目の当たりにして、応援してくださり認めてくださるようになってきました。
 勉強は得意でなくても「やんちゃ寺」に来れば自分の価値を見出せて自分の個性や特徴に誇りを持てる体験をできる、そんな場所にしていきたいと考えています。


利用者の様子を写真で紹介いただきました


聴講の様子

 個性は隠すのではなく、生かすことが必要です。個性はその人の価値そのものです。世の中の人がそういう視点で理解して接してくれると生きづらい子どもたちが減ると思っています。
 依存症、虐待、非行、犯罪、うつ病…それらの土台には孤独、自己否定があると考えます。自己肯定感を膨らますことがあらゆる社会課題に共通したサポートになるのではないでしょうか。

 ご講話の終盤には時間の許す限り質疑応答もしていただきました。その様子も少しご紹介します。

(学生)「やんちゃ寺」にはどんなスタッフの方がおられますか?
(佐藤さん)SNSで知って来てくれている10代の大学生から、テレビ、ラジオ、新聞等で「やんちゃ寺」を知って来てくれる80代のご高齢の方まで、全世代がスタッフとして来てくれています。
 スタッフの皆さんは、「生きづらさを抱えた子どもたちの居場所」というものが大事なのだという考え方に共感してきてくれています。ですので、今までやんちゃ系の子たちに接したことのない人も多いです。そんな方たちのために、講座を開催して、タトゥーを入れる心理や金髪にする心理等を説明することもあります。そうして、どういった関り方をすればよいかをレクチャーしています。
 スタッフの皆さんに大事にしていただいていることは、「大人の正解を押し付けるのではなく、その子の状態に寄り添うこと」です。


質疑応答の様子


質疑応答の様子

(学生)やんちゃ系の子たちにはどのように「やんちゃ寺」の存在を発信しているのですか?
(佐藤さん)今はSNSや口コミが多いです。友達が利用者で、Instagramのストーリーに掲載しているショートムービーを見て来てくれたりしています。
 本当は、予防とか再発防止の段階で動くことができる私たち民間団体と学校や行政が密な連携をとって、学校から情報が共有されたり民間団体から行政に橋渡ししたりできるべきだと思っています。しかし現状は、行政側がその民間団体を信頼できるかどうかといった判断基準をまだ設けていないため、連携できていません。

 最後に、佐藤さんから次のようなご意見を聞かせていただきました。
 「今は、現場で目の前の出来ることをひとつずつこなしていますが、いずれは国の制度という根本の部分が改善され、「やんちゃ寺」を利用しなくてはいけないような子どもたちを少しでも減らすことができればと思っています。」


聴講の様子


聴講の様子

 今回のご講話を聴講して、受講生たちは今までに出会った個性ある人たちや自分自身について、改めて考える時間をいただきました。また、生きづらさを感じている子どもたちが本当の自分でいられる場所の重要性にも気づかされ、改めてお寺の可能性を知ることになりました。

 本プロジェクトでは、後期に受講生それぞれの興味関心に合わせてグループを形成して活動するお寺を選定します。それぞれどちらのお寺でどのような活動を展開してくれるのか、楽しみにしたいと思います。

社会学部「社会共生実習」について、詳しくはこちらの【専用ページ】をご覧ください。