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2023.10.02

滋賀県の土壌から新種の油脂酵母2種を発見 ―日本の土壌微生物の可能性を開拓―

概要
 微生物の一種である酵母には、糖を油脂に変換することができるものが存在します。それらは、油脂酵母と呼ばれています。酵母は、稲わらのような非可食バイオマスを分解した糖を原料とすることが可能なため、持続可能な油脂生産技術への応用が期待されています。
 京都大学産官学連携本部 谷村あゆみ 特定助教、京都大学大学院農学研究科 小川順 教授、龍谷大学農学部 島純 教授らの研究グループは、滋賀県の土壌から新種の油脂酵母2種を発見しました。そのうちの1種は油を蓄積する性質にちなみHannaella oleicumulans、もう1種は東近江市から分離したことにちなみHannaella higashiohmiensisと命名されました。この研究成果から、日本の微生物資源の可能性の高さが示唆されました。分離技術を追求することで、酵母を用いた油脂生産などへの発展にも寄与できます。
 本成果は、2023年9月20日に英国の国際学術誌「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」にオンライン掲載されました。


1.背景
 酵母の中には、糖や多糖を油脂に変換し、菌体内に蓄積するグループが存在します。乾燥菌体重量あたり20%以上の油脂を生産する酵母のことを油脂酵母と呼びます。バイオマスを原料とした酵母による油脂生産は、石油価格上昇や枯渇のリスク低減、二酸化炭素排出削減効果などの観点から、有望な技術として期待を集めています。現在、油脂酵母は約160種あると言われており、このうち、Lipomyces starkeyi、Rhodotorula toruloides、Yarrowia lipolyticaなどが油脂酵母としてよく知られています。
 酵母は、自然界に幅広く存在します。日本は緯度の差が大きいため、多種多様な酵母が生息していると言われていますが、まだ多くの種が未発見のままであるというのが専門家の認識です。微生物資源の探索のためには、今までにない分離方法を用い、今まで探索されてこなかった地域から採取することが重要です。

2.研究手法・成果
 滋賀県は、水圏、森林圏、耕地圏と多様なフィールドを擁し、南北の気温差が大きく、気候の変化に富む地域と言えます。そのような土地には新規な酵母が生息している可能性が高いことが推察されるため、本研究チームは、滋賀県の土壌に着目しました。県内の様々な場所から土壌を採取し、酵母の生育に特化した培地を用いて分離を行いました。
 その結果、2種類のHannaella属に属する酵母を取得することができました。DNA解析および生理性状試験の結果も、新種であることを支持するものでした。培養試験を行ったところ、それらは全て油脂酵母であることも分かりました。2種とも、キシロースを取り込むことができるため、稲わら等の植物系バイオマスの糖化液などを油脂生産の原料にできる可能性があります。1種は油を蓄積する性質にちなみHannaella oleicumulans、もう1種は東近江市から分離したことにちなみHannaella higashiohmiensisと命名し、正式に承認されました。

3.波及効果、今後の予定
 本研究により、滋賀県の独特な風土が独自の微生物生態圏を有していることが示唆されました。分離方法を工夫していくことで、さらに新しい酵母が採取できる可能性があります。一方で、気候と酵母の生態の関係はまだよく分かっていません。自然界からの分離と解析をさらに進め、酵母の多様性を解明していくことが今後の目標です。また、油脂酵母の分離手法を検討し、油脂生産性の高い新規な菌株の取得を目指す予定です。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、龍谷大学発酵醸造微生物リソース研究センターの助成を受けて実施されました。

<研究者のコメント>
今回、油脂酵母の多様性を知る一助となるような種が分離できたと考えています。今後は、油脂生産性が高い株、特定の脂肪酸のみを生産する株など、より実用性の高い菌株を分離できたらと考えています。(谷村あゆみ)

<論文タイトルと著者>
タイトル:Hannaella oleicumulans sp. nov. and Hannaella higashiohmiensis sp. nov., two novel oleaginous basidiomycetous yeast species(担子菌酵母Hannaella oleicumulansおよびHannaella higashiohmiensisの新種記載)
著  者:Ayumi Tanimura, Hikaru Adachi, Koichi Tanabe, Jun Ogawa, Jun Shima
掲 載 誌:International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 
DOI:10.1099/ijsem.0.006027

<研究に関するお問い合わせ先> 
谷村 あゆみ(たにむら あゆみ)
京都大学 産官学連携本部・特定助教
E-mail:tanimura.ayumi.7z@kyoto-u.ac.jp

島 純(しま じゅん)
龍谷大学 農学部生命科学科・教授 / 発酵醸造微生物リソース研究センター・副センター長
TEL:077-599-5718
E-mail:shima@agr.ryukoku.ac.jp

<報道に関するお問い合わせ先>
京都大学 渉外部広報課国際広報室
TEL:075-753-5729 FAX:075-753-2094
E-mail:comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

龍谷大学 発酵醸造微生物リソース研究センター
TEL:075-645-2154
E-mail:hakko-jimu@ad.ryukoku.ac.jp