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2023.11.28

2023年度 びわ湖の日滋賀県提携 公開講座に山中裕樹センター長が登壇【生物多様性科学研究センター】

琵琶湖における最大規模の市民調査「びわ湖100地点環境DNA調査」で明らかになったびわ湖の今

2023年11月18日(土)、「びわ湖の日」*1にちなんだ滋賀県と龍谷大学の提携による講座(主催:龍谷エクステンションセンター(REC)滋賀)が行われました。本講座につづいて、「びわ湖100地点環境DNA調査」の今年の結果について、山中裕樹 准教授(先端理工学部・龍谷大学生物多様性科学研究センター長)が報告しました。
【>>EVENT概要】 【>>調査概要】


山中センター長による報告の様子

山中センター長による報告の様子


報告テーマ:
「びわ湖の日チャレンジ!みんなで水を汲んでどんな魚がいるか調べよう!」
報告では、2021年度から開始した「びわ湖100地点環境DNA調査」の今年の結果紹介が行われました。3回目となる今年は、2023年8月1日〜8月31日に及ぶ期間でのべ13調査を実施。調査には、環境保護に関わるNPOや協賛企業をはじめ多くの団体や市民が参加し、びわ湖100地点の水を採取しました。あらかじめキットと共に配布したマニュアルにそって採水された水を冷蔵便でセンターに提出いただき、9月から11月にかけて「環境DNA分析」を実施。今回の講座で初めて結果が公表されました。


2023年の採水風景①(多くの協力者の参加により採水を実施)

2023年の採水風景①(多くの協力者の参加により採水を実施)


2023年の採水風景②(調査中、船中より撮影した琵琶湖内の島々)

2023年の採水風景②(調査中、船中より撮影した琵琶湖内の島々)

山中センター長は、今年の採水風景の写真を紹介し、調査協力者への謝辞を述べました。そして、実際にどのようなフローで調査が行われたのか、環境DNA調査のあらましと共に説明。
当センターが進める研究手法「環境DNA分析」とは、生き物が糞や粘液として放出して水中に漂っているDNAを、回収・分析して生息している種を推定するものです。魚類等の大型生物を対象として、ここ10年ほどで急激に技術的発展を遂げています。従来型の生態調査では専門家が現地に赴いて観察・同定する必要がありましたが、この調査手法では「水を汲むだけ」です。生物を捕獲することなく「水から」検出できる簡便さから、生物多様性の観測や水産資源の管理に革命をもたらすとされます。
【>>環境DNA分析の紹介】

つづいて、今年の調査結果を発表しました。下記スライドの通り、2023年の調査では合計43種(分類群)を検出。また、調査開始から3年で合計51種(分類群)を検出しており、下図の通り、びわ湖には実にさまざまな魚がいることが見て取れます。
このような種の網羅的な検出は、魚によって異なるDNA配列をデータベースに照合することで可能になります。DNAをバーコードのように使って種を網羅的に判別・検出する技術を「メタバーコーディング」と言い、「生物種間で共通しつつ、少しずつ異なる配列」をターゲットにしてDNA配列解読を行います。


報告資料より(今年度の検出内容)※画像は滋賀県立琵琶湖博物館提供

報告資料より(今年度の検出内容)※画像は滋賀県立琵琶湖博物館提供


そして、今年度の調査で検出された43種(分類群)について、外来種・普通種・希少種・絶滅危惧種などに大別し、また地点を北湖と南湖、北湖東岸と北湖西岸に分けて、過去2年の調査と比較して紹介しました。


報告資料より(外来種の分布地点の変化)

報告資料より(外来種の分布地点の変化)


報告資料より(今回注目した検出結果)

報告資料より(今回注目した検出結果)

山中センター長は「検出数の首位はかろうじて在来種のヨシノボリ属だったが、外来3種は(ヌマチチブ・オオクチバス・ブルーギル)は今年も多くの地点で検出された。また、今回注目した検出結果として、初めて検出された分類群の中には外来3種(チャブ・イトウ・ブラウントラウト)がある。イトウ・ブラウントラウトについては管理釣り場が検出地点近くに流入している河川を少し遡ったところにあるので、そこからの流出DNAが要因だと考えられる。チャブについては観賞魚として流通していることから放流の可能性も危惧される。このように調査を継続して、可視化することで初めてわかる価値、初めて気付ける危機がある。環境DNA分析は、そうした期待に応えられる技術だろう」と述べ、来年の調査に向けて検出結果を公開予定であることも報告しました。

山中センター長は、報告の最後に「生物多様性保全に向けた潮流」について紹介しました。世界規模でつながる経済活動においては、事業者が炭素排出量のみならず、生物多様性への事業活動の影響を考慮する必要があります。


報告資料より(生物多様性の危機と貧困の相関)

報告資料より(生物多様性の危機と貧困の相関)


報告資料より(影響評価とデータ活用)

報告資料より(影響評価とデータ活用)

山中センター長は、世界レベルで見ると貧困度が高い地域で絶滅危機にある生物種が多い傾向が見て取れること、また、どの地域をどう守るのかといった基礎情報(生物多様性情報)の蓄積も地域により偏りがあることなどを指摘。こうした社会課題の解決のためには、これまで以上に生物多様性情報の可視化が求められていること、そして、企業側には影響評価に加えて、ESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮した投資活動や経営・事業活動などが求められると解説しました。


総括として、山中センター長は「環境DNA試料をいろいろな地点で長く取り続けることで希少種の分布の縮小や移入種の侵入・分布の拡大を知ることができる」と強調し、次年度以降への抱負を述べ、報告を終えました。