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2024.02.21

スマート環境DNA調査システム開発プロジェクトにかかる記者発表を実施【生物多様性科学研究センター】

水産業の振興と生態系保全を目的とした、環境DNA調査の社会実装を実現するプラットフォームの開発

2024年2月6日(火)、本学深草キャンパス「成就館」 4 階メインシアターとzoomにおいて、【龍谷大学 「環境DNA」分析 社会実装 ハイブリット記者発表会】が実施されました。記者発表には、プロジェクトの主たる実施機関で、福井県立大学発のスタートアップ企業である福井県坂井市の株式会社フィッシュパス 代表取締役社長 西村 成弘氏と、研究開発面で関わる生物多様性科学研究センター長の山中 裕樹 准教授(本学先端理工学部)が登壇。プロジェクトの企画背景から、開発するアプリの概要、環境DNA分析の活用事例と可能性について報告しました。
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「環境DNA」分析 社会実装 ハイブリット記者発表会(写真左:山中 裕樹 准教授/写真右:西村 成弘氏)

「環境DNA」分析 社会実装 ハイブリット記者発表会
(写真左:山中 裕樹 准教授/写真右:西村 成弘氏)


「環境DNA分析」とは、生き物が糞や粘液として放出して水中に漂っているDNAを、回収・分析して生息している種を推定するものです。魚類等の大型生物を対象として、ここ10年ほどで急激に技術的発展を遂げています。

今回のプロジェクトは、経済産業省の令和5年度 成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)に採択されたもので、2023年10月〜2025年2月までの事業期間を通じて、水産業の振興と生態系保全を目的とした、環境DNA調査の社会実装を実現するプラットフォーム(スマート環境DNA調査システム)の開発を目指しています。
具体的には、川や湖沼の資源保護・環境改善を担う地域の内水面漁業協同組合(以下、漁協)が担う「自然保護と環境改善」の事業課題をサポートすべく、環境調査において、非常に簡便で非専門家でも取り組みやすい「環境DNAの採水キット」をフィッシュパス社が開発するアプリと連携して使用し、分析結果をクラウド上で一元管理。結果についてはアプリ上で、生息種別ごとの出現リストや濃度などを現地の位置情報とともに可視化できるような形で、現地の漁協関係者に提供するイメージです。
山中准教授は環境DNA分析や同技術の指導、そして調査にあたっての課題設定や調査計画の立案、データに基づいた環境改善への検討の面などでかかわります。


環境DNAの採水キットとアプリ画面のイメージ

環境DNAの採水キットとアプリ画面のイメージ


採水地の位置情報と連携したアプリ画面のイメージ

採水地の位置情報と連携したアプリ画面のイメージ

【あの川の未来を創ろう〜コップ一杯の水から地域の川をDX〜】と題した株式会社フィッシュパス 代表取締役社長 西村 成弘氏の報告では、まず、地元の思い出深い河川の自然環境が失われていることに愕然とした経験から2016年10月の会社創立に至ったことを紹介。そして、これまで同社で事業展開してきた漁協経営をサポートし、釣り人にとっても利便性の高いデジタル遊漁券アプリ「フィッシュパス」(購入場所や時間帯にとらわれないオンラインサービス)で得た全国各地の漁協や利用者のネットワークを活用し、新たなチャレンジとして今回の「スマート環境DNA調査システム」の開発を着想したことなどを報告しました。また、今回のシステムについては、漁協での試行期間を経て、2025年5月頃のローンチを目標とすることを発表。まずは全国に現在816ある漁業協同組合を主なユーザーと想定し、ゆくゆくは産業向け「環境DNA調査」の実用化として、河川工事事業者や環境アセスメント企業、自治体などの利用も見込まれる旨を言及しました。


株式会社フィッシュパス 代表取締役社長 西村 成弘氏

株式会社フィッシュパス 代表取締役社長 西村 成弘氏


つづいて登壇した山中 裕樹 准教授(生物多様性科学研究センター長・本学先端理工学部)は、【「環境DNA」分析技術の紹介と生物多様性保全に向けての展望】と題し、今回のGo-Tech事業の中で内水面漁協関係者が抱える課題を高感度かつ作業量の少ない、環境DNA分析の導入によって解決する方策を探っていく旨を報告しました。また、これまでの環境DNA分析によって明らかにしてきたことを「びわ湖100地点環境DNA調査(2023年度)」や「役内雄物川採水調査(2022年度)」などの具体的な事例を挙げながら紹介。分析結果の漁協での活用については、①放流魚の生息位置 ②土木工事前後や堰の上下での魚類相の違いと季節変化の追跡 ③新たな有用種の発見や既存種のより良い漁場(釣場)の発見などの面で貢献しうると述べました。
そして、山中准教授は、実際に調査や勉強会等で現地に赴いた経験から、漁師や漁協関係者との情報共有の重要性を実感したこと、今回の事業を通じて「日本各地でより多くの分析情報を蓄積することで環境保全のために一般化できること、すなわち規則性を見つけられるのではないか。それは社会にとっても非常に価値のある情報になるだろう」と期待を寄せ、報告を締めくくりました。


山中 裕樹 准教授(生物多様性科学研究センター長・本学先端理工学部)

山中 裕樹 准教授(生物多様性科学研究センター長・本学先端理工学部)


質疑応答では、参加した報道各社から環境DNA分析技術の詳細や、開発中の「スマート環境DNA調査システム」の活用方法や社会実装の可能性についての質問が相次ぎました。

最後に今回のプロジェクトへの意気込みについて、両名が回答しました。
西村氏は「全国の内水面漁協にとっての重要な経営資源は、自然環境に生息する魚である。今回開発するシステムにより、生態系の状況を正確に早く把握すると共に、漁協の環境保全事業などの取り組みと結果とを照らし合わせる手助けになるだろう。日本の漁協のあり方を変える一助となるよう、龍谷大学の研究チームと協力して着実に進めていきたい」と抱負を述べました。

山中准教授は「龍谷大学は、神戸大学とともに環境DNA分析の最古参の研究チームである。昨今のネイチャーポジティブ(自然再興)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などの追い風もあり、ようやく今回のプロジェクトのように世の中で活用いただきやすい環境が整ってきた。今後ますます環境DNA分析技術の利用が多くなることが見込まれる中、技術開発を進めてきた一人として、質の高い分析データが世の中に流通すること、そして、信頼できる生物データが蓄積されることで、これまで見えていなかったような環境への負荷を把握し、より良い環境への働きかけに繋がればと考えている。このように社会にとって有益な情報が増えていくことを目指す上で、今回の取組は大事なファーストステップとなるだろう」と述べ、環境DNA分析の社会実装への思いを強くしました。


「スマート環境DNA調査システム」アプリの画面イメージ

「スマート環境DNA調査システム」アプリの画面イメージ