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2024.03.22

特別講演会「古典籍・文化財のデジタルアーカイブが魅せる未来像」を開催【古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センター】

デジタルアーカイブの現状と展望

龍谷大学 古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センター(DARC)は、2024年3月2日(土)9:30~12:30、大宮キャンパス東黌101教室において、特別講演会「古典籍・文化財のデジタルアーカイブが魅せる未来像」を開催しました。
当日はイギリスから2名、モンゴルから1名、日本から1名の専門家を招聘し、各専門領域における最新の研究成果、デジタルアーカイブの展望について講演していただきました。
司会は中田 裕子准教授(本学農学部)、森 正和講師(本学先端理工学部)が担当しました。
>>イベント概要


特別講演会・会場風景 

特別講演会・会場風景 


入澤 崇学長

入澤 崇学長

講演に先立ち、入澤 崇学長が開会の挨拶を行いました。入澤学長は海外から駆けつけたゲストに謝辞を述べた後、「4名の登壇者それぞれの立場からデジタルアーカイブの現状と展望、またデジタルヒューマニズムがどのような未来図を描けるか、その一端を聞けることは大変意義深い機会である」と高揚感をにじませてスピーチを締め、特別講演がスタートしました。

まずご登壇いただいたのは、イギリス 大英図書館で「国際敦煌プログラム(IDP)」(※)に参画するお2人です。「IDPのデジタルヒューマニティーズへの貢献と将来的展望」と題し、それぞれ発表を行いました。
両名講演の日本語通訳は、本学 世界仏教文化研究センターのPradhan Gouranga(プラダン・ゴウランガ)氏が務めました。
※IDPについて、略称はそのままで、2024年よりInternational Dunhuang Programmeとなりました。(旧名称はInternational Dunhuang Project)

特別講演① Anastasia Pineschi(アナスタシア・ピネシー)氏
“Developing Digital Tools for an Online Audience: Customising and Modernising the IDP Website”


現在IDPでマネージャーを務めるピネシー氏は、聴講者に挨拶を述べた後に「IDPの目的は、中央アジア・シルクロードに接する地域の歴史的資料に関するすべての情報をデータ管理し、誰もがオンラインでアクセスできるプラットフォームを構築することである」とプロジェクトを紹介し、近年実施したIDP Webサイトのリニューアルにおける4つのポイントを次のように解説しました。
(1)イメージビューワーの開発・導入について、従来の課題は写本、絵画、織物など史料ごとで異なる形態に対応できていないことでした。そこでタテ/ヨコ表示の自動判別機能を搭載したこと、またメタ情報へスムーズにアクセスできる工夫についてデモ画面を見せながら解説しました。
(2)検索機能について、IDPの史料には20以上の言語・文字が存在するため「基本的な発音区別」「高度な発音の認識」「特殊言語への対応」を実装することで機能性強化を実現したことが報告されました。
(3)点在したコンテクストの統一化について、1箇所に集約しカテゴリ別表示を可能にしたこと、加えてテーマごとに解説ページを設置し利便性を高めたことが紹介されました。
(4)ハード面の改善として、システムやデータベースを含むサーバ(IDP Database)とミドルウェア(Middileware)、Webサイトのサーバ(IDP Website front-end)を分別したと報告されました。


IDP Webサイトのリニューアルに伴いコレクションをカテゴリ化し、その1つに大谷コレクションがある。

IDP Webサイトのリニューアルに伴いコレクションをカテゴリ化し、その1つに大谷コレクションがある。

ピネシー氏はこれらの話を総括し「今回ご紹介した再開発は、さらなる発展のはじまりに過ぎない」と力説。今後もより利便性の高い有意義なWebサイトを模索し、パートナー企業とともにデータベースを進化させていくと展望を述べて、講演を終えました。


Anastasia Pineschi(アナスタシア・ピネシー)氏

Anastasia Pineschi(アナスタシア・ピネシー)氏

特別講演② Adi Keinan Schoonbaert(アディ・ケイナン・シューベルト)氏
“Digital Research and Handwritten Text Recognition at the British Library & Opportunities for IDP”


続いて登壇したのは、大英図書館でアジア・アフリカコレクションのデジタルキュレーターを務めるシューベルト氏です。
シューベルト氏は導入で「大英図書館でもデジタルアーカイブは重要施策として取り組みが進んでいる」と語り、所蔵するデジタルデータの研究、活用法の確立を目的に2010年にデジタルリサーチチームが設立されたことを紹介。近年はヨーロッパ以外の言語(ベンガル語、アラビア語、ウルドゥー語、中国語など)の史料に関し、集中的にOCR(光学文字認識)やHTR(AIを用いた手書き文字認識)を用いて情報保護活動に注力してきたと報告しました。
一例として詳報されたのが、中国語の手書き史料に関する文字認識プロジェクトです。法華経や中国の歴史的写本といった史料には整列した文字列が少なく、崩し文字、一部が消失した文字なども存在するため、HTRでは画像選択の重要性/画像の二値化処理/セグメンテーション/転写(電子テキスト化)のプロセスがカギとなったと解説。
他にも「19世紀ベンガル語をディープラーニングさせ、1,200冊以上の史料を自動文字認識させた」「Wikimediaのメンバーとともに、大英図書館が有する20,000を超えるジャワ語の写本をデジタル保存した」といった活動が示されました。


Adi Keinan Schoonbaert(アディ・ケイナン・シューベルト)氏

Adi Keinan Schoonbaert(アディ・ケイナン・シューベルト)氏

講演の終盤、シューベルト氏は「プロジェクトの元々の目標である『IDPが所有する史料の文字認識について、オープン化されたデジタルソースを提供すること』は達成された」と、そのモデルタイプがソフトウェア開発のプラットフォーム「GitHub」で公開されていることを報告。また大英図書館の最新トピックスとして、現在、所蔵コレクションの3Dモデリング作業が推進されている様子が共有されました。

特別講演③ Ayudai Ochir(アヨダイ・オチル)氏
「考古学とデジタルアーカイブ ~その期待と展望~」


3人目の登壇者は、モンゴル科学アカデミー 歴史学・民俗学研究所の学術研究員のオチル氏です。通訳はモンゴル国立大学 歴史学科准教授のOyunjargal Ochir(オユンチェルガル・オチル)氏が務めました。

オチル氏は、モンゴル国に現存する他言語碑文の調査・研究を目的とした日本とモンゴルの共同研究「ビチェース・プロジェクト」において、1994年の発足当時よりモンゴル側の中核を担ってきた研究者です。同プロジェクトについて、①モンゴル帝国の都カラコルム、およびモンゴル最古の寺院 エルデネ・ゾー周辺から発見された13~14世紀の碑文と、②その他の碑文、2種類に分けて成果が紹介されました。
特に①については、複数の例をスクリーンに投影しながら「突厥(テュルク)やウイグル語、漢文、アラビア文字などが散在し、当時のモンゴル周辺地域の情報を含む重要な歴史的・文化的財産となっている」と説明。その後、話題は歴史遺産の保存、デジタルアーカイブの未来へと展開しました。
オチル氏は「プロジェクトを通じて歴史遺産の保護に務めてきたが、未だに多くが放置されている」とモンゴルの現状を指摘。「特に墨で書かれた壁文や草原に横たわる碑文の劣化に危機感を募らせている」と話し、デジタルアーカイブに期待することとして、次のように語りました。「歴史遺産を後世に残そうとするとデジタル化は不可欠。デジタル化すれば誰もが閲覧・研究でき、文化財の復元・修復にも資する。さらに碑文の複製を制作すれば観光資源として活用できる点も魅力的ではないだろうか。喫緊の課題として皆で取り組んでいかねばならない」。

またオチル氏は、三谷 真澄教授(本学文学部、古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センター長)がモンゴル現地調査で見せた熱心な研究姿勢を称賛し「意欲的な日本の研究者たちが我々の研究をサポートしてくれていることを、今もこれからも心強く感じる」と笑顔で謝意を示し、講演を締めました。


Ayudai Ochir(アヨダイ・オチル)氏

Ayudai Ochir(アヨダイ・オチル)氏

特別講演④ 阿部 泰郎 教授
「宗教テクスト文化遺産アーカイブ創成の試み-聖徳太子と慈円をめぐって-」


最後の登壇者は、本学で大型科研費の研究代表者として活躍されている阿部 泰郎 教授(本学文学部、名古屋大学名誉教授)です。
阿部教授は「宗教がもつ宇宙のようなテクストを、デジタルヒューマニティーズはどのように未来へ繋ぐことができるか。龍谷大学の先進的な取り組みからその可能性を示したい」と述べ、講演をスタートしました。
話題の軸となったのは、聖徳太子にまつわる所産です。日本国の成立と仏教の受容を担った事績と生涯の記録は、太子の死後、現在まで人々により受け継がれています。「法隆寺と四天王寺も太子の記憶を受け継ぐ壮大なモニュメントである」と示した阿部教授は、続けて、太子の死後すぐに造られた「法隆寺金堂釈迦三尊像光背銘」、聖徳太子等身大の像と伝わる「救世観音像」などを例示したうえで、聖俗一体となった童子形の姿も宗教文化遺産の象徴として多くがテクスト化されたと言及。13世紀に造立された「聖徳太子二歳像」(ハーバード美術館蔵)に関するハーバード美術館・名古屋大学・龍谷大学の共同研究の成果が披露され、研究にあたって実感したというデジタルアーカイブの優位性も語られました。

続いて話題は、諸処に伝わる「聖徳太子絵伝」へ。現存する中で最高・最大の傑作といわれる、愛知県・本證寺に伝わる「本證寺絵伝」の存在にふれ、2022年の修復作業に先立ち、本学・世界仏教文化研究センターによりデジタル画像データ作成を通じてアーカイブの構築を行ったこと、および高精細デジタル画像データに基づいてレプリカを制作し「絵解きフォーラム」を開催したことが、デジタルアーカイブ活用の試みとして紹介しました。
終盤は、聖徳太子信仰の礎を築いた中世のキーパーソンとして慈円にスポットを当て、太子への祈りが自筆で綴られた「青蓮院吉水蔵聖教」をピックアップ。現在、本学のメンバーが中心の研究・調査でデジタルアーカイブ化を進めていることが明かされました。


阿部 泰郎 教授(本学文学部、名古屋大学名誉教授)

阿部 泰郎 教授(本学文学部、名古屋大学名誉教授)

阿部教授はデジタルアーカイブへの取り組みが直面する現状について、「テクノロジーの急激な進展は、文化の読み解き・継承に根本的な変化をもたらすインパクトがある」と語り、「古典的な学知のあり方とその価値を見直す必要があるのではないか」と課題を共有。データ改変や消失などデジタル化が抱えるリスクを示しつつ、「デジタルアーカイブに万が一のクライシスが生じた際のよすがは、世界中の研究者による横断的なネットワークだろう。その命綱の一端を本学が担えるよう、今後も研究に邁進していく。今こそ、人文学にとって新たな“古典籍”を再構築するチャンスが到来しているのである」と力強く語りました。


古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センター長の三谷 真澄教授(本学文学部)による閉会挨拶

古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センター長の三谷 真澄教授(本学文学部)による閉会挨拶

全講演の終了後、古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センター長の三谷 真澄教授(本学文学部)が閉会の挨拶に立ち、「今後も当センターおよび龍谷大学は、本日お招きした皆さんの活動のよきパートナーとして協働し、価値あるデジタル化に注力していく」と述べ、登壇者・来場者への謝辞を述べて会は閉幕しました。

古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センター(DARC)では、今後もデジタルアーカイブ、デジタルヒューマニティーズの取り組みを進めるとともに、学際的研究プロジェクトの研究成果を皆さんと共有する機会を設けていきます。