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2024.04.05

ジュゴンがまだ琉球列島に生息している 科学的証拠を公表

 (一財)沖縄県環境科学センター総合環境研究所所長の小澤宏之、龍谷大学先端理工学部教授の丸山敦らは、2019年以降に地域絶滅した可能性が高いとされていた南西諸島の海棲哺乳類ジュゴンについて、野外で採取された糞のDNA分析や遊泳個体の目撃情報から、現在も琉球列島に生息していることを突き止め、Scientific Reports誌(Springer-Nature社)にて公表しました。
 ジュゴンのDNAが検出された糞は、沖縄島北東部の久志(くし)と宮古諸島の伊良部島佐和田でそれぞれ採取されたものです。論文では2010年以降に得られたジュゴンの目撃情報や喰み跡の分布情報を整理し、糞の分析結果と合わせ、現在も琉球列島の広範囲にジュゴンが生息することを確認しました。なお今回の論文では、宮古諸島での半世紀ぶりの生息確認の内容を含め、琉球諸島のジュゴンの分布や南方(フィリピン等)からの移動に関しての考察を含んでいます。
 謎の多いジュゴンの分布状況を知るには、地元の沿岸漁業者などから提供される目撃情報が有効ですが、合わせて海域で採取された糞の分析を行なうことでより正確な情報が得られます。今後はこれらの技術を用いて日本におけるジュゴンの分布などの研究を進め、絶滅が危惧されるジュゴンや餌場となる海草藻場の保全対策に取り組んでいく必要があります。

■■■ 研究成果の要約 ■■■
※ 論文中に転載可能な地図やドローン写真があります。
▷ 南西諸島に生息する海棲哺乳類ジュゴン(世界的な分布の北限)は、地域絶滅が危惧されているが、個体数が僅かであり現在の生息状況は不明な部分が多かった。
▷ 2019年に今帰仁で死亡個体が見つかって以降、南西諸島のジュゴンは地域絶滅した可能性が高いことが論文で報告されていた。
▷ 沖縄県の海域で見つかる大型草食動物の糞には、アオウミガメのものが多く、外観だけではジュゴンのものだと特定することができない。
▷ 動物の糞には、自身のDNA断片が含まれることがあり、ある種に固有の配列をPCRテストで検出することで、糞の正体を特定することができる。
▶ 今回、ジュゴン固有の配列をもつDNAが、沖縄島東部の久志(くし)で採取された糞、宮古諸島の伊良部島佐和田で採取された糞から、それぞれ検出された。屋那覇(やなは)島で採取された糞からは、検出されなかった。
▷ 固有の配列をもつDNAの検出には、固有配列のみを増幅するPCRテストの後、増幅されたDNAの配列をシーケンス分析で解読することで行われた。
▶ 2010年以降のジュゴンや喰み跡の目撃情報などを整理したところ、ジュゴンが琉球諸島の広い範囲(沖縄島周辺海域、宮古諸島、八重山諸島)に生息している可能性が確認された。
▶ これまでの目撃情報には、母子と思われる個体の遊泳情報も含まれており、琉球諸島で現在もジュゴンが繁殖していることが推察された。

▷ 本研究で確認された沖縄島周辺での分布は、2019年の今帰仁村での死亡個体確認以来の貴重なものである。
▷ 本研究で確認された宮古諸島での分布については、約半世紀ぶりの再確認となる貴重なものである。
▷ ジュゴンの移動能力は高いが、琉球諸島内での移動や、フィリピン集団からの移動の可能性についての詳細は不明である。論文では、フィリピン集団からの琉球諸島への移動の可能性について、これまでの目撃情報などと合わせ考察した。

■■■ 研究の背景 ■■■
ジュゴンは、インド洋、西太平洋、紅海の沿岸部に分布する中型(成獣で250〜900 kg)の海棲哺乳類であり、日本ではかつて沖縄県の八重山地域から沖縄島周辺までの広い範囲に生息していた記録があります。しかし、沖縄県内における生息個体数は、明治時代以降の濫獲などで減少し、現代ではわずかであると推定されています。そのため、環境省や沖縄県のレッドリストでは「絶滅危惧ⅠA類」に指定されるなど、地域絶滅が危惧されています。さらに、2019年3月には沖縄島の今帰仁村で雌成獣が死亡した状態で漂流していたのが見つかり、個体数が極めて少ない沖縄のジュゴン個体群の存続への影響が危惧されました。これ以降の正式な生息情報がなかったため、地域絶滅した可能性が高いと捉える論文もあります。
その一方で、本研究でまとめた通り、環境省、沖縄県、NGOや視域住民などが行ったヒアリング調査ではジュゴンの目撃事例があることが報告されています。また、沖縄島とその周辺、また近年は先島諸島を含め、ドローン調査や潜水調査、漁業者による喰み跡のモニタリング調査、海水からジュゴン由来のDNA断片を検出しようとする環境DNA調査など、分布把握を目的とした多様な調査が2019年以前から現在まで継続的に実施されてきました。今回の公表内容は、これまでに実施されてきた一連の調査を礎としたものとなります。

■■■ 発表論文 ■■■
リンク:https://www.nature.com/articles/s41598-024-58674-8
掲載先:国際オンライン専門誌「Scientific Reports」(Springer-Nature社)
題 目:Fecal DNA analysis coupled with the sighting records re-expanded a known distribution of dugongs in Ryukyu Islands after half a century
著 者:小澤宏之(おざわひろゆき):(一財)沖縄県環境科学センター総合環境研究所 所長 ・・・総括・現地調査
吉浜崇浩(よしはまたかひろ):(株)蟹蔵代表取締役 ・・・ドローン撮影・現地調査
宜志富紹吾(ぎしとみしょうご)・渡邊那津季(わたなべなつき):沖縄県環境科学センター ・・・DNA分析
市川光太郎(いちかわこうたろう):京都大学フィールド科学教育研究センター准教授 ・・・現地調査
佐藤圭一(さとうけいいち):(一財)沖縄美ら島財団水族館管理部・事業部統括 ・・・現地調査
渡邊謙太(わたなべけんた):沖縄工業高等専門学校 ・・・現地調査
高野克彦(たかのかつひこ)・落合洋介(おちあいようすけ):日本放送協会(NHK) ・・・現地調査
山中裕樹(やまなかひろき)・丸山敦(まるやまあつし):龍谷大学先端理工学部教授 ・・・DNA分析

■■■ 研究に関するお問い合わせ先 ■■■
▶沖縄のジュゴンの分布やその調査について
    小澤 宏之 (おざわ ひろゆき)
    一般財団法人沖縄県環境科学センター 総合環境研究所 所長
    〒901-2111 沖縄県浦添市字経塚720番地
    部署直通電話:098-875-5208
    E-mail: ozawa@okikanka.or.jp
    Webサイト:https://www.okikanka.or.jp/

▶DNA分析について
    丸山 敦 (まるやま あつし)
    龍谷大学先端理工学部環境生態工学課程 教授
    〒520-2194 滋賀県大津市瀬田大江町横谷1−5
    研究室直通電話:077-544-7112
    E-mail: maruyama@rins.ryukoku.ac.jp
    Webサイト:https://sites.google.com/view/a-maruyama/


Figure 1. Locations where feces of large herbivores were collected, animals thought to be dugongs were sighted, and dugongs’ feeding trails were confirmed. The worldwide dugong distribution map is based on Marsh & Sobtzick, 20191.


Figure 2. A photograph of a marine animal thought to be a dugong in a coastal area of Irabu Island on September 26 of 2019, taken with UAV by Takahiro Yoshihama, the second author of this paper.


Figure 4. A photograph of a dugong’s feeding trail found in a coastal area of Irabu Island in March 2020.