2024.04.25
『枕草子』に登場する"みくりのすだれ"を再現?!農学部生の卒業研究の取組について!
3月25日(月)龍谷大学農学部農学科 雑草学研究室の三浦 励一准教授と同研究室に今春まで所属していた藤本 剛輝さん(ふじもと・こうき、23)と李 恩注さん(い・うんじゅ、22)が卒業研究で『枕草子』や『蜻蛉日記』に登場する「みくりのすだれ」の再現を行いました。
みくりのすだれは、『枕草子』で清少納言が田舎を訪れた際に「網代屏風」やみくりのすだれを見て、風情を感じるシーンで登場します。平安時代に実在したみくりのすだれは、古典注釈書や国語辞典では“ミクリ”の茎を編んで作ったすだれのことと記述されてきました。しかし、“ミクリ”の茎の形状はすだれにできるようなものではありません。一方で、古くに「みくり」と呼ばれていたことがある“ウキヤガラ”ならすだれをつくるのに適しているのではないか、と考察する説があり(細見末雄『古典の植物を探る』1992年)、この説に着目した学生たちが、ウキヤガラ(古名みくり)と当時の技術で本当にすだれができるか、という実験考古学的な発想のもとに「みくりのすだれ」の再現に取り組みました。
ウキヤガラは琵琶湖・淀川などに自生する水草であり、学生の藤本剛輝さんが琵琶湖を一周するようにしてウキヤガラを探し回りました。すだれを編む糸もウキヤガラの生育地の近くで得られたはずだと想定し、野生のクズの繊維を用いることになりました。クズのつるを発酵させ繊維をとってよりをかけて糸にする作業は染織研究を専門とする国立民族学博物館の上羽陽子准教授の指導のもと、学生の李恩注さんが担当しました。また、すだれを昔ながらの手仕事で編んでいく作業については、老舗すだれ店の「京すだれ川﨑」(京都府亀岡市)にご協力いただきました。
このような学生2名による試行錯誤と根気のいる手仕事の末、3月25日に「京すだれ川﨑」の工房で実際に、みくりのすだれを再現しました。平安時代と同様すべて天然素材で再現されたみくりのすだれは、現代の均一な模様ではなく、黒い節や斑点がちりばめられた野趣溢れる仕上がりとなりました。
卒業研究を終え、三浦准教授は「できあがったすだれはいかにも田舎風の素朴なものでした。当時の庶民の暮らしを彷彿とさせるとともに、『枕草子』の登場人物は貴族だからこそ、殊更そういうものをおもしろがったという感覚も理解できる気がします。」と清少納言が感じた風情を実感された様子でした。
また、今回の経験を通して「自然に生えている植物から手仕事で生活必需品が生み出される過程を体験できたことは学生にとって貴重な機会だったと思う。」と気が遠くなる作業を丁寧にひたむきにやり遂げた学生の成長が誇らしげで、何より嬉しそうでした。
藤本さんと李さんは、この4月から社会人としての一歩を踏み出されました。これから様々なことがあると思いますが、これだけ根気強く研究をやり遂げられた経験は必ずこれからの人生に活きてくると思います。お二人のこれからの活躍を心から応援しています。