Need Help?

News

ニュース

2024.04.30

【法学部企画広報学生スタッフLeD’s】カライスコス アントニオス先生インタビュー

1.カライスコス先生ってどんな人?

Q1.消費者法を専門に学ぼうと思ったきっかけは何ですか?

私はギリシャの大学で法学を学んで、修士課程もギリシャのアテネ大学でした。ギリシャはEU加盟国なのですが、EUは消費者法を平準化という難しい言葉を使うんですけど、簡単に言うと、EU加盟国の間で異なる消費者法を少しでもいいから同じ内容に近づけていこうということをやっています。私が大学2回生か3回生の時に、消費者法の授業で先生が、EUの不当条項規制について話していました。事業者と消費者の契約の中で事業者が一切責任を負いませんみたいなことを書いていると、基本的にそれは効力がないという扱いをする決まりがEU消費者法にあって、それがギリシャ法にもありますという話をされていました。当時、ジムとか有料の駐車スペースなどで、「何があっても私たちは一切責任を負いません」みたいに書いてあるのを見ると、これ本当に有効なのかなと思っていて、その話に初めて接して面白いなと思いました。法律が興味深いと思うところは色々あったんですけど、なぜかそこが特に面白いと感じました。テーマ的には日本では約款規制とか不当条項規制という風に言われています。事業者と消費者が契約をする時、契約内容は、たいていの場合事業者が先に決めてしまうんです。今考えてもなぜかわからないですけど、これを規制する考え方がすごく面白いと思いました。私は元々民法が好きで、民法の中でも契約法に関心があって、私の関心と消費者法とがマッチングして、消費者法は面白いんだなと思いました。
でも、実はその後に一度、消費者法については忘れました。民法の2年間の修士課程で勉強するためにアテネ大学の大学院に進学して色々なことを勉強しましたが、約款規制に触れることはありませんでした。日本に留学してから、「さあ、何を研究しよう」となったのですけど、日本がその時ちょうど消費者契約法という法律ができた数年後でした。消費者契約法を見ていると、その中に不当条項規制が入っています。それについて、色々論文を読んでいたりしていると、日本では約款規制を行う時に外国の状況を見ていたことから、EUやギリシャの話が出てきていました。そこで、日本でも関心を持ってもらえるEUのテーマの1つであって、私が学部時代に面白いと感じたものだったので、これは運命的なものだと思って、それについて博士論文を書くことにしました。

Q2.消費者法の魅力は何ですか?

色々ありますが、1番の魅力は私たち全員に必ず関わってくるということです。関わり方は2つあって、1つ目は、当然ながら私たちは消費をしないと生きていけないわけです。ご飯を食べたり、電力を使ったり、バスに乗ったりとかです。そうすると、みんなが消費者である以上、消費者法は何かしら日常生活で関係してくる。また、事業者側の立場になった時、例えば、皆さんが将来会社で働いた場合に、相手にするのは事業者だけでなく、消費者を相手にすることも非常に多く、消費者法が今度は守ってくれる側ではなくて、自分が遵守しなければならない法制度として存在するわけです。それがすごく面白いと思います。つまり、単純に一方的に消費者として守られているんだということだけではなくて、事業者にとっては、それが遵守するべき法制度として存在していて、とにかく身近なんだというのが1つ目です。
2つ目は、消費者法の勉強をしていると、社会がよくわかるようになります。なぜかというと、消費者法というのは、大体何かしら問題が生じて、その問題に対応しなければならない場合に関連することが多いからです。例えば、今消費者法で問題になっているのが、個人データ、デジタルでの消費者の保護、オンラインでの保護などですけど、それはまさに社会の最前線でありながらも、何かしら法的な対応が必要になっている部分であって、そこもすごく面白い。消費者法の勉強をしていると、まさに色々社会の最先端のことについて理解することができるということです。

Q3.学部生や大学院生時代は、どのような学生でしたか?

学部生時代は、とにかく真面目に勉強していました。私は法学部に入った時に、何がしたいのかというのは、特に決めていたわけではなかったので、1回生から3回生までは、とりあえず広くちゃんと勉強しようと思って受ける科目は全部授業に出て、きちんと勉強して、とにかくいい成績を修めようということを目標にしていました。一応、それに成功して、アテネ大学では各学年の成績が上位10位までに給付型の奨学金が出ることになっていたのですが、1回生から3回生まで奨学金をもらいました。4回生は何があったのかというと、それまで成績の上位層で来たので、少し気の緩みが出てきていたのだと思います。アテネ大学法学部の場合、4回生は、それまでバラバラに習っていた民法その他の科目について、それを全部組み合わせる授業が増え、しっかり予習復習をしないと、ついていけなくなってしまうのです。私の場合、成績が悪いということはなかったんですけど、4回生の1年度の成績についてのみ、それまでのように上位10位には入れなかったというのが少し心残りです。
大学院では、 勉強の仕方が変わります。それまでは基礎的な勉強をしていたのを、より発展的な課題について勉強するのですが、その時の私は、大学院の勉強とともに日本語・ギリシャ語の通訳や翻訳の仕事をすることが増えて、両立させるのに精一杯だという感じでした。日本語の家庭教師とか、塾の講師もしていたので、とにかくよい成績を維持しながら両立させていました。また通訳、翻訳、講師の仕事を通じて社会のことも色々知ることができました。通訳はテーマが法律だけではなく、工場での通訳、経済や政治に関するものなど色々あったので、専門外のことも勉強しなければなりませんでした。だから、その時期は結構勉強しながらも社会のことも理解する時期だったと振り返って思います。
ギリシャでは、1年少しですけど、弁護士という肩書きで活動しましたが、日本に来た時は、博士課程でまた学生になりました。そうすると、自分の中で再スタートの機会だという風に考えました。つまり、なかなかない再スタートの機会だと思って勉強に専念しました。最初の1年間は科目等研究生として所属して、その後3年間博士課程の大学院生だったのですが、とにかくしっかりと研究して、悔いのないように勉強するという4年間を過ごしました。


Q4.先生は、幼少期から、修士時代までギリシャで過ごされたと思いますが、ギリシャの好きなところはありますか?

はい、たくさんあります。1つ目は、気候が良いということです。日本と大体同じような位置にあるので、夏は暑くて冬は寒いのですが、温暖な気候で、冬でも、日の当たるところに行ったら結構外に座っていても大丈夫ですし、日照りの日が多いです。正確な数字は忘れましたけど年間で300日を超えていたような気がします。
2つ目は海がすごく綺麗だということです。 地図で見ていただくと、ギリシャは周りが海で、北側は国境がありますけど、東と西と南は海に囲まれていて、その海の青色がすごく綺麗なんです。日本で例えるならば瀬戸内海の青を、さらにもう少し明るい色にした感じのすごく綺麗な色の青で、すごく綺麗なビーチが多いので、ギリシャ人はプールではなく、海で泳ぐというのを大事にしています。少し車で移動すれば海があるという場所がすごく多いので、夏はとにかく海に行ってたくさん泳いだり、冬でも海を散歩したりなどの生活ができるのがすごく魅力的です。
この2つに関係するんですけど、食事がすごくおいしいというのが3つ目で、気候がいいので野菜とフルーツがたくさん獲れます。 日本の方がギリシャにいらっしゃると、「同じトマトでも味が全然違いますね」とか、「同じフルーツでもすごく味わいがあっておいしい」ということをおっしゃいます。あとは、肉料理と魚料理は、味付けがオリーブオイル、塩こしょう、オレガノ、ニンニクなどだけのシンプルな味付けで美味しいです。また、ギリシャの位置を地図で見てもらうと、東側がいわゆるアラブ諸国、北がバルカン諸国で、西がイタリア、南がアフリカなので色々な文化のちょうど真ん中にあって、長年の交流の中でいろんな食文化が混ざり合ったので、すごくおいしいんです。
4つ目は、人が良くも悪くもおおらかだということです。これには、短所として捉えることができる側面があります。時間にルーズで、約束を守らなかったり、電車とかバスとかも時間通りに来ることは少なかったりします。反対に、長所として捉えることのできる面もあります。おおらかであるからこそ細かいことはあまり気にしないので、遅刻をしてもそれは大目に見てくれるし、何かを忘れても怒られないし、あまりこちらもストレスがかからないです。もちろん、待たされる側になると、いつ来るんだろうなというストレスはあります。ただ、遅刻をしてしまった場合だけではなくて、何かミスをしたりとか、間違えたりとかしても、そんなに怒られないという良さがあります。
あと、ギリシャ人の気質が好きです。感情をすごく表すので、喧嘩も派手なんですけど、次の日見たらもう仲良さそうに一緒にコーヒーを飲んでいたりします。100パーセントではないですけど、あまり根に持たない人が全体として多いです。だから、ギリシャ人は結構ストレートに感情を表現しますけど、逆に、喧嘩をしても次の日はそれを乗り越えて仲良くしている感じの人が多いです。

Q5.日本に留学したきっかけは何ですか?

ギリシャは、人口が約1100万人前後だと思うのですが、小規模の国なんです。日本と比べてもそうですし、ヨーロッパの中でもどちらかというと小規模の国ですが、失業率が結構高いです。私の場合、学生の時は弁護士、検察官、裁判官か、外交官を目指していました。ギリシャの場合、これらのうちのどれを目指すのであっても外国語ができることがすごく大事で、裁判官や検察官になるための試験でも、外国語の試験を受けることができて、それを受けると加点がされるんです。だから、どの職業でも語学はできた方がいいということと、さらにギリシャの場合、学部卒ではなくて、大学院で勉強して、できれば博士号まで取った方が出世しやすいという特徴があり、「何かいい仕事がしたい」、「出世がしたい」、「社会に貢献したい」と思った場合、学部だけではなく大学院、できれば博士課程まで進んだ方がいいというのはどの分野にも共通しています。そこで、選択肢として、ギリシャで大学院に進む、外国に行くかがあるのですが、どちらかというと、1回は、海外を経験しといた方がいいというのが一般的な考え方でした。私の場合、修士はアテネ大学で国内は経験していたので、博士号はできれば海外の方がいいということになり、その時に、「さあ、どこにしよう」ということを考えました。そして、競合者が少ないところがいい、つまり、みんなと同じことをしても自分の特徴が出ないので、みんなとは違うことをした方がいいということを考えました。私の母は日本人で、私は日本語が当時からできていたのですが、調べたところ、日本の文部科学省が出している奨学金があるということが分かりました。いわゆる国費留学生という制度なんですけど、この奨学金を受けるための試験にもし受かれば日本への渡航費、日本での滞在費や学費を日本の政府が出してくれて勉強できるというものです。申請して受験したところ採用されたので、それで日本に行こうという意志を固めました。元々は人と異なることがしたいというのがきっかけでしたが、さらに、奨学金の存在を知り、日本に留学するのがいいと考えたのです。

Q6.先生のご趣味はなんですか?

率直に申し上げると、ここ2、3年ほど、忙しすぎて趣味に関わる時間がないというのが答えなのですが、元々は読書、映画を見ることや音楽を聴くことが大好きです。読書は自分の仕事にかかわる書籍等以外のものの読書ができていないというのが現状ですが、音楽と映画は、時間がある限り休みながら聴いたり映画を見たりしているという感じです。あと、語学もすごく好きだったのですが、語学力を磨く時間はなくて、仕事で使う中で勉強をしているという感じです。旅行も元々好きなのですが、今は出張しかできなくて、出張の時は基本的に観光はできないので、色々な場所に行きながらも、仕事だけして帰ってくるのが一般的です。よくよく考えると、今は、2歳の娘と遊ぶことが趣味になっています。思えば、空いている時間を一生懸命作りながら何をしているのかと言うと、大体、娘と遊んでいるという感じです。


2. カライスコスゼミってどんなゼミ?

Q1.カライスコス先生のゼミでは、現在どのような活動をされていますか?
また、今後どのような活動をしていきたいかについて、お考えがあればお聞かせください。

私のゼミは、民法を中心にはしていますが、民法以外のテーマでも全然大丈夫だというスタンスで活動しています。
2023年度の4月に着任したばかりなので、まだ2回生のゼミしかないのですが、毎週必ず私が選んだ時事ネタについての記事を2つ配って、簡単に解説するということをやっています。私の経験上、どんな目標を目指すにしても社会のことをある程度分かっていないとなかなか難しいと思うので、今起きていることについて毎週説明して、皆さんに社会の動きを認識してもらっています。
あと、16人のゼミ生を4人ずつの班に分けてディベートを行いました。4人というのは、人数が多すぎず少なすぎず、また誰かが疎外されたりする確率が低いバランスの取れた人数だと考えています。仲良くなってもらうというのが目的です。
ディベートを終えた後は、2回生の後期ということで民法の勉強があまり進んでいない段階なので、基本的な知識について報告してもらいました。民法科目の試験で失敗する確率を低くするために、早めに基礎固めを行いました。その際に、私に向けて報告するのではなくて、他のゼミ生に責任を持って知識を正確に伝えてくださいという風にお願いしました。
そういったことをやりながら、時々外国の先生にお越しいただいています。この前は、スロバキアの先生をお呼びして、スロバキア民法の基本的なところをお話していただきました。歴史や言語、文化についても聞けたので、とても面白かったです。マレーシアの先生には、マレーシアにおける基本的な法学教育、どういう学部があるのか、どういう風に弁護士になるのかなどについてお話していただきました。どうしてそうしているのかというと、開かれたゼミにしたいからなんです。外国の先生が話す英語を、私が日本語に通訳しながら聞いてもらうという形を取っているのですが、この雰囲気に慣れておくのは大事だと思っています。将来、生の英語のプレゼンを聞く機会があっても対応できるようになると思います。そして、宗教と社会や文化について研究されているギリシャ人の先生もお呼びしました。このように、ゼミの中で狭く民法だけを学ぶのではない、開かれたゼミを目指しています。
3回生前期では、交渉学の勉強を中心にしながら、判例報告をしてもらうということを計画しています。世の中は、交渉について一度考えてみるとわかってくることが結構あるんです。社会で交渉が行われている場面は多くて、例えば企業間の取引とか、公務員の人が市民の要望を聞いて対応したりするのだってそうです。だから、交渉の基本的な知識を身に付けておけば、そういう場で困ることが減ります。ちなみに、私は、ゼミで決め事をする時、じゃんけんではなく交渉で決めてもらうようにしています。そういう機会にも交渉の能力を磨くことができると考えているからです。判例報告は、2回生後期でやっている民法の基本テーマの発展です。どのような事案について、どういった対応がされたのかを勉強します。
3回生後期は、他大学と合同ゼミをしようかと考えています。何か共通の課題について考えて、交流してもらうということです。あと、ゼミの中でネゴシエーションをしてもらおうとも思っています。2つのグループに分かれて、それぞれが目指しているところを事前に決めた上で、実際に交渉してもらうというものです。
4回生は基本的に自由ということにしています。就職活動に力を入れたいからゼミに行く時間がないというのであればそれで大丈夫ですし、公務員試験の勉強を一緒にやりたいというのであれば毎週ゼミの時間を使って手伝いますし、そこはゼミ生に合わせて柔軟に対応します。1対1でもいいので、来ることができるゼミ生とそれぞれしたい勉強等を一緒にする、ということを考えています。
ゼミの方針としては、様々な分野の知識を外部の方々を交えて学べるオープンなゼミにしたいのと、横の繋がりはもちろん、国内外の先生、先輩後輩といった縦の繋がりを大事にしたいと思っています。そして、それぞれ将来自分が何をしたいのか、そのためには今何ができるのかという出口を必ず意識してもらいたいです。その上で、ゼミ生主体のリラックスできるゼミを作りたいと考えています。学生がゼミに行くとリラックスして気分転換になる、と感じられるような空間にもしたいです。

Q2.ゼミを通して学生にどのような力を身につけてほしいですか?

将来、どのような職業や分野に身を置くとしても、社会人として必要になる基礎的なスキルは今から身につけてほしいです。
そして、オープンな考え方ができて、人との繋がりを大事にする人になってほしいなと思います。色んな人を幅広く知っている、いざという時に困っている人とそれについて詳しい人を結びつけることができるというような繋がりです。
ゼミ生にはいつも、皆さんの活躍する場は必ずしも日本だけではなく、世界も視野に入れるといいですよと言っています。今まで色んな人を見てきて思うのが、優秀なんだけれども色々な事情により自分の国ではあまり評価されなくて、むしろ外国でのほうが活躍できる人もたくさんいるということです。そういう時に、自分にはこの国しか選択肢がないと思い込むのはもったいないと考えています。なので、何か自分にとって良いことがあるならば、いつでも海外に飛び出せる、くらいの考え方を持っていてほしいですね。

Q3.ゼミにはどのような学生に来てほしいと思われますか?

実は詳細な希望はなくて、ゼミの雰囲気とか方針に共感してくれる方に来ていただくのが1番いいと思います。来年度にゼミ見学の機会を設けたいと思っているので、そういうところで雰囲気なんかも見てもらえたらなと。


3.学生に向けて

Q1.最後に、学生に向けてメッセージがあればお願いします。

1つ目は、時間はあっという間に過ぎるので、常にそれを忘れずに過ごしてほしいということです。自分が思っているより時の流れは速いよ、毎日を大事にしたほうがいいよと若い頃の自分に言ってあげたいです。
2つ目は、自分が思っているよりも、自分には能力があるということです。私と同世代の人や知り合いは、今は、当時誰も想像しなかった職業に就いているんです。それは何を意味するのかというと、自分や周りの人が見ている今の自分と、将来の自分は大きくかけ離れていることが多くて、想像以上の活躍をしている場合が多いので、「自分にはこれぐらいしかできないだろう」と今から決めつけないほうが良いということです。皆さんが受けている授業のクラスの中には、将来テレビに出て活躍する人が必ずいますし、政治、芸術やスポーツ等で国をリードする人が出てくると確信しています。それは必ずしも一般的にいう「出世する」という意味ではなくて、様々な形で活躍して社会に貢献する人がたくさんいるということです。なので、現時点で自分には無理だと決めつけてほしくないと強く思います。


【取材・記事】
法学部学生広報スタッフLeD's
峰松 実結 (法学部3年)
森 亜真里 (法学部3年)
串山 琉乙 (法学部2年)