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2024.05.09

【法学部企画広報学生スタッフLeD’s】本多 滝夫先生インタビュー

1.本多先生ってどんな人?

Q1.行政は身近にありますが、「行政法」と聞いて何を学習するか想像することが難しく、行政法について先生ご自身なりのご説明をして頂けないでしょうか?

個々の事例みたいなものを話すと長くなりますね。行政法自体が何なのか皆さん分かりにくいと思います。憲法なら憲法典というものが具体的にありますし、民法なら民法典というものが具体的にあります。行政法には行政法典っていうものがないので、まず、物理的に認識することが難しいですよね。あとは、視覚的に認識することも難しいと思います。
質問にもありますように行政は身近にあります。我々が朝起きてから寝るまで、全ての生活に関わるインフラは行政が提供していますよね。あるいは、行政自ら提供していなくても行政が規制をしていますよね。具体例をあげれば水道ですね。これは、市町村が供給主体となっていますので、行政作用ということが言えます。
また、大学に来るにあたって公共交通機関を使っているかと思います。これは京都市の市営のバスや地下鉄であれば、京都市という自治体・行政が提供しているものですけども、大阪の地下鉄は民営化されて民間企業が営業しているものです。そういう民間企業が提供している鉄道サービス、阪急さんや京阪さんもそうでしょうけども、それは鉄道に関する法律が規制をしています。例えば国土交通省がそれに対する規制を行っていて、その規制がきちんとされてなければ、安全な交通サービスを受けることはできないという意味ではやっぱり行政作用が近くにありますよね。
それから道路交通に関しても、警察というと法学部の学生の皆さんはすぐに刑事司法と言いましょうかね、刑事事件における警察といったものを想定されると思いますけど、それは授業で勉強した司法警察と言われるもので、警察はそういう司法警察だけでなく、行政警察と言われている活動もしているわけです。道路の交通安全において違反をして刑罰の対象になるのは刑法の話なわけですけども、その違反自体を取り締まるというのは、行政作用にあたるわけですね。あるいは違反をさせないように例えば道路標識等を整備する、これも行政作用ですよね。
このように見てくると行政作用あるいは行政活動とは私たちの身近にあります。そして、それが法になるとはどういうことかというと大体法律があるのですね。
行政活動あるいは行政作用に関するものには個々の法律があります。水道でも水道法という法律がありますし、バスであれば道路運送法という法律があります。そして、先程の道路の交通だったら道路交通法という法律があります。それぞれの法律がその行政作用に関する法律なのですが、その行政作用を公務員が行うにあたって、各法律で要件とその作用の内容を定めていることが多いのです。要は要件と効果ですね。法律学全部に共通していて、行政法にも同じように要件と効果というものがあります。ただ、これは、行政機関が行政作用を行うにあたっての要件とその効果ということで、それはちょっと皆さんにとっては身近ではないですよね。刑法だと犯罪類型を定める構成要件を充足すると罰を受けるという意味で要件と効果ってわかりやすいでしょ。民法でも契約を締結する場合にその要件は一体どうなのかということ、どういう効果が生じるかといったことが民法で定められているので、自分にすぐその効果が及ぶという意味では分かりやすい。けれど、行政法は自分に効果が及ぶとは直ちには言い切れないものがいっぱいあるので分かりにくいと思います。民法が権利の法であるとすると行政法は権限の法ですね。民法は権利を行使するための法なので、その権利を私たちが行使するにあたって要件はどうなっていますか?行使した場合どういう効果が生じますか?ということを民法では勉強するのですが、行政法で私たちが勉強することは、行政機関の立場に立って考えるのではなくて、行政機関がその権限を定めている法律通りに働いていますか?ということなのですね。行政機関がその法律通りに働いてないことが問題なので、それを見つけるのが行政法の勉強なのです。
なんか変な話でしょ。「法律による行政の原理」という行政は法律に従って行わなければならないっていう原理がありますが、得てして行政はそれを破るので、その破っていることを見つける。それで、破っていたらそれをどのように是正するか、あるいは、それを破ったことによって不利益を被った人がいたらその人をどうやって救済するのか、それを考えるのが行政法学なのです。だから、行政法は、行政に権限を付与している法律を見て、「その法律通りにやっていますか?やってないでしょう。それ問題ですよね。それを違法な行政っていうのです。それは裁判になりますよ。」という話なのですね。

Q2.どのような経緯で本多先生は法学部に入学されたのでしょうか?

そうですね、うーん、1つは社会科学系の学部に行きたかったからで、それは多分中学3年生の頃から思っていたと思うんですよね。
中学3年の頃に何があったかっていうとオイルショック、第1次石油ショックと言われるものがありました。すごく物価が高騰しましたが、この物価の高騰も、石油が値上がったというよりも、その石油の値上がりを口実に商社が買い占めをしていたっていうことが大きな要因でした。この売り惜しみをして物の値段を釣り上げていくっていう、とんでもない悪質なことをしていて、それに対して政治がうまく対応していなかったわけですよ。もともと理科とか理系にすごく関心があって、そちらの方もよく勉強していたんですけども、このような問題があってから社会とか政治とかにもすごく関心をもつようになったのです。高校生になった時には政治関係を勉強しようかなと思っていました。もっとも、政経の授業を聴くと経済も面白いじゃないかって話になって、じゃあ、政治と経済を勉強できる大学に進学しようと考えたのですが、政治と経済を看板にする学部をもっている大学は少なくて…。国立大学というと、政治学を開講しているのは法学部ですよね。経済っていうと、経済学部です。さあ、どっちに進学しようかなと悩みました。ただ、数学Ⅱを勉強しているなかで「行列」というものが出てきて、行列の式の意味を理解できなくて…。経済学部に進学するとなると、どうしても数字の世界が出てきますから。それでひょっとしたら、経済学の勉強が分からなくなっちゃうかもと思いました。
社会学部?これはあまり考えなかったですね。当時は社会学部を銘打った大学はあまりなくて。どちらかというと、文学部の中に社会学関係をやっているという感じだったのです。だから、社会学を勉強したいと思えば文学部に進学するということになるのですが、文学部を卒業した時の将来って何があるかって考えると、学校の先生になるという選択肢が出てきますよね。先生になる気もあまりなかったので、人文社会科学と言っても社会学系はほとんど考えることは無く、法律か経済、でも(経済学部行くのは)数学難しいよねと思って、じゃあ、 残ったものが法律だったというのが法学部に進学した理由のひとつです。これは受験生的な発想にもとづいたものです。
もう1つの理由は、やはり憲法に関心があったっていうことでしょうか。「政経」の授業の中で、憲法25条の授業がありました。皆さんもご存知のように憲法25条にはプログラム規定説っていう考え方があります。要するに、憲法では権利って書いてあるけれど、文化的で最低限度の生活の保障は政策判断の結果であって、国民はこれを具体的な権利として主張することはできないというような考え方ですね。当時の最高裁判所もそういうプログラム規定説的な発想に立っているというような授業を受けたのです。憲法って一体なんだろうと思いましたね。憲法を実質化するためにはどうしたらよいのか、そういう意味では法律学に対する関心があったのです。受験生的な発想と、高校の時に法律学の中でやっぱり憲法を勉強したいっていう気持ちから、法学部に進学したということになりますね。

Q3.高校生の時代に憲法に興味があったというお話でしたが、今の先生の分野は行政法じゃないですか。憲法から行政法に関心が移ったきっかけみたいなものがあればお聞かせ願いたいです。

これは本当にね、恥ずかしながら、偶然の産物なんですよ。結果的に言えばゼミの選択でそうなっちゃったわけです。
僕が通っていた大学では、学部3年からゼミということで、憲法に関心があったので、憲法のゼミに入りたいと思っていました。ところが、憲法を担当する先生としてお二人がいらしたのですが、お一人の先生はゼミで英語の文献を読むというのです。当時は、研究者になりたいとは思っていなかったので、英語の文献を読むのはちょっと違うよねと思いました。もう一人の先生は、ゼミで実定憲法を扱うということだったのですが、その先生がちょうどドイツに留学されて、ゼミが開講されなかったのですよ。そこで、後の話にも繋がるのですけど、権力の濫用を法的にコントロールするという公法系の法律学には他に何があるかっていうと、行政法のゼミしかなかったのです。どうしようかなと思っていたら、友人たちが行政法のゼミを選択するっていうので、じゃあ、みんな行くなら僕も行くっていう感じで行政法を勉強することになったのです。だから、皆さんが聞いたら、先生もそんな軽いノリでゼミを選んだのかって、いや、俺たちの方がよっぽど真剣に考えているよ、って思うかもしれませんね。
そういう意味では行政法を選んだのは偶然の産物なのですよ。それで、ゼミに入ってから、ゼミの先生、室井力というのですが、先生が書いた論文などを読んでいくと、私が考えていたいことにかなりフィットするな、面白いじゃないというように思いました。だから、憲法のゼミに入っていたら、 憲法の先生になっていたかもしれませんし、そもそも大学の先生にならなかったかもしれません。だって、ゼミの先生が、学部を終えた後、自分を大学院に受け入れてくれなかったら、大学の先生にはなれなかっただろうし。

Q4.先生の学生時代はどのような学生生活を送っていたのでしょうか?

学生生活、正直言って真面目に勉強をしていませんでしたね。しっかり勉強をし始めたのは、大学院に進学したいと決めてからですかね。いろいろなことをしようということで、 体育会系の部活に入ってそれを4年間やっていました。それだけじゃなくて、3回生からですけど学生自治会活動もやりました。あとは学内イベントですけど、クラスやゼミで音楽系のイベントに出ることになって、ギターを弾くからっていうことで伴奏の手伝いをしたりしました。基本、自分ができることで関心のあるものであれば、何でもやってやろうというのが大学の学生時代の考え方でした。

質問者: 体育会系の部活っていうのは、何に入られていたんですか?

本多先生: バレーボールをやってましたね。

質問者: バレーボールは中学生ぐらいからされていたのですか?

本多先生: 高校生のときからやっていて。高校生の時はあまり上手くなれなかったんで、大学でもやったら、もう少し上手くなれるかなと思って。結局はあまり上手くならなかったですよね。4回生で現役引退した後、女子バレーボール部の監督もしたことがあります。

質問者: 今もバレーボールはされているのですか?

本多先生: 全然していないですね。やったら多分、骨折しちゃうでしょうね。もう怖くてボールなんか触れないですね。

質問者: すごいですね。学生自治会活動っていうのは、どのようなことをされてたんですか?

本多先生: 学部の学生自治会では、学生の要求を集約して、1ヶ月に1回ぐらい開催される学部の執行部との協議会に持ち込みました。当時は大学紛争から10年も経っていない頃なので、 全構成員自治という考え方があって、学生自治会と大学当局が協議するっていうことは結構ありましたね。龍谷大学でもそのような名残はありますね。年に1回、協議会を学生と大学執行がやっていますね。それで、最初は法学部の学生自治会の執行委員をしていたのですが、途中から全学の学生自治会の連合、全学会の役員もやりました。学部じゃなくて全学という大きな視点から見たらどうかなっていう関心からでした。全学会の活動を通じて学部を越えて友達できました。部活の友達とはまた別のなんていうかな、仕切りというか、ちょっと違う分野の友達を作ったという感じでしたね。 

Q5.院生時代はどのような生活を送られていましたか?

師匠と弟子さんという師弟関係の中での大学院生活でした。学部時代の先生と学生という関係とは全く違いましたね。厳しい先生だったので、緊張が続いた生活でした。
でも、先輩とか同級生とかとは仲が良かったですね。みんなで飲み会をやって、そこで研究の話や将来の話をしたりしていました。当時一緒に大学院で研究していた人達とは今も仲がいいですね。職場は違うけれど、研究を一緒にすることが多い。だから一番頻繁に連絡をし合っていますね。その意味で、一番の友人が出来たのも院生時代ですね。

Q6.学生時代の先生にとって学校とはどのような場所でしたか?

それは居場所ですね。
居場所。つまり家にいるより居心地の良い場所です。やっぱりさっき言ったように部活をやっていたり、学生自治会やっていたりしていましたので、大学に居る時間が長かったですね。部室に泊まり込んで麻雀やパーティーをやったりして…。ほんとはそういう使い方しちゃいけないのでしょうけど、自治会室も自治会の役員になってからは結構入り浸っていました。そこに友達が来て、その友達とまぁくだらない話からかなり真剣な話もいろいろして、楽しいというか、自分がここに居て良い場所なんだという感じです。
あと図書館も結構好きでしたね。大学院に行くってこと決めて勉強をし出してからは結構図書館に居ました。図書館の静けさの中で、本に囲まれて勉強していると、「知的な生活しているよね、俺」(笑)、と。

Q7.教員紹介のホームページを参照させて頂いたところ、もともと国家権力の濫用に対する統制に関心があったとのことですが、関心を持たれたきっかけなどございましたらお聞かせ願いたいです。

基本的には権利を保障するためには権力を抑制しなければ、といった感覚がありますよね。権力濫用が気になったのは、特に歴史が好きだったということもありますね。日本史にしろ、西洋史にしろ、抑圧的な権力に対して人々が立ち上がって、社会を自らの手で良くしていくという、革命と言いましょうかね、そういったものに憧れを持っていました。現在では革命っていうものはほぼ考えられない社会になっています。市民革命のときのような革命ではなくて、法的に権力をコントロールしようとすれば、現実の社会では裁判になります。それをどれだけ徹底するかが、現代に革命を実現するというか、具体化するということになるのではないかと思いました。

Q8.2023年度後期演習コース履修ガイドの先生のゼミ紹介ページを参照させて頂いたところ、先生は、行政法、地方自治法、個人情報保護、とくに行政手続・不服審査手続の構造と規範的性質の研究を継続的に行われていると拝見させて頂きました。
そこで、先生がこの研究分野を研究するきっかけなどがございましたらお聞かせ願いたいです。


なぜ行政手続とか不服審査手続という分野を研究したかというと、1つは大学の学部学生から大学院へ進学しようと思っていた頃に行政手続法の整備といったことがだんだん学界で注目されだしたことですね。だから、自分が大学院に進学するにあたって、比較的日本では新しいテーマである行政手続を研究テーマにしました。 特に、ドイツ語があまりできなかったので、英語で研究するということで、アメリカかイギリスかいずれかを選択しようと考えた時に、アメリカ合衆国の行政法を比較研究として選びました。アメリカは、司法審査から行政手続へ、というように発展していった行政法の体系を持っているので、行政手続を研究するならやはりアメリカだよねという雰囲気もありましたね。
自分と同じ世代の行政法の研究者の中には行政手続を研究している人が多いのですよ。なぜだろうかと考えると、どうやら「司法の反動化」が1970年代に進んだということが関係しているのではないかと思っています。
司法の反動化が何なのか分かりにくいでしょうけど。端的に言うと、公務員は労働基本権のうちの争議権は公務員法で厳しく制限されていますよね。1970年代の初めに制限を緩和する判決が下されるようになるのですよ。当時の日本社会において、公害反対運動であるとか、あるいは、日本はまだ福祉後進国だったので、社会福祉をもっと拡大しろっていう運動が高まっていて、革新自治体と呼ばれる、自治体運動もあったのです。当時の社会党、それから今でもある共産党が推す候補が知事や市長になった自治体をそう呼んでいたのです。公害反対運動や福祉を拡充するという住民運動の中で生まれてきて、1970年代の初期から中期は革新自治体が盛り上がった時代でした。公務員の職員組合がそういう運動の支えをしていたところがあって、公務員の労働運動が民間の労働運動と連帯して、革命じゃないですけどね、大きな政治的な変革が生じるかもしれない時代だったんですよ、70年代は。当時の政府が、これはまずいということで公務員運動を抑えるために、最高裁に保守的な裁判官を送り込んで、公務員の争議権の制限を緩和する判例を変更させていったのです。
行政法の分野においても60年代から70年代にかけて行政訴訟を活性化する方向の議論が生まれてきて、裁判例もそういった方向に展開をするようなところがありました。ところが、70年代の終わりから80年代にかけてさっき言った司法の反動化が行政法に及んで、そういう行政訴訟とか行政権を相手にする訴訟に対して、裁判所はもう本案を審理しませんっていうように、門前払いをすることが非常に多くなったのです。行政法っていうのはさっき説明したように、違法な行政を見つけてそれを裁判で争うっていうところに存在意義があるのですが、違法なところを見つけても裁判で争えない、そういうようになると、「これ裁判所に頼ったって意味ないんじゃない」っていう、そういうアパシーが行政法の研究者のなかに生まれてきたと思うんですよね。もう裁判所が当てにならないのだったら、行政過程そのものを立法で改革するしかない、ということで行政手続に関する関心がすごく高まったと思うのです。それは意識するかしないかに拘わらず、そういう雰囲気になっていた。多分、自分もその雰囲気に曝されていたんだろうなと思いますよね。
私が大学院を出て、大学に就職した頃に、日本でも行政手続法を本当に制定する動きが本格化して、行政手続法の法案が準備されました。法案のもとになる要綱案が不十分だということで、対案を作るという話が私の先生が主宰する研究グループで持ち上がったのです。グループの中で、アメリカ行政法研究の上で私の先輩に当たる方と私が、先生から「お前ら考えろ」って指名されました。その先輩と対案を作って公表したことがきっかけで、本多の存在が学界で認知されました。それ以降、行政手続に関して私に声をかけてくれるようになりました。もう一つの研究テーマである行政不服審査法については2000年代に入ってからの話です。同じ手続ということで行政不服審査法の改正の時に、事実上総務省が主催している研究会についても著名な先生から声かけてもらいました。

Q9.先生が過去に研究を続けていく際に、途中で心折れかけそうになった経験などありましたらお聞かせ願いたいです。

やはり大学院生の頃ですね。修士論文の執筆で心が折れかけたか、折れたかな。
研究者になるということで意気揚々と大学院に進学しけれど、自分の問題意識って一体何なのかということを改めて考えて、なんだろうって悩んでしまったのかな。「なんで行政法の研究者になりたいのだろうか」っていうことで悩みました。自分のやりたかったことは多分行政権の歴史的な展開といったこと。歴史が好きだったこともあるし、あまり実定法の解釈論そのものには関心がなくて、それよりも法の解釈がどのように展開をしてきたのか、それは何故なのかを解き明かすことに関心がありました。特に、行政法学は20世紀になってから出来上がった比較的新しい法律学で、まさにそれは行政権が急速には発展する中でどこの国でも生成してきた法律学なのです。そこには現代法としての共通性と国による違いというものがあるはずで、それを明らかにしていきたいと考えていました。そして、それが今後どのように変わっていくのかっていうのを見てみたい。そのような問題意識でアメリカの行政法を見たいと思っていました。さきほど挙げたアメリカ行政法研究の上での私の先輩はそのような研究をされた方で、それと同じようなことをしてみたい、そういう論文を書いてみたいと思っていました。
しかし、特に扱った素材がちょっと狭すぎたっていうこともあって、 自分の関心からずれるようなテーマ設定になってしまい、何をやってんだろうと思ったんですよ。でも、とにかく書かないとどうしようもない、ということで書いたのだけれども、自分には研究は向かないんじゃないかなと思いましたね。
その中で、大学院で一緒に研究をしている先輩らが励ましてくれました。心折れる中でも添え木をしてくれて、1年余分にかかりましたが、なんとか博士課程に上がることができたという感じですね。その後も順風満帆っていうわけでは決してなかったのですけどね。

質問者: 修士論文というのはどのようなものを書かれたのですか。

本多先生: アメリカの連邦社会保障の不服審査制度についてです。「administrative law judge」、日本語訳は「行政法判事」なんですけども、アメリカの行政手続なり行政不服審査の中には独立性の高い裁判官のような立場の職員がいるんですよ。その人が手続を主宰して、行政決定の公平性・公正性を担保する役割を果たしているのです。日本も行政手続の聴聞手続の主宰者や行政不服審査法における審理員の制度は、それを一応意識して作っているんですけど、はるかに及ばないものです。行政過程に裁判官に似たようなものを置くという、行政過程を司法過程あるいは裁判になぞらえてみるっていうのがアメリカ行政法の特色なので、アメリカの行政権の発展を見ていく上で重要な制度だろうということで、それを研究のターゲットに選びました。修士論文では社会保障の行政法判事だったのですが、博士課程ではもっと広げて考えてみることにしました。
ところが、研究報告会のときに、「それは、デュー・プロセス・オブ・ロー(due process of law)とどう関係するのや」って先生に言われました。やっぱりアメリカはデュー・プロセス・オブ・ローの国なのなんだから、憲法上の適正手続の原則の視点からその問題を考えないとあかんだろう、というのが先生の趣旨だと思いました。先生にそのように言われたので、アメリカのデュー・プロセス・オブ・ローを歴史的に検討・研究してみようかと思い直し、当初の予定と変更してそれを研究することにしました。既存の研究に新しい情報も加えて、アメリカの行政権の発展の中でデュー・プロセス・オブ・ローという憲法原理がどのような役割を果たしたのかを明らかにするというテーマに大きく転換をしました。
その時はもう心折れるということではなくて、やっぱりこれではあかんのかっていう、自分でもやっぱりちょっと限界を感じていたところなので、逆に思い切ってテーマの方向を変えろというのが先生の助言だと捉えました。でも、実際、先生はそんな気はなかったみたいですけどね(笑)。先生のちょっとしたアイデアみたいなもので、これも考えてみたら?という感じだったみたいです(笑)。

Q10.先生の専門分野の面白さを教えて頂きたいです。

教員紹介のホームページの「専門分野の面白さを教えてください。」の内容を敷衍するならば、憲法論を主張しても裁判では勝てないんだけど、行政法論を主張すると勝てるぜっていうことですね。
さっき言ったように。権力の濫用を防止するって時に基本的人権の侵害を主張しても裁判所は「うん」とは言ってくれないことが多い。けれども、「ここは行政法のこういったところには違反しています」って言うと、憲法違反って結構重たいものなので 、裁判所は、憲法違反とは認めない、でも、違法とは認めてくれます。最近は、最高裁判所もだいぶ憲法違反を認めてくれるようになってきましたけどね。昔は、憲法違反をなかなか認めてくれないですよね。憲法違反を行政法のレベルに引き直して言うならば、 裁判所は違法と認めてくれるということなのですね。
判例時報のウェブエッセイ(Web日本評論・私の心に残る裁判例(第46回)「憲法学と行政法学との対話」)に書いたことなのですが、龍谷大学の法科大学院(2005年4月~2017年3月)の公法系教員の研究会で、とある行政法判例について私は行政法ですごく新しい発展を示した判例だということでいい評価をしたのですよ。ところが、憲法の先生たちは、事案の内容は元々憲法が争点で、憲法違反の主張を認めなかったのは問題だというのです。憲法違反の主張は通らなくて、 裁量権の濫用っていう行政法の話になったら、裁判所は受け入れてくれたっていう話が琴線に触ったようですね。行政法の中に、憲法の価値とか人権の内容を読み込めば、 裁判官だって飲んでくれる。いきなり人権侵害って主張すると、裁判所側はやっぱり重たく感じてしまう。もうちょっと飲みやすくすれば裁判所が受け入れてくれる。ここが行政法の魅力だなと感じています。自分は、学生のころ、最初は憲法を勉強したかった、でも行政法をすることになった。繰り返しになりますが、これは偶然なのだけれども、行政法を勉強していって、「あっ憲法より面白いじゃない!」っていうことになったのだと思います。行政法の面白さは何かって言うと、権利の救済とか権利保護を主張したいならば、憲法で攻めるよりも行政法で攻めた方が面白いというのが私の信条です。
学生の皆さんは、行政法の授業で「なんでそんな細かい話をするんですか」って感じていると思います。ただ、新聞記事とか読んでいても、「あ!これ、行政法で考えたらこうじゃん」とかね。特に、行政が関わる社会の出来事なんかは、行政法を知っているとその意味がよく分かってくるということもあります。

Q11.休日は何をして過ごされているのでしょうか?

いや、そもそも休日があるんかねっていう感じです。大学の業務がない日を休日っていうなら、大学の業務がなければ自分の研究をしますので。最近は頼まれ原稿が多いので、なんとか処理しなくちゃ、っていうことで、その締切りに追われてあんまり休めてないっていう感じです。
旅行に行くとかコンサートに行くとかなんていうことは、最近ほとんどないですね。子どもらが小さい頃は子どもらを連れて遊びにいくっていうのもそこそこあったけれど、大きくなるにつれて…。逆に自分だけの時間ができるとなると研究や物書きに使いましょうっていう話になりますね。
追い込まれている状態がなければ、本当はね、前々からしたいと思っていた庭をきれいにするとか、若い頃に少しやっていたギターもまたしたいなと思いますね。長男が大学生の頃に軽音をやっていて、ギターを揃えていたんで、「いいな」と思っていましたね。大学生の長男がガチャガチャ演っているのが聞こえて、下手くそと思いながら(笑)。自分もそんなもんだったかなと反省しつつ、また演りたいなと思ったり…時間さえできればね。

質問者: ご自身のギターは?

本多先生: 子どもが3人になったときに捨てちゃいました。また買って演りたいなとは思ってます。漫画・アニメの『ぼっち・ざ・ろっく!』とかでまた流行ってますからね。YouTubeには、ぼっち・ざ・ろっくの曲を弾いてみたとかで、ギターの運指やリフを全部見せてくれる動画があって、「そうか、そうやって演るんだ」と感心したりね。若いころにこういうのがあったらよかったのになーって思ったりしますね。そうだったら違う道もあったかなと思いまして(笑)。まあ才能ないからそっちには行かなかったけど(笑)。

質問者: 頼まれ原稿というのは、先生のご本の執筆ですか?

本多先生: そうですね。法律系の雑誌の論文とか、新聞社のコメントとか、あるいは出版社から教科書出してくれとか…。自分で考えた研究テーマで論文を書くというようなものが最近少ないですね。次から次へと依頼があって、それを書けるのは自分しかいないとなるとお引き受けちゃってますね。そうすると、自分の研究本体じゃないっていうこともありますね。でも同じ分野の依頼が多くなっていくと、だんだんそれが研究のメインになってきますよね。もともと自分は地方自治関係が専門ではなかったんですけども、そういう関係の依頼の仕事がどんどんと入ってくると、それについて研究をし、論文の蓄積ができると、「ああ、いつの間にか自分の専門分野になっている」ということがありますね。
ともあれ、休日の過ごし方といってもあまり分からないですね。でもYouTubeなんかは見ますけどね。

質問者: どんなYouTubeを見られますか?

本多先生: そうですね。さっき言ったように今流行りのものを見ていますね。
最近何を見てるかなぁ、さっきの『ぼっち・ざ・ろっく!』ですかね、ぼっちちゃん(『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公)系の動画は見たりします。
あとなんだろう‥。結構鉄道好きなところがあるので、乗り鉄っていうか、YouTubeでどこからどこまでを最短時間で乗ってみたとかね、逆に最長距離で乗ってみたとかね、1日の間に鉄道で大阪駅からどこまで行けるかやってみたっていうのを見たりしています。そういうのを見て、列車に乗って、旅行した気になるっていうことをしています。


2.本多ゼミってどんなゼミ?

Q1.先生は学生にゼミでどのようなことを学び、習得してもらいたいと考えていらっしゃいますか?

普段から行政法の存在を知らないっていうこともあるから、演習ではレクチャー的なものは半分入れていますね。それから、皆さんも基礎演習や法政入門演習でもしたように自分たちで課題見つけて、調査・検討するっていったことを行政法に即してしてもらっています。それが結構難しいみたいで、文献なんかも教えるなどアドバイスをすることで、なんとかやっているという感じですよね。2回生でも3回生でも同じようなことをやっていますね。2回生は、行政法を勉強するという趣旨で、行政法に関連する事件とかそういう出来事を選んでもらい、そこで選んだ事件や出来事に関連する行政法を勉強するということをしています。チームで課題を設定して、レポートを書いてもらっています。3回生でも地方自治や地方行政に関する課題を探してきて考えるということをしてもらっています。政策的に関するもの多いので、必ずしも行政法に収斂する必要はないのですが、難しいようですね。政策学部での勉強に近いかも、多分ね。
とにかく、演習ではレクチャー半分と学生のチームによる活動を半々ぐらいして、チームの活動の時間帯ではチームの間を巡回して、どういう作業状況になるかを聞いて、アドバイスするっていうことをしています。いわば進捗管理ですよね。次回にここまでやってこないと最終報告に繋がんないよ、今日はどこまでみんなでやってきたの?とかを尋ねています。皆さんが就職してから会社などで企画とかイベントとかを任された時に、起案して、実施するプロセスの中で、タスク立てをして、そのタスクを実現するためのスケジュール管理をしなきゃいけないし、タスクを達成するにはどういうものがいるかってことを全部調べてやらなきゃいけない。進捗管理を意識させるのはチームでやっていくことには必要なので、ゼミでしたことが役に立てばなと思っています。

質問者: では、先生のゼミでは課外活動などはされていますか?

本多先生: 課外活動はね、1回だけ。コンパは別ですけどね。行政法聖地巡りっていう、行政法に関連する事件が起きた現場を見に行くということをやっています。2回生の春休みにやっていますね。

質問者: では、 先生のゼミでの魅力や強みなどは何でしょうか?

本多先生: うーん、魅力・強みね…。
自分自身としてはそういうことはあんまり考えていないので…。まあ、結果的に学生がどう受け止めているかっていうことになるか…。先ほど言ったように、ゼミでは行政法を勉強してもらうのはそうなんだけど、法学部卒業時に法律学的な素養を身につけていることを目的としています。それ以外には、チームでいろいろと作業をすることかな。企画立案、 実施計画作り、進捗管理をして、時期に合わせてちゃんと実現する、そういう訓練をする。学生時代にそういう訓練を受けていれば、民間会社に就職しても、公務員になっても役に立つと思っています。あとは、自分で物事を発見することは、就職の面接で引き出しを増やすことになるのかなと思っています。個人面談で「大学で何していましたか」「こういうことを勉強していました」と答える時に、たんにゼミで報告した細かな解釈論を話すのではなくて、面接員にもっと関心を持ってもらうような話題を提供できるんじゃないかな。

Q2.先生はどのような学生にゼミに来てもらいたいと考えていらっしゃいますか?

うーん、そうですね。
行政なり地方自治なりに問題関心がある人に来てもらいたいですね。例えば、ゼミ選択の時に提出するゼミ志望理由書に一応行政などに関心があることを明言する学生に来てもらいたいですね。具体的なところに着眼した記載があると、うちのゼミ来てもらっても問題意識は共通しているから、議論ができるだろうっていうことで、「いいね」になる。問題意識を作るところからスタートしなくっていいですからね。強いては言えば、行政のあり方とか地方自治の問題とかに問題意識を持っている学生に来てもらいたいと思いますね。
公務員になりたいとかそういう志望を持たなければならないわけではありません。例えば、故郷の過疎の問題に非常に自分は悩んでいてどうしたらいいか、どのような政策があるかということをいつも考えていますっていう学生には期待しています。特に3回生の後期はそういう問題を考えますから。

Q3.先生は学生にゼミでどのようなことを学び、習得してもらいたいと考えていらっしゃいますか?

Q2に被ってしまうんですけど。まあ、1人ぐらいは自分のゼミ生から行政法の研究者になる人がでてきたらいいなとは思ってはいましたけどね。もうすぐ定年が近いんでね、これから大学院に進学したいって言われても面倒をみられないのでそれはもう叶いませんけれど…。
どのようなことを学び、習得してもらいたいか?もちろん、行政法を勉強してもらって習得してもらいたいと思いますけど…。でも、さっきも言ったように、行政は身近なんだけれど、皆さん自身が行政法をそのまま使うことってそうそうないじゃないですか。一般の企業に就職した場合に、仕事の上で行政法と関連することがいっぱいありますけども、行政法の解釈論を知らないと対応できないわけではないので…。
どこまで習得してほしいかっていうと、問題意識を持つことで、きちんと資料を集める能力があること、それを正確に読み取ってまとめる能力があること、そして、その中から自分の見解をこう導き出す、そういう大学生に求められている能力を習得することですね。それらを自分の専攻する分野を通じて習得してもらえばよいと思います。専門家を育てる教育として行っているわけではなく、あくまで、大学教育として行っているので。
それから、「想像する力と共感する力」っていったものをつけてほしいですね。事件などの中からどういうことが一体問題になってきたのか、どういう人がその中で苦しんでいるのかといったことを想像して、共感して、それに対して法がどのように役に立つのかということに気がついてほしいなって思いますね。


3.学生に向けて

Q1.大学で学び、どのような学生になって欲しいか、大学生の内にしておくべきことなど学生へのメッセージをお願いします。

「想像力と共感力」といったものはやっぱり身につけてほしいです。そのために何をしておくか?うーん何でもしてください。
何でも関心を持って何でもチャレンジしてください。自分にリミッターをかけないでほしい。リミッターかけるなって言っても、やっちゃいけないことはあるけれども。違法行為とか反社会的行為を除けば、いろいろと経験を積まないと想像ができないですよね。人間、自分の体験した範囲内でしかなかなか想像ができないのでね。いろいろなことを経験して、いろいろと感じたり泣いたりすることですかね。人のために涙を流すというのは共感力だと思うんです。そういう人に育って欲しいというか、そういう人になって欲しい。人のために涙を流せる人に。涙を流すことで人は強くなれると思います。

Q2.高校生の方にも進路や大学の選択などメッセージをお願いします。

自分自身の大学選択が大したものではなかったので、なかなか言うのも憚れます。
僕が若い頃、このような便利なサイト(龍谷大学法学部のような案内サイト)はなかったからね。今はネットで進路選択情報がいっぱい出ているのでね。いくつかの進路・進学のモデルを見て、自分はこれに1番近いから○○に進学っていう当てはめも1つの材料としてはいいとは思いますが、悩むこと自体に意味があるのだろうなと思います。誰かに教えてもらうよりも、悩んで悩み抜いて自分で選ぶ、それが間違いであることだってあるだろうし、でもそれは若いからいくらでも修正・やり直しが効くと思います。たまたま見つかる場合もありますがね、自分が何したいかって、問題意識がなければ全然見つからないですよ。「高校生、君たちはどう生きるか」っていう世界だよね、どう生きたいの?ということですね。
でもなあ、まだ経験の少ない高校生が問題意識を付けようとするのは難しいでしょう。将来、具体的にやりたいことがある人はまあ楽だと思うけれど、このメッセージは、「自分は何に向いてるのだろう?よう分からんわ」っていう人たちに向けてなんだよね。
私は、なりたい自分、憧れ、夢を見つける、それに自分は近づきたいか、どうしたら近づけるのか、それが大事だと思うんですよ。さっきも言ったように、自分は音楽をやりたかったけど、才能ないから無理だと思った。でも学問は?行政法学界に革命を起こし、理論をリードしていた先生に憧れましたね。向こう見ずだったかもしれなかったけど、勉強すればそれなりにできる自信はありました。もちろん、実現しない夢はいっぱいあります。その都度その都度、真摯に自分を見つめ直さないといけないことはありますよ。でも夢に向かって、なりたい自分を目指して、1歩踏み出すことが重要だと思うのですよ。
俗に言えば、格好いい生き方をしたいじゃないですか。格好いい自分になるためにはどうしたらいいかって。迷ったらね、格好いい自分はどれなんだろうって考える、そして、 それを目指せばなんか道が見えてくるのではないかなと思います。途中で変更してもいいんですよ、若いうちはいくらでもね。でも常に憧れなり夢なりを持つことに意味があるんじゃないかな。


【インタビューを終えて】
お忙しいにも関わらずインタビューを喜んでお受けして下さり、心より御礼申し上げます。インタビュー当日はとても緊張しておりましたが、先生が優しく受け答えして下さったおかげで緊張も解れ、こちら側から事前にお送りさせて頂いた質問以外にも質問をする事ができ、とても楽しくインタビューをすることができました。また、先生の学部生時代のことや院生時代のことなど、普段講義を受けているだけでは知ることができない先生のことをこのインタビューを通して読者の皆様も知ることができたのではないでしょうか?
「行政や地方自治に関心がある!」「行政や地方自治の政策に関して具体的に考えてみたい!」「ゼミ内でチーム活動をしてみたい!」という方はぜひ本多ゼミへ!
自分の可能性は無限。You, Unlimited.次回のインタビューも、乞うご期待。

【取材・記事】
隅田知里 (法学部3回生)
井上詩緒里(法学部2回生)
山中いろは(法学部2回生)(記事作成のみ)