2024.08.08
滋賀県の野外水域で「第3の外来種」観賞魚メダカを初確認 在来生態系に影響の恐れ、観賞魚の放流に警鐘。採集された個体には市場価値の低い特徴も観察されたため、育種選抜時に「ハネ個体」として野外に遺棄された可能も示唆
【本件のポイント】
- 近年の観賞魚ブームの中、意図的と思われる放流等により、多種多様な観賞魚メダカ品種が野外水域で確認される事例が全国的に後を絶たない
- 人工改良品種である観賞魚メダカの野外への放流は、交雑により野生メダカへの遺伝的攪乱を起こすなど、「第3の外来種」として生物多様性にとって大きな脅威
- 今回、龍谷大学理工学研究科の院生と学生らが滋賀県大津市の池と琵琶湖南湖の湖岸で体外光メダカなどの観賞魚メダカを採集し、研究員らが標本に基づいて記録した滋賀県初の報告を発表
【本件の概要】
龍谷大学 生物多様性科学研究センターの伊藤 玄 客員研究員と滋賀県立琵琶湖博物館の川瀬成吾 学芸員らの研究グループは、2023年7月30日に滋賀県大津市田上里町の池で、2024年4月29日に琵琶湖南湖の湖岸で採集された魚類の形態的特徴を観察したところ、いずれも観賞魚メダカであると特定しました。滋賀県および琵琶湖・淀川水域の野外水域において、観賞魚として人気のある観賞魚メダカが標本に基づいて記録されたのは今回が初です。
具体的には、池で採集した3個体は“青メダカ”、南湖で採集した1個体は“青体外光メダカ”(幹之メダカとも呼ばれる)に分類され、いずれも観賞魚メダカであると判別。開放水面であり周囲の水路とも接続している南湖で採集した青体外光メダカは、龍谷大学先端理工学部の学生が実習中に捕獲したもので、体外光メダカ類の中でも背面の虹色素胞が広範囲に発現する強スーパー光に分類され、美麗な個体です。一方、龍谷大学理工学研究科の院生らが青メダカを採集した池は、周囲に接続河川はなく、雨水や山の斜面から染み出した水などが自然にたまった小規模な池であり、人為的な移植が考えられます。加えて、青メダカ3個体のうち1個体には脊椎骨の湾曲があり、奇形とみなされることから、品種としては不十分な形質を理由に選別された個体(ハネ個体)であることが示唆されました。こうしたハネ個体の遺棄放流は、各地の野外水域で確認された観賞魚メダカにも共通します。
いずれも近年放流されたもので周囲の在来のミナミメダカとの遺伝的攪乱が危惧されることから、観賞魚の放流は厳に慎まなければならないという認識を高める必要があります。
【研究の背景】
童謡「めだかの学校」でも歌われるように、メダカは日本ではなじみの深い淡水魚で、ヒメダカやシロメダカなどの改良品種である観賞魚メダカは江戸時代に既に作出され、学校教材や実験動物としても数多く利用されてきました。近年の観賞魚ブームで注目を集めているメダカは、ブリーダーによる品種改良が盛んな観賞魚であり、コイや金魚に次ぐ人気を誇ります。
ブームの一方で、近年では、多様な品種が野外水域で確認される事例が後を絶ちません。ヒメダカ以外の鑑賞メダカは、これまでに東京都(古旗ら 2020)、千葉県(高野・内田 2023)、埼玉県(内田 2023)、神奈川県(瀬能 2013; 2021)、愛知県(伊藤・山田 2021)、岐阜県(堀江・伊藤 2022)、福井県(松田 2023)、京都府(古田 2023)、岡山県(山野・柳下 2023)、佐賀県(伊藤 2022)、沖縄県(嶋津 2020)の野外水域から相次ぎ確認。本研究グループは、地域における観賞魚メダカの確認記録を残すことは、地域の生物多様性を保全する上で基礎的な情報として重要であると考えます。
1.発表論文
題 目:滋賀県の野外水域から初めて確認された体外光メダカなどの観賞魚メダカ
著 者:伊藤 玄 1・大場貴保 2・堀江真子 3・川瀬成吾 4
所 属:1 龍谷大学 生物多様性科学研究センター 2 めだかの館
3 世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふ 4 滋賀県立琵琶湖博物館
採集地:大津市田上里町の池(2023年7月30日)/
大津市下阪本の琵琶湖南湖の湖岸(2024年4月29日)
掲載先:淡海生物研究会「淡海生物 第6巻」
(速報版として2024年7月21日にWEB公開)
リンク:https://ohmi-seibutsu.wixsite.com/lakebiwa/blank-2
2.滋賀県から採集された観賞魚メダカ
A−C:“青メダカ”, 20.4mm,18.6 mm,18.7 mm SL,伊 藤 玄 撮影(LBM1210060583-1−3),
D−E(同一個体):“青体外光メダカ(強スーパー光)”, 23.8 mm SL,太下 蓮撮影(LBM1210060585).
※本研究で作成した標本については、滋賀県立琵琶湖博物館に登録・保管されている。
問い合わせ先:
・龍谷大学 研究部(生物多様性科学研究センター)
Tel 075-645-2184 ryukoku.biodiv@gmail.com https://biodiversity.ryukoku.ac.jp/
・滋賀県立琵琶湖博物館(研究部担当学芸員 川瀬、企画・広報営業課 鈴木)
Tel 077-568-4811 info@biwahaku.jp https://www.biwahaku.jp/