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2025.01.14

環境DNAで侵略的外来種ブルーギルの分布拡大経路を再現することに成功【生物多様性科学研究センター/先端理工学部】

環境DNAを用いた遺伝型・ハプロタイプ組成モニタリングにより、外来種が分布を広げる経路を推定できる可能性を実証。研究成果を国際ジャーナルに発表

大阪大谷大学薬学部の内井喜美子准教授と脇村圭助教をはじめ、本学先端理工学部の山中裕樹教授(生物多様性科学研究センター長)、岐阜県河川環境研究所の米倉竜次専門研究員が関わる共同研究チームは、侵略的外来種であるブルーギルが過去に分布を拡大した経路を、水に含まれるDNA(環境DNA)の分析により再現することに成功し、同研究成果をEnvironmental DNA誌(Wiley社)において公表しました。

【発表論文】
英文タイトル:Environmental DNA haplotyping reveals dispersal patterns of invasive bluegill sunfish, Lepomis macrochirus, in Japan
タイトル和訳:環境DNAを用いたハプロタイプ組成モニタリングにより明らかになった侵略的外来種ブルーギルの日本における分布拡大経路
著者:Kei Wakimura 1, Ryuji Yonekura 2, Hiroki Yamanaka 3 4, Kimiko Uchii 1* *責任著者
所属:1 大阪大谷大学薬学部, 2 岐阜県河川環境研究所 生態環境部, 3 龍谷大学先端理工学部, 4 龍谷大学 生物多様性科学研究センター
掲載誌:国際オンライン科学雑誌「Environmental DNA」(Wiley社)
DOI:https://doi.org/10.1002/edn3.70055
掲載日:2025年1月12日(アメリカ東部標準時間)
研究資金:(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費(JPMEERF20204004)


写真はブルーギルの参考イメージ。

写真はブルーギルの参考イメージ。

 
ブルーギル(学名: Lepomis macrochirus)は北アメリカ東部原産の淡水魚で、日本へは1960年頃に持ち込まれたとされている。地域の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かすおそれのある生物として侵略的外来種ワースト100にランク。鰓蓋(えらぶた:ギル)の後端に青黒い突起があり、これが名前の由来とされる。

外来種の新たな生息地への侵入は少ない個体数で始まることが多いため、分布を拡大するにつれ、ボトルネック効果により遺伝的な多様性が失われやすいことが知られています。研究チームはこの特徴に着目し、外来種に見られる遺伝的多様性低下のパターンを環境DNAから検出できれば、分布拡大経路の迅速な推定を実現できると考えました。

そこで、琵琶湖を含む33ヶ所の水域で採取した水から環境DNAを抽出し、ブルーギルDNAの塩基配列を超並列シーケンサーを用いて解読しました。その結果、移植記録等からブルーギルの供給源と考えられる琵琶湖ではすべての種類のハプロタイプが検出され、琵琶湖から離れるにつれ、検出されるハプロタイプの種類が減少することが明らかとなりました。この結果は、外来種が分布を拡大する際に遺伝的多様性を消失するパターンとよく一致しました。つまり、ブルーギルが琵琶湖を供給源として周辺水域へ徐々に拡散した分布拡大経路が再現されました。(FIGURE 1.)


図1について:琵琶湖を含む28水域の調査地におけるブルーギルのハプロタイプの種類。色は個体群におけるハプロタイプの種類、円の中央の数字は検出されたハプロタイプの数を示す。(本論文より流用)

図1について:琵琶湖を含む28水域の調査地におけるブルーギルのハプロタイプの種類。
色は個体群におけるハプロタイプの種類、円の中央の数字は検出されたハプロタイプの数を示す。(本論文より流用)


さらに本研究では、環境DNA分析により、外来種の分布拡大経路を再現することに成功しました。わずか1リットル程度の水を採取するだけで行えるこの簡便かつ迅速な環境DNA分析手法は、素早い対応が求められる外来種防除において強力なツールとなると考えられます。将来的には、本手法のようなアプローチが、外来種の拡散経路の遮断や防除対策へと活かされることが期待されます。
→参照:リリース(大阪大谷大学)

今回の研究成果に関して、山中裕樹教授(本学先端理工学部/生物多様性科学研究センター長)のコメントを紹介します。

特定の生物種がその場所に生息しているかを迅速に確認するツールとして環境DNA分析は始まり、これまで発展してきました。ここ数年は、本研究のように種よりもさらに細かな同種内の遺伝的な多様性を読み取って情報を活用しようとする研究例がどんどん出てくるようになっています。
「いる、いない」だけではなく、どのような履歴や地理的特性をもった個体群がその場にいるのかを環境DNA分析で知ることで、例えば今回のような外来種の場合であれば人為的な拡散の経路の推定などが可能になります。
このような研究例が蓄積されれば、どのような要因が外来生物の人為的な拡散を助長しうるのかといった社会学的な検討もできるかもしれません。より多くの情報を環境DNAから取り出せるようになれば、いまよりもさらに駆除効果や保全効果の高い施策を打つことができるようになると思います。