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2025.02.04

【法学部企画広報学生スタッフLeD’s】斎藤 司先生インタビュー

1.法学部を選んだ理由をお聞かせください。

正直あまり問題意識のある高校生ではありませんでした。ただ、ある日、高校の図書館でいろんな仕事のこと書いてある本を見つけて、何となくめくっていると、司法書士とか、裁判官とかいろいろな仕事のことを書いてあった。仕事の内容だけでなく、そのお給料なども、当時の私にとってすごくインパクトがあったのです。あと、今、映画にもなっていますけど、かわぐちかいじ先生の『沈黙の艦隊』という漫画を読んでいたこともあって、法律や政治の世界に関心を持つようになりました。そのような経緯から、法学部に行きたいと考えるようになりました。

2.バイトやサークルなど大学時代に行っていたことは何ですか。

サークルはバスケットボールサークルに入っていましたね。私のスポーツ歴は、小学校の時には柔道、中学校の時はサッカー、高校になってまた柔道をやるというあまり一貫性のないものでした。ただ、中学生の時からアメリカのバスケットリーグNBAにすごく関心がありました。当時のスーパースターはシカゴ・ブルズのマイケル・ジョーダンでしたが、天邪鬼な私はハキーム・オラジュワンの所属するヒューストン・ロケッツが好きでした。そんなこともあり、大学に入ったらバスケをやりたいと思っていたので、それで大学に入ったときにバスケをやり始めました。その時の同級生やメンバーは、一生の友人です。今でも、定期的に集まっています。大学生の時の最大の財産といえます。
あと、力を入れていたのはバイトです。当時の福岡ドーム(現在はみずほPayPayドーム)で働いていました。今はもうないのですが、外野席上にあるレストランバーで、ホール業務とかバーテンダー業務をやっていました。もともと、人とのコミュニケーションは得意ではなかったので、そこを直したいと思い接客業を選びました。いろんな大学の人などとともに働くことができ、バイトだけでなく、お酒のこと、ファッションのことなどいろいろ教えてもらいました。バイクのことも教えてもらって、いろんなところにツーリングで行けたことも非常に良い思い出です。

3.先生はドイツに行かれていたとお聞きしたのですが、ドイツの魅力やおすすめの場所などがあれば、お聞かせください。

ドイツには2014年から2015年に1年間留学でいきました。ゲッティンゲンという地理的にはドイツのほぼど真ん中にある大学街です。ドイツに限らず、外国に住む経験自体が重要だと思っています。「外国人になる」という経験。「当たり前」が「当たり前」で無くなる経験。今までの「当たり前」を外から眺めることができる経験。非常に大事だと思います。それは、外国法を研究するためにも大事だと思っています。形式的に外国の状況や情報を紹介するだけでなく、その前提になる「当たり前」を知ることが大事なんだと知ることができたのは、本当に大きな財産でした。
さて、場所や食事について話を移しましょう。なんといっても、ビール、ワイン、ソーセージですね。ベタですが。ビールは、本当にいろんな種類があって、いろんな土地でいろんなビールに出会いました。その中で印象的だったのが、バンベルクという街にあるラウホビアという燻製ビールです。本当に衝撃的で、うまく表現できませんが、「食べている?」と感じさせるようなビールです。日本でも飲むことはできます。実はもう一つすごく記憶に残っているビールがあります。これは、留学の時ではないのですが、同僚の金さんと行った、バンベルク郊外にある小さなビール醸造所で飲んだビールです。バンベルクからバスで、金さんとおしゃべりしながら向かい、開店直後にお客は私たちだけ。そんな中飲んだビールがとてつもなくおいしくて・・・。また、金さんと行きたいですね。
場所としては、様々おすすめがあるのですが、印象に残っているのが、クリスマスマーケットとのつながりです。住んでいたゲッティンゲンの小さなクリスマスマーケットもよかったのですが、電車で一時間くらいにあるハノーファーという大都市のクリスマスマーケットなどいろいろ印象に残っています。その中でも、ニュルンベルクのクリスマスマーケットは美しく楽しかった。ニュルンベルクはソーセージも有名で、私も大好きです。もう1つは、数人の仲間といったゴスラーという山の中にある街のクリスマスマーケットです。この街は神聖ローマ帝国の議会も開かれたところなのですが、すごく歴史を感じるところで、クリスマスマーケットも派手ではないのですが、その美しさとその時の仲間との会話が楽しくて、すごく良い思い出です。
あと、ケルンですかね。これは楽しい思い出と辛い思い出があります。ケルンには留学で仲良くなった仲間がいて、何度も行っています。有名なケルン大聖堂は本当に美しく、ケルシュというケルンのビールも最高です。ただ、ケルン大聖堂とケルン中央駅で、外国人排斥デモが行われているところに出くわしてしまって・・・。私より数段でかいムキムキの男性に囲まれて、「お前日本人か」、「ドイツから出ていけ!」と何度も言われて、本当に怖い思いをしました。あとで聞くと警察のバスをひっくり返したりして、激しいデモだったようです。ここでも「ああ、自分は外国人なんだ」と思いました。悲しいですが、貴重な経験です。自分が母国である日本にいるときに、外国のみなさんに対する対応でもその経験は活きていると思います。

4.ドイツを選んだ理由は何ですか。

私は刑事訴訟法が専門です。私たち法律の研究者の多くは、研究をスタートする際に、どの国と比較しながら研究を進めるかの選択をします。刑事訴訟法の場合は、大多数がアメリカです。今の刑事訴訟法がアメリカをモデルにして作られているからです。ただ、純粋なアメリカの考え方ではなくて、ドイツやフランスとかが戦前の刑事訴訟法のベースなので、ドイツやフランスを研究するという感じです。
私の場合は、まずは、少し逃げて意識のあるドイツ語をやってみよう、と考えました。あと、今から思えば、アメリカやイギリスを研究する人が多かったし、私の同期である石田倫識さん(明治大学教授)がイギリスを研究するということもあり、自分の武器を作るという意味で、研究する人があまり多くないドイツを研究しようとも考えていたのだと思います。私の研究テーマは「証拠開示」といって、検察官は自身が集めた証拠を裁判段階ですべて見せなくてよいとされているところ、それをどこまで見せるべきか、その根拠は?を研究するものですが、その比較対象がアメリカやイギリスだったので、ドイツで勝負してみよう!と考えたのです。その選択は間違っていなかったと思っています。
それでその流れでずっとドイツを研究していたので、一度、ドイツで住んでみようとは考えていました。やはり文献を読むだけじゃわからないばかりなんです。裁判傍聴やドイツの研究者や実務家に聞いてみないと分からないこと多くあり、一度ドイツに住んでみようと考え、知人のドイツの教授に、無理矢理お願いして、留学しました。
留学するということは、向こうの教授に面倒を見てもらうことも意味するので、その教授をどなたにお願いするかも重要ですし、大変です。私は、すでに留学経験のある金さんや玄さんにも相談しながら、ゲッティンゲン大学のDuttge先生という方にお願いすることになりました。龍谷大学は、ドイツを含む外国の研究者との交流が活発で、日独両国でシンポジウムや研究会を何度も行っていて、様々な研究者と知り合う機会がありました。この点は、すごく恵まれていたと思います。

5.刑事訴訟法を研究するきっかけは何ですか。


もともと「犯罪」には法学部に入って関心を持ち始めました。そのきっかけは神戸連続児童殺傷事件ですね。ちょうど私が大学に入る前に発生して、犯人は誰なんだ、その原因は何なんだという話が社会を賑わせていました。このように「犯罪」には関心がある。そして、不真面目ながらも、法学部で授業を受けている限り、民法関係は苦手だったということもあり、刑事法に関心が強くなりました。その中で、後々、研究者として弟子入りする刑事訴訟法担当の大出良知先生(現在は九州大学名誉教授・弁護士)の授業が一番面白いと思ったんです。大出先生のゼミに入りたいと思い、当時よく遊んでいた友人も同じゼミの志望だということで志望しました。ただ、法学部で一番印象に残っている講義は、江口厚仁の法社会学の講義です苦笑 
さて、大出先生のゼミは、判例研究などを行うものではなく、事件の資料分析や裁判傍聴を徹底する、実践的なフィールドワークを重視するゼミでした。龍谷大学とは異なり、3・4年生共同で行うゼミでしたので、先輩方にリードしてもらいながらいろいろ学びました。その中で、日本の刑事訴訟法にはいろいろと問題がありそうだと考えるに至りました。取調べの録音録画すらない密室の取調べが当たり前の時代で、学生同士で議論しても録音・録画するべきかどうか自体が議論になるような状況でした。その中で、国民に見せられないような取調べをしているのか、刑事手続の透明性を確保することが大事ではないかと考え、もう少し刑事訴訟法を勉強したいと思いが少しずつ強くなりました。また、当時は就職氷河期で厳しい状況だったのに、なんとなくみんなと同じように就職活動をしたくないというようなことも考えていたところ、友人(上述の友人とは別の友人です)が大学院を希望しているということで、決断したのは、4年生の夏休み前ということで、かなり遅いですけど、大学院という選択を真剣に考えてみようと思いました。同じゼミだった(上述の)石田さんが研究者になることを考えているというのも理由の1つでした。なんという、主体性のなさでしょうか苦笑 
それで夏休みなどを利用して大学院入試の勉強をして、大学院への進学を認めていただきました。この流れの中で、刑事訴訟法の文献を読み考え、議論することが面白くなってきました。もともと、凝り性なところもあるので、いろんな本を読んでいくといろんなことが分かって面白いぞということになってきましたね。なんといっても、石田さんという議論相手がいたこともよかったですね。こういった存在は本当に大事です。面と向かっては言いにくいですが、この場を借りて感謝を申し上げます。ただ、私は上述のように問題意識が強い方ではありません。刑事訴訟法の複数の研究者に、研究者になった動機をお聞きすると、えん罪事件を調べて、強く問題意識を持ったという方が少なくありません。そういったお話しを聞くたびに、自分自身の問題意識の弱さなどについて、コンプレックスを持ってしまうことがあります。ただ、研究する際には、冷静さも必要ですので、自身の「売り」であるとも思っています。

6.大学教授になった理由をお聞かせください

法学などの場合、大学院に入って研究者を目指すことは、ほぼ大学教員を目指すことを意味します。それ以外に研究する場所がないので。私は、研究者になるためのコースには当初所属していませんでした。大学院に入る時点では、別の進路も考えていたからです。しかし、大学院に入ったあと、法学研究に魅力を感じるようになり、入学直後に在籍していた大学で開催された「日本刑法学会」という大きい学会に大会スタッフとして関与して、研究の世界にさらに関心を持ち、大学教員を目指そうと思いました。同期の石田さんだけでなく、先輩・先生であり友人でもある武内謙治さん(九州大学教授)にも、研究者になる意味など様々なことを教えていただきました。研究を本格的にやりたい、そのためには大学教員になるしかないと、そう考えたのです。その後、その道はいばらの道であることを実感し、自分は向いていないと考え、深夜のキャンパスを何の目的もなく何度もさまよったか・・・そういったこともありましたが、運よく、大学教員として働くことができています。


7.先生のゼミでは、今具体的にどのような活動をされていますか 。

刑事訴訟法は、憲法や刑法の学びを前提とするところがあり、やや発展的な科目といえます。そのため、2 回生の後期から、刑事訴訟法のみを対象としてゼミを始めることについては、ハードルが高い部分があります。これは民事訴訟法なども同じだと思います。まずは、裁判というあまり触れたことがない制度・システムに慣れてもらう必要があるので、2年生の後期、ゼミに入ってすぐの時には、まず裁判傍聴してきてもらって、その記録を報告してもらいながら刑事裁判に関するいろいろな疑問とか、基本的な知識とか、説明とかをディスカッションしながら少しずつ慣れてもらっています。いきなり教科書などを読んで、難解な概念やイメージできない手続にぶつかって意欲を失うよりはそっちの方がいいのかなと思っています。いろいろ試行錯誤をしています。昔は、いきなり事例問題を解いて議論しようなども試みていたのですが、少しハードルが高いかなという風に思い、今のスタイルになっています。この裁判傍聴レポートとディスカッションが終わったら、『それでもボクはやってない』(2007年)など、刑事裁判に関する映像を観ながら、刑事手続に関する基本知識を身につけ、さらに日本の刑事手続の現状や問題点について、ゼミ生でディスカッションしていきます。その後、教科書を分担して、グループで報告してもらって、さらに、刑事訴訟法に慣れていってもらいます。
その後のゼミの進行は、基本的に学生に決めてもらっています。もちろんアドバイスはするんですけど、やっぱり自分たちでやることを決めるというのが、社会に出た後のことも考えると、すごく大事だと思っています。例えば、主体的に決める人たちとそれをサポートする人たち、それを傍観する人、何にもしない人と色々出てきます。これは社会に出た後も同じです。そのような状況の中で仕事をしないといけない。基本的には、ゼミ生の大部分は卒業後に社会に出るので、そのような状況で、学生という失敗も許される時期にいろいろなことを試してみる。誰も何も邪魔しないけれど何もやってくれないとか、足を引っ張られるとか、そういう状況で何かを決めて進めていくという経験をすることは、重要な経験だと思います。そういう意味では、ゼミでは刑事訴訟法を題材としながら、もうちょっと広い視野で、様々な経験をするゼミを運営していきたいと思っています。もちろん、色々な人間関係も出てくるので難しい部分もあります。そういう意味では、私自身も試行錯誤しながらゼミを作っています。

8.先生のゼミの特徴や強み、アピールポイントは何ですか。

基本的にはみんなで決める、みんなで責任を取るというゼミを目指しています。自分たちで考えて、行動し、失敗を含めた経験をして、それを次の行動につなげる、さらに自分の言葉にする。これができるゼミだと思っています。もう1つは、行動するゼミだということです。法律を学び、卒業後にも生かすためには、文献を読むだけでなくて、法律が使われているところに触れるということだと思います。それは、ゼミ室ではなかなか触れることはできません。私自身は裁判したこともされたこともないし、被疑者にもなったことないです笑 せいぜい職務質問受けたことあるぐらいです。しかし、このような場面に出くわすと、考えて勉強するんですよね。やはり法律が使われている現場に行くのが大事だと思っています。冤罪事件にかかわる弁護士の先生の話を聞いたりしているのは、このような考えに基づいています。いろんな事件の現場に行って、担当する弁護士の先生のお話を聞いてそれからディスカッションするとか、そういうことをやっていて、紙とか文字の情報だけじゃなくて、現場にちゃんと出ていって、現場の話をしっかりと聞くことを重視しています。ゼミ合宿も報告を行う合宿ではなくて、具体的テーマについてしっかりと足を使って調べることを重視しています。

9.どのような学生にゼミに来てもらいたいですか。また、どのような学生向けのゼミですか。

ゼミは学生がつくるものゼミだと思っているので、人任せでいいかなとか、誰かに何かしてもらいたいという「受け身の学生」はやっぱり合わないかなという風に思います。ゼミに限らず、自分を成長させるのもさせないのも、結局自分次第なので。しっかりと自分で行動して、行動しない場合にも、しっかりと自分で責任を負えるかっていうのが一番大事だなと思っています。他人任せの学生は、向かないかなと思っていて、成績がいいとか悪いとか二の次だと思っています。成績良くても受け身な人って多くいますので。ゼミ志望との関係では、志望理由書をしっかり書けている学生、自分の経験や考えを拙くてもよいので自分の言葉でアピールできる学生を重視しているつもりです。

10.学生に向けてメッセージをお願いします。

AIがかなり発展してきて、いろんな人ができる最低限のレベルってどんどん上がってると思うんですよ。そういう意味では、AIさえ使えれば、できることが増えている。同じような答えが出せる時代になってきている。その反面、それすらできない人は完全に社会からはじかれる時代になってきているのかもしれません。では、最低限のことができる人たちが、これからどうやって生きていくかっていうと、AIを完全に使いこなす人そして、AIができないことをできる人間が基本的に重宝される時代になっているのかもしれません。良いか悪いかは別として。AIにできない、人間にしかできないことって何かというと、AI自身は「行動」できないので、まず行動できる人間が重宝されるのだと思います。また、その行動が失敗であろうが成功であろうが、そこからさらに行動して考えて、それを経験という言葉、次につなげる思考にする人間にしかできないことが重視されると思います。失敗であろうと何だろうと行動してしっかりそれをベースにちゃんと考えて、次につなげるっていう、このサイクルをちゃんと意識してほしいと思います。
無駄とか失敗を過度に避けているな、と今の学生のみなさんを見て思うことがあります。しかし、人が一番頭を使うときって結局失敗だと思います。そのチャンスをしっかり作っていくのは、失敗の許される学生時代しかないと思います。ぜひ失敗も恐れずに行動して、それを踏まえて考えて経験という言葉、自身の行動原理を作ってほしいと思います。


【インタビューを終えて】
お忙しい中快くインタビューを引き受けてくださり、ありがとうございました。インタビュー当日はとても緊張しておりましたが、先生がフレンドリーに接してくださったおかげで緊張も解れ、とても楽しくインタビューをさせていただくことができました。また、先生の学生時代のことなど講義を受けているだけでは知ることのできない一面をこのインタビューを通してお伝えすることができたのではないでしょうか。
このインタビュー記事が皆さんのゼミ選択、学校選択のお役に立てれば幸いです。
自分の可能性は無限。You,Unlimited.次回のインタビューも、乞うご期待。


【取材・記事】
法学部学生広報スタッフLeD’s
中川 波音(法学部2回生)
平ノ上 美羽(法学部1回生)
八木 菜摘(法学部1回生)