2025.07.16
2025年度中島国際財団留学生地域交流事業
政策学部、国際学部、社会学部、文学部及び政策学研究科の留学生と日本人の学生から構成する24名は、政策学部の金紅実准教授の引率の下、2025年6月28日に滋賀県野洲市須原地区を訪問し、地域が取り組んでいる魚のゆりかご水田プロジェクトを体験しました。地元では無農薬水田における除草作業を体験し、行政担当者と「せせらぎの郷」地域住民団体による地元講義を受けました。琵琶湖の湖漁のゆりかごとして役割を果たす伝統農業のありがたさや、「食」「農」「自然環境」について考える良いきっかけになりました。
滋賀県野洲市須原地区は、豊かな自然と琵琶湖に囲まれた美しい里山の風景が広がる地域です。私たちはこの地で、水田を中心とした持続可能な農のかたちについて学びました。この地域では、約10年前から魚のゆりかご水田プロジェクトを実施し、化学肥料や農薬を使わずに米を育てる無農薬栽培が行われており、生きものと人が共に生きる水田づくりを実践しています。「せせらぎの郷」の住民代表のお話を伺う中で印象的だったのが、水路に、魚返しと呼ばれる「魚道」仕掛けが工夫されていたことでした。通常、水田の用水路には魚が田んぼに入り込まないような構造が施されますが、須原地区ではあえて魚が遡上できるよう、段差や返しの形を工夫しているのです。これは、魚も田んぼの生態系の一員として共に育つことを大切にしているからです。
日本最大にして、数百万年の歴史をもつ古代湖・琵琶湖。その水は農業と漁業を支えるだけでなく、人々の文化や暮らし、そして心の豊かさにも深く関わってきました。農業の用水と漁業の資源が衝突することなく共存できているのは、流域の人々が水の恵みを分かち合い、細やかな管理と知恵を積み重ねてきたからです。こうした仕組みは、内水面漁業の模範としても注目されています。今、琵琶湖が直面する環境問題に対しても、この地域固有の知恵と経験が、持続可能な未来へのヒントを与えてくれます。
私たちも実際に田んぼに入り、手作業で雑草の除去を行いました。ぬかるんだ泥の中での作業は想像以上に大変で、日頃何気なく口にしているお米が、こうした手間と時間の積み重ねの中で作られていることを身をもって実感しました。
作業の後には、地元の方が用意してくださったお弁当を囲みました。鮎の煮付けや地元野菜を使ったお惣菜など、すべてこの土地の恵みで作られた料理は、どれも素材の味が引き立ち、身体に染み渡るような優しさがありました。ただ農作業を体験するだけでなく、地域の自然の循環の中で「食べる」という行為があることを深く理解する時間となりました。
最後のワークショップの時間では、「食」「農」「環境」班に分かれ、各班のテーマに沿って、一日を通して学んだことをキーワードに挙げ、結論として、食べることで農が守られ、農が守られるとその地域の環境が守られ、環境が守られると私たちの食べるものが安全に守られるということがわかりました。
効率や大量生産を追い求めるだけではない、持続可能な農のあり方がここにはありました。地元の方々と直接お話ししながら作業できたことで、より詳しく、たくさんのことを知ることができ、体験することで体で学びを得ることができたと思います。この経験は、私たち自身の暮らしを見つめ直すきっかけにもなりました。美しいせせらぎの流れる水田の中で感じた学びを、これからの自分の行動や視点に活かしていきたいと思います。