2025.07.30
芥川龍之介『藪の中』を題材に食い違う供述を考察。オンライン高校生文学模擬裁判交流大会を開廷
全国の6校が対戦。参加校の高校生たちが検察側・弁護側の立場の役になりきり、立証・弁護活動を展開
< 8/10(日)オンライン開催、“傍聴人”はWebから要事前登録>
【本件のポイント】
- 「国語とは言葉を通して人間を考える教科」であるという理念から開発された文学模擬裁判。法的思考力や刑事裁判の意義の理解にとどまらず、人間や社会を考える眼差しを深めることがねらい
- 18歳から裁判員に選ばれる現代、高校生の司法参加に対応する法教育イベント
- 芥川龍之介『藪の中』をモチーフに独⾃に作成した教材をもとに、参加校の⾼校⽣たちが検察側・弁護側どちらかの⽴場の役になりきり、⽴証・弁護活動を展開
【本件の概要】
龍谷大学文学部・札埜研究室は、2025年8月10日(日)に、全国6校の高校生が対抗する文学模擬裁判イベント「第5回夏のオンライン高校生文学模擬裁判交流大会」を実施します。当大会は2020年8月9日の初開催以来、選手権や交流大会などを含めて今回で15回目の開催で、大会の様子はどなたでも事前申込制で“傍聴”することが可能です。
今回オリジナル教材のモチーフとした文学作品は『藪の中』です(※)。平安時代のある藪の中で起きた殺人と強姦という事件をめぐって、4人の目撃者と3人の当事者が供述するものの、話は核心部分で矛盾が生じ、真相がわからなくなってしまうという物語。現代においても目撃証言の食い違いが指摘され、再審請求が続く事件もあります。今回の文学模擬裁判を通して、人間の供述のありようについて深く思考を巡らせ、検察・弁護の双方の立場から事件について徹底して議論を深める機会とします。
1.実施概要
- 名称:第5回夏のオンライン高校生文学模擬裁判交流大会
- 日程:2025年8月10日(日)9:30~17:30(終了見込)
- 会場:オンライン法廷(Zoom)
- 傍聴(参加):無料【下記URLから事前登録制】
- 主催:龍谷大学札埜研究室・オンライン高校生文学模擬裁判交流大会実行委員会
- 後援:龍谷大学国際社会文化研究所(札埜プロジェクト)、一般社団法人刑事司法
未来、龍谷大学法情報研究会、京都教育大学附属高等学校模擬裁判同窓会、
株式会社TKC、刑事弁護オアシス
2. 大会当日のプログラム(予定)・出場校
9:30-11:30 第1試合 江戸川学園取手高等学校(茨城/検察)
VS 中央大学杉並高等学校(東京/弁護)
11:30-12:15 (休憩45分)
12:15-14:15 第2試合 洛星高等学校(京都/検察)
VS 神戸海星女子学院高等学校(神戸/弁護)
14:15-14:40 (休憩25分)
14:40-16:40 第3試合 上智福岡高等学校(福岡/検察)
VS 早稲田実業学校高等部(東京/弁護)
17:00頃-17:30 講評、成績発表、表彰式 (終了後に振り返り交流会を予定)
3.大会主催者問い合わせ先・プロフィール
札埜和男(ふだの・かずお)教授(本学文学部)

大阪府生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。博士(文学・大阪大学)。現場での教員生活31年(中学校2年・高校29年)。そのうち担任20回、最初の3年間は社会科教員(国語・社会・英語の中高免許状所有)。2017年度から岡山理科大学教育学部准教授として赴任し、2022年度から龍谷大学文学部哲学科(教育学専攻)に准教授として着任。これまで日本弁護士連合会主催の模擬裁判甲子園では、京都教育大学附属高校を過去11回大会中8回優勝、3回準優勝に導く。「模擬裁判師」と名乗り模擬裁判を広めるために全国各地へ指導に赴き、模擬裁判指導歴は数百回に及ぶ。
4.詳細・傍聴(参加)申込方法
以下URLから詳細を確認のうえ、ページ内のフォームに必要事項を入力しお申込みください。 ※申込期限:8月8日(金)18:00
https://www.kenkyubu.ryukoku.ac.jp/events/events-1226/
5.今回の文学模擬裁判のシナリオ(※)
【事件概要(事件発生から起訴まで)】
康和元年(1099年)長月二十日卯の刻頃、山城国山科の駅路から四、五町隔たったところの竹藪の中にある杉むらにおいて、若い侍の刺殺死体が発見された。男の名前は金沢武弘。26歳で若狭の国府の侍であった。第一発見者は地元の樵である六兵衛である。死亡推定時刻は前日十九日の夕刻頃であることが判明した。被疑者として同日に日ノ岡にある粟田口の刑場近くで落馬して苦しんでいるところを放免に身柄を確保された盗人・多襄丸が緊急逮捕された。盗品として、金沢武弘と同一の所持品、土地の権利書を持っていたからである。調べが進むにつれ、金沢武弘は真砂と赴任先の若狭に向かう山科から関山に向かう途中に、多襄丸に騙されたことが明らかになった。多襄丸は弓矢などの所持品、土地の権利書を奪おうとして、言葉巧みに武弘を藪の中に連れ込み、武弘を杉むらまで連れて杉の根元に縛り上げてから、武具や権利書を奪った。なかなか戻ってこないことを不思議に思った真砂は藪の中へ入っていくと、目にしたのは根元に括り付けられた武弘と財物や権利書を奪った多襄丸の姿であった。真砂の姿に気づいた多襄丸は、真砂のほうにやってきた。真砂は、咄嗟に小刀を抜いて多襄丸に切りかかった。しかし多襄丸にかわされ、小刀を奪われてしまい、その場に蹴り倒された。ところが、その間必死でもがいていた武弘の縄がほどけた。これに気づいた多襄丸は武弘を小刀で胸のあたりを突くと、その場に武弘は倒れた。その光景を真砂は見ていたのであった。
多襄丸は武弘の財物と権利書を持って真砂が乗っていた法師髪の馬に乗って逃走したのだが、夜から降り出した雨のために、日ノ岡のぬかるみに馬が足をとられ転倒したところを放免に捕らえられたのであった。真砂は二十一日に天智天皇の御陵の前で倒れているところを墓守に発見され、体調が回復してから事情聴取を受けた。その中で権利書は亡くなった父親から相続された若狭の土地のものであることを明かし、夫の武弘が殺害された犯行の様子を一部始終供述したのである。一方、駅路から武広の死体があった場所までの道の途中を捜索すると、真砂の所持品が発見された。それは武弘が結婚前に送った和歌と、真砂自作の和歌であった。それらは和紙に記されていた。
こうして、この事件は検察官から京都地方裁判所に起訴状が提出され、公訴が提起された。検察官は「強盗殺人罪」を主張し、弁護人は「強盗罪」を主張した。
問い合わせ先:龍谷大学 研究部 国際社会文化研究所
Tel 075-645-7922 shabunken@ad.ryukoku.ac.jp https://scri.rec.ryukoku.ac.jp/