2025.12.01
新しい運動スキルの習得には「最初の一歩」が決め手~上達の早さは学習初期に決まる?新奇運動の習得過程の3次元解析で新たな知見~
【本件のポイント】
- 新奇な運動の習得には、学習初期に“選んだ動き方(方略)”が強く影響することを実証。
- 多様な動作を試しながら学習する人ほど、技能習得が早いという新しい知見。
- スポーツ指導現場で重視されてきた「同じ動作の反復」だけではなく、動作の変動性が高い「試行錯誤の幅」の重要性を示す研究成果を国際ジャーナルにおいて発表。
【本件の概要】
龍谷大学経済学部の鈴木啓央講師、大阪体育大学スポーツ科学部の平川武仁教授、新潟医療福祉大学 心理・福祉学部の山本裕二教授からなる共同研究グループは、科研費による研究活動の一環として、キャスターボード(2輪連結型のスケートボード)の習得過程に関する研究成果を国際科学ジャーナル「Frontiers in Psychology: Movement Science」(Frontiers Media社)に発表しました(2025年11月11日オンライン公開)。
スポーツの指導場面において、同じような指導を行ったとしてもすぐに上手になる選手とそうではない選手がいることは多くの指導者が経験することです。本研究は、この問題関心を出発点として、どのような要因が運動学習の個人差に影響を及ぼすのかを探りました。
これまで、運動学習の個人差は、ジャグリングや書字などの比較的小さい運動を対象に調べられてきました。ここでは、過去の運動経験や学習の初期段階で遂行される動作パターンなどがその個人差を生み出す要因になり得ることが確かめられてきました。しかしながら、全身を使う運動においては、その要因は明確にはなっていませんでした。そこで同研究グループは、運動学習において個人差が生じるメカニズムを解明することを目的に、全身を使う運動の一例としてキャスターボードを対象とし、初めて乗る参加者の学習過程を詳細に観察し、その個人差に注目した研究を進めてきました。
【研究成果の概要】
キャスターボードは、連結した2枚の板にそれぞれ車輪が1個ずつ設置されている変形スケートボードで、倒れないようにバランスを取りながらも、2枚の板に交互に力を加えることで前進する乗り物です。
本研究では、キャスターボードに初めて挑戦する大学生7名を対象に、学習の初期から課題達成(約10mの円形コースを落下せず2周)までの動作を3次元動作解析で詳細に計測しました。
分析の結果、主に以下2つの知見が得られました。
学習者は大きく2つのタイプに分かれ、「捻転型」の方が課題達成が明らかに早い傾向が見られました。
・「勢い型」:最初の蹴り出しで速度を上げて乗り切ろうとするタイプ
・「捻転型」:肩の周期的な回旋により推進力を生み出そうとするタイプ
2. 上達には“同じ動作を繰り返す”よりも“試行錯誤の量”が重要
試行ごとの動作のばらつきを分析したところ、動作の変動性が高い(=いろいろ試してみる:試行錯誤)学習者ほど上達が早いことが判明しました。
これはスポーツ指導現場で一般的な「同じ動きを反復して固める(反復練習)」という指導観とは相対する結果であり、これにより、より効果的な運動指導への展開が期待されています。
課題達成に至るまでに要した試行数は、最小8回・最大135回と100回以上の違いがありました(図2)。
また、その学習方略(「勢い型」「捻転型」の大きく2タイプ)にも個人差が見られました(図3)。結果的には、「捻転型」の参加者の方が早く課題に達する傾向がみられ、「勢い型」の参加者は課題達成までに多くの試行数を要していました。加えて、最初に選択した乗り方が、その学習方略にも影響を及ぼすことが明らかになりました。さらに、試行ごとにどれほど異なった動作を遂行していたのかを表す動作の変動性を分析したところ、動作の変動性が高い参加者ほど早く課題を達成していた傾向が見られました。
【本研究の意義】
この研究は、従来の小さな動作(ジャグリングや書字など)を対象とした研究を超えて、全身を使う運動における学習過程を詳細に明らかにした点で新規性があります。特に「学習初期の方略選択」「動作の変動性(試行錯誤の幅)」が習得速度に強く影響することを示した点から、スポーツはもちろん、学校教育やリハビリテーションなど、さまざまな学習・指導場面への応用可能性が見込まれます。
【発表論文】
- タイトル:Factors influencing caster board skill acquisition
(和訳:キャスターボード技能習得に影響を与える要因)
- 掲載誌:Frontiers in Psychology: Movement Science(Volume 16 - 2025)
- 著者:鈴木啓央(龍谷大学)、平川武仁(大阪体育大学)、山本裕二(新潟医療福祉大学)
- DOI: https://doi.org/10.3389/fpsyg.2025.1643100 ※2025年11月11日オンライン公開
- 資金:日本学術振興会 科学研究費・若手研究「運動課題と認知課題に共通する学習
ダイナミクスの解明」(研究代表者:鈴木啓央)21K17558
【研究内容に関する問い合わせ先】
- 龍谷大学経済学部・鈴木啓央(すずき ひろお)講師 hsuzuki@econ.ryukoku.ac.jp
問い合わせ先:
龍谷大学 研究部(深草) Tel 075-645-7922
fkaken@ad.ryukoku.ac.jp https://www.kenkyubu.ryukoku.ac.jp/
大阪体育大学 広報室 Tel 072-453-7021
koho.users@ouhs.ac.jp https://www.ouhs.jp/
新潟医療福祉大学 入試広報部広報課 Tel 025-257-4459
kouhou@nuhw.ac.jp https://www.nuhw.ac.jp/