2025.12.12
令和7年度 京都府再犯防止推進ネットワーク会議(中部地域)を本学において開催【社会科学研究所】
「再犯防止と包括的性教育」をテーマに課題共有型円卓会議“えんたく”を実施
2016年の「再犯防止推進法」の制定以降、自治体においても再犯防止に関する取組が推進されています。2019年度に龍谷大学は京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」*1を締結し、これまでにハンドブックの発行や研修会を実施してきました。2025年度は前年度に引き続き、本学社会科学研究所の受託研究プロジェクト「犯罪等の初期段階における地域を基盤としたソーシャルワークの体制構築に関する研究」(研究代表:南島和久・政策学部教授)として取り組んでいます。
2025年11月21日(金)午後、深草キャンパス・至心館1Fフリースペースにおいて、「令和7年度 京都府再犯防止推進ネットワーク会議 (中部地域)」が開催されました。この会議は、京都府庁および京都府内自治体の関係部局担当者をはじめ児童福祉に関わるカウンセラー、矯正施設職員、保護観察官、保護司、更生保護女性会を含むボランティアなど多様な関係者の参加を得て行われているもので、行政や地域において再犯防止に関して何ができるのかを一緒に考える取組の一環です。
【→Event実施概要】
またこの会議の方法は、本学の研究メンバーが関わるATA-netの研究活動で培ってきた討議スキーム・課題共有型円卓会議“えんたく”*2を用いて実施しました。当日は、山口裕貴氏(一般社団法人 刑事司法未来、本学法科大学院修了生)が司会を担当し、暮井真絵子氏(本学法学部非常勤講師)がファシリテーショングラフィックを担当しました。ファシリテーショングラフィック(ファシグラ)とは、会議で共有された話題をホワイトボードにまとめて議論を可視化するものです。
課題共有型円卓会議“えんたく”のようす
会議の冒頭、「医療法人心鹿会 海と空クリニック」院長で産婦人科専門医の池田 裕美枝氏が話題提供を行いました。池田氏は、女性のヘルスケアに身体的、心理的、社会的にアプローチすべく「一般社団法人SRHR Japan」の代表も務めています。
「性教育をみんなの手に 〜SRHRの普遍的普及に向けて〜」と題した話題提供ではまず、すべての人の「性」と「生き方」に関わる国際的かつ重要な視点として「SRHR」を紹介。SRHRとは、Sexual / Reproductive Health and Rights(性と生殖に関する健康と権利)の略称で、誰もが性や生殖に関して、身体的・精神的・社会的な健康を維持しながら、自分の意思で決定できる権利のことです。池田氏は、「性と生殖に関することについて、“わたしのからだだから(Bodily Autonomy)”という点が尊重されることは、基本的人権保障の必須条件である」と強調し、包括的性教育*3を通して学ぶことは、「“自分とどう付き合うか”、“自分の大切なひとと、どう付き合うか”ということが基本となる」と指摘しました。
そして、池田氏は包括的性教育や日本の性教育のバックラッシュなどについて概観した後、「思春期に性衝動が生じることは自然なことである。子どもたちへの包括的性教育を通じて豊かな人間関係の可能性を増やすことは、性暴力のリスク低減にも繋がるのではないか。今こそ、教育や文化、医療・福祉、法律、経済などあらゆるセクションが連携して、“個”を活かすための連携が必要だろう」と述べ、つづくセッションでのステークホルダーによる知見提供や参加者との課題共有に期待を込めました。
つづいて、テーマに関連し、これまで子どもや若者の性被害・性加害に関する相談や支援等で関与してきたステークホルダー4名が、組織上の立場だけではなく、それぞれの経験から得られた知見やエピソードを紹介しました。
ここでは、「学校現場での性教育においては、心身の発達が異なる集団への一斉教育の困難さがあること」や「未就学児童であっても性的情報との接触から加害につながる可能性もあり、自分の身体を守るという教育が必要であること」、「加害少年の立ち直りの現場では、認知行動療法などを用いて理想と現実を見つめさせる努力を重ねていること」、「孤立感を感じる子どもが、家庭や学校以外で信頼できる大人と話す場作りの必要性」など、さまざまな知見や課題が共有されました。
参加者によるシェアタイムの様子
各グループから挙がったキーワードの一例
その後のシェアタイムでは、オーディエンスを含めたフロアの参加者全員が3人1組のグループに分かれ、子どもと若者の性教育の普及方法やその課題などについて話し合いを行いました。
グループで話し合われた課題はそれぞれ画用紙にまとめられ、フロア全体でその内容を共有しました。各グループからは、「教育を行う世代が包括的性教育を受けていない現状」や「発達段階や個人のレベルにあわせたアプローチの困難性」、「大人や男性に対する性教育の重要性」、「性についてオープンに話す場の必要性」などが提起されました。
会議の後半では、ステークホルダーと話題提供者がそれぞれコメントを交わし、約3時間におよぶ“えんたく”が終了しました。最後に、暮井真絵子氏がファシリテーショングラフィックに沿って“えんたく”の内容を振り返りました。
司会:山口裕貴氏(一般社団法人 刑事司法未来)
ファシグラ担当:暮井真絵子氏(本学法学部・非常勤講師)
今回の課題共有型円卓会議“えんたく”の終了後、本会議を監修する南島和久教授(本学政策学部)と、藤岡一郎名誉教授(京都産業大学)がコメントを行いました。藤岡氏は検討委員として、「京都府犯罪のない安心・安全なまちづくり計画」に携わってこられました。藤岡氏は、悩みや問題を抱えた当事者を支援する組織間の「横の連携」が大切であることを強調し、それも「重層的な支援の仕組みの可能性」に期待を寄せ、今回の会議を総括しました。
南島和久教授(本学政策学部)
【補注】
*1 犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定
2016年12月に成立、施行された「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」においては、国だけなく自治体にも、再犯の防止等に関する施策について地域の状況に応じた施策を策定し実施する責務があることが明記されました(第4条)。また、自治体に対し、国の再犯防止推進計画を勘案しつつ、地方再犯防止推進計画を策定する努力義務があることが明記されました(第8条第1項)。この法律は、犯罪や非行をした人たちの社会復帰を支援するための初めての法律です。京都府では、2020年3月23日に龍谷大学と協定を締結し、再犯防止施策を推進していくこととしています。
参照:京都府HP
*2 課題共有型円卓会議“えんたく”
円卓会議と呼ばれる討議スキームは、その目的によって、問題解決型と課題共有型に分かれます。また、参加主体によって、当事者(Addicts)中心のAタイプ、当事者と関係者が参加するBタイプ(Bonds)、そして、協働者も加わったCタイプ(Collaborators)の3つに整理されています。詳細は以下のガイドラインを参照してください。
参照:「えんたくトライアルのためのガイドライン 2020.09版」
*3 包括的性教育
包括的性教育とは、国連教育科学文化機関(UNESCO)が中心となり、2009年に発表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に沿った国際的標準の性教育です。ガイダンスには、8つのキーコンセプトがあり、4つの年齢グループ(5~8歳、9~12歳、12~15歳、15~18歳)で達成すべき具体的な学習目標が設定されています。
8つのキーコンセプトは、「1.人間関係/2.価値観、人権、文化、セクシュアリティ/3.ジェンダーの理解/4.暴力と安全確保/5.健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル/6.人間のからだと発達/7.セクシュアリティと性的行動/8.性と生殖に関する健康」から構成されます。