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2026.01.28

環境DNA解析で絶滅危惧種の純淡水魚の「地域系統」を見分ける ~新技術でイチモンジタナゴの系統識別に成功。市民との協働により生息地域内の保全ツールとしての活用に期待~

 

 

【本件のポイント】 

  • 環境DNAを用いて、絶滅危惧種の純淡水魚・イチモンジタナゴの地域系統(東海系統・近畿系統)を非侵襲かつ高感度に識別できる検出手法を開発。
  • 野外のイチモンジタナゴ保全池で実証実験を行い、既存の捕獲調査と一致する結果を確認。
  • DNAコピー数1~3という極めて高い検出感度を実現したことから、個体数が少ない地点においても有効なモニタリングが可能に。
  • 本手法は生物の捕獲を伴わないため、希少種の保全管理における負担とコストの軽減へ。地域固有の遺伝的多様性を守るための実践的なツールとしての活用に期待。

 

 

【本件の概要】
 龍谷大学 生物多様性科学研究センターの伊藤玄 博士研究員と三重県総合博物館の北村淳一 学芸員、滋賀県立琵琶湖博物館の川瀬成吾 学芸員らの研究グループは、絶滅危惧種の純淡水魚・イチモンジタナゴ1)の種内系統を識別するための「系統特異的環境DNA検出系」の開発を行い、実証実験の結果を含む研究成果を国際学術誌Conservation Genetics Resources(Springer Nature社)にて公表しました。

 

 本研究では、イチモンジタナゴの地域ごとに異なる遺伝的系統を、採取した水から識別できる環境DNA2)の新しい検出手法「系統特異的環境DNA検出系」を開発しました。遺伝情報のわずかな違いを識別できるこの手法を用いることで、東海地方の系統と近畿地方の系統(以下、東海系統、近畿系統)という2つの主要な系統を魚体を痛めることなくかつ高感度に識別することに成功しました。また、イチモンジタナゴの各系統を保全している池でこの手法を試験したところ、各池で保全している系統と一致した検出結果が確認され、本手法の有効性が実証されました。

 

 今回の技術開発により、希少魚類の在来系統を外来系統の侵入による遺伝的撹乱から守るための迅速で低コストなモニタリングが可能となり、今後の地域固有の生物多様性保全や外来系統の早期発見に大きく貢献することが期待されます。

 


【研究の背景】
 環境省レッドリストで絶滅危惧IA類に選定されているイチモンジタナゴは日本固有の純淡水魚です。現在その個体数は、河川改修などの環境改変に伴う生息地の劣化や外来種との競争により減少しています。また、放流などの人為的な移入によって本来の自然分布が分かりにくくなっており、在来個体群の保全が大きな課題となっています。しかしながら在来系統であることを識別するには、従来は地点ごとに個体を捕獲してミトコンドリアDNA(mtDNA)解析を行う必要があり、多くの時間や労力がかかり、個体への負担も避けられませんでした。
 これまで本研究グループは、その生物が「いつ、どのようにそこに分布するようになったのか」という、生物が辿ってきた歴史を明らかにする「生物地理学」を基盤に、日本列島のかけがえのない生物多様性を保全するための研究活動を展開してきました。今回は、イチモンジタナゴの適切かつ効率的な保全活動を促進すべく、保全活動に取り組む滋賀県と三重県の市民団体とも協働し、環境DNA技術を用いたより簡便な検出ツールの開発に着手しました。

 

 

【発表論文】
-    タイトル:Development of a lineage-specific environmental DNA assay to

                            differentiate intraspecific lineages of the endangered freshwater fish,

                            Acheilognathus cyanostigma (Cyprinidae: Acheilognathinae)
-    和 訳:絶滅危惧種の純淡水魚・イチモンジタナゴ(コイ科タナゴ亜科)の種内系統

                       を識別するための系統特異的環境DNA検出系の開発
-    著 者:伊藤 玄13(責任著者)・北村 淳一3 4・川瀬 成吾5・朝見 麻希1・後藤 祐子1

                       山中 裕樹 1 2
-    所 属:1龍谷大学 生物多様性科学研究センター 2 龍谷大学先端理工学部
     3 NPO法人 流域環境保全ネットワーク 4 三重県総合博物館 

      5 滋賀県立琵琶湖博物館
-    掲載先:Conservation Genetics Resources(Springer Nature社)
-    リンク:https://doi.org/10.1007/s12686-026-01410-3  

                     (2026年1月19日にWEB公開)

 


【実証実験の結果・今後の展開】
 本研究では、実験室で開発した系統特異的な環境DNA検出法を、実際の保全現場(三重県6地点、滋賀県4地点)で採取した水試料に適用し、その実用性を検証しました。イチモンジタナゴの東海系統と近畿系統がそれぞれ生息・保全されている池を対象に調査を行った結果、各水域から該当する系統のみが正確に検出され、別系統の誤検出は確認されませんでした。検出結果は既存の捕獲調査の記録とも一致し、本手法が野外環境においても高い再現性をもつことが示されました。
 この成果により、イチモンジタナゴについて、捕獲しなくても地域系統を識別できる実用的な手法が初めて実証されました。また、DNAコピー数1~3という極めて高い検出感度を有することから、個体数が少ない生息地でのモニタリングにも有効であると考えられます。一方で、複数系統が同所的に生息する場合の検出性能や、交雑の判定には限界があるものの、本研究は地域系統レベルでの保全管理を可能にする基盤技術を提示するものであり、今後の外来系統の侵入監視や希少系統の早期発見への応用が期待されます。

 


【謝辞】
 本研究は、2021年度タカラ・ハーモニストファンド研究助成・環境研究技術開発基金(JPMEERF20204004)、日本学術振興会科学研究費(22K14908、23K05941)、および龍谷大学 科学技術共同研究センター2025基金の助成を受けて実施されました。
 

 

【補足説明】
1)イチモンジタナゴ(学名:Acheilognathus cyanostigma) 

  ■■以下の写真は転載/加工可能■■


三重県で採集したイチモンジタナゴ
北村淳一撮影

コイ科タナゴ亜科に属する純淡水魚で、平野部の川や湖沼、ため池に主に生息し、国のレッドリストで絶滅危惧IA類に選定され最も絶滅が危ぶまれている淡水魚類の1種である。これまでにmtDNA解析により、琵琶湖・淀川⽔系周辺と加古川・由良川⽔系(近畿系統)、東海地⽅(東海系統)の各地域に遺伝的に分化していると考えられている。特に三重県松阪市のため池において保全しているイチモンジタナゴは、mtDNAにおいて、瀬戸内海集水域の個体群とは異なる固有の塩基配列を持っていたことから(北村,2016)、現存する唯一の伊勢湾集水域固有の個体群であると考えられている。

2)環境DNA


環境DNA分析とは、水や土などの環境媒体に含まれているDNAの情報(生物が糞や粘液として放出したもの)を基に、そこに生息する種の分布や多様性、量を推定する分析手法。採取した環境DNAをPCR法で増幅し、DNAなどの遺伝子配列を高速大量に解析できる「次世代シーケンサー」で読み解くことで、コップ1杯分の水から周辺の生物相が分かる。生物を捕獲することなく「水から」検出できる簡便さから、生物多様性の観測や水産資源の管理に革命をもたらすとされる。


問い合わせ先:龍谷大学 研究部(生物多様性科学研究センター) Tel 077-543-7746 

                                ryukoku.biodiv@gmail.com  https://biodiversity.ryukoku.ac.jp/

 

                               三重県総合博物館 Tel 059-228-2283
           MieMu@pref.mie.lg.jp https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/MieMu/  

 

       滋賀県立琵琶湖博物館 Tel 077-568-4811
       info@biwahaku.jp  https://www.biwahaku.jp/