2026.05.01
スクロースが鍵、太陽光発電ガラス中のアンチモン揮発除去に新手法
―非酸素雰囲気下でアンチモン揮発率90%超―
【本件のポイント】
- 各地で導入が進む太陽光発電ガラス(PVガラス)※1 は、将来の大量排出に対するリサイクルが課題。
- PVガラスのリサイクルを阻むアンチモン(Sb)について、食品にも使われるスクロース(砂糖の主成分)を用いた新たな揮発除去手法を提示。
- 非酸素雰囲気※2 とスクロースの組み合わせにより、従来法では困難だったSbの高効率な揮発除去(最大90%以上)を実証。
- 活性炭など一般的な還元剤と比較しても、スクロースの方が顕著に高い除去性能を示すことを確認。
【本件の概要】
龍谷大学先端理工学部の水原詞治講師を筆頭著者として、本学先端理工学部卒業生の喜多慧さん(現・修士課程1年)、岩室英迪さん(現・京都大学大学院修士課程1年)、本学先端理工学部の藤森崇教授などからなる共同研究チームは、PVガラスの再資源化を阻むアンチモン(Sb)について、非酸素雰囲気下での加熱とスクロースを組み合わせた新たな揮発除去条件を明らかにしました。
本成果は、PVガラスの高品質リサイクルや低コスト化に向けた基盤技術となる可能性があります。同研究成果は、アメリカ化学会が発行する国際科学雑誌「ACS Sustainable Resource Management」に掲載されました(2026年4月17日公開)。
【研究の背景】
太陽光発電は再生可能エネルギーの一種として、都市部・地方・郊外など各地で導入が進んでいます。しかし、太陽電池モジュールの重量の約6割を占めるガラス部分には、透過性向上のためアンチモン(Sb)が含まれており、これがガラスの再利用を阻害する要因とされます。今後、PVガラスの排出量の増加が見込まれる中、Sbの効率的な除去技術の確立が急務となっています。
【研究成果】
本研究では、PVガラス中のアンチモン(Sb)の揮発除去を目的に、塩化揮発法および還元揮発法を用いた加熱試験を行いました。その結果、従来の条件(大気中・塩化揮発)ではSbの揮発はほとんど確認されず、窒素雰囲気(非酸素雰囲気)に変更することで、初めてわずかな揮発が生じました。さらに、還元剤として一般的に用いられる活性炭を使用した場合でも、揮発率は約30%にとどまりました。
そこで本研究では、入手性・コスト・炭素含有量に着目し、身近な糖であるスクロースを還元剤として用いました。その結果、Sb揮発率は最大90%以上に達し、活性炭と比較しても顕著に高い効果を示しました【図1】(加熱試験における最適条件:加熱温度1100℃、加熱時間120分、C/Sb比224で、Sb揮発率92.6%)。
このことから、PVガラス中のSbは、一般的な揮発条件とは異なり、より強い還元状態を必要とし、その形成にスクロースが有効に機能することが明らかとなりました。また、スクロースは炭素に加えて水素や酸素を含む有機構造を有しており、これが反応場における還元状態の形成に影響を与えている可能性が示唆されました。
【図1】窒素雰囲気(非酸素雰囲気)とスクロースの組み合わせにより、Sbの揮発効率が大幅に向上したことを示す。
【本研究の意義】
本研究の工夫として、熱力学平衡計算を用いたSb揮発メカニズムの評価を行いました。具体的には、各実験条件に合わせて、雰囲気、加熱温度、スクロース添加量(C/Sb比)の影響について反応推計を実施しました。
加熱試験および熱力学平衡計算の双方から、非酸素雰囲気とスクロース添加量(C/Sb比)がSb揮発に最も大きな影響を与える因子であることが確認されました。特に、同量の炭素源を用いた場合でも、活性炭よりスクロースの方が顕著に高い揮発効率を示したことは、本研究の重要な発見です。
【今後の展開】
PVガラスは今後排出量が顕著に増加することが予想されています。PVガラスは太陽電池モジュールの重量構成比の約60%をガラスが占めており、太陽電池モジュールのリサイクルを考える上でPVガラスのリサイクル促進が重要です。
本研究により、安価で入手しやすいスクロースを用いたSb揮発除去の可能性が示され、将来的にはリサイクルプロセスの低コスト化や実用化の可能性向上につながることが期待されます。また、揮発したSbの回収技術が確立されれば、資源としての再利用価値の向上も期待されます。
また本学は、現在の先端理工学部 環境科学課程を発展させ、2027年4月に「環境サステナビリティ学部※3 (仮称・設置構想中)」を開設予定です。同新学部では、サステナビリティをめぐる幅広い知識を身につけるとともに、都市環境工学、生物多様性科学及び経済学・経営学に係る専門知、並びにそれらを統合した視点を獲得し、持続可能な社会の創造に向けて、実践的に課題解決に向き合える環境人材を育成することを目的としています。
本研究は、そうした実践的な課題解決の一歩となるとともに、環境人材育成の一助となることでしょう。
【発表論文】
- 英題:Removal of Antimony by Volatilization from Photovoltaic Glass with Sucrose
under Anoxic Environment
- 和題:非酸素雰囲気下におけるスクロースを用いた太陽光発電ガラスからのアンチモ
ンの揮発除去
- 掲載誌:ACS Sustainable Resource Management(American Chemical Society,
ACS Publications)
- 著者:水原詞治 1 (責任著者)、喜多慧 1 、岩室英迪 1 、和田直哉 2 、堆仁美 3 、竹本
智典 3 、藤森崇 1 (責任著者)
- 所属:1 龍谷大学先端理工学部、2 AGCエレクトロニクス株式会社、3 AGC株式
会社
- DOI:https://doi.org/10.1021/acssusresmgt.6c00175 ※オンライン掲載:2026年4
月17日
- 研究支援:NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)「太陽
光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の長期安定電源化技術開発」事業
(JPNP20015)
【用語解説】
※1 太陽光発電ガラス(PVガラス):
太陽光発電ガラス(PVガラス)は、窓ガラスや壁面、屋根などの建材として設置可能な、透過性を持たせた太陽光パネルの一種である。持続可能な都市建築に不可欠な技術として注目される一方で、導入コストと将来的なリサイクル・システム(特に重量構成比の約60%を占めるガラスの高品質再利用)の確立が普及の鍵とされる。
※2 非酸素雰囲気:
非酸素雰囲気とは、酸素がほとんど存在しない、または意図的に取り除かれた制御された環境のこと。この環境では、窒素やアルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスに置換されている。
※3 環境サステナビリティ学部
2027年4月、本学瀬田キャンパスに「環境サステナビリティ学部」を開設予定(仮称・設置構想中/キャンパス名称は「びわ湖大津キャンパス」に変更予定)。同新学部では、主体的な学びやチームで協働する姿勢などを涵養するとともに、リアルな現場での体験や経験を通して知識・技能の定着を図ることを目的に、体験・共創型のPBL科目「クエスト科目群」を配置する。
また、5つの「専門教育プログラム」を配置し、専門性を深めることのできる学びを提供し、実践的に課題解決に向き合える次世代の環境人材育成をめざす。
環境工学・生物多様性科学および経済・経営学など文理の枠を超え、複数の切り口から学生個々の得意分野や興味にあわせて学びを選び、サステナブルな社会を切り開く力を磨く。
特設サイト:https://www.ryukoku.ac.jp/newf2/
(※設置計画は予定であり、内容に変更が生じる場合があります。)
【研究内容に関する問い合わせ先】
龍谷大学先端理工学部 環境科学課程・水原 詞治(みずはら しんじ)講師 mizuhara@rins.ryukoku.ac.jp
龍谷大学先端理工学部 環境科学課程・藤森 崇(ふじもり たかし)教授 fujimori@rins.ryukoku.ac.jp
問い合わせ先:
龍谷大学 研究・社会実装推進部(瀬田) Tel 07-544-7294
jim-setaken@ad.ryukoku.ac.jp
https://www.ryukoku.ac.jp/research-innovation/