2026.06.17
琵琶湖南湖の在来魚に回復の兆し ―環境DNA分析により南湖の魚類相を可視化―
【本件のポイント】
- 環境DNAメタバーコーディング分析により、琵琶湖南湖の魚類相を包括的に把握。
- 2021年に実施した捕獲調査と環境DNA調査の双方において、2008年の捕獲調査では確認されなかった複数種の在来魚を確認し、外来魚の増加などにより劣化していた生態系の回復を示唆。
- 日本では確認されていないユーラシア原産の淡水魚類のDNAが検出されたことから、環境DNA分析による外来種の早期検知機能の有用性を提示。
【本件の概要】
龍谷大学 生物多様性科学研究センターの伊藤 玄 博士研究員と山中裕樹センター長(本学先端理工学部教授)をはじめとし、株式会社日吉、滋賀県水産試験場、滋賀県立琵琶湖博物館のメンバーで構成する共同研究グループは、環境DNAメタバーコーディング分析(注1)を用いて琵琶湖南湖の魚類相を包括的に調査し、外来魚の増加などにより減少していた在来魚群集が回復過程にある可能性を明らかにしました。同研究成果を査読付き英語学術誌Ichthyological Research(一般社団法人 日本魚類学会)にて公表しました。
本研究では、南湖で2021年に実施した環境DNA調査・捕獲調査と、2008年の捕獲調査の結果を比較し、在来魚の回復状況を評価。その結果、2008年の調査では確認されなかった10分類群の在来魚を2021年の調査で確認。これらの多くは水産放流しておらず、自然に個体数や分布を回復した可能性が示唆されました。
さらに、環境DNAの分析によって捕獲調査では確認が難しかった底生魚や希少種も検出されたほか、日本国内で記録のないユーラシア産コイ科魚類・Gobio gobio [カマツカ(図2参照)の近縁種]のDNAも検出され、捕獲が難しい魚種や新規外来種監視における環境DNA分析の有用性も示されました。
本研究成果は、琵琶湖の生態系再生や生物多様性保全に向けた重要な知見となることが期待されます。
(注1)環境DNAメタバーコーディング分析とは、生物が水や土などの環境に放出した微量のDNA(環境DNA)をPCR法で増幅し、「次世代シーケンサー」を用いて読み解くことで周辺の複数の生物種を同時に検出・特定する分析技術。
【研究の背景】
琵琶湖は、日本最大かつ世界有数の古代湖として知られ、多くの固有種を含む豊かな生物多様性を有しています。なかでも南湖は、水深が浅く、ヨシ帯などの沿岸環境が広がることから、多くの魚類にとって産卵や成育の場となる重要な水域です。
しかし、1970年代以降、オオクチバスやブルーギルなど外来魚の定着・増加が進み、南湖の魚類相は大きく変化しました。さらに、人工的な水位操作や湖岸改変、水草の異常繁茂なども影響し、在来魚の減少が深刻化してきました。また近年では、外来魚の減少傾向や、ホンモロコなど一部の在来魚の再確認も報告されていましたが、南湖全体の魚類相が現在どのような状態にあるのか、包括的な把握は十分に行われていませんでした。
そこで本研究では、水中に存在する魚類の環境DNAを分析し、南湖における魚類相の現状を広域的かつ高感度に調査しました。
【研究成果】
本研究では、2021年に南湖30地点で実施した環境DNA調査(図1)と、2008年および2021年の捕獲調査結果を比較しました。その結果、環境DNA分析では40分類群の魚類を確認し、同年の捕獲調査(18分類群)を大きく上回る検出数となりました。特にドジョウ類やナマズ類など、従来の捕獲調査では確認が難しい底生魚も多数検出し、環境DNA分析の高い有効性が示されました。
図1. 《南湖で実施した環境DNA調査地点の概要》
また、2008年の調査では確認されなかった10分類群の在来魚が、2021年の捕獲・環境DNA調査で共通して確認されました。このうち水産放流種のフナ類とアユを除くゼゼラやカネヒラなどの8分類群の在来魚は、自然に再定着した可能性が高いと考えられます(図2)。これらの魚種は、1970〜2000年代の魚類相調査でも記録されており、外来魚が増加する以前から南湖に生息していたものです。したがって、これらの種は近年、南湖で回復した魚種とみなすことができます。一方で、かつて南湖で多く見られたヤリタナゴやシロヒレタビラなどのタナゴ類など、一部の在来魚は依然として確認されず、生態系が完全には回復していないことも明らかになりました。
さらに、本研究では、日本国内で記録が確認されていないGobio gobioのDNAも検出されました。実際の生息確認には追加調査が必要ですが、環境DNA分析により新たな外来種侵入を早期に検知できる可能性も示されました。
【本研究の意義】
本研究は、南湖の魚類相を包括的に把握するとともに、在来魚群集が回復過程にある可能性を示した点に大きな意義があります。これまで、外来魚の増加などによる生態系悪化が強く懸念されてきた南湖ですが、今回の調査の結果は、適切な外来魚対策や環境改善に よって、生態系が回復しうることを示す重要な知見です。
また、環境DNA分析が、従来調査では把握が難しかった魚類も高感度に検出できることを示し、生物多様性モニタリングの新たな手法として有効であることを実証しました。一方で、かつて南湖に生息していた一部の在来魚は依然として確認されておらず、生態系回復が途上にあることも明らかになりました。本研究は、今後の保全・再生の目標を具体化する基礎資料としても重要な成果です。
【発表論文】
- タイトル:Fish fauna in the South Basin of Lake Biwa revealed by
environmental DNA: with a focus on the recovery of native species
- 和訳:環境DNAにより明らかになった琵琶湖南湖の魚類相 ―在来種の回復に着目して
―
- 著者:伊藤 玄1, 2(責任著者)・倉本真央3・近藤昭宏3・中村昌文3・石崎大介4・田口
貴史4・川瀬 成吾5・朝見 麻希1・後藤 祐子1・山中 裕樹1, 2
- 所属:1龍谷大学 生物多様性科学研究センター 2 龍谷大学大学院 先端理工学研究科
環境科学コース 3 株式会社日吉 4滋賀県水産試験場 5滋賀県立琵琶湖博物館
- 掲載先:Ichthyological Research(一般社団法人 日本魚類学会)
- 論文(PDF):https://rdcu.be/fmcFp(2026年6月3日WEB公開)
- 研究助成:環境再生保全機構 環境研究総合推進費(JPMEERF20204004)、日本学術振
興会 科学研究費(22K14908、22K19346、23K05941)ほか学内研究資金
問い合わせ先:龍谷大学 研究・社会実装推進部(生物多様性科学研究センター)
Tel 077-543-7746 ryukoku.biodiv@gmail.com https://biodiversity.ryukoku.ac.jp/