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2026.09.30

屋外で使える可搬型「光周波数コム」を開発

―バッテリー駆動・車載化を実現し、大気中のガスを非接触で測る新たな計測技術へ―

 

【本件のポイント】

  • 大気中のガスを計測する高精度な“光の定規”である「光周波数コム(Optical Frequency Comb)」※1を、屋外へ持ち出せる可搬型システムとして開発。
  • 実験では屋外や車載環境で光を安定して伝搬し、オープンパス計測※2への利用可能性を実証。
  • 工場排気や温室効果ガスのモニタリングなど、大気中のガスを計測する分光技術への展開に期待。

 

【本件の概要】
 龍谷大学大学院 先端理工学研究科の光本 涼さん(博士課程3年/電子情報通信課程 吉井研究室)を筆頭著者として、本学先端理工学部の山本 伸一教授、吉井 一倫講師からなる研究チームは、屋外で利用できる可搬型「光周波数コム」の開発に成功し、一連の研究成果を国際科学雑誌「Optics Continuum」と「Japanese Journal of Applied Physics(JJAP: 日本応用物理学会誌)」において公表しました。
 光周波数コムは、正確な間隔で多数の光の線が並んだレーザー光で、“光の定規”とも呼ばれます。分子が特定の光を吸収する性質を利用することで、さまざまな物質を高精度に調べる分光計測への応用が期待されています。本研究チームは、NALM(非線形増幅ループミラー)※3型モード同期ファイバレーザーという安定性に優れた光源を採用し、光周波数コムの可搬化を進めてきました。システムの重さはケース込みで約64kg。初期のシステムでは、光を最大90mまで伝搬能な設計を実現し、その後、バッテリー駆動で約17時間動作するシステムへ発展させました。また、屋外で往復40mの光伝搬実験を行い、大気の揺らぎがある環境でも分光計測に必要な光を安定して伝搬できることを確認。エンジン振動のある車載環境でも、安定して動作することを実証しました。
 これらの成果は、光周波数コムを用いた高精度な分光計測を、実験室の外へ展開するための基盤技術となるものです。将来的には、空気を採取することなく大気中のガスを測定するオープンパス計測など、環境・産業分野における現場計測への活用が見込まれます。
 


図1. 【可搬型光周波数コムの概要図】
光周波数コムは、時間領域でみると高速で繰り返される超短パルスレーザーで、周波数領域でみると櫛状のスペクトル構造を有することからこの名称に。光周波数コムは温度や振動などの外乱に弱いことから、従来の運用は実験室内に限定的であったが、可搬化や車載化が実現すれば実験室外での運用が可能になり応用の幅が飛躍的に拡大する。

 

【研究の背景】
 二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス、大気汚染物質、工場や農畜産現場などから発生するガスを把握するには、発生源や周辺環境のガス濃度を継続的に測定することが重要です。一般的なガス計測では、空気を採取して分析装置に送り込む方法がありますが、測定場所や時間が限られる場合があります。
 こうした課題に対して注目されているのが、光を空間中に伝搬させて大気中の成分を測定するオープンパス計測です。なかでも光周波数コムは、さまざまな周波数の光が規則正しく並んだ、いわば“光の定規”です。広い波長範囲を一度に利用できるため、複数の物質を高精度に識別する分光技術への応用が期待されています。また、2台の光周波数コムを組み合わせる「デュアルコム分光法」※4では、高速かつ高精度な分光測定が可能になります。
 一方で、光周波数コムを発生させる装置は、これまで実験室での利用を前提としたものが多く、大型の装置や外部電源を必要とすることに加え、温度変化や振動、大気の揺らぎなど、外乱の影響を受けやすいという課題がありました。そのため、光周波数コムを用いた高精度な分光計測を、屋外環境で実施することは容易ではありませんでした。
 そこで本研究チームは、安定性に優れたNALM型モード同期ファイバレーザーを光源に用い、光周波数コムの可搬化・省電力化と、屋外環境での安定動作の実現に取り組みました。
 

 

【研究成果】
本研究チームは、光周波数コムを屋外で利用するため、可搬化、バッテリー駆動、屋外でのオープンパス伝搬、さらに車載化へと段階的に研究を進め、その成果を3本の論文にまとめて2025年から2026年にかけて国際科学雑誌において発表しました。
 

1.可搬型光周波数コムを開発
 まず、NALM型モード同期ファイバレーザーを用いて、光周波数コムを発生させるシステムの可搬化に取り組みました。開発した光源は、1100~2300 nmの近赤外領域にわたる広帯域なスペクトルを持ち、光周波数コムとして分光計測に利用できる性能を備えています。
 さらに、システム全体を単一のリチウムイオンバッテリーで駆動できる構成とし、約17時間の連続動作を実現しました。ケースを含む重量は約64 kgで、研究室内に据え付けて使用する装置から、車両などを利用して屋外へ持ち出せるシステムへと発展させました。

 

2.屋外オープンパス環境での光伝搬を実証
 次に、開発した可搬型光周波数コムを用いて、実際の屋外環境で光を空間に伝搬する実験を行いました。実験では、光を片道20m伝搬させて反射鏡で折り返す、往復40mのオープンパスを設定しました。屋外では風や温度変化、大気の揺らぎなどによって光の伝搬状態が変化しますが、そのような環境下でも、分光測定に必要な光強度と広帯域スペクトルを維持できることを確認しました。
 また、「光ヘテロダイン干渉法」※5によって、屋外の空間伝搬後も高い信号対雑音比(S/N比)の信号が得られることを確認しました。これにより、光周波数コムを用いた精密な分光測定を屋外で行うための基盤性能を実証しました。


図2. 【瀬田キャンパス1号館4階実験室前の廊下での実験のイメージ】

 

3.車載化し、振動環境下での動作を実証
 さらに本研究チームは、光周波数コムを車両に搭載し、実際のフィールドで利用することを想定した実験へと研究を発展させました。琵琶湖湖岸で行った実験では、アイドリング中の車内に光周波数コムを設置し、車外へ光を出射。光を20m伝搬させて反射鏡で折り返す往復40mのオープンパス測定を行いました。その結果、エンジンによる振動がある環境でも、安定した光伝搬と信号取得が可能であることを実証しました。


図3. 【琵琶湖湖岸(大津市)での実験のイメージ】

 この一連の研究により、光周波数コムを実験室から屋外へ持ち出し、車載して利用するための技術的基盤を構築しました。なお、今回の研究では、実際に二酸化炭素など特定のガス濃度を定量測定するところまでは行っていません。屋外のオープンパス環境下で光を伝搬し、広帯域スペクトルやヘテロダイン信号を取得することで、将来的なデュアルコム分光法による精密な大気分光測定に利用可能な性能を実証しました。
 *本研究は、JST 創発的研究支援事業、 JPMJFR203Y の支援を受けたものです。

 

【発表論文1】
-    英題:Development of a portable optical frequency comb for open-path

                   measurement based on NALM mode-locked fiber laser
-    和題:NALM型モード同期ファイバレーザーに基づくオープンパス計測用可搬型光周波

                   数コムの開発
-    掲載誌:「Japanese Journal of Applied Physics」Volume 64, Number 10(物理系学

                        術誌刊行センター, IOP Publishing)
-    著者:光本 涼1、吉井 一倫2(責任著者)、山本 伸一2
-    所属:1 龍谷大学 先端理工学研究科、2 龍谷大学 先端理工学部 電子情報通信課程
-    DOI:https://doi.org/10.35848/1347-4065/ae0ef2 ※オンライン掲載:2025年10月22

                  日

 

【発表論文2】
-    英題:Battery-powered portable optical frequency comb based on a NALM mode-

                   locked fiber laser for open-path field use
-    和題:屋外オープンパス利用のためのバッテリー駆動可搬NALM型モード同期ファイバ

                   レーザー
-    掲載誌:「Optics Continuum」Volume 5, Number 2(OPTICA)
-    著者:光本 涼1、吉井 一倫2(責任著者)、山本 伸一2
-    所属:1 龍谷大学 先端理工学研究科、2 龍谷大学 先端理工学部 電子情報通信課程
-    DOI:https://doi.org/10.1364/OPTCON.579820 ※オンライン掲載:2026年1月26日

 

【発表論文3】
-    英題:Vehicle-Mounted Optical Frequency Comb for Open-Path Field

                   Measurements Based on a NALM Mode-Locked Fiber Laser
-    和題:NALM型モード同期ファイバレーザーに基づく屋外オープンパス計測のための車

                   載光周波数コム
-    掲載誌:「Optics Continuum」Volume 5, Number 9(OPTICA)
-    著者:光本 涼1、吉井 一倫2(責任著者)、山本 伸一2
-    所属:1 龍谷大学 先端理工学研究科、2 龍谷大学 先端理工学部 電子情報通信課程
-    DOI:https://doi.org/10.1364/OPTCON.608058 ※オンライン掲載:2026年9月1日

 

【研究の意義・今後の展望】
 今回の研究で実証したのは、オープンパス環境で光周波数コムを安定して運用するための基盤技術です。今後、この技術をデュアルコム分光法と組み合わせることで、産業現場や災害時などで発生するガス成分のリアルタイム検出技術への発展が期待されます。
 さらに、光周波数コムが持つ広帯域性を生かし、気体だけでなく液体や固体など、さまざまな物質を対象とした非接触分析への応用も視野に入れています。特に中赤外領域への展開によって、半導体材料やデバイスの組成、化学結合、結晶状態などを調べる新たな計測技術につながる可能性があります。

 

【用語解説】
※1 光周波数コム(Optical Frequency Comb)
レーザー光の周波数成分が、櫛(コム)の歯のように一定の間隔で規則正しく並んだ光。非常に正確な周波数の目盛りを持つことから「光の定規」とも呼ばれる。広い波長範囲の光を利用できるため、分子や物質が特定の光を吸収する性質を利用した高精度な分光計測などへの応用が期待されている。

 

※2 オープンパス計測(Open-path measurement)
光を空間に伝搬し、その途中に存在する物質による光の吸収などを測定する方法。測定対象となる空気を採取する必要がないため、離れた場所の大気をその場で測定できる可能性がある。

 

※3 NALM(Nonlinear Amplifying Loop Mirror:非線形増幅ループミラー)
光ファイバーのループ構造を利用して、レーザー光のパルスを安定して発生させる技術。本研究では、環境変化に対して安定した光周波数コムを発生させるための光源として利用している。

 

※4 デュアルコム分光法(Dual-Comb Spectroscopy:DCS)
2台の光周波数コムを組み合わせて、物質が光を吸収する特性を高速・高精度に測定する分光手法。広い周波数範囲を一度に測定できるため、複数の分子成分を含むガスなどの分析への応用が期待されている。

 

※5 光ヘテロダイン干渉法
周波数が異なる2つの光を重ね合わせて「うなり(ビート)」を発生させ、その電気信号から高精度な位相や周波数、振幅の情報を取り出す計測手法。本研究では、光周波数コムと単一波長レーザーを干渉させることで得られる信号を測定し、光周波数コムの状態や相互コヒーレンス(波の位相の揃い具合)を評価した。

 

【研究内容に関する問い合わせ先】
・龍谷大学 先端理工学部 電子情報通信課程・吉井 一倫講師 yoshii@rins.ryukoku.ac.jp

 



問い合わせ先:
龍谷大学 研究・社会実装推進部(瀬田) Tel 077-544-7294 

jim-setaken@ad.ryukoku.ac.jp 
https://www.ryukoku.ac.jp/research-innovation/