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2018.08.22

【犯罪学研究センター】研究部門長・犯罪社会学・意識調査ユニット長 インタビュー

調査結果の数字から真実や課題を探る

津島 昌弘 本学社会学部教授、犯罪学研究センター 研究部門長・「犯罪社会学・意識調査」ユニット長

津島 昌弘 本学社会学部教授、犯罪学研究センター 研究部門長・「犯罪社会学・意識調査」ユニット長

津島 昌弘(つしま まさひろ)
本学社会学部教授、犯罪学研究センター 研究部門長・「犯罪社会学・意識調査」ユニット長
<プロフィール>
専門は犯罪社会学、社会統計学。矯正・保護課程委員会の委員長を務めた経験を持つ。統計を用いた調査力には定評があり、現在は犯罪被害調査などを中心に研究を進めている。

社会調査で世の中の実態や現実を把握する
犯罪学は心理学、社会学、生物学など幅広い分野からアプローチする学際的な学問です。その中でも、犯罪は社会が産み出した問題という認識のもとで、私たちの研究ユニットが担うのが質問紙(アンケート)を用いた標本調査です。標本調査は、対象者全体から無作為に抽出した標本(調査協力者)の回答を分析して、その結果から対象者全体の傾向を統計学的に推定する手法です。

女性に対する暴力に関する調査で見えたこと
日本の犯罪統計は主として警察など公的機関が認識している事件から編纂された警察の統計に基づいています。警察統計には被害者が通報しなかったなどの理由でカウントされない犯罪は含まれていません。したがって、犯罪の発生数や経年の増減を正確に把握する目的で、警察統計を使用するのは問題があります。この問題を解決する方法として、犯罪被害に関する質問紙を用いた標本調査があります。この犯罪被害調査では、被害の有無だけでなく被害にあった際に警察に通報したかどうかも尋ねるので、通報していないケースがどの程度存在しているのかを把握することができます。警察統計に含まれないこの数字を「暗数」といいます。犯罪学を研究する際には、こうした暗数の存在を確認し、実態を把握することが大切です。
暗数を用いた研究として、私たちが2016年に実施した「女性に対する暴力に関する調査」を紹介します。この調査では、近畿地方の女性2448人を対象者として抽出し、741人から回答を得ました。その結果、17%にあたる126人が身体的な暴力や性的な暴力を受けたことがあると答えました。さらに、夫や恋人などパートナーから暴力を受けたと答えた53人にその被害を警察に通報したか尋ねたところ、通報した女性は1人もいませんでした。その一方で、パートナー以外から暴力を受けた59人のうち7人(12%)は被害を警察に通報していました。この結果から、女性が受けた暴力被害の大半、とくにパートナーから受けた暴力被害はほとんど警察統計に反映されていないことがわかります。さらに、2012年に欧州連合(EU)で行われた同様の調査では、パートナーから受けた女性の14%、パートナー以外から受けた女性の13%が被害を警察に通報していました。パートナーから受けた暴力について通報した比率は日本とEUとの間で大きな開きがあります。
日本では「家や身内の恥を知られたくない」と思う文化、国民性が作用して親密な間柄で起きた暴力は表に出にくい、と推測できます。

犯罪加害者側を調査する新たな試み
現在、35カ国のチームが参加する国際自己申告非行調査ISRD(International Self-Report Delinquency Study)という大規模国際比較調査プロジェクトがあります。1990年に始まったISRDは、非行経験に関する統一した質問紙による自己申告調査を世界各国の中学生に対して実施し、その結果を比較しようとする意欲的な国際プロジェクトです。自己申告調査は、犯罪加害者の特徴やその背景の解明、学問的な理論検証に強みを持つと言われています。さらに、先の女性に対する暴力に関する調査と同じく、国際比較によって、日本と諸外国との類似点や相違点を引き出すこともできます。しかし、日本はこれまでそのプロジェクトに参加していません。当センターが日本代表として参加することで、日本の犯罪学および龍谷大学の国際的なプレゼンスの向上が期待できます。

以上、私たちの研究ユニットでは、犯罪被害者、犯罪加害者の両サイドから非行・犯罪と密接に関連する家庭環境や社会環境の解明に努め、非行・犯罪の予測やコントロールに寄与できる研究を進めていきます。くわえて、この研究ユニットに参加する若手研究者には、自己申告非行調査の一連のプロセスを修得してもらうとともに、海外研究者との共同研究作業や国際学会での成果報告などを通じて、国際的感覚を体験的に身につけてもらいます。このように、これからの日本の犯罪学を担っていく人材の育成にも務めていきます。