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2018.12.03

第4回 龍谷犯罪学セミナー(Ryukoku Criminology in English)レポート【犯罪学研究センター】

日本における違法薬物の使用とその規制

龍谷大学 犯罪学研究センターは、犯罪予防と対人支援を基軸とする「龍谷・犯罪学」を構築し、日本国内だけでなく、広く世界にアピールしていくことを目標に掲げています。
このたび、現在までの研究成果を踏まえて英語でのトライアル授業を10月13日(土)より8日程(全15コマ)にわたって開催しています。
この授業は、欧米諸国では「犯罪学部」として学問分野が確立されている領域を、世界で最も安心・安全とされる日本社会の中で独自に捉え直す試みで、新たなグローバル・スタンダードとしての「龍谷・犯罪学」を目指して、全回英語で実施しています。
龍谷犯罪学セミナー(Ryukoku Criminology in English)【>>実施詳細】

2018年11月10日(土曜)、本学深草学舎至心館1階にて、第4回「Ryukoku Criminology in English –Let’s study the Criminal Justice System in the secure and safe society-」を開催しました。講師は犯罪学研究センター博士研究員のディビッド・ブルースター氏で、テーマは「Illegal Drug Use and its Control in Japan」で、日本における違法薬物の使用とその規制に関する講義が行われました。

基本情報:
Ryukoku Criminology in English –Let’s study the Criminal Justice System in the secure and safe society-
Nov 10th (Sat) <2 lectures (13:15-14:45/15:00-16:30)>
David Brewster (Postdoctoral Researcher of Criminology Research Center)
“Illegal Drug Use and its Control in Japan”


犯罪学研究センター ディビッド・ブルースター博士研究員

犯罪学研究センター ディビッド・ブルースター博士研究員


ディビッド氏はイギリスのカーディフ大学出身で、博士論文のテーマは「イギリス・オランダの薬物政策の比較」です。研究を進める中で、社会学や犯罪学の研究者から「日本は面白い国だ」と耳にする機会が増えてきたそうです。
現在、世界的な潮流として違法薬物に対する厳しい規制を伴うような政策はあまり取られておらず、新たな薬物政策として違法薬物使用者に対して寛容なハームリダクション(harm reduction)や治療に向けた方向への転換が図られています。その背景には、主要先進国では法的な規制では対処しきれないほど違法薬物の使用が進んでいる事情があります。一方、日本では違法薬物の使用者が世界的に見て少ないにも関わらず、違法薬物の使用者が刑事手続を経てすみやかに刑事収容施設に隔離されるなど、厳格な薬物政策が展開されています。ただし、薬物事犯の再犯率の上昇に対する懸念から、近年ようやく薬物事犯を繰り返す人たちに対する効果的な治療に関心が寄せられるようになりました。

ディビッド氏は、警察庁や法務省の資料や統計、薬物使用に関する日本国内のアンケートなどを通じた調査を進めていく中で、日本には個人の使用原因や背景に関する資料や統計があまり存在しないことに気づきました。ともすれば、家庭や学校、職場などの社会的要素がいかに個々の人生に影響を及ぼすかが軽視されているようにも感じられたのです。
そこでディビッド氏は、今回のテーマである「日本における違法薬物の使用とその規制」について理解するには、日本社会の文化的要素をふまえることが有用だと考えました。まず、「島国、米、氏族、神道、仏教、儒教、封建制度、武士道、家族制度」などのキーワードを挙げながら、日本人の起源や生い立ちについて再考しました。つづいて、ベンディクト教授やヘンデュリー教授、小宮教授、中根教授の文献(※1)を用いて、日本特有の文化背景を表す「内と外」の概念について説明を行いました。これは、「内:私・身内・家の中など」と「外:学校・企業・地域社会など」といった形で、個人と社会との関係性を示したもので、日本人は外の世界に対して強い警戒心を持ち、同時に外の集団やその集団における規範から逸脱することを極端に恐れている、とディビッド氏は指摘します。また、玄関で下足を脱ぐ日本の風習を例に挙げ、日本人は外からの汚れや穢れを内の清潔で安心な空間(家の中)に持ち込まない性質があると解釈しました。ディビッド氏は、日本人は普段から内と外を厳格に区別することで、外の世界に存在する危険なものである薬物への警戒心が非常に高いのではないかと主張しました。

こうした文化背景を持つ日本における違法薬物の使用を規制する仕組みとして、薬物乱用防止教育、法令施行(司法的アプローチ)、裁判所による判決、刑事収容施設、コミュニティベースの制御および治療の働きについて紹介されました。さらに、それぞれの制度や組織での運用の在り方に関する課題点も挙げられました。



最後に、ディビッド氏は、薬物依存から回復を試みる方々を対象にしたインタビュー内容を紹介しました。薬物依存の理由は十人十色です。その背景は複雑で、人生と同じように一人ひとり異なるストーリーがあります。薬物を使用した理由、継続使用の期間もさまざまです。中には、薬物の使用をやめた途端に再使用する人もいます。複数のインタビューを通じて、薬物依存から回復する「道程」がいかに困難であるかを再認識すると同時に、家族や社会のサポートが必要だと強く感じさせられました。


講義後でのアンケートでは「日本の文化に焦点を当ててお話しされた部分が最も面白かった」、「日本国外の研究者ならではの視点、日本の文化や気質に対する考察が興味深かった」などの感想が寄せられました。日本の薬物をとりまく問題だけでなく、日本人の原点を再考する上で非常に有意義な機会になりました。

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※1 補注:
・ルース・ベネディクト(文化人類学者・故人)
「The Chrysanthemum and the Sword: Patterns of Japanese Culture」
(邦訳:「菊と刀」)

・ジョイ・ヘンドリー(社会人類学者、オックスフォード・ブルックス大学名誉教授)
「Understanding Japanese Society(邦訳なし)」
https://www.brookes.ac.uk/templates/pages/staff.aspx?wid=staff1&op=full&uid=p0054591

・小宮信夫(犯罪学・社会学、立正大学文学部社会学科教授)
「A Cultural Study of the Low Crime Rate in Japan」
イギリス犯罪学会雑誌(British Journal of Criminology 39(3))に掲載されたもの。
http://www.nobuokomiya.com/?page=page3

・中根千枝(社会人類学者、東大名誉教授)
「Japanese Society」
「タテ社会の人間関係」を英訳したもの

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次回は12/15(土)の開催予定です。
単発での受講や一般の方の受講も可能ですので、ぜひご参加ください。
龍谷犯罪学セミナー(Ryukoku Criminology in English)【>>実施詳細】