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2019.02.03

福島 至 × 石塚 伸一 対談「実務を通して見えてきた、本学発展の大いなる可能性」【犯罪学研究センター】

現場での実務を通して感じた研究のあり方とは?

研究者であると同時に弁護士としても活躍する両名が、現場での実務を通して感じた研究のあり方とは? また、龍谷大学が全国に誇る矯正・保護総合センターの歴史と、2016年6月に発足し、同年11月に文部科学省私立大学研究ブランディング事業に採択された犯罪学研究センターの関わりについて尋ねました。


福島 至(Itaru Fukushima)本学法学部教授、矯正・保護総合センター センター長

福島 至(Itaru Fukushima)
本学法学部教授、矯正・保護総合センター センター長

福島 至(Itaru Fukushima)
本学法学部教授、矯正・保護総合センター センター長

矯正・保護総合センターのセンター長を務めながら、弁護士として刑事事件の弁護活動、また保護司としての活動にも意欲的に取り組んでいる。専門は刑事訴訟法。


石塚 伸一(Shinichi Ishizuka)本学法学部教授、犯罪学研究センター センター長

石塚 伸一(Shinichi Ishizuka)
本学法学部教授、犯罪学研究センター センター長

石塚 伸一(Shinichi Ishizuka)
本学法学部教授、犯罪学研究センター センター長・「治療法学」「法教育・法情報」ユニット長

犯罪学研究センターのセンター長を務めるほか、物質依存、暴力依存からの回復を望む人がゆるやかに繋がるネットワーク「“えんたく”(アディクション円卓会議)プロジェクト」のリーダーも務める。犯罪研究や支援・立ち直りに関するプロジェクトに日々奔走。専門は刑事学。



――おふたりは研究者でありながら弁護士として、福島先生はさらに保護司としても活動していらっしゃいます。実務家としての活動は研究でどのように活きていますか。

福島:
保護司は2003年から、弁護士としては2005年から活動を始めました。きっかけは1999年にイギリス・ブリストル大学へ留学した際に、師であったロッド・モーガン先生から「日本では、刑務所へ入る人たち、刑務所を出た人たちとどのように接触できるのか」と尋ねられ、弁護士と保護司が最適だと考えたことでした。それまで龍谷大学では教員の弁護士登録が認められていませんでしたが、2005年に法科大学院がスタートするタイミングで解禁されたので、私も弁護士資格認定制度*1を利用して登録することにしました。

石塚:
私も福島先生と同じく、法科大学院が開設された時に弁護士登録をしました。実務を始めて感じたのが、「現場は研究者にとって宝の山だ」ということです。刑事訴訟法の研究者は全員、現場を経験した方が良いと思うようになりました。

福島:
そうですね。従来の学者としての活動では、裁判の傍聴などごく一部分しか見ることができませんでしたが、弁護士や保護司の現場では勉強になることが多くあります。私の場合、罪を犯してしまった人と、逮捕から裁判までは弁護士として、保護観察・仮釈放期間には保護司として、人間関係や家庭環境を含めて連続して関わることができるのです。

石塚:
矯正・保護の取り組みについて、大学から地域へのアプローチは、時に難しいものがあります。ですが、福島先生が保護司になられてからは、地域の方とのコミュニティベースの話題をうかがう機会が増えましたね。

福島:
はい。石塚先生が現場を大切にされているように、私も保護司の研修や会合を通じて地域との関わりが増えました。罪を償った人たちの社会内処遇のあり方を考えるうえでも、地域が抱える問題を知ることは大いに活きています。



――今後の龍谷大学の発展に向けて、矯正・保護総合センターと犯罪学研究センターはどのように寄与できるでしょうか。

福島:
矯正・保護総合センターは全学の研究所の中で唯一、「矯正・保護課程」という教育プログラムを持ち、研究者や実務家、罪を犯してしまった当事者、そして受講生など、さまざまな人の輪を繋いできました。現在、多くの科目受講生が刑務官や法務教官、保護観察官になって活躍しています。2017年10月に開催した「矯正・保護課程40周年記念事業 シンポジウム」では、法務省の矯正局長や保護局長、大阪高検の検事長などにご列席いただきました。これまでの本学の実績が社会的に認められていることの表れだと思います。当センター40年の歩みは、龍谷大学の強みでもあります。

石塚:
法務省の上層部と繋がりがある刑事学研究者は、世の中に多くいるのでしょうが、本学では実務の現場にいる同窓生たちとのパイプを持っているのが特長ですよね。現場が抱える悩みや問題点を共有できることは、より実践的・生産的な提案をしていくうえで、とても意義深い。他のどの研究機関よりも、矯正・保護の実務家の本音を知っているのは龍谷大学である、と自負があります。

福島:
一方で犯罪学研究センターは、もともと矯正・保護総合センター内に開設する構想があったように、取り扱う内容に密接な関係があります。2016年11月に「文部科学省私立大学研究ブランディング事業」に採択され、広く展開していくことは非常に喜ばしいです。

石塚:
犯罪学研究センターがより自由に研究・発信できる位置づけなのは、矯正・保護総合センターが発展的な歴史を積み重ねてきたからこそです。他大学で同じような研究機関を新設したからといって、当センターほどの発信力は持てないでしょう。

福島:
我々の今後の課題は、次世代の研究者たちのためにどのような研究体制を構築し、どう展開していくか、ではないでしょうか。自由な発想、制約のない研究のための土壌をつくってあげたいですね。

石塚:
引退が視野に入ってきた我々世代には、もう怖いものはありませんものね。既成概念を破り、自由な研究のあり方を示すことが我々の役割だと思っています。例えば、これまでのように少数の研究者だけで実験・提案をするのではなく、実務家たちを巻き込んで「オールジャパン」で海外へ発信していく。そういう動きを支援したいです。

福島:
犯罪学研究センターと矯正・保護総合センターという希有な機関の発展は、龍谷大学が飛躍するためのカギを握りそうです。

石塚:
そうですね。今、世界中の大学における刑事司法分野の課題は、教育と研究――研究者・教育者の養成も含めて――が循環するシステムを確立できていないことです。しかし、龍谷大学にはその要素が揃いつつある。教育と研究の循環において、世界を牽引するパイオニアになれる可能性は高いと思います。



――おふたりの大学生時代を振り返りつつ、龍谷大学の学生に応援メッセージを。

福島:
私の時代は学生運動が盛んだったので、授業があまりなくて暇でした。ただ、当時は公害問題がクローズアップされていたこともあり、工学部で化学を学んでいた身として「このまま、公害の加害側となる企業に就職するのか?」と、進路に対する疑問が強かった。結局、卒業後は就職せずに興味があった法学の道へ進みました。


石塚:
私は検事を目指して司法試験の勉強をしていました。本音では研究者になりたかったのですが、大学入試で挫折したコンプレックスからなかなか言い出せなかった。龍大生にも、自分に自信がないために、望みを口に出せない人が多い気がします。挑戦したいことがあるなら、とにかくまず声に出して行動してみてください。踏み出すことで自分自身に変化が起きたり、幸運が降ってきたりするものですよ。

福島:
人生の先達として申し上げるなら「過ぎたことに悩まず、一晩寝たら忘れなさい」ですね。眠った後には必ず新しい朝が訪れ、人は日々生まれ変わります。矯正・保護の活動でも言えることですが、人と深く関わろうとする人間にとって、ストレスは大敵。心の中で折り合いをつけながら前に進むことが大切ですよ。


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*1 弁護士資格認定制度:
現在、司法試験に合格し、大学の法律学の教授・准教授や国会議員などに5年以上在職した者は、指定の研修を経て法務大臣の認定を受けると弁護士資格を得られる。

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