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2019.01.28

第7回 龍谷犯罪学セミナー(Ryukoku Criminology in English)レポート【犯罪学研究センター】

死刑制度と日本人、そして死刑に対する国際的潮流について

龍谷大学 犯罪学研究センターは、犯罪予防と対人支援を基軸とする「龍谷・犯罪学」を構築し、日本国内だけでなく、広く世界にアピールしていくことを目標に掲げています。
犯罪学研究センターでは、現在までの研究成果を踏まえて英語でのトライアル授業を2018年10月より2019年1月まで8日程(全15コマ)にわたって開催してきました。
この授業は、欧米諸国では「犯罪学部」として学問分野が確立されている領域を、世界で最も安心・安全とされる日本社会の中で独自に捉え直す試みで、新たなグローバル・スタンダードとしての「龍谷・犯罪学」を目指して、全回英語で実施しています。
龍谷犯罪学セミナー(Ryukoku Criminology in English)【>>実施詳細】

2019年1月12日(土曜)、本学深草キャンパス至心館1階にて、第7回「Ryukoku Criminology in English –Let’s study the Criminal Justice System in the secure and safe society-」を開催しました。講師は本学 犯罪学研究センター嘱託研究員、オーストラリア国立大学 School of Regulation and Global Governanceの佐藤 舞 准教授です。「Death Penalty」をテーマに、死刑制度と日本人、そして死刑に対する国際的潮流について紹介されました。

基本情報:
Ryukoku Criminology in English –Let’s study the Criminal Justice System in the secure and safe society-
Jan 12th (Sat) <2 lectures (13:15-14:45/15:00-16:30)>
Mai Sato (Visiting Researcher of Criminology Research Center/ Associate Professor of School of Regulation and Global Governance at The Australian National University)
“Public attitudes towards the death penalty in japan”
“Situating death penalty support within an international context”


佐藤 舞 准教授(オーストラリア国立大学)

佐藤 舞 准教授(オーストラリア国立大学)


前半では、「日本における死刑に対する国民の態度」をテーマに講義がおこなわれました。日本において、死刑が法定刑となっている罪は18あります。しかし死刑に関する情報公開はとても限定的で、いまだに多くのことが秘密のベールに包まれています。はじめに、日本において、死刑がどこで、どのような方法によって行われているのかの説明がなされました。なぜ、日本において死刑は存続しているのでしょうか。日本政府が対外的にする公式的な説明のうち、もっとも基盤となる根拠はとされているのは「世論」です。つまり国民が死刑存置を望んでいるから、死刑を廃止しないという説明です。 内閣府の世論調査は1956年から行われており、最新の調査は2014年末に行われました(註1)。このように世論を根拠として、日本が公式に自国の死刑存置の姿勢について対外的に説明してきたのは、「市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権規約、B規約、英:International Covenant on Civil and Political Rights、ICCPR)」に規定されている「生命に対する権利および死刑(同規約第6条)」について、同規約40条(b)に規定されている「国家報告制度」による場でした。国家報告制度とは、人権条約の締約国が、条約上の義務の履行状況を実施機関に報告する制度であり、5年ごとに規約人権委員会の要請に応じ報告書を出さなければなりません(註2)。2012年に日本政府が提出した「第6回報告書」においても、依然とし世論が死刑存置を支持するため、死刑廃止については慎重な姿勢をとるとしています。佐藤氏は内閣府の世論調査の結果を紹介しつつ、その調査方法が本当に国民の意識が反映されたものでものであるのか、再検討する必要があると主張します(註3)。2015年の3月から4月にかけて、「ミラー調査」という手法を用いて国民の死刑に対する意識調査の模様を記録したドキュメンタリー映画「望むのは死刑ですか 考え悩む”世論”」(註4)を上映しつつ説明をします。ここで行われたミラー調査は、内閣府が行った同様の方法論と調査対象の選定方法による意識調査を行い、そこに独自の質問を加えたり、死刑についての情報を知る機会、討議をする機会を設け、アンケート調査の結果が前後で変わるかを分析するものです。調査の結果、必ずしも日本国民が死刑存置を強く望んでいるという結果が得られず、また、政府が主導して死刑廃止の方向性にすすめば受け入れるとする割合が高いという結果がでたことから、日本は死刑廃止を受け入れる余地があり、また、政府が根拠にするほど死刑存置に強い支持基盤があるわけでもないことが明らかとなりました。このことは、国民の死刑に対する意見が実は、限定的な情報に基づいて発せられていること、誤った認識に基づいていること、心理的当事者意識が低いことが、背景にあるのではないかという事実です。



後半では、死刑を取り巻く国際的潮流が紹介されました。現在、死刑廃止している国は(106)、一般の刑法犯に対する死刑廃止が(7)、死刑執行を停止している国が(29)、死刑存置している国は(56)あります。死刑を廃止する国は増加の傾向にあり、また、この潮流がはじまりは、1948年に採択された「世界人権宣言(UDHR)」の国連主導によるものです。1966年には「市民的および政治的権利に関する国際規約(ICCPR)」、1989年の「市民的及び政治的権利に関する国際規約の第2選択議定書」などが相次いで採択され、欧州をはじめとして、基本的人権の尊重、国際人権法という立場から死刑廃止の方向性に向かっている歴史背景について説明がなされました。また、死刑を取り巻く議論について関心を呼ぶ様々な事件、そして論点についての紹介がなされました。死刑が残虐な刑罰にあたるという論点においては、2016年にアメリカのジョージア州において執行された長期拘禁された死刑囚に対する刑の執行という事例や、欧州人権裁判所が死刑存知国へ身柄を引き渡すことに対して禁止に動いたこと(Soering事件)、また、死刑存置国と思われているアメリカにおいても、イノセンスプロジェクトや刑事訴訟における適正手続きの厳格化という流れの中で死刑を執行している州が減少傾向にあることなど、様々な動向について紹介がありました。最後には、佐藤氏が立ち上げたCrimeInfoと犯罪学研究センター共催で龍谷大学で行われた「刑務所の「いま」を知る写真展」の紹介がなされました。(註5)

本講義の終了後のアンケートでは「死刑シンポジウムのドキュメンタリーを見て、改めて死刑制度の是非について考えました。日本では、死刑の議論について、あまり活発ではないので、市民が真剣に議論する場を設けることは画期的だと思いました。」という意見が寄せられ、また、死刑という難しいテーマについて、受講生の方から授業中も積極的な質問、活発な意見交換がなされ、非常に有意義な機会となりました。

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註1.https://survey.gov-online.go.jp/s31/S31-04-31-01.html(内閣府、「アンケート項目」)
   https://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-houseido/2-2.html(内閣府、「調査分析」)
註2. https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html (外務省「人権外交、国際陣形規約」
  直近の報告書は2012年に提出された「第6回報告書」であり、死刑について述べているのは、https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000023051.pdf 24頁以下を参照のこと。
 「(2)死刑存廃等についての考え方 104.死刑の存廃については、基本的には、各国において、当該国の国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を踏まえて慎重に検討し、独自に決定すべきものと考えている。我が国では、死刑の存廃は、我が国の刑事司法制度の根幹にかかわる重要な問題であるから、国民世論に十分配慮しつつ、社会における正義の実現等種々の観点から慎重に検討すべき問題と考えている。我が国として、現時点では、国民世論の多数が極めて悪質、凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えていること(2009年11月から12月に実施された最新の世論調査では、85.6%が「場合によっては死刑もやむを得ない」と回答している。)、凶悪犯罪がいまだ後を絶たない状況等にかんがみれば、その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者に対しては、死刑を科することもやむを得ず、直ちに、死刑を廃止することは適当でないと考えている。」(第6回報告書より引用)
註3.佐藤舞、ポール・ベーコン『世論という神話⁻日本はなぜ、死刑を存置するのか』
  CrimeInfo:https://www.crimeinfo.jp/ において、上記文献の無料閲覧のリンクあり
註4.CrimeInfo:https://www.crimeinfo.jp/seek-the-death-penalty/ 参照
註5.https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-3031.html 参照