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2018.03.31

龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第12号を発行【犯罪学研究センター】

日本におけるエビデンスに基づいた犯罪対策の確立を目指して

龍谷大学 犯罪学研究センター(Criminology Research Center)では、犯罪をめぐる多様な〈知〉の融合と体系化を目的とし、現在14のユニットでの研究活動が行われています。
研究ユニットの1つである「政策評価」ユニットでは、浜井 浩一 ユニット長(本学法学部教授)のもと、犯罪学(犯罪防止)における科学的エビデンスの構築と共有を目的として、2000年に国際研究プロジェクトとして始まったキャンベル共同計画(Campbell Collaboration: C2)に協力した政策評価研究が行われています。

このたび犯罪学研究センター「政策評価」ユニットの2017年度の活動成果物として、龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第12号を発行しました。
同時に 犯罪学研究センターのウェブサイトでもPDFデータを公開いたします。
<掲載コンテンツ>
1. 少年の公的システムによる措置:非行への効果
2. 街路レベル薬物法執行:メタ分析のレビュー


今回のレビューを通じて、エビデンスについて考える機会や成果を活用する機会が増える一助となることを期待しています。


「キャンベル共同計画(Campbell Collabolation: C2)」は、社会、行動、教育の分野における介入の効果に関して、人々が正しい情報に基づいた判断を行うための援助することを目的する国際的な非営利団体です。

「キャンベル共同計画(Campbell Collabolation: C2)」は、社会、行動、教育の分野における介入の効果に関して、人々が正しい情報に基づいた判断を行うための援助することを目的する国際的な非営利団体です。


龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第12号

龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第12号

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【PDFデータ】龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第12号

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はしがき

2016年6月、龍谷大学は、「龍谷・犯罪学」を構築し、日本国内だけでなく、広く世界に海外にアピールすることを目指し、犯罪学研究センターを開設し、同センターは文部科学省私立大学研究ブランディング事業に採択された。これまで、『Ryukoku-Campbell Series』は、龍谷大学矯正・保護総合センターの研究プロジェクトの一つとして第11号まで発刊してきたが、その研究内容に鑑み、今後は、政策評価に関する研究プロジェクトの活動として犯罪学研究センターが引継ぐこととなった。
このプロジェクトの目的の一つは、刑事政策を含む社会政策に関する国際的な評価研究プロジェクトであるキャンベル共同計画(Campbell Collaboration)と協力し、その成果を広く公表することにある。キャンベル共同計画は、社会政策の中で「何が(科学的に)効果があるのか」についてのエビデンスを集め、評価し、広めることを目的としている。龍谷大学では、これまでもキャンベル共同計画の日本代表である静岡県立大学の津富宏教授と協力し、キャンベル共同計画の成果の中でも矯正・保護、つまり犯罪者処遇に関するエビデンスを中心に、評価報告書であるレビューの翻訳やウェッブサイトでの公表に協力してきた。今後は、犯罪学研究センターの開設を契機として、キャンベル共同計画の日本語版ホームページの運用を含め更に連携を強化することとなった。そして、政策決定者、実務家、研究者に対して、その成果をより身近なものとして活用してもらうために発刊してきたブックレット『Ryukoku-Campbell Series』についても、犯罪者処遇だけでなくより幅広い犯罪対策をカバーして発刊する予定である。第12号に掲載するレビューとして選んだのは、「少年の公的システムによる措置――非行への影響」と「街路レベル薬物法執行」との二本である。前者は、伝統的な少年司法システムによる非行少年に対する公的な措置の再犯防止効果をみたもので、後者は、ストリートレベルでの薬物関連問題の解決に対する警察のアプローチの違いによる効果をみたものである。どちらも日本の刑事政策を考える上でとても重要な示唆を含んだ内容となっており、ぜひご一読願いたい。
各レビューのポイントを簡単に紹介する。
一つ目は、「少年の公的システムによる措置――非行への影響」である。これは、少年司法による公的な措置が再犯防止に効果があるかどうかを検証したものである。レビューの対象のほとんどが米国の少年司法による公的措置である。結論から言うと、公的な措置に効果はないとなっている。ただし、このレビューの結論は、その読み方に注意が必要である。レビューが比較したのは、公的な措置と治療プログラムやカウンセリング等を含む(司法からの)ダイバージョンであり、刑事処分ではない。つまり、保護観察や社会奉仕命令などを含むと思われる少年裁判所等による公的な措置よりも、非公式な(プログラムを含む)対応のほうが効果的であると結論づけているのである。刑事司法と比較して、少年司法による保護処分は効果がないといっているわけでは決してない。むしろ、本レビューは、司法機関による公的な措置は、ラベリング論のレマートが指摘したような二次的逸脱によって再犯を助長する可能性があり、より非公式な介入が望ましいと解釈すべきであろう。レビューの著者らも費用対効果の点からも、公的な措置よりもダイバージョンを推奨している。
二つ目は、「街路レベル薬物法執行」である。このレビューは、薬物関係の問題を減らすために、問題解決型警察活動アプローチ、地域社会型警察活動アプローチ又は事案多発地点に対する法執行アプローチのいずれがより効果的であるかを検討したものである。結論から言うと、薬物関係の緊急通報や薬物事案を減らすには、問題解決型警察活動アプローチや地域社会型警察活動アプローチが、事案多発地点に対する法執行アプローチ(警察による一斉検挙など法執行機関のみによる対応)よりも効果的であり、薬物以外の問題については、地域社会型警察活動アプローチは、薬物犯罪多発地点のみを対象にする警察活動よりも、秩序びん乱などを削減する傾向がみられた。薬物の密売などストリートレベルでの薬物問題に対しては、問題多発地域など地理的目標を定め、警察と第三者間での協力関係を構築する問題解決型の警察活動が、地域全体に分散してしまう警察活動よりも、効果的であることがわかった。問題解決型警察活動とは、たとえば、警察が市の検査官、企業、地域住民と連携して、問題多発地域又は建物を閉鎖し、続いて薬物犯罪多発地点で手入れと集中パトロールなどを行う試みである。地域を巻き込んで麻薬の取引に利用されやすい地域環境を浄化しつつ、警察がパトロールなどの介入を行うのである。ここで重要なことは、ストリートレベルの犯罪問題を解決するためには、警察による力任せの対策よりも、地域(市当局、学校、消防、公衆衛生や住民)とのパートナーシップを利用して、良好な警察-市民関係を構築しつつ問題を解決することが、実効性があるということである。
これら二つのレビューに共通しているのは、少年非行や薬物などの犯罪問題は、司法機関による公的な介入では解決せず、地域等を巻き込んだ非公式な取組みが不可欠であるということである。犯罪は、地域社会の中で発生する。地域を巻き込むことなく、個の犯罪や犯罪者のみをターゲットとした刑事司法の取り組みは、犯罪対策として効果的ではないということである。
これまでのブックレットで津富宏教授が記しているように、キャンベル共同計画の成果であるレビューは、これまでの研究を概観するような単なるレビュー(ナラティブ・レビュー)ではない。疫学の基本的な考え方にのっとり、レビューの計画段階から、対象やその方法が適切であるかの審査を経て、更に、メタ分析の方法など、レビューそのものが、系統的レビューとして適切であるかどうかの審査を経た上で公表される。読者には、この二つのレビューを単なる学術誌の論文の一つとしてではなく、膨大な時間と手間隙をかけた、現時点で最良のエビデンスであることを理解した上で、じっくりと読み、その成果を活用する方法を考えていただきたい。

龍谷大学犯罪学研究センター 政策評価ユニット長 浜井浩一