2019.04.06
犯罪学研究センター 中間報告会レポート【後編】
「龍谷・犯罪学」構築に向けたシンポジウムを実施
2019年3月16日、龍谷大学 犯罪学研究センターは「犯罪学研究センター 中間報告会」を、本学深草キャンパス紫光館で開催しました。
当日は午前と午後の部に分けて行い、午前の部では研究部門の活動状況について発表、午後の部では、教育部門・国際部門の活動総括と「龍谷・犯罪学」構築に向けたシンポジウムを開催しました。後編レポートでは、シンポジウムのようすを紹介します。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-3235.html
【中間報告会 前編レポート>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-3397.html
シンポジウムの冒頭、石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)が趣旨説明を行いました。シンポジウム第一部では「世界の犯罪学教育」と題して、日本・アメリカ・イギリスの3カ国の犯罪学・刑事政策教育の状況を若手研究者が報告し、第二部では「“龍谷・犯罪学”構想」と題して、本学独自の犯罪学・刑事政策教育の方向性について国際部門長の浜井 浩一教授、センター長の石塚 伸一教授の2名が発表しました。
第一部「世界の犯罪学教育」では、相澤 育郎氏(犯罪学研究センター 嘱託研究員)が日本の犯罪学・刑事政策教育の状況を、丸山 泰弘氏(犯罪学研究センター 嘱託研究員)が現在留学中のアメリカの状況を、ディビッド・ブルースター氏(犯罪学研究センター 博士研究員)が出身校であるカーディフ大学を含むイギリスの状況を報告しました。
すでに大学や大学院において「犯罪学」に関する学部や研究科が独立して存在し、さまざまな社会的ニーズに応える人材を多数輩出するなど学問的発展が著しいアメリカやイギリスの状況を、丸山氏やディビッド氏はそれぞれの体験をもとに紹介しました。これに対して日本の状況を説明した相澤氏は、「私にとって犯罪学との最初の出会いは、龍谷大学法学部在学時代に受講した“矯正・保護課程”だった。現役の保護観察官や幹部経験者による授業はとても興味深く、それまで自分が抱いていた犯罪者や非行少年のイメージが大きく覆されたことを記憶している」と犯罪学との出会いから研究者としての現在に至る経歴を紹介しました。そして、日本の犯罪学の状況について「社会学を中心としたアメリカ流の犯罪学の発展と日本とは異なる。日本の場合、法学部であれば刑事政策学や刑事学、社会学部であれば犯罪社会学、心理学部では犯罪心理学、医学部では法医学や犯罪精神医学といった形で、それぞれが相対的に独立して研究や教育を進めてきたため、相互理解はそれほど進んでいないようにも思う」と問題点を挙げ、「仮に日本で犯罪学部ができるならば、多様な分野の研究者が集い、相互の知見を補完し合うような総合的な学部になるのではないか。それは研究の面でも教育の面でも面白い試みになるはずだ」と期待を込めて報告を終えました。
【関連記事>>】ディビッド・ブルースター × 相澤 育郎 対談「日本における犯罪学教育と若手研究者の現状」
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-3106.html
第一部の若手研究者による報告を受け、第二部では「龍谷大学の犯罪学・刑事政策教育」について、浜井 浩一教授(本学法学部・犯罪学研究センター 国際部門長)が発表しました。
浜井教授は「犯罪学は、社会問題としての犯罪が深刻かつ刑罰政策が重視されている国ほど発展する。統計的にも世界の中で最も犯罪の認知件数が少なく、安心・安全とされる日本は、犯罪学のマーケットが小さい。もちろん、犯罪が少ないこと、つまり犯罪対策に成功している要因やメカニズムを内外にアピールする意義はある。ただし、出口(就職先)を意識した教育が必要だ」と、「龍谷・犯罪学」の方向性を示唆しました。
その上で、センターが提唱してきた“人にやさしい犯罪学”に立ち返り、「いま、政府をあげて再犯防止に取り組んでいるが、問題は犯罪者の更生に限ったことではない。被害者の立ち直りや薬物依存からの回復など、各々の困った状況に陥った原因が何であれ、人が何か困った状況から回復するプロセスやメカニズムに着目すると、社会復帰のために必要な要素には万人に共通するものがあることが分かるはずだ」と述べました。また、浜井教授自身の海外での講演や交流の中で、罪をおかした人たちの社会復帰を手助けする日本の「更生保護」とりわけ「保護司制度」に強い関心が寄せられたことを例に挙げ、「今後の犯罪学教育を考える上で、レジリエンス*1に近しい石塚教授の掲げる概念“つまずきからの回復”に注目することが必要ではないか」と提議しました。
ついで、石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)が「提案 龍谷大学犯罪学・刑事政策カリキュラム~もし、犯罪学部・研究科ができるなら~」と題して、本学独自のプランを発表しました。
石塚教授は、新時代の犯罪学部・研究科におけるプログラムの内容や留学生の受入制度について構想を述べ、犯罪学に関する資格認定制度の必要性にも触れました。また、大学教育における資格認定制度の一例として「地域公共政策士」*2を挙げ、同資格取得に向けたプログラムは龍谷大学政策学部・政策学研究科でも実施されていると紹介しました。
そして、教育拠点に関して「日本には、犯罪学に関するネットワーク構築が必要である。つまり、国内の他大学や学会、社会組織が連携して共同研究の機会を創出すること。それだけでなく、龍谷大学と海外の大学で学術協定を結び、学生や若手研究者の交流を通じて国際的な研究の環境や機会を広げることが肝要である」と、新たな視座を示して発表を終えました。
さいごに当日参加した研究者や実務家より講評をいただきました。日本独自の犯罪学や犯罪対策の在り方に関して多様な知見が寄せられ、データ分析スキルや多様な分野の素養の必要性、国際化や官学交流などさまざまな事柄について参加者からも積極的な意見表明があり議論が活発におこなわれました。
今回の中間報告会は、当センターのこれまでの活動を振り返り、日本でも稀有な犯罪学について検討を重ねる非常に有意義な機会となりました。
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【補注】
*1 レジリエンス:
「レジリエンス」(英:Resilience)は、一般的に「復元力、回復力、弾力」などと訳される言葉。近年は特に「困難な状況にもかかわらず、しなやかに適応して生き延びる力」という心理学的な意味で使われるケースが増えている。
*2 地域公共政策士:
「地域公共政策士」(英:Certified Manager of Public Policy)は、一般財団法人地域公共人材開発機構が認証する公共政策大学院や地方公共団体、特定非営利活動法人等の資格教育プログラムを受講し、地域の公共政策の分野において有為な人材に付与される民間資格。
現在は、龍谷大学、京都大学、京都府立大学、京都産業大学、京都橘大学、同志社大学、佛教大学、京都文教大学、福知山公立大学の学部・大学院で実施されている。
http://www.colpu.org