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2019.08.01

世界で初めて実証 花の閉じる速度に花粉が影響していることを解明 カンサイタンポポで

【本件のポイント】
・カンサイタンポポが受粉に応じて花序(いわゆる花)を閉じることを発見
・花序が閉じる速度に、受粉する花粉が影響を与えていることを世界で初めて実証
・植物の繁殖に関わる性質の進化の理解につながると期待

 龍谷大学食と農の総合研究所博士研究員の京極大助研究員(日本学術振興会特別研究員PD[2016~2018年度])は、片岡由太郎(龍谷大学4年〔2017年度〕)、近藤倫生教授(東北大学)らとの2016年からの共同研究により、カンサイタンポポ(2倍体有性生殖種*1)において、(1)花序*2が受粉によって閉じること、(2)花序を閉じるという「行動」が花粉の受け手だけでなく花粉自身からの影響も受けていることを明らかにしました。この結果は植物の繁殖にかかわる性質の進化を理解することにつながると期待されます。

 本研究成果は、2019年8月6日(火)(日本時間午前3時00 分)に国際専門誌「Evolutionary Ecology」誌で公開されます。


授粉していないタンポポ(左)と、授粉したタンポポ(右)。同日同時刻に撮影。

【研究の背景】
 生物の繁殖においてオスとメスの利害が一致しないことは珍しくありません。例えばライオンのオスは他のオスの子を育てているメスに交尾を受け入れさせるために、その子を殺してしまうことが知られています。このオスは交尾をして自身の子孫を増やすことができますが、自分の子を殺されるメスは不利益を被ることになります。こうしたオス・メスの利害対立は、植物でも生じる可能性があります。めしべに異なる個体由来の花粉がたくさん受粉すると、受精の機会をめぐってお互いに花粉は競争をすることになります。もし最初にやってきた花粉がすぐに受粉先の花を閉じさせることができれば、後からやってくるライバル花粉を排除できるかもしれません。また花が閉じることでめしべに受粉する花粉が少なくなると、メス親が生産する卵細胞のうち一部だけしか受精せず、少数の種子しか実らないかもしれません。これによって少数の種子が母親からの栄養供給を独占できれば、その種子の発芽後の生存率が高くなる可能性があり、種子の父親にとっては好ましい結果となります。いっぽう、メス親からすると本来生産できる種子よりも少ない数の種子しか生産できないことになってしまうため、メス親は不利益を被るかもしれません。このように花が閉じるタイミングに関してオス親とメス親で利害が一致するとは限らず、オス親(花粉)がメス親の花を強制的に閉じさせるような性質が進化するかもしれません。こうした可能性が理論的には予測されているものの、花粉(オス親)がその受け手(メス親)の花の行動を変化させられるかどうかは分かっていませんでした。

【研究の詳しい内容】
 タンポポの花序は多数の小花から成ります(図2参照)。それぞれの小花にはめしべが1つあり、めしべを取り囲むように筒状のおしべがあり、さらにその外側に花弁があります。めしべの根元には子房に包まれた胚珠がひとつあり、ひとつの小花からひとつの種子ができます。花序は夜のあいだは閉じていて、朝日を浴びると開き、夕方ごろまでに再び閉じます。花序は2~3日のあいだ開閉を繰り返します。カンサイタンポポは自家不和合*3なため、種子を生産するには他の個体の花粉が必要です。ある小花のめしべにたどり着いた花粉は、花序全体を閉じさせることでライバル花粉を排除できるかもしれません。しかし早く花序が閉じてしまうと、他の小花は受粉されないままになってしまう可能性があります。つまり、花序が閉じるタイミングに関してタンポポではオス親とメス親の利害が対立しているかもしれません。


図2.タンポポの花序と小花の模式図。小花が集合して花序を形成する。

 網掛けして昆虫による受粉を防いだタンポポに他の個体の花粉を授粉したところ、授粉しなかったタンポポよりも早く花序が閉じることが分かりました(図1)。午前11時ごろに受粉をすると、早いものではお昼過ぎには花序を閉じてしまいます。また、この効果は花序に含まれる小花のうち一部のみに授粉しても認められました。つまり、受粉されていない小花があっても花序が閉じてしまうということです。さらに、授粉されずに開いたままになっている花序に15時ごろに授粉をすると、種子が形成されました。つまり、15時ごろになってもめしべは生理的には花粉を受け入れることができるということです。したがって、授粉した花序がすぐに閉じてしまうのはめしべの受容性が失われたからではないと考えられます。

 しかし、この結果だけでは花粉を受け取ったメス親と花粉を出したオス親のどちらが花序の閉じるタイミングを決めているのかは分かりません。そこで、様々な組み合わせのオス親とメス親の間で受粉実験を行い、オス親・メス親それぞれの効果を調べてみました。具体的には、滋賀県・大阪府・岡山県の3地点からタンポポを採集して鉢植えにして、産地間での授粉実験を行いました。オスとメスの利害対立に関係した性質は、同じ種の中であっても地域ごとに異なる方向に進化すると考えられています。もし花粉が受け手の花序閉じ行動に影響を与えるなら、その効果は生息場所ごとに異なる可能性があります。実験の結果、花序が閉じるタイミングは、どの土地由来のタンポポが生産した花粉を授粉したかによって異なりました。たとえば大阪産のタンポポが生産する花粉は、受け手の花序を早く閉じさせる傾向が見られました。このほかに、花序が閉じるタイミングには花粉の受け手、および出し手と受け手の組み合わせが影響していることも明らかになりました。今回の結果は、受け取る花粉の由来によってメス親が花粉を受け入れられなくなるまでの時間が変化することを示した世界で初めてのものです。 

 花粉が受け手の花序閉じ行動に影響を与えるという結果は、メス親の行動を都合のいいように操作するような性質をもった花粉が進化する可能性を示唆します*4。しかし今回の研究では、花序を閉じるタイミングがオス親・メス親それぞれの種子生産にどう影響するのかまで明らかにすることはできませんでした。今後は花序を閉じるという行動が種子生産に与える影響を明らかにしていきたいと考えています。

【脚注】
*1 タンポポの仲間には単為生殖をおこなう倍数性の種もいますが、カンサイタンポポは二倍体有性生殖です。
*2 一般にタンポポの「花」と呼ばれるもの。厳密にはタンポポの花(小花)はめしべ1本のみからなる数ミリメートルほどの小さなもので、これが多数集まって花序(頭花とも)を形成している。図2も参照。
*3 自家不和合:同じ個体由来の花粉と卵細胞では種子を生産できないこと。種子生産には他の個体由来の花粉が必要。
*4 ただしこれは花粉やその生産個体に意思がある、という意味ではありません。

【助成金】
本研究は日本学術振興会からの補助を受けて行われました。
科学研究費助成金 特別研究員奨励費 16J03061 (研究代表者:京極大助)

【論文情報】
タイトル
“Who determines the timing of inflorescence closure of a sexual dandelion? Pollen donors versus recipients”
DOI: 10.1007/s10682-019-10000-9
著者:Daisuke Kyogoku, Yutaro Kataoka, Michio Kondoh
掲載誌:Evolutionary Ecology

(問い合わせ先 )
<研究に関する問い合わせ先> 
 龍谷大学 食と農の総合研究所 
      博士研究員京極大助(きょうごくだいすけ)
      研究室Tel: 077-599-5656   
      E-mail: d.kyogoku@gmail.com
<担当部局> 龍谷大学 研究部(瀬田) 担当者 石丸湖美・田中敦
            Tel:077-543-7742