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2019.09.09

2019年度第2回 法情報研究会を開催【犯罪学研究センター】

龍谷大学社研プロジェクト「未公開刑事記録の保存と公開についての綜合的研究」の概況を報告

2019年7月31日、「2019年度第2回 龍谷大学法情報研究会」を本学深草キャンパス 紫光館で開催し、約20名が参加しました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-3620.html
法情報研究会は、犯罪学研究センターの「法教育・法情報ユニット」メンバーが開催しているもので、法情報の研究(法令・判例・文献等の情報データベースの開発・評価)と、法学教育における法情報の活用と教育効果に関する研究を行なっています。



今回は、龍谷大学社会科学研究所 研究プロジェクト「未公開刑事記録の保存と公開についての綜合的研究~4大逆事件関連記録の発見を端緒として~」を中心に報告が行われました。
同研究プロジェクトは2018年に採択され、2019年度から3ヶ年にわたり、「大逆事件ユニット」・「團藤文庫ユニット」・「確定記録ユニット」の3つの研究ユニットを軸として研究活動を行い、それぞれのユニットにおける研究成果の報告のほか、統括事業として、史料の保存と公開の基準・ルールに関するモデル・コード案を策定することを、目標としています。


石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長)

石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長)

はじめに、石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長)が、「近年、公的機関における公文書の廃棄・改ざん等が社会の耳目を集めている。公文書の保管および公開については、従来、法学において研究が遅れていた部分である。史料がどのように保存・公開されているのかについての実態調査を進めるとともに、史料の保存と公開の基準や準則を確立した上で、未公開刑事記録の閲覧と公開を促進し、もって国民の知る権利の確立に寄与したい」と同研究プロジェクトの趣旨説明を行い、つづけて「大逆事件ユニット」の概況を報告しました。

本ユニットは、「大逆四事件」*1の調査研究を目的に掲げ、関連する刑事司法記録(判決や供述)の分析や、法理論研究を行ってきました。これらの調査研究の成果が結実し、戦前の「大逆四事件」の訴訟記録が最高裁判所に保存されていることが判明。最高裁に申請し2018年9月10日から14日にかけて訴訟記録を閲覧。現在は「大逆四事件」の一つである「幸徳事件」*2に焦点を当てて研究を進めています。
これまでの主な研究活動は、以下の通りです。
(1)最高裁判所に保存されている「大逆四事件」の訴訟記録を閲覧
(2)「幸徳事件」の判例研究。訴訟記録や判決書を参考に本件の概略と法的構造を分析
(3)裁判で使われた調書をデータ化し、供述を分析
(4)近代刑法の研究。大逆罪*3の本質を明らかにする
石塚教授は「これまで、研究が進んでこなかった『大逆四事件』を再検証することで、新たな学説を提唱できるかもしれない。研究活動を周知するために、これまでの研究成果をまとめた書籍を出版することが目標だ」と今後の展望を述べました。

つづいて、畠山 亮教授(本学法学部)が「團藤文庫ユニット」の概況を報告しました。
團藤文庫とは、日本の刑事法学界の学術発展や戦後の司法改革に寄与した團藤重光氏(1913-2012、東京大学法学部教授、最高裁判所判事)の多種多様なコレクション(書籍、資料、日記・手帳、講義ノート、原稿、写真・絵画など)です。現在、龍谷大学 矯正・保護総合センター内の貴重書庫・一般書庫において保管・保存すると共に、整理・分類が行われています。


畠山 亮教授(本学法学部)

畠山 亮教授(本学法学部)

また、2013年に発足した「團藤重光研究プロジェクト研究会」を軸に、團藤文庫の研究、團藤氏の総合的な人物研究が行われてきました。畠山教授は「團藤文庫は、刑法・刑事訴訟法の理論研究、判例研究をはじめとして、法史学や憲法学など広範な分野の研究に資するものである。また、人物研究によって明らかになった團藤氏の人権思想や法教育理念は、人権教育の柱として活用できる」とその意図を説明しました。
本ユニットは、研究成果を報告書で示すだけでなく、実際に公開授業を行い教材作成に繋げていることが特徴です。これまで、全国の大学・高等専門学校において教育活動の一環として、公開授業を実施してきました。畠山教授は「これからも公開授業などを通じて、研究で得た成果を広く普及できるように努めたい」と抱負を述べました。
【関連資料:團藤文庫研究プロジェクト>授業用教材>>】
https://rcrc.ryukoku.ac.jp/dandoubunko/material.html
【関連資料:團藤文庫研究プロジェクト>リーフレット >>】
https://rcrc.ryukoku.ac.jp/dandoubunko/pdf/leaflet.pdf


太田 宗志氏(本学法学部講師、矯正・保護総合センター嘱託研究員)

太田 宗志氏(本学法学部講師、矯正・保護総合センター嘱託研究員)

また、太田 宗志氏(本学法学部講師、矯正・保護総合センター嘱託研究員)が「團藤文庫」の成り立ちや、アーカイブズ学の見地からみた同文庫の意義や可能性について言及しました。一般的に、大学が所蔵している研究者の史料は、書籍がほとんどです。それに対し、團藤文庫は、書籍や資料のみならす、日記・手帳、講義ノート、写真・絵画などに加え、團藤氏が使用していた日用品も所蔵されています。

この点について、太田氏は「書庫というより、むしろ、博物館や資料館に等しい。多様性に満ちた文化の集合体であり、世界でも稀有な存在である。團藤氏がご活躍されていた時代の歴史や状況も把握できるので、歴史資料としても価値が高い」と團藤文庫の意義を主張しました。さらに、太田氏は「團藤文庫を所蔵するだけでなく、有益な史料を外部に公開し、研究や実務に利用してもらうことで社会貢献ができると考えている。昨今は、史料のデジタル保存にも力を入れており、今後も適切に管理しながら、本学の貴重な文化財を社会に発信できるようにしたい」と展望を述べ、報告を終えました。
【関連記事「團藤文庫研究プロジェクトについて」>>】https://rcrc.ryukoku.ac.jp/dandoubunko/



※「確定記録ユニット」については、次回「2019年度第3回 龍谷大学法情報研究会」(2019年10月中旬に開催予定)での発表を予定しています。


社研プロジェクトの発表後、犯罪学研究センター法教育・法情報ユニット」の中村 有利子氏(本学法学部教務課・ローライブラリアン)が、今年度の活動として計画中の「法教育フェスタ」の企画概要と進捗状況について報告しました。
具体的には、龍谷大学法情報研究会と京都府立図書館との共同企画として、2019年12月1日(日)に一般の方に向けた「法教育フェスタ2019 in 京都府立図書館」を計画中。子どもから大人までの誰もが、日本昔ばなしやマンガ、国際結婚など、多様な観点から法学への理解をすすめることを目的とした催しです。
イベントは詳細が決まり次第、犯罪学研究センターHPで告知します。


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【補注】
*1「大逆四事件」:
日本でこれまで、大逆罪が適用された事件の総称。1910年の幸徳事件、1923年の虎ノ門事件、1925年の朴烈事件、1932年の桜田門事件を指す。

*2「幸徳事件」:
1910年、明治天皇の暗殺を計画したとして、幸徳秋水を含む、全国の社会主義者や無政府主義者を逮捕・起訴して死刑や禁固刑判決を下した事件。

*3「大逆罪」:
大逆罪とは、天皇、三后(皇后、皇太后、太皇太后)、皇太子に対する危害行為、危害を加えようとする行為を処罰する犯罪類型。現行刑法ではかつて第73条で規定され、天皇、三后、皇太子に対する不敬行為を処罰した不敬罪などとともに「皇室に対する罪」を構成した。日本国憲法の施行にともなう1947年の刑法の一部改正により削除された。

*4 「團藤 重光(だんどう しげみつ)」:
團藤重光(1913-2012年)は、岡山県出身(出生は山口県)の法学者である。東京大学法学部の教官として戦後の日本の法学界に多大な学問的業績を残すとともに、現行刑事訴訟法の制定に深く関わった。1974年以降、最高裁判所判事に任官し、刑事裁判実務において自らの理論を実践した。1983年の退官後は、東宮職・宮内庁参与の宮中要職を歴任した。主著に『新刑事訴訟法綱要』、『刑法綱要〔総論〕〔各論〕』、『死刑廃止論』などがある。
特筆すべき点として、①終戦直後に司法省嘱託として刑事訴訟法の全面改正に尽力したこと、②最高裁判事時代に積極的に意見を表明し、多くの補足意見・反対意見を付したこと、③最高裁判事を退官したのちに「死刑廃止論」を唱え、現在の死刑存廃論議に大きな影響を及ぼしたこと、などが挙げられる。
https://rcrc.ryukoku.ac.jp/dandoubunko/dandou_s.html