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2019.10.17

第9回AIDS文化フォーラム in 京都において「アディクションと偏見、そしてコミュニティへ」を共催【犯罪学研究センター】

「つなぐ」「つながる」今、できること 〜アディクションを正しく理解する大切さ

2019年10月6日(日)、深草キャンパス和顔館地下1階にて、第9回AIDS文化フォーラムが開催され、「アディクションと偏見、そしてコミュニティへ」をテーマに、講演と課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”(*1)が行われました。(主催:AIDS文化フォーラムin京都 共催:龍谷大学犯罪学研究センターJST/RISTEX「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」領域「多様化する嗜癖・嗜虐行動からの回復を支援するネットワークの構築」ATA-net

AIDS文化フォーラムは、1994年に横浜で開催された「第10回国際エイズ会議」をきっかけに発足しました。以降、全国各地でHIV/AIDSに取り組む団体・個人の発表・交流の場として、また、多くの市民、特に若者に向けた啓発の場として定着しています。
また、欧米では多くの国が「ハーム・リダクション(harm reduction)」(*2)の考えに基づく施策を導入しています。これは薬物使用に関連する公衆衛生的な諸実践の中から生まれたもので、HIV予防対策との結びつきの中で広まり、現在では薬物問題やHIV対策以外の分野にも普及しつつある社会的な支援策です。

【イベント・プログラム>>】http://hiv-kyoto.com/program/
【NEWS Release>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-4115.html



はじめに、石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長、ATA-net代表)が趣旨説明を行った上で、依存症者への偏見について紹介しました。日本では、メディアによる薬物事犯への過剰な報道やドラマでの過激な表現、民放連による啓蒙広告のキャッチコピー「覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?」などの影響から、「依存症者は危ない人だ」という偏見を持たれがちです。そのため、回復支援施設等の建設に地域の住民が反対運動をする、という光景がしばしば見られるようになりました。石塚教授は「依存症者は孤立してしまうことが1番の問題。だからこそ、回復のためには地域住民とのつながりが必要だ。ダイバーシティを認めるということが、社会への課題である」と、依存症者の問題を共有・浸透させ、何か問題が起きた時に応えることができる、社会の保水力の重要性を述べました。


石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長、ATA-net代表)

石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長、ATA-net代表)


つぎに、石塚教授による講師紹介があり、その後、田代まさし氏(日本ダルク)の講演が行われました。田代氏は曲にのせて自身の薬物依存の体験談を語り、依存症やDARC(Drug Addiction Rehabilitation Center)について説明しました。田代氏は「薬物依存者というイメージが一度でも社会に浸透してしまうと、回復後であっても周囲の人々からの疑いがエスカレートする。私はそうした偏見こそが回復を遅くしていると思う。依存症の理解は難しいものだが、回復のためには地域社会の理解が必要だ」と、依存症者と地域社会のつながりについて主張しました。そして「『笑い』を交えて講演をすることは、自分にしかできないこと。それで皆が笑顔になることが、自分の中で1番回復につながると信じています」と述べ、講演を終えました。


田代まさし氏(日本ダルク)

田代まさし氏(日本ダルク)


さいごに、同テーマで“えんたく”が行われました。“えんたく”とは、アディクション当事者(嗜癖・嗜虐行動のある人)の主体性をもとに、当事者をとりまく課題をめぐる情報をもつ多様なステークホルダーと参加者が集まり、話し合いを通じて課題を共有し(あるいは課題の解決を目指し)、緩やかなネットワークを構築していく話し合いの場を指します。センターテーブルには、石塚教授・田代氏をはじめ、金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)や木津川ダルク代表、京都ダルク代表、会場有志の方が壇上のテーブルに集まり、前半は他の参加者とともに、問題を共有しました。その中で依存症を社会に正しく理解してもらう大切さ、方法が話し合いの場に挙がりました。
石塚教授は心理学者のブルース・アレグサンダー博士による「ラットパーク実験」(*3)を用いて、「孤立した依存症者も地域社会の住人である。周りとのつながりの中で、共に生きていくということを、当事者も地域住民も理解する必要がある」と、つながりの大切さを強く主張。また金教授は、2016年に成立した障害者差別解消法・ヘイトスピーチ解消法・部落差別解消法の3つの人権に関する法律を挙げ、「地域社会からの排除を煽るような薬物依存症リハビリ施設の建設反対運動は、差別にあたる。日本はまだまだハンディキャップがある方への理解が足りない」と、ヘイトクライムの観点からの意見を述べました。


課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”のようす

課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”のようす


金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)

金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)

“えんたく”の後半、参加者は3人1組になり、「依存症者と地域社会はどうつながるべきか」ということをグループで話し合いました。参加者からは「何かを共に体験する」といった、回復している姿を見せることによって、依存者に対する偏見を払拭出来るのではという案が挙げられました。そして、新しい課題として「当事者は事実を伝え、非当事者は事実を事実として認識する」といった、情報を発信し続け、誤解されているイメージを変えていかなければならないということが挙げられました。その他にも多くの案・課題が挙げられ、石塚教授司会のもと、共有されました。
(※下記の画像は参加者から寄せられた紙の一部)



第9回AIDS文化フォーラムでは“えんたく”の他にも多くのワークショップが開催されました。アディクションについて、沢山の人と意見や思いを共有し、知見を広げることが出来る良い機会となりました。会場は学生から一般の方まで多くが集い、大盛況のうちに終了しました。



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【補注】
*1 課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”:
“えんたく”は、依存問題の解決に際してどのような問題や課題があるかの共有を目的としています。アディクション(嗜癖・嗜虐)からの回復には、当事者の主体性を尊重し、回復を支える様々な人が集まり、課題を共有し解決につなげるためのゆるやかなネットワークを構築していく話し合いの「場」が必要です。
ATA-net(代表・石塚伸一)では、この「課題共有型(課題解決指向型)円卓会議」を「えんたく」と名づけ、さまざまなアディクション問題解決に役立てることを目指しています。
https://ata-net.jp/

*2 ハーム・リダクション(harm reduction):
文字通り「被害を減らす」ことを目的とした施策。その根底として、個人の違法薬物の所持や使用を罰するだけでは使用者やコミュニティへの悪影響は減らず、問題解決にならないという考えがあります。国際的なNGO「Harm Reduction International」は、ハーム・リダクションを「薬物の使用問題において、必ずしも使用量が減ること/使用を中止することを目指すものではなく、使用による健康・社会・経済的な悪影響が減少することを目指す政策、プログラムとその実践である」と定義しています。具体的には、鎮痛剤メタドンを投与する「メタドン維持療法」や、安全な注射器の配布・交換、注射室の設置のほか、住居や医療に関する相談や手続き支援もあります。1980年代にHIVの流行が社会問題化した際「ハーム・リダクション・アプローチ」の有効性が認められ、現在欧州の多くの国が何らかの形でハーム・リダクションを薬物政策に採り入れています。

*3 ラットパーク実験:
サイモン・フレーザー大学(カナダ)の研究者ブルース・アレグサンダー博士が1980年に行った実験。アレクサンダー博士は、32匹のネズミをランダムに16匹づつ2つのグループに分け、一方のネズミは1匹づつ金網の檻に隔離され、他方は広々とした場所に雌雄一緒に入れました。この両方のネズミにふつうの水とモルヒネ水を与え、57日間観察した結果、檻のネズミの多くが頻繁に大量のモルヒネ水を飲み、1日酩酊状態にあったとされています。それに対し、楽園ネズミの多くは他のネズミと遊ぶことに夢中で、なかなかモルヒネ水を飲みませんでした。以上の実験より、薬物中毒は外部的要因(生活環境)が原因で引き起こされるということがわかっています。

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