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2019.11.13

円卓会議「“コップの縁(ふち)から支える刑事司法”」を開催【犯罪学研究センター協力】

“えんたく”で繋がる人の「縁(えん)」

2019年11月3日(日)、深草キャンパス紫光館4階法廷教室にて、「“コップの縁(ふち)から支える刑事司法”」をテーマに、課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”*1が行われました。学生や一般の方など、約50名が参加しました。
(主催:JST/RISTEX(社会技術研究開発事業)「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」領域「多様化する嗜癖・嗜虐行動からの回復を支援するネットワークの構築」ATA-net(代表・石塚伸一)|龍谷大学法学部 石塚伸一研究室 ATA-net事務局|龍谷大学ATA-net研究センター 共催:APS研究会|NPO法人マザーハウス 協力:犯罪学研究センター

【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-4259.html



刑事事件は、「加害者」と呼ばれる者とその関係者だけでなく、「被害者」にとっても、そして、無実なのに「加害者」とされた冤罪被害者にとっても、深い闇の底で強烈な渦に巻き込まれるような過酷な経験です。本来、刑事裁判は、これらの人びとにとっての「解決」や「救済」、すなわちトンネルを抜け出た先に光さす未来をもたらすものでなければならないはずです。しかし、現実の刑事裁判をめぐる制度はそのような機能を十分に果たすことができていません。
この「深いコップの中の嵐」の渦中にいる人びとを、「コップの縁」、すなわち制度の外縁部分からまなざしを注ぎ、ともに歩み、支えている人たちがいます。「コップの縁」で生きる人たちは、さまざまな立場で、さまざまな渦中の人とかかわり、日々の奮闘の中でときに歓喜し、ときに苦悩します。その姿そのものが、刑事司法をめぐる法や制度に課題を突きつけ、示唆を与えるのです。
「コップの縁」から中心を覗き、この国の刑事司法を考える場として、本シンポジウムは開催されました。

石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長、ATA-net代表)による開会の挨拶につづいて、鴨志田祐美氏(弁護士)が企画の趣旨説明を行いました。鴨志田氏は、自身が携わっている大崎事件*2の再審請求の体験談を用いながら「弁護活動で挫けそうになったとき、私や依頼人を支えてくれたのが『コップの縁』の人たちだった。本イベントで『コップの縁』の人たちが一同に介して話し合うことで、新しい『化学反応』を生み出すことが狙いである」と述べました。


石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長、ATA-net代表)

石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長、ATA-net代表)


鴨志田祐美氏(弁護士)

鴨志田祐美氏(弁護士)

“えんたく”のセンターテーブルには、鴨志田氏をはじめ、司会の森久智江教授(立命館大学法学部・本学犯罪学研究センター嘱託研究員)、阿部恭子氏(特定非営利活動法人 WorldOpenHeart代表)、五十嵐弘志氏(特定非営利活動法人マザーハウス 理事長)、山口由美子氏(西鉄バスジャック事件*3 被害者/不登校を考える親の会『ほっとケーキ』代表)、中本忠子氏(特定非営利活動法人「食べて語ろう会」理事長/元保護司)、が集まりました。はじめに、「『コップの縁』で生きる人たちを支える活動」と題し、登壇者がこれまでの活動報告を行いました。
登壇者が、団体や法人を立ち上げた経緯には共通点がありました。それは、自分の人生で巡り合った出来事から学んだこと得たこと、それらを大多数の人に還元し、力になりたいという想いです。また、活動を続けていくうえで、経済的な問題を抱えつつも「人脈」や「絆」などお金では得られない財産が何よりの支えになることを伝えました。


小休憩を挟み、登壇者とフロア参加者による意見交換が行われました。
この日の “えんたく”では、「刑事事件の加害者を生み出さない取り組み」、「被害者家族・加害者家族の支援の在り方」、「刑務所に対する理解の輪を広げる」がテーマに挙がりました。
人は誰しも生きづらさを抱えています。小さな問題やストレスの積み重ねで、刑事事件の加害者になってしまうことがあります。事件が発生すれば、被害者や被害者家族はもちろんのこと、加害者家族もが大きな困難を抱えて生きていかなればなりません。阿部氏、山口氏は自らが実践してきたことを交えながら、事件によって悩みを抱えた人に寄り添うこと、同じ悩みを抱えた人同士で問題を共有する大切さを説きました。


阿部恭子氏(特定非営利活動法人 WorldOpenHeart代表)

阿部恭子氏(特定非営利活動法人 WorldOpenHeart代表)

山口由美子氏(西鉄バスジャック事件 被害者/不登校を考える親の会『ほっとケーキ』代表)

山口由美子氏(西鉄バスジャック事件 被害者/不登校を考える親の会『ほっとケーキ』代表)

また加害者は、刑事手続きを終えたあと刑務所に服役します。刑務所のなかのことを我々はどれほど理解しているのでしょうか?私たちは、受刑者の生活や受刑者が事件を起こした背景に思いを巡らすことはほとんどありません。中本氏は、受刑者への賞与金(刑務作業をすることで支払われる賃金)が適切に支給されていないこと、等級によって受刑者が手紙を外部(家族や関係者など)に郵送できる回数に限りがあることを指摘。刑務所の現状を報告したうえで、受刑者への待遇改善を求めました。これを受け、五十嵐は刑務所のなかと社会の間に隔たりがあることを課題に挙げました。社会が刑務所に関心を向けることに加え、刑事事件の当事者である受刑者の声(刑務所での待遇、事件の背景、更生への想いなど)を社会に広げる機会を作ることを要望しました。


中本忠子氏(特定非営利活動法人「食べて語ろう会」理事長/元保護司)

中本忠子氏(特定非営利活動法人「食べて語ろう会」理事長/元保護司)


五十嵐弘志氏(特定非営利活動法人マザーハウス 理事長)

五十嵐弘志氏(特定非営利活動法人マザーハウス 理事長)

これらの話し合いを通じ、「一連の刑事事件を他人事ではなく、我が事として捉えることの大切さ」に関するコメントがフロアから寄せられました。鴨志田氏は、情報を発信する側に働きかけ、情報の受け手に共感を得られる媒体づくりをしてきたことを紹介。さらに、「日常生活の場でこのように語り合う場を作り続けることが、我が事として捉えることに繋がる」と参加者に呼びかけました。

“えんたく”の結びに、森久教授は「透明なコップの中(=刑事司法)は、見ようと思えば見える。しかし、人はなかなか中を見ないし、他人事のように外から眺めてしまいがちだ。だからこそ、今後も“えんたく”を通じ、刑事司法を考える場、人と人同士が繋がる機会を作っていきたい」と抱負を述べました。


森久智江教授(立命館大学法学部・本学犯罪学研究センター嘱託研究員)

森久智江教授(立命館大学法学部・本学犯罪学研究センター嘱託研究員)


さいごに、五十嵐氏、石塚教授による閉会の挨拶が行われました。五十嵐氏は「皆さんの発言や力がマザーハウスや受刑者の大きな励みになる」と述べました。石塚教授は「縁(ふち)は、縁(えん)とも読みます。今日、ここで出会った縁(えん)を大切にし、これから一緒に様々な問題を考えていきましょう」と締めくくりました。

今回の催しは、コップの中(刑事司法)の問題を共有することに加え、人の「縁」が繋がりあう有意義な機会となりました。

(※下記の画像は”えんたく”で述べられた意見や発言のまとめ)



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【補注】
*1 課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”:
“えんたく”は、依存問題の解決に際してどのような問題や課題があるかの共有を目的としている。アディクション(嗜癖・嗜虐)からの回復には、当事者の主体性を尊重し、回復を支える様々な人が集まり、課題を共有し解決につなげるためのゆるやかなネットワークを構築していく話し合いの「場」が欠かせない。ATA-net(代表・石塚伸一)では、この「課題共有型(課題解決指向型)円卓会議」を「えんたく」と名づけ、さまざまなアディクション問題解決に役立てることを目指している。
https://ata-net.jp/

*2 大崎事件:
1979年10月、鹿児島県曽於郡大崎町で起こった事件。農業・Kさん(当時42歳)が自宅の牛小屋の堆肥の中から死体で発見されました。警察は、近親者の犯行として、Kさんの兄・その妻の原口アヤ子さんら4名を逮捕。原口さんは無実を訴えたものの、裁判で有罪とされ、10年間服役した後に再審(裁判のやり直し)を請求した。2019年6月、第3次請求審が、裁判官5人の全員一致により最高裁判所で初めて再審取り消しが決定した。

*3 西鉄バスジャック事件:
2000年5月3日に発生した当時17歳の少年によるバス乗っ取り(バスジャック)事件。乗客3人を切りつけ、2人が負傷し女性1人が死亡した。日本のバスジャック事件において、人質が死亡した初めての事件となった。