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2019.12.03

【犯罪学CaféTalk】中根 真教授(本学短期大学部・こども教育学科教授/犯罪学研究センター「保育と非行予防」ユニット長)

犯罪学研究センター(CrimRC)の研究活動に携わる研究者について、気軽に知っていただくコーナー「犯罪学CaféTalk」。研究の世界に馴染みのない方も、これから研究者を目指す学生の皆さんにも、是非読んでほしい内容です。
今回は、中根 真教授(本学短期大学部・こども教育学科教授/犯罪学研究センター保育と非行予防」ユニット長)に尋ねました。
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Q1. 中根先生の学生時代について教えてください。


「高校時代は障がい者の作業所でのボランティア活動の影響もあって、障がい児教育(現在の特別支援教育)に興味があり、教育学部への進学を希望していました。具体的には、障がいのある子どもの教育支援を学びたかったんです。しかし、志望した国立大学にはことごとく落ちました…。結果的に、龍谷大学社会学部社会福祉学科に一期生として入学しました。しかし、大学の講義を受けているうちに、先生方の話は学問的には正しいんだろうけれど、私には無味乾燥で、つまらないように感じ始めました」

「その理由は、大学入学とほぼ同時に始めたの養護老人ホーム・特別養護老人ホームでの当直員の住み込みアルバイトに関係します。業務内容は、夕方からシフトに入って面会者の対応、夜間の電話の応対や戸締りの管理を基本にしながら、時には高齢者の救急搬送の随行、霊安室での夜伽(よとぎ、ご遺体に夜通し寄り添うこと)などです。何もなければ、仮眠をとれましたが、翌朝の朝食の配膳補助、食器洗浄です。そのアルバイトを大学4年間、修士課程の3年間、計7年間やりました。そこで、高齢者や職員の方々とたくさん関わりをもったわけですが、利用者のさまざまな生き様、生老病死にまつわる悩みや悲哀、また介護職員の喜怒哀楽を垣間見ることになりました。今思えば、先生方の講義がつまらない、無味乾燥だと感じたのは、アルバイトとはいえ、福祉現場で生きた人間ドラマを日常的に見聞きしていたからでしょうね。講義にはリアルさが感じられなかった気がします。」
「アルバイトの他にもボランティア活動など、自分が面白いと思ったことには何でも挑戦しました。学部2年生の時、学生主体で講演会を企画したんです。先生の力を借りず学生だけで運営しました。その時に瀬田キャンパスにお招きしたのが、現在国会で活躍されている山井和則衆議院議員です(当時は京都ボランティア協会職員)。その後、彼から、『中根君、福祉を本気で学ぶなら北欧を一度見るべきだ。スウェーデンに来ない?』と誘っていただき、二つ返事でルンド大学に留学中の山井ご夫妻のお宅に転がり込みました。学部3年生の春休みのことです。40日間、スウェーデンとデンマークに滞在し、小学校の参観・交流やサービスハウスでのヘルパー実習、ルンド大学やベクショー大学の訪問など体験しました。若き日の山井ご夫妻と、日本の福祉と政治の行く末について、未熟な議論の相手をしていただいたのも良い思い出です。
また、旅行会社の依頼で、重度身体障がい者の海外旅行の添乗ボランティアもしました。まだリフト付きバスがない時代、バスの乗降支援などをする代わりに、参加費も無料だったので、ハワイやオーストラリアを旅しました。旅行で知り合った身体障がい者の方と親しくなり、自宅で高齢の母と暮らす生活の実態を知ることにもなりました。こうして振り返ると、私の学生生活の学びの多くは教室の外ばかりでしたね」


Q2. 研究をするうえで、学生時代の経験が役に立っていると思うときはありますか?
「社会科学や人文科学における質的な調査、例えば、インタビュー調査ではその人にしか語れない経験や体験に注目します。人それぞれ人生のリュックサックを背負っているんです。そのリュックサックの中には楽しいことも悲しいことも苦しいこともある。ですから、年齢や性別、学歴など関係なく色んな方の人生のリュックサックを見せていだくことが不可欠です。幸いにも、学生時代に色んな人に出会った経験を活かしながら、コミュニケーションを円滑に進める勘が働いているかもしれません。だからでしょうか、飲み屋のカウンターで一人で飲んでいる時も、隣のお客さんからよく声をかけられます。相手の話を聴きながら、手抜き料理や自分の子育ての話などをしています(笑)『ホンマに、大学の先生ですか?』って言われることも(笑)自分自身がふつうの生活をすること、料理をしたり、子育てで悪戦苦闘したり、そんな当たり前のことが、一般の方と同じ目線で話すポイントです。研究者の話は浮世離れしていて難しい、固いという一般のイメージをぶち壊すこと、学生時代の経験が、多様な価値観を受け入れることに繋がっているように思います」


Q3. 自身の学生時代の経験を踏まえたうえで、講義を行うとき、意識していることは何ですか?

「レジュメに書いてあるものをただ読みあげるとか、著書を教科書として買わせて読ませることはしません。私はこども教育学科の教員だから、学生に『あなたたちも、いずれ子どもたちの前に立つでしょ?目の前の子どもたちの顔や表情を見なさい』と指導しています。先ほど終えた講義も135人もの受講生がいて教室がいっぱいです。3講時なので、眠たくて寝ている学生もいます(笑)だけど、せめて起きている学生の目を見て、反応を確かめながら授業をするようにしています」


「あと心がけているのは、先生って、たくさん知っているからいっぱい教えようとしてしまう。教えたがる病を自覚すること。大学は義務教育ではないので、教え過ぎるのはまずいなと思っているんです。そこで、今は良いところで寸止めする。『ここから先は自分で調べてみよう!』と投げかけます。『それからどうなるんですか?』と学生に問われても、『それは自分で考えよう』という流れを大事にしています。そうしないと、自分で学ぼうとしなくなります。社会人になると日々自分の職場で求められている課題を解決しないといけません。何でも最初から教えてくれる人はいないんです。だから、『このテーマはこういうことだけど、実はここから先は分かっていない。誰か調べてみたい人はいますか?』と投げかけたり、『図書館でこういう本を検索して、読んでくださいね』と促したりします。このようにして、成功しているかどうかは別として、学生の『知りたい』『なんで?』など知的好奇心に火をつけようと心がけています。もちろん、自分が読んで心を揺さぶられた本はマンガも含めて、できるだけ学生に紹介しています」
「身近な題材を取り入れた授業をすることも意識しています。映画やドラマ、マンガ、絵本を教材にすることもあります。例えば、読売新聞の『人生案内』というコーナーを取りあげ、投稿者に対して、『あなたはどんなお返事を書きますか?5分以内で書いてください』と指示し、プチ・アクティブラーニングを試みることもあります」


Q4. 犯罪学研究センターでは、ユニット長として、保育と非行の関係について研究されています。幼少期の保育の在り方が、将来の非行・犯罪の予防になると考えられていますが、中根先生が考える理想の「保育」を教えてください。
「我が家の子育てが理想かどうかわかりませんが、1つの具体例ですね。子どもが3人いますが、妻と常々言っているのは、子どもに多くを求め過ぎないこと。やはり少子化に伴って、親が数少ない子どもに目をかけ、過剰な期待を押し付けてしまいがちです。それが、知らず知らずのうちに子どもへプレッシャーをかけていると思うんです。だから、わが家ではシンプルかつベーシックに、よく食べて、よく寝る。そして、たっぷり遊ぶ。こうして元気に毎日過ごすのが子どもの基本だと思うんです。私もそんな子どもでしたし。『今日は友達の誰々ちゃんと遊んだよ、先生とこんなお話をしたよ』といった会話から、子どもがこの世に生まれてきて楽しいと実感している、ワクワク感・ドキドキ感に溢れているのが理想でしょうね」
「また、子どもがやりたい!ということは、親はやらせてあげたら良いと思いますが、『転ばぬ先の杖』のように親の考えで『前もってこういうことをやっておいたら良い』と、親のやらせたいことを優先させる、先回りの育児は、その子にとって幸せかどうかは分かりません。我が家では、『何か始めたくなったら言って』と子どもに伝え、子どもの内面で機が熟するのをひたすら待ちます。例えば、長女は沖縄の離島の県立高校に留学中です。自然豊かな島で農業を学び、自給自足できる人間になりたいと家を出ました。残された弟2人には刺激の強い姉ですが、帰省した時には互いに学び合っているようです。子ども時代は誰もが一度きりです。一度きりだからこそ、たっぷり遊ぶ。これこそ、創造性の源泉ですから。子どもが『こんなことして楽しかった!』と思える体験を親は静かにみまもり、支えたいと思います。平成生まれの子どもに、昭和の子育てをしているなぁとも思いますが…」


Q5. 最後に、中根先生にとって「研究」とは?



「『雑務への怒りと反動』です…(笑)故・渡辺和子先生の名言に「この世に『雑用』という用はありません。私たちが用を雑にした時に、雑用となるだけです」があります。この名言にならえば、雑務という業務はないことになるのですが…まだ修行が足りませんね。現在、私は短期大学部長を務めていますが、学部長は何でも屋と言いましょうか、『雑務長』なんて言う人もいるくらいです。講義も担当しますし、短大ですので、保育所や福祉施設、幼稚園など実習先の巡回訪問も年間20回以上しています。加えて、学部の代表者として多くの会議に出席しなければなりません。だから、会議で拘束されている時間が非常に長い。『図書館に行って、あれを調べたい、この資料をコピーして早く見たい』という願望がありながら、目の前に図書館があるのに行けない、お預けの状態。どうしても、図書館を外から眺めるだけの日が多くなります。そういう役割なのだと割り切っていますが、それでも徐々に気持が消耗して疲れてきます…」
「だから、その我慢というか、抑圧されている間に研究したいことや知りたいことがドンドン溜まってくる。そして、その反動としての研究になっています、恥ずかしながら。『目の前の雑務が終われば研究ができるかも!』と思うと、自然と目が輝き力が湧いてきます。実際、雑務は終わらないですが(笑)同僚の先生からは、『中根先生は抑圧されるほど、良い研究アイデアが溢れ出てきますね』と言われることも(笑)そう考えると、良い意味で日常の雑務の忙しさが、私の研究意欲を搔き立てているのでしょうね。時間がない、限られているからこそ、逆に研究を何とか進めようとして、結果的に進む、成果も出るという逆説(パラドックス)を日々感じています。」

中根 真(なかねまこと)
本学短期大学部・こども教育学科教授/犯罪学研究センター保育と非行予防」ユニット長
<プロフィール>
研究分野は社会福祉学、保育学。上記ユニット研究の主な研究成果として次の学術論文がある。中根真(2019)「保育児名義貯金という家庭支援」日本保育学会『保育学研究』57(1)、中根真(2019)「小河滋次郎と『児童保護本位』の保育事業」日本生命済生会『地域福祉研究』公7(通算47)。