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2019.12.13

第14回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を開催【犯罪学研究センター】

「性犯罪」・「ギャンブル障害」ユニットの研究最前線

2019年11月25日、龍谷大学犯罪学研究センターは、第14回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を本学深草キャンパス 至心館1階で開催し、約15名に参加いただきました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-4032.html
今回の研究会では、斎藤 司教授(本学法学部 / 「性犯罪」ユニット長 )、早川 明氏(NHK学園・教員 / 犯罪学研究センター「ギャンブル障害」ユニットメンバー )の2名による研究の進捗報告が行われました。


第14回公開研究会の様子

第14回公開研究会の様子


斎藤 司教授(本学法学部/犯罪学研究センター「性犯罪」ユニット長)

斎藤 司教授(本学法学部/犯罪学研究センター「性犯罪」ユニット長)

はじめに、斎藤教授による「性犯罪」ユニット研究の進捗報告が行われました。本ユニットでは、日本が前提とする、あるいはしてきた「性犯罪像」や「性犯罪者像」を明らかにしながら、現在行われている性犯罪の処罰における「性犯罪像」や「性犯罪者像」とのズレがあるかどうかを確認し、そのズレがあるとすればいかに修正すべきかを検討することを目的としています。
2019年度前半は、東アジア(韓国・中国・台湾)における性犯罪者に対する対応等について調査を行いました。2019年度後半は、日本の性犯罪規定や性犯罪者への対応・制裁に関する現状や特徴について比較法的に把握することを目標としています。今回の研究会では、性犯罪規程の改正に関する研究の進捗と性犯罪規定に関する国際的動向について報告が行われました。

斎藤教授は最初に、日本における性犯罪規程の改正の現況に関して報告しました。性犯罪に関する刑法改正に対して批判が高まっています。特に刑法177条では「暴行・脅迫」と判断される要件として「相手方の反抗を著しく困難にする程度のもの」を挙げています。これについて斎藤教授は、実務は、性犯罪者像を「相手方の反抗を著しく困難にする暴行・脅迫を行う者」としつつも、比較的緩やかに理解しているのではないかと疑問を呈しました。また、暴行・脅迫要件が廃止された場合、今後は同意の有無そのものについて、被害者の性的意識や経験に関する立証などが活発化し、問題が拡大する危険性があると指摘し、このような立証の問題や国際的動向を踏まえると、同意の有無に関する客観的要件が新たに必要になると述べました。
このような性犯罪規定の中の暴行・脅迫要件について、「性犯罪」ユニットでは国際比較を行っています。斎藤教授は、ドイツ・オーストリア・スイス・スウェーデン・台湾・韓国を挙げ、各国の刑法が規定する性行為に関する同意モデルを紹介し、多くの国では「No means No」ルール(相手側がNOの意思表示をしたにもかかわらず性行為を行った場合には性犯罪が成立するという考え方)を採用する方向にあると説明しました。例えば、ドイツでは、「認識可能な意思」に反する性行為が、台湾では「暴行、脅迫、恐喝、催眠術またはその他その意思に反する方法を以て性交」が、強制性交等罪とされています。日本も法改正をするとすれば、こちらの方向性が望ましいとされました。こうした暴行・脅迫要件の有無や性行為に関する同意モデルの採否は、性犯罪の立証や防御活動にも大きな影響を与えるのではないかと、斎藤教授は述べました。もっとも、これに対し「Only Yes means Yes」ルール(性犯罪の成立が否定されるのは相手側がYesの意思表示をした場合に限られるという考え方)を採用したスウェーデンの立法例もあり、注目されるとも指摘しました。
報告後半では、台湾調査として、性犯罪に関する刑法の立法や実務状況、性犯罪者の処遇に関する状況が紹介されました。そして、今後の課題として、①東アジアの「性刑法・性犯罪者処遇」のまとめ、②ドイツ諸国やスウェーデンなども含めた国際比較、③韓国における新動向に関する追加調査が挙げられました。

つぎに、早川氏による「ギャンブル障害」ユニットにおける研究の進捗報告が行われました。本ユニットは、大学生の「ギャンブル障害」の実態を明らかにし、予防的介入プログラムの開発を目的としています。具体的には、①先行研究の分析を基に「ギャンブル障害」の実態把握のためのアンケート調査の実施、②調査結果の分析から予防的介入プログラムの開発を計画しています。今回の研究会では、ギャンブル障害をめぐる最近の動向や予防的取り組みについての紹介が行われました。


早川 明氏(NHK学園・教員/犯罪学研究センター「ギャンブル障害」ユニットメンバー)

早川 明氏(NHK学園・教員/犯罪学研究センター「ギャンブル障害」ユニットメンバー)

2018年10月、ギャンブル等依存症対策法が施行されました。この法律の目的は、ギャンブル等依存症が日常生活または社会生活に支障を生じさせるものであり、多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪などの重大な社会問題を生じさせていることを前提に、国・地方公共団体などがギャンブル等依存症対策を推進することにあります。国立研究開発法人 日本医療研究開発機構は「ギャンブル等依存が疑われる者の割合を成人の0.8%」と推計しています。また、このうち最もよくお金を使ったギャンブルは、パチンコ・パチスロであるとされています。
早川氏はギャンブルの中でもパチンコに焦点を当て、警察庁の広告・宣伝に関する規制や、厚生労働省や文部科学省による予防的取り組みについて紹介しました。このような予防的取り組みを踏まえたうえで、早川氏はギャンブル依存症者の社会復帰に向けたアプローチの一環として、薬物依存症者への対応政策である「ハーム・リダクション」*1と同様のアプローチが必要ではないかと言及しました。

「ギャンブリング(ギャンブル)」という表現は、カジノ、パチンコ・パチスロ、公営ギャンブル(競馬、競艇、競輪、オートレース)といった限定的なイメージを持たせ、ギャンブル依存症は、身近に潜む問題であるといった認識を持ちにくくしている現状があります。一方、「ゲーミング」(ギャンブリングと同義)は、インターネットの競技やゲームを含めたより幅の広い概念となっています。
早川氏は「近年、ギャンブル等依存症の問題は、インターネットやゲームといった身近な場所にも原因が潜んでおり、それに対して社会や事業者は責任を持って対策や取り組みを行わなければならない」と警鐘を鳴らします。
現在、日本では「責任のあるギャンブリング(Responsible Gambling)」と呼ばれるギャンブル依存症対策を講じる準備を進めていますが、日本や世界の実情を鑑みると、海外のゲーミング業界では、周知の社会通念となっている「責任のあるゲーミング(Responsible Gaming)」と表現することが適切なギャンブル依存症対策につながるという指摘もあります。

報告後のディスカッションでは、石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長)から「お金を得ることを目的にギャンブルをやっている人は少なく、むしろ毎日を生きるためにやっているのではないか」「今までギャンブル依存症患者は本人の経済的な合理性に基づいて行動を繰り返す人だと考えられてきていたが、実際はそうではないのではないか。ギャンブルに限らずアルコールや薬物、ゲームなどの依存症は、身体的・精神的・社会的に本人の不利益となっているにも関わらず、それをやめられずに反復し続けているような状態で、人間の認知行動過程に基づく心理学からの説明が必要だ」といった意見が述べられました。

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【補注】
*1 ハーム・リダクション
「被害を減らす」ことを目的とした施策で、1980年代にHIVの流行が社会問題化した際「ハーム・リダクション・アプローチ」の有効性が認められ、欧州では現在多くの国が薬物政策に何らかの形で採り入れている。その根底に個人の違法薬物の所持や使用を罰するだけでは使用者やコミュニティへの悪影響は減らず、問題解決にならないという考えがある。

「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」は、犯罪学研究センターに関わる研究者間の情報共有はもとより、その最新の研究活動について、学内の研究員・学生などさまざまな方に知っていただく機会として、公開スタイルで開催しています。
今後もおおよそ月1回のペースで開催し、「龍谷・犯罪学」に関する活発な情報交換の場を設けていきます。

【次回開催予定】
>>第15回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」
日程:2019年12月23日 18:30 ~ 20:00
テーマ:【矯正宗教学】【司法福祉】【保育と非行予防】【ヘイト・クライム】
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-4067.html
(参加費無料・事前申込不要)

ぜひふるってご参加ください。