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2020.01.10

【犯罪学Café talk】佐々木 大悟准教授(本学短期大学部/犯罪学研究センター「矯正宗教学」ユニット研究員)

犯罪学研究センター(CrimRC)の研究活動に携わる研究者について、気軽に知っていただくコーナー「犯罪学CaféTalk」。研究の世界に馴染みのない方も、これから研究者を目指す学生の皆さんにも、是非読んでほしい内容です。
今回は、佐々木 大悟准教授(本学短期大学部/犯罪学研究センター矯正宗教学」ユニット研究員)に尋ねました。
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Q1. 佐々木先生が研究されていることは何ですか?


「所属している真宗学は親鸞のことを研究していますが、その中でも僕は親鸞が1番大事にしていた経典の『無量寿経』の研究をしています。経典をどう読むか、ということなりますので、ほとんど漢字の研究のような感じになっています。経典に書かれている文字は、今の意味とは違う意味で書かれています。辞書にない意味を予想して、新たな意味を発見して読まなければいけないというのは大変です。でもそれが面白いところでもあります。3~5世紀の漢字を研究しているのですが、日本でいうと古墳時代より少し前ぐらいで、中国でいうと魏晋南北朝時代の頃ですかね」

矯正宗教学ユニット内では、教誨師*1の歴史について研究しています。教誨師が朝鮮半島に行った時*2に、どのような動きをしたのか、そして満州国を作った時に、満州国の中で教誨師*3はどのような動きをしたのか、というようなことを研究しています。日本の教誨師と朝鮮半島や満州国の教誨師では、やはり朝鮮半島や満州国の教誨師の方が大変そうです。暴動が起きる可能性がありますし、本気でやらないといけないというのがありますからね。とはいえまだ研究が発展途上なので何とも言えませんが、教誨活動についても色んな見方ができるので、体制に阿た人と見ることもできれば、とても頑張っていたと見ることもできると思います。そもそも従っている指令自体が良いものだったのかということがあって、もし下されている指令が悪ければ、一生懸命やればやるほど悪い事をしていたことになっていくので、難しいところですよね」

*1 教誨師:
監獄内における受刑者の心のケアのため講説する者のこと。日本ではおもに諸宗教の聖職者がボランティアでその任に当たっている。

*2 朝鮮半島における教誨師の活動:
朝鮮半島での教誨師の活動は三期に分かれる。朝鮮では、1800年代末からキリスト教宣教師による教誨活動があったが、第一期(韓国併合後の約10年間)では政府の司法及び監獄事務の一切を日本政府に委託することになり、以来日本と同じ教誨制度になった。第二期(1919年から満州事変)には両派本願寺が協力し、教誨師の養成が行われた。第三期前半(満州事変からアジア太平洋戦争まで)では満州事変の勃発に伴い、教誨師は国家に奉仕することが、より強く求められるようになり、後半(アジア太平洋戦争から終戦まで)では決戦体制に伴い、受刑者を保安職員の補助として使ったことから信頼を得て、釈放後の継続雇用など行刑と保護の一体化の端緒が開かれた。終戦時には、囚人・思想犯は随時釈放され、撤退時には、教誨師は逮捕された者、ソ連軍によってシベリアに送致された者、日本に帰国した者、帰国途中で亡くなる者など様々であった。

*3 満州国の中での教誨師の活動:
満州国には、日本人の教誨師と、現地満州国出身の教誨師がいた。活動内容としては、囚人と一緒に行動するなど、人格を通して収容者の改悛につとめる活動が見られた。戦争が佳境を迎えるにあたり、その任務は全体的に国家に資する活動へとつながるものが多かった。終戦時にはソ連軍駐在の際、満州人や朝鮮人が解放を叫んで蜂起し、暴動化した。日本人刑務官をことごとく逮捕し、延吉監獄教誨師の住居に押しかけ捕縛し、朝鮮人青年同盟の名のもとに、人民裁判に付して撲殺した。またソ連軍に逮捕されシベリアに送致抑留となった教誨師もいた。

Q2. 矯正宗教学ユニットでは、独自の研究会や学びを共有する場面が増えたようですが、その中で新たな発見や気づきはありますか?
「教誨師のほとんどが浄土真宗のお坊さんなのですが、浄土真宗のお坊さんは、結局は僕が研究している無量寿経を心の中心として活動しています。無量寿経のどの部分を自分たちの行動の支えにしているのかなというのが気になるようになりました」

「実は知り合いの研究者が、満州(中国東北部)のことについてずっと研究していまして、正直全然専門ではありませんが、僕も研究してみたいと考えていました。私の祖母が満州にいたということもあり、日本はどんな風に満州へ進出していったのかなど色々知りたかったんです。後は村上春樹の『ねじ巻き鳥クロニクル』という好きな小説があるんですが、それが満州で起きたノモンハン事件*4のことを取り扱っているので、詳しく知りたかったんですよ。なのでユニットに所属したこの機会に調べさせてもらおうという思いがありました」

「僕は、教誨師のことをあまり知らなかったんです。保護司という存在も知らなくて…。でも満州と朝鮮の歴史を研究する中で、教誨師に関する様々な本を読んで、教誨師は不思議な職業だなと思いました」

*4 ノモンハン事件:
1939年5月、満州国と外モンゴルで起きた国境紛争で、日本軍とソ連軍が直接衝突した事件。



Q3. ご自身も僧侶資格をお持ちだとうかがっておりますが、宗教者の視点から、罪を犯した人の立ち直りには何が必要だと感じますか?


「浄土真宗ということもあるのですが、人には罪を犯すことがあるという哲学を伝えること、あとは出所後などの支援(保護)の役割で、身近に見ている人・支える人がいるということを示すことかと思います」

Q4. 佐々木先生の学生時代について教えてください。
「小さい頃は本当に遊んでばかりで、野原を走り回っていました。実家がお寺なんですけれども、ずっと草取りばっかりさせられていました。お陰様でいつの間にかものすごい忍耐力はつきましたね。『何でこんな草取りばっかりさせられるんだろう』って疑問を持つ以前にさせられていましたから(笑)。中学高校はずっとサッカーをやっていまして、勉強もそれなりにやっていたんですけれども、サッカーの方が楽しいなと思っていました。高校に入って勉強も楽しいなと感じるようになり、龍大に入って、自分が所属している真宗学を勉強し始めました」

「自分の周りには常に良い先輩がいました。学生時代はその先輩から勉強の仕方・やり方を教わって、勉強していました。そんな中で、1人の決定的な、天才的な学者に巡り合いまして、今年亡くなられましたが、セカイの仏教学で先端を走っている人と、たまたま研究分野が重なっていたんです。その人に可愛がってもらいまして、憧れながらずっと追いかけていたら、だんだん研究が面白いなと思うようになりました」


Q5. 佐々木先生にとって研究とは何ですか?
「『知らなかったことが分かるようになること』です。研究というのは僕にとって、ブラックボックスがあって、そこに疑問を抱き、ちょっとずつ分かるようになってきて、そしてある時パッとボックスを開けるような感じになることかなと思います。パッと開けた時、わかった時が楽しく、快感ですね。ずっと昔からこの感覚が好きで続けているという感じですね」



佐々木 大悟(ささき だいご)
本学短期大学部・准教授/犯罪学研究センター「矯正宗教学」ユニット研究員
〈プロフィール〉
本学短期大学部・准教授。専門分野は「真宗学」。無量寿経の諸異訳・諸注釈書などを主な研究課題としている。