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2020.01.23

【犯罪学Café Talk】斎藤 司教授(本学法学部部教授・犯罪学研究センター「性犯罪」ユニット長)

犯罪学研究センター(CrimRC)の研究活動に携わる研究者について、気軽に知っていただくコーナー「犯罪学CaféTalk」。研究の世界に馴染みのない方も、これから研究者を目指す学生の皆さんにも、是非読んでほしい内容です。
今回は、斎藤 司教授(本学法学部/犯罪学研究センター「性犯罪」ユニット長)に尋ねました。
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Q1. 斎藤先生にとって研究とは「社会の一部を明らかにすること 社会の一部を変えること」ということですが、その思いとは?



「学生時代、明確な『目的意識』を持って法学部へ進学したわけではないので、当初は授業に身が入りませんでした。法学が本当に面白いと感じるようになったのは、3回生で履修した『法社会学』がきっかけです。そのとき『社会を見るってこういうことなんだ!』と思いました。やはり、法律・条文の視点だけだと法律と社会をなかなか結び付けられないんです。でも、その授業は、法と社会の関係も意識する視点が新鮮で、法も社会の一部だと実感できました。そこから、ようやく法学の勉強に目覚めたように思います。その後、大学院に進学し、研究に打ち込むことで『社会の一部を明らかにし、社会の一部を変えたい』と思うようになりました」
「基本的に社会というものは、私たちの生活を包み込む形で常に何らかの動きをするものです。社会を動かしている要因・誘因・原動力、その方向性や動きの特徴を明らかにするには、日常的な感覚・観察だけででは明らかにできません。私はその解明のために、研究が存在するのだと思います」
「社会を維持することも社会を変えることも容易ではありません。私が『社会を良くすること』ではなく『社会を変えること』と書いたのは、良くなるかどうか誰にも分からないからです。もしかしたら、悪くなるかもしれないし、それは私たち研究者では決められません。国民にもわからないでしょう。それは事後的な評価によって決めることかなと考えています。もちろん、それは現時点での評価・感覚・価値観には意味がないということを意味しない。私自身も、少しでも『社会を良くしたい』という思いを抱きながら研究していますし、その意味での『真理に少しでも近づく』という姿勢は非常に重要だと考えています」

Q2. 研究をしていて「社会の一部を明らかにし、社会を変化させている」と実感するときはありますか?
「社会を明らかにすることは、ある意味『真理』を知るということです。そういう意味では、100%の『真理』に近づくことは不可能なのかなと。でも、それで諦めて、『どうせ到達できないんだからもういいや』と思わず、できるだけ100%に近付くことを意識しています。なので、先に述べたように、日々、今の社会や社会のあるべき姿を追及しています。正直まだまだ実感は湧きませんが、今後もその努力を続けていきたいです」

Q3. 研究活動の傍ら『刑事訴訟法の思考プロセス』(2019,日本評論社)を出版されました。この本はどのような思いで執筆されましたか?
「色んな方に読んで欲しいという思いはありますが、ここでは学生を主な対象としてお話しますね。いつも授業向けの本やテキストを出すとき、『ユーザーのニーズ』を意識しています。今の学生のニーズに合う刑事訴訟法の本はなんだろうと考えています。行間を読むことに苦労する学生が増えてきたので、思考回路が目に見えるように、可視化・言語化したほうが良いなと。もうひとつ、指導をしている中で学生が丸暗記に走っていると思っています。もちろん勉強をするうえで暗記や記憶は避けて通ることができないので、それ自体は否定できません。しかし、丸暗記だけでは思考力を身につけ、向上させることは困難です。特に法学の学習は、単に覚えるだけではなく考えることも重要です。かといって、学習に悩んでいる学生に、丸暗記するな、考えろと言っても不安や悩みを増大させてしまいます」

「そう考えたとき、研究者間で一定程度共有されている考え方の道筋や、長年、偉大な研究者が蓄積してきた『思考プロセス』があるので、その『思考プロセス』を目に見えるかたちにしようと考えたのです。丸暗記に走らず、『思考プロセス』に沿って自分なりに考えるという風にガイド付きで学習者と並走することが重要なのではないかと。いつの間にか考えるようになっている、というような教材ができないか。そう考えて本書は執筆しました。その試みが十分成功しているかは不安ですが、学生だけでなく、刑事訴訟法を学びたい方にも読んでいただきたい一冊です」


Q4.犯罪学研究センターでは、「性犯罪」ユニット長として活動されています。専門の刑事訴訟法ではなく、刑法の「性犯罪」に関する研究をすることは大きな挑戦だっだと思います。ユニットを立ち上げた経緯について教えてください。
「2017年6月、約110年振りに国会で性犯罪に関する改正刑法が可決・成立し、同年7月に施行されました。明治40年の制定以来の大幅改正となり、性犯罪という分野は現在大きな注目を浴びています。また、私自身、授業で性犯罪についてどう取り扱い、どう説明すれば良いのかが課題でした。犯罪のなかでも、なぜ性犯罪は個人や社会に与える影響がこれほど強いのか。このひっかかるものはなんだろうという思いがありました」
「もしかすると、犯罪の中で性犯罪はなにか特別な意味を持っているかもしれない。だから、冒頭の『研究とは?』に繋がりますが、性犯罪に関する社会の一部を明らかにしたいと思いました。具体的には、日本の性犯罪、性犯罪者のイメージがどういうものなのかを明らかにしたいと思ったのです。これらのイメージが、日本の歴史のなかで、どう変わってきたのかを理解しないと、むやみに法改正を繰り返してしまいます。日本に真には適合しないということにもなりかねない。そして、日本の特徴を明らかにするためには、諸外国の性犯罪、性犯罪者像を明らかにして、日本と比較することが不可欠だと思い、ユニット全体で研究を進めてきました」
「もう一つ、私の専門は刑事訴訟法ですが、一つの分野に拘るべきではないなと。もともと刑法にも関心はありますし、幸い同僚にも恵まれ優秀な刑法学者が近くにいます。さらに、龍谷大学は日本で有数の犯罪学研究に優れた大学です。そういう意味では、刑事訴訟法に特化して研究をするのは、もったいないと思いました。自分にとっては大きな挑戦でしたが、「性犯罪」ユニットを立ち上げて良かったなと思っています」


Q5. 研究をするうえで、同僚や研究仲間の存在は励みになりますか?
「励みになります。これは間違いなく断言できますね。研究というのは『直感』の部分が大きく、重要でもあると思います。『直感』が働き、いざ調べると間違いで失敗だったということは多いのです。だからと言って、その『直感』を自分で封じ込めてはダメだと思います。また、他者との議論ややり取りの影響や示唆を無視して『直感』のまま研究を続けるのも良くない。なので、まず『直感』を言葉にして周囲の反応を見ることは非常に重要だと思います。研究の同期や研究仲間の存在がすごく大切なのです。実際に大学院時代、同じ刑訴法を研究しているの同期が一人いたのですが、彼の存在は大きかった。研究仲間は、骨身に沁みて大切だと感じています。また関西は刑事法学者のつながりが強く、定期的に研究会で学ぶ刑事訴訟法以外の先生もたくさんいます。そうした先生方からも学ぶことは非常に多いです」
「研究仲間で頻繁に飲みに行きますが、お酒の席では話に良い花が咲くときも悪い花が咲くときもあります。良い花が咲いているうちは楽しいです。悪い花が咲くときも楽しいですが(笑)いずれにしろ、お酒は好きですし、お酒好きの研究仲間が多いので楽しく飲み明かしています(と思っています)」


Q6. 最後に、自身の学生生活を振り返りながら、法律学の研究者になりたいと思っている学生さんにメッセージをお願いします。
「現在、社会のスピードがどんどん速くなり、どうしても多くの時間を必要とする院生として過ごすことに焦りや不安を感じる人も多いでしょう。しかし、1年や2年のロスは使い方次第だと思うんです。例えば、私の大学院時代、学部時代の同級生と飲みに行くことはありました。向こうは社会人ですから、正直焦ります。『このままで良いのか。自分はくだらないことをしているのではないか?』と考えた時期がありました。とは言え、社会人でも、全ての人が有意義な人生を送れていると胸を張って言えるとは限りません。研究者でもそうでしょう。毎日、研究に没頭するうちに、どんな職業や立場であろうと、有意義な人生を過ごせているか否かは、『目的意識』とそれに沿って生活できているかが重要ではないかと思いました。『プロ意識』と呼んでも良いのかもしれませんね。自分の友達や憧れの人のように『目的意識』を持つことと『努力』をきちんとすることが大切なんだと。これは、普段授業を受けている学生にも伝えたいですね」
「さいごに、研究に関心があれば、ぜひ指導教官にアドバイスを頂きながら、色んな先生と話をしてください。一番ダメなのは、最初から自分は到底ダメだろうと思い込み、自分からその道を閉ざしてしまうこと。当初は『目的意識』もなく、流れに身を任せながら学生生活を送っていた私でも研究者になれました。自分自身の能力や価値を決定できるのは、結局自分なのです。そして、その可能性も。研究者になりたい人は、自分の可能性を信じて挑戦してみてください。もちろん、応援・サポートは最大限します!」



斎藤 司(さいとうつかさ)
本学法学部/犯罪学研究センター「性犯罪」ユニット
<プロフィール>
本学法学部教授。研究分野は刑事訴訟法。主に刑事裁判における「証拠開示」、代用監獄制度、GPS監視捜査など。2019年、日本評論社より「刑事訴訟法の思考プロセス」を出版。