Need Help?

News

ニュース

2020.05.09

【新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム】パチンコに行く人をどう止めるか?

〜精神医学者と犯罪学者が「孤立の病」を読み解く〜

犯罪学は、あらゆる社会現象を研究の対象としています。今回の「新型コロナ現象」は、個人と国家の関係やわたしたちの社会の在り方自体に、大きな問いを投げかけています。そこで、「新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム」を通じて多くの方と「いのちの大切さ」について共に考えたいと思います。

今回は、石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長・兼同ATA-net研究センター長)のコラムを紹介します。

───────────────────────────
パチンコに行く人をどう止めるか?
〜精神医学者と犯罪学者が「孤立の病」を読み解く〜

“小池さん。パチンコは娯楽じゃない! ファンにとっても、お店にとっても、生活です。スーパーは、買い物ファンにとっては娯楽です。なぜ、パチンコだけを鞭打つのでしょう。もっと、アディクション(嗜癖・嗜虐行動)を知ってほしい。”

【はじめに】 ある識者から、質問をいただきました。「新型コロナウイルス感染症の蔓延を止めるために、『家にいよう』を訴えるキャンペーンが続いています。彼らは、危険を顧みず、なぜ、パチンコに興じるのでしょう。わたしたちは、どのように対応したらよいのでしょう」。

わたしは、JST/RISTEX「安全な暮らしをつくる公/私空間の構築」研究開発プロジェクト(註1)「多様化する嗜癖・嗜虐行動からの回復を支援するネットワークの構築」(ATA-net)(註2)の研究代表でもあります。そこで、まず、ギャンブル依存に関連するご質問ですので、ギャンブリング・ユニット長の西村直之さん(精神科医、認定NPO法人リカバリーサポート・ネットワーク代表、一般社団法人日本SRG協議会(JSRG))にご意見を伺ってみました。

【ギャンブル依存の専門家・精神科医からの回答】 
(西村)前提として、緊急事態宣言または準緊急事態宣言が行政首長より出された自治体では、営業自粛要請が出されたパチンコホールのほぼ全てがそれに応じて営業を自粛しています。しかしながら、数店舗のみが自粛要請を受け入れず営業を行っている残念な状況が生じています。実際には、現在約1000万人程度と言われているパチンコ・パチスロユーザーのほとんどは、パチンコホールの営業自粛に伴ってパチンコ・パチスロを自粛していると考えられます。なお、現在のところ、パチンコホールで新型コロナウイルスの感染クラスターは生じていません。

(質問)今もパチンコで遊び続ける人は、なぜ止められないのでしょうか。
(西村)止められないから続けているのか、単に止める気が無く参加しているのかはわかりません。社会不安が高まると、社会的なサポートが少ない人たちや不安に対して対処が上手でない人たちは、非常時以前からの行動や習慣を継続することで、安心を得ようとする対処行動をとることがあります。この状況でパチンコ・パチスロを続けている人たちの多くは、現在や先行きへの不安に対する否認、それを背景とした正常性バイアスなどの心理防衛機制を背景とした行動化として解釈できるように思えます。このような行動は一般的にみられるもので、逸脱や異常の水準とまでは言えません。
また、DVや虐待などの暴力が存在している場合やストレスの多い家族間の関係性の存在などがある場合に、家族との同居時間が長くなり、そのストレスからの逃避先としてパチンコホールを利用してきた人たちは、すぐには対処方法を切り替えることが難しいと思われます。

(質問)インタビューで「僕は、うつらない(感染しない)」と言った人がいました。本当にそう信じているのでしょうか。
(西村)個々の人がどの程度確信をもってそのように判断しているのかは、直接、インタビューしてみなければわかりません。一般的に言えば、インタビュアーが批判的な態度で質問を行い、回答者も自身の行為が社会的には好ましいと思われていないという感覚を持っている場合、回答者の心理的防衛機制(註3)が働き、自己防衛的な回答がなされやすいです。この回答も、否認や正常化バイアス、攻撃的防衛などの影響下にある発言と考えるべきでしょう。回答者の行動の背景にある感情や事情を踏まえたインタビューでないかぎり、「本当」の思いは聴き出せないでしょう。

(質問)家族にできることはありますか。
(西村)本人の行動に反応して、ヒステリックにならないことが重要です。不安と怒りが家庭内で溜まることは、更なる逃避行動の悪化を招く恐れがあります。家族は、家族自身の心のケア、つまり現在の自分の抱える不安に対するケアをできる範囲で行うことが必要でしょう。

(質問)地域社会としてできることはありますか。たとえば、住民運動でパチンコ店に圧力をかけるのは有効ですか。
(西村)民主主義国家として、明確なリスク評価もないなかで、怖れや推測だけで民間人が民間活動を感情的に排除し正当化することは、社会不安が高まっているなかでは、住民運動の暴力性の正当化につながるため、慎重になるべきです。「自警」の名の下に、地域の中で好ましからぬと判断した人物の排除や殺害が起きている国は数多くあります。

(質問)なぜパチンコ店は営業を自粛しないのですか。
(西村)基本的には自粛しています。緊急融資の対象事業となっておらず、休業した場合、おそらく半数近くのパチンコホールの再開業が困難となるのではないかという推測もあります。廃業覚悟の自粛に踏み切る決断をなかなかし難いこと、多くの従業員を抱えており、休業が多数の失業者を出してしまうことー経費負担に耐えられない。ー、パチンコホールのスタッフには女性が多くー学歴の高くない人やシングルマザーも少なくありません。ー、解雇した場合の生活困窮が心配なことなどの切実な事情が、自粛抵抗の背景にはあります。しかし、それでも要請があれば、99%以上のホールが自粛要請に応じています。最後まで抵抗している店もありますが、最終的には、社会の批判の中で閉店に応じています。同様の問題はどの営業領域にも存在しており、自粛しない経営者の個人または会社の社会性の問題と言ってよいでしょう。

(質問)さまざまな依存症と戦う人々に今の事態は影響していますか。
(西村)これは、本質的に全く異なる次元の問題で、ギャンブル問題として捉えるのであれば、外出自粛の中で、にオンラインギャンブル(公営のみが実施)の参加者と売り上げが激増しています。問題あるギャンブラーはパチンコではなく、公営競技への参加シフトが急速に進んでいると思われます。オンラインギャンブリング対策は、この事態に全く対応できていません。依存症対策の観点からは、今回のコロナ拡大を機に、パチンコのような見えやすい心理防衛機制の行動化に過敏に反応するよりも、オンラインギャンブルのような見えにくい新たな依存行動様式への移行が急速に進んでいることに注視すべきでしょう。

(質問)最近、飲酒量が増えた人がいます。アルコール依存を防ぐために本人と家族は何を心がけたらよいですか。
(西村)メディアでの飲酒リスクの啓発強化が必要でしょう。

 

【犯罪学者からの回答】
西村さんには精神科医の立場から、お答えいただきました。わたしは、犯罪学者の立場からお答えしたいと思います。

(質問)今もパチンコで遊び続ける人は、なぜ止められないのでしょうか。
(石塚)パチンコ・ユーザーは、大まかに、従来からその店舗に通っていた「常連」、パチンコを生業(なりわい)としている「パチプロ」、そして、空いていると聞いてやってきた「新規」に分類することができます。パチプロは生活がかかっているので止められません。常連は他に行くところがないので来ているのでしょう。この2つのグループは、生活だから止められません。営業している店があれば、どこへでも行くでしょう。新規に面白半分でやってくる野次馬もいるでしょう。しかし、これらの人たちの中にパチンコ依存症の人がいることも否定できません。依存は孤立の病です。「危ないから止めなさい」と言ってくれる家族や仲間がいない、パチンコしか生き甲斐がない人が確実にいます。
 ギャンブリングは、人間が生きることと大いに関連しています。ギャンブラーは、勝ちか、負けかの選択に追い詰められた中で選択することの快感に酔うのです。勝てば自らの選択の正当性を誇りとし、負ければ「やっぱり」。つぎの選択のチャンスを心待ちにします。自分が懸命であることよりも、「幸運である」ことの保証が欲しいのです。危険と不安の中で、自らが生き残れる存在なのかどうかを、まさに「賭けて」いるのです。

(質問)インタビューで「僕にはうつらない(感染しない)」と言った人がいました。本当にそう信じているのでしょうか。
(石塚)インタビュアーの「トラップ(罠)」だと思います。信じているわけではないと思います。むしろ、不安だから、そのような「自暴自棄」な発言をしているのかもしれません。彼らも、本当は感染したくないのです。不安で、不安でたまらないのです。自分が、感染の危機の中でも生き残れる存在であることを確かめているのです。

(質問)家族にできることはありますか。
(石塚)止める家族もいるでしょう。しかし、家に居られることが気詰まりだったり、顔をあわせるのが嫌だったり、パチンコに追いやっている家族もあると思います。問題の本質が家族関係にある場合には、この間だけでも「居場所」を作ってあげてほしいものです。「行くな」と叱るのではなく、愛着が湧くように「一緒に居よう」と伝えてください。“Stay home”です。

(質問)地域社会としてできることはありますか。たとえば、住民運動でパチンコ屋に圧力をかけるのは有効ですか。
(石塚)圧力をかけるのは逆効果だと思います。常連さんは、地域の仲間ですから、ご近所として普通にお付き合いしていただくのがいいと思います。みんな不安は一緒です。共に傾倒できるような目標を作りたいものです。

(質問)なぜ、パチンコ屋は営業を自粛しないのか、ご存知のことがあれば教えてください。
(石塚)自粛要請が報じられ、多くのパチンコ店は休業しているにもかかわらず、一部の店だけが営業し続け、そこに多くの人が列を作る理由について、わたしの考えを述べたいと思います。かつてパチンコは30兆円産業と言われていましたが、売り上げは減少傾向にあり、現在は20兆円産業になっています。その歴史を考えてみても、パチンコは「昭和のギャンブル」でした。プレーヤーの高齢化は著しく、事業としての「先細り」は否めません。そんな長期減収の環境の中での自粛要請なので、資金力のある大手は、行政との関係を配慮して自粛を決断したのだと思います。
今後も行政との交渉の中で、銀行からの借入など資金繰りのつく事業主は一定期間休業することになると思います。しかし、店舗の規模にもよりますが、パチンコ機のリース代250万円、従業員の給与350万円、その他の経費を合計すると月額1,000万円程度の運転資金等が必要とされるこの事業において、休業は大きなダメージです。資金に余裕のない事業主にとって、休業は倒産か閉店かを意味します。倒産と営業を天秤にかければ、批判は覚悟の上で営業を選択する業者もいるでしょう。そのような一部の業者が営業を続けているというのが実情だと思います。営業の自由などの憲法上の権利を主張するインタビューも聞きましたが、居直りというよりは、負け惜しみと理解した方がいいのではないでしょうか。

(質問)さまざまな依存症と戦う人びとに、今の事態は影響していますか。
(石塚)依存症からの回復をめざす当事者や支援者に対する活動は継続していますが、対面支援をすることが難しくなっています。共同生活をしているレジテント(resident)の当事者については、感染に注意しながらミーティングをしているようです。遠隔ミーティングなどもはじまっているそうで、新たな訪問者も登場しているようです。公開性の高い遠隔ミーティングは、アクセスを増やすのにはいいかもしれません。問題は、安全な環境を確保できるかだと思います。当事者グループができているところでは、自分たちで工夫するでしょう。問題は、自助グループなどに繋がっていない人たちです。「ピンチはチャンス」。これまでグループに参加していなかったアディクト(addict)も参加できるように工夫していきたいものです。

(質問)最近、飲酒量が増えた人がいます。アルコール依存を防ぐために本人と家族は何を心がけたらよいですか。
(石塚)困ったことですが、飲酒は大きな問題です。暇に任せた「昼飲み」、「オンライン飲み会」なども流行っているようですが、孤立した環境での飲酒なので「止まらなくなる」危険性は大きいと言えます。天災・人災の被災地でもよくあることですが、お酒の差し入れは禁物です。不安と孤立の相乗効果の中では、アルコール依存になってくださいというようなものです。
 マスメディアも、緊急事態宣言の間くらいは、アルコール飲料やギャンブルの宣伝は自粛すべきではないでしょうか。依存症の防止・回復という視点からは、禁止薬物とアルコール・パチンコ・競馬は同じです。無規制の依存物質やギャンブルの方が、歯止めがなくてたちが悪いとも言えます。この世に善いギャンブルと悪いギャンブルの区別があるかのような不合理な信念は、回復の妨げです。

【2つの犯罪学理論】 「統制(control)理論」という犯罪学理論があります。人は、社会的または心理的な統制力が弱まることで、犯罪や非行をおかすと考える理論です。
主唱者の一人であるアメリカの社会学者トラヴィス・ハーシ(Travis Hirschi)は、人はすべからく、犯罪や非行をおかす性向を持っているが、さまざまな絆によって、犯罪への欲求が統制されている限りで犯罪を思いとどまっているという「ボンド(bonds)理論」を提唱しました。ボンドには、他者への愛着(attachment)、目標達成のへの傾倒(commitment)、世の中が認めてくれる活動への参加(involvement)、規範や道徳への信念(belief)の4つがあると述べています。パチンコがやめられない人をつなぎとめる絆があるとすれば、大切な人や家族への愛着、日々の努力の積み重ね、みんなに褒められるような活動への参加、そして、これぞと信じたものへの信頼など、自分は独りではないと信じられる環境と仲間が必要です。
 いま一つの代表的理論に「日常活動(routine activity)理論」があります。犯罪が今まさに生じようとする状況に注目します。マーカス・フェルソン(Marcus Felson)とローレンス・E・コーエン(Lawrence E. Cohen)によって提唱された理論で、社会の繁栄によって盗める物品が増えて窃盗の機会が増えたから、世の犯罪は増えたというのです。そして、犯罪が発生するためには、「動機付けられた犯罪者(a motivated offender)」「魅力的なターゲット(an attractive target)」および「有能な監視人の欠如(the absence of capable guardian)」が、同じ空間に同時に存在することが必要であると言います。パチンコがしたくてしたくてたまらない人がいて、目の前に好きなパチンコ台があれば、止まらないのは当然。それを押しとどめるには、パチンコ店を営業停止にしてしまうか、彼を閉じ込めて外へ出さないか。業者を処罰して強制的に閉店に追い込む遮蔽、パチンコファンをどこかに閉じ込め近づけないようにする隔離、刑事司法を使えばいずれの方法も可能です。
 どちらの理論もパチンコを選択させないようにするのが最終目標ですが、ボンド理論は、パチンコを選択しないことによるメリット(飴)を推奨しているのに対して、日常活動理論は、パチンコを選択することによるデメリット(鞭)を示唆しているとも言えます。

“みなさんは、どちらを選びますか。飴(アメ)ですか? それとも、鞭(むち)?”


─────────────────────

(註1) JST/RISTEX「安全な暮らしをつくる公/私空間の構築」研究開発プロジェクト https://www.jst.go.jp/ristex/pp/project/
(註2)「多様化する嗜癖・嗜虐行動からの回復を支援するネットワークの構築」(ATA-net) https://ata-net.jp/
(註3) 防衛機制(defence/defense mechanism):人は受け入れたくない状況、あるいは、危険な状況にさらされると、無意識のうちに、自らの不安を軽減しようとするメカニズムが働きます。社会適応の困難な状態下における無意識の再適応であるところに特徴があります。本人は、気付いていません。

【参考文献】
- 那須宗一編著『犯罪統制の近代化』(ぎょうせい、1976年)
- T・ハーシ著〔森田洋司=清水新二監訳〕『非行の原因―家庭・学校・社会へのつながりを求めて・新装版』(文化書房博文社、2010年)

【ためになるサイト】
- 「パチンコ業界WEB資料室」http://pachinko-shiryoshitsu.jp/structure-industry/history/
- 「カジノおたくCAZY(カジー)のブログ」https://cazy.jp/cat-story/1099/


石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)

石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)


石塚 伸一(いしづか しんいち)
本学法学部教授・犯罪学研究センター長・兼同ATA-net研究センター長
<プロフィール>
犯罪学研究センターのセンター長を務めるほか、物質依存、暴力依存からの回復を望む人がゆるやかに繋がるネットワーク”えんたく”(課題共有型円卓会議)の普及をめざすATA-net(アディクション・トランスアドヴォカシー・ネットワーク)のプロジェクト・リーダーを務める。
関連記事:
>>【犯罪学Café Talk】石塚伸一教授(本学法学部 /犯罪学研究センター長)


【特集ページ】新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム
https://sites.google.com/view/crimrc-covid19/