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2020.11.19

「2020 Global Cooperation & Training Framework – Workshop on Combating COVID-19 Related Crimes」に浜井浩一教授と石塚伸一教授が登壇【犯罪学研究センター】

国際ワークショップの招待講演で「日本における新型コロナと犯罪学」に関して報告

2020年10月28日、オンラインで開催された「2020 Global Cooperation & Training Framework(GCTF) – Workshop on Combating COVID-19 Related Crimes」に浜井浩一教授(本学法学部、犯罪学研究センター 国際部門長、「政策評価」ユニット長)と石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長、「治療法学」・「法教育・法情報」ユニット長)が招待を受けて登壇し、オンラインにて英語で講演を行いました。
【イベント概要>>】http://2020gctf-mjib.tw/

Global Cooperation & Training Framework(GCTF)は、世界的な課題に対処するために、台湾における専門知識のプラットフォーム形成を目指して2015年に台湾と米国の間で締結された「グローバル協力訓練枠組み」です。GCTFはこれまでに26件の国際ワークショップを開催しており、共催として日本とオーストラリアの団体も参加してきました。今回の国際ワークショップは、「新型コロナに関連した犯罪の防止」をテーマに開催されました。


ワークショップはYouTubeでLIVE配信されました

ワークショップはYouTubeでLIVE配信されました


当日は台湾の会場とオンラインで中継

当日は台湾の会場とオンラインで中継

本ワークショップは5つのセッションで構成され、それぞれのセッションでは各国の招待講演者が報告を行いました。セッション1では米国の実務者による「COVID-19 Internet-Facilitated Crimes and International Cooperation」、セッション2では台湾の実務者による「Combating Disinformation on COVID-19 in Taiwan.」、セッション3ではオーストラリアの実務者による「Challenges and Practices on Combating COVID-19 Related Crimes in Australia.」、セッション5では台湾の実務者による「Taiwan's Medical Face Masks Control Policy & Case Studies on COVID-19 Related Crimes .」をそれぞれテーマにした報告が行われました。
浜井教授と石塚教授は「Challenges and Practices on Combating COVID-19 Related Crimes in Japan.」と題したセッション4に登壇しました。


はじめに、浜井教授より「Crime & Punishment in the Time of Covid-19 Pandemic in Japan」と題した講演が行われました。


浜井 浩一教授(本学法学部・犯罪学研究センター 国際部門長)

浜井 浩一教授(本学法学部・犯罪学研究センター 国際部門長)


日本は先進国の中でもおそらく有数の安全な国で、殺人事件の件数は1955年から減少が続いていており、検挙率は高水準を維持しています。今回は犯罪学者として、新型コロナによる犯罪への影響について、日本の現状を検討しました。
まず犯罪学理論から新型コロナ関連の犯罪について説明/予測できるかどうかについてです。犯罪学理論のひとつである日常活動理論(Routine Activity Theory)で説明すると、新型コロナによるロックダウンの期間は大部分の従来型犯罪が減少することから、犯罪件数は減少すると考えられます。一方、緊張理論(Strain Theory)であればロックダウンに起因した経済的危機によって従来型犯罪が増加すること、犯罪機会理論(Crime Opportunity Theory)であればインターネット犯罪のような新たな犯罪が増加することが予測されるため、一部で犯罪件数は増加すると考えられます。
1つ目の日常活動理論は、動機づけられた犯行者、適当な標的、有能な監視者の欠如という条件が時間・空間上にそろったときに犯罪が発生しやすくなるという理論です。家にとどまることでドメスティック・バイオレンスが生じる可能性が高くなる可能性はあるものの、多くの人が家にとどまっていることで空き巣が減少し、屋外にいる強盗犯や窃盗犯はより目立った存在になり、犯罪をおかしにくくなります。また街頭犯罪についても、そもそも街頭にいる人が少なく、犯行の標的も少なくなることから、犯罪は減少します。実際、この日常活動理論の予測通り、米国や日本を含む世界中でコロナ禍における犯罪の減少が報告されています。警察庁の統計によると(日本では、そもそも2002年から警察による犯罪の認知件数が減少しており、これは新型コロナの影響を考えるうえで注意が必要です)2018年~2019年の1年間と、2019年~2020年の半年間の犯罪発生率を比較したところ、窃盗事案、暴力事案、殺人・強姦事案のいずれにおいても、2019年~2020年の新型コロナが流行している期間に減少ペースが加速していることがわかりました。
2つ目の緊張理論は、社会が、一般に認められている目標とそれを実現するための手段との間の乖離が拡大することで、個人が罪を犯す可能性のある緊張が社会に生じるという理論です。ロックダウンによって経済的に困難な状況に陥ったり、職を失ったりする人が多くいることから、豊かで安定した生活を送るという目標が達成できなくなることで社会における強い緊張が生じ、犯罪の増加につながる可能性があります。実際、窃盗や暴力事案とは異なり、新型コロナの流行期間における若者による強盗事案はやや増加傾向にあります。また、3つ目の犯罪機会理論は、新型コロナ流行のような新しい社会状況下では、ネットを活用することで新たな犯罪の機会が生まれ、犯行者はわずかな労力とリスクで高い報酬を得るための標的を選択するという理論です。ロックダウンの実施は、ネット詐欺のようにサイバー空間でお金を稼ごうとする犯行者に新たな機会を提供したため、こうした犯罪が増加する可能性があるといえます。実際日本では、緊急事態宣言解除後に、それまで犯罪に手を染めたことのない人による持続化給付金申請詐欺が多く報道されています。
つぎに新型コロナが受刑者に及ぼす影響についてです。米国のジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、米国の受刑者における新型コロナ感染者数と死者数は全米の一般人口における数よりも統計的に有意な水準で多いことが報告されています。構造的には日本でも同様で、刑事施設における感染リスクは高いと考えられます。特に日本の刑事施設ではソーシャル・ディスタンシングが非常に困難であり、受刑者の中には新型コロナに対して脆弱とされる慢性疾患や治療中の疾患のある人が多いことから、感染による死亡リスクは非常に高いと考えられます。近年、日本の受刑者の高齢化は非常に速いペースで進んでおり、新入受刑者の10%以上が高齢者です。受刑者数自体は減少しているものの、受刑者に占める高齢者の割合は増加しています。現在、万引きのような量刑の軽い犯罪の常習によって収容される高齢者が多くなっているうえ、受刑者の高齢化によって、収監中に自然死する受刑者も増加しています。しかし、これまでのところ、日本の刑事施設では受刑者の感染はほとんどなく、新型コロナによる死亡者は一人も出ていません。これは、職員から受刑者への感染を防ぐことに成功しているからです。それを可能としているのが、日本の刑務官に徹底されている保安の原則です。保安の原則では、刑務官は受刑者との会話を業務上必要なものに限り、受刑者のいるところでの刑務官同士の会話も極力控えるように求めています。日本の刑事施設では職員と受刑者、受刑者同士の会話は制限されており、外部との交流が難しいなど非常に閉鎖的であることから、日本の刑事施設は受刑者を新型コロナ感染から守っているといえるかもしれません。しかしこうした刑事施設の現状は受刑者の改善更生や社会復帰にとっては大きな障害でもあるため、大きなジレンマとなっています。

つぎに、石塚教授より「Whither Criminology? Crime, Justice and Social Order in a Time of Pandemic.」と題した講演が行われました。
浜井教授の講演の通り、コロナ禍における日本の犯罪の認知件数と受刑者数は減少しています。日本の犯罪で最も多いのは窃盗事案で全体の56%を占めており、これには犯罪統計において重要な意味があります。
日本における犯罪の種類は変化しています。逸脱行為の現在の傾向としては、依存(物質、ギャンブル、ゲーム、スマートフォン、SNSなど)、虐待、暴力(ドメスティックバイオレンス、ストーカー)、ハラスメント、新たなタイプの詐欺(電話やネット銀行、株取引)、ハッキングなどの増加がみられます。これらは「ステイホーム犯罪(Stay Home Crime)」と特徴づけることができます。
19世紀半ばから20世紀初頭に進化論が受け入れられるまでの間、隔世遺伝は数世代前の性質の再現を説明するために使用されており、1870年代の犯罪人類学者であるロンブローゾは、この隔世遺伝の概念を、逸脱行為の原因を説明するために用いました。つまり犯罪者に共通する身体的特徴を特定することで、人類の進化と文明の過程において隔世遺伝的に「先祖返り」しているという特徴を、犯罪者にラベルづけしました。こうした説明によって、犯罪者=野蛮人という伝統的な犯罪者像が形成されました。


石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)

石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)


一方、現代の逸脱行為は、高度な現代文明に対して過度な反応を行うことで社会に過剰に適応しようとした結果、生じるものであると考えられます。したがって現代の犯罪者像では逸脱者は「進化から遅れているヒト」というよりも「進化を急ぎすぎているヒト」であるといえます。
新型コロナによる日本の司法と社会秩序への影響として、まず規律順守への圧力(同調圧力)の問題があります。これは、社会的規律が失われることへの不安から過度に規律順守をするようにお互いに圧力をかけあう状態です。これによって道徳的パニックと差別の問題も生じています。外出自粛要請に従わないなどの規律を順守しない人、特に、パチンコ店の経営者や利用客を過度に攻撃するような状況が生じています。またスケープゴート探しも問題です。接客を伴う飲食店での感染に関する報告が多くされたことから、そうした事業の経営者や従業員が非難されて差別を受け、さらには医療従事者らにもそうした差別が広がりました。さらに外出自粛による「巣ごもり」も問題の一つで、これによって生じる孤立についても対処が必要です。
それではこうした現代の状況に対応するために、犯罪学はどこへ行けばいいのでしょうか。石塚教授は、「人にやさしい犯罪学(Compassionate Criminology)」を提唱しています。さまざまな逸脱行為を止めるには、自己決定、レジリエンスが重要です。現代の犯罪は、街頭犯罪からステイホーム犯罪へ変化し、犯罪者も野蛮人からアディクト(依存の問題を抱える人)へ変化しています。犯罪学も懲罰性よりも人へのやさしさを取り扱えるように変化する必要があります。特に刑事司法制度ではなく治療的プロセスへの着目が今後は必要になります。そのためには犯罪学を一般科学として開発していく必要があります。それには研究、教育、社会実装のサイクルが必要です。日本には犯罪学に特化した学部も大学院もありません。今後は犯罪学部の創設による、共通のパラダイムを共有する犯罪学者のコミュニティの形成を目指したいと考えています。

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浜井教授、石塚教授の 「日本における新型コロナと犯罪学」に関する講演は、ウィズ/アフターコロナ時代の社会状況はもとより、国際的な視点で犯罪学の展望を考える機会となりました。
2021年6月18日〜21日には、日本・龍谷大学において「アジア犯罪学会 第12回年次大会(Asian Criminological Society 12th Annual Conference)」の開催が決定しています。本学会では国内外の犯罪学関連領域の研究者による報告を奨励し、日本の犯罪学のプレステージを向上させる機会とするため、犯罪学研究センターを中心に準備を進めています。
>>「アジア犯罪学会 第12回年次大会」公式WEB: http://acs2020.org/

【新型コロナと犯罪学に関する特集ページ】
新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム
https://sites.google.com/view/crimrc-covid19/