Need Help?

News

ニュース

2020.11.26

第23回法科学研究会を開催【犯罪学研究センター】

「法歯学の今」をテーマに、バイトマーク鑑定の国内における現状を報告

2020年10月16日、龍谷大学犯罪学研究センター 「科学鑑定」ユニットは、「第23回法科学研究会」をオンライン上で開催し、古川原 明子准教授(本学法学部・犯罪学研究センター「科学鑑定」ユニット長)や石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)をはじめ、研究関係者が約20名参加しました。※今回は諸般の事情により、限られたメンバーで開催しました。

今回は講師に藤本秀子氏(藤本口腔外科医院・京都法医歯科センター)をお招きし、「法歯学の今」というテーマで報告いただきました。最近では、バイトマーク鑑定が科学的証拠として使われるようになりました。しかしながら、科学警察研究所や科学捜査研究所にバイトマーク鑑定の専門家がいないため、法歯学の専門家に鑑定が委ねられたり、PCAST(President's Council of Advisors on Science and Technology:大統領科学技術諮問委員会)レポートでは、バイトマーク鑑定の信頼性について批判されたりしているのが現状です。


報告テーマ「法歯学の今」

報告テーマ「法歯学の今」


藤本氏の報告スライドより

藤本氏の報告スライドより

はじめに、藤本氏は「法歯学は平時の行方不明者や大災害時の身元確認、そしてバイトマーク鑑定や虐待事案、また診療関連死等の場面で主に活躍する。警察から身元不明者の歯科個人識別の依頼がきた時は、顎骨と歯科所見から情報を採取し、比較照合判定をする」と述べ、まず法歯学者の業務として一番多い、個人識別について説明しました。「歯科個人識別の依頼は、各大学法医学教室に在籍する法歯学者だけでなく、地元の歯科医師にも依頼される。また各自治体によっては、警察は嘱託鑑定書が1事案に対し1枚しか発行できないところもあるため、歯科案件をを歯科医師ではなく医師に依頼していることもあると考えられる」と日本の実情についても言及しました。

つぎに、災害時を例に歯科医師がどのようにして歯科所見を採取するのかを、海外の方法と比較しながら説明。どのようにして鑑定し、結果を表記するかを実際の画像を用いて解説しました。藤本氏は「日本の歯科所見記載書式は、日本歯科医師会が提案したものが標準となっているが、全国統一されていない。また、画像所見を含む所見の様式や比較用紙といったものも統一されていないため、、私が作り出したものを現在使用している。一方、海外では死後CT画像の撮影やマッチングソフトウェア等を用いる5つの手順を行う身元確認作業の方法を採用している国が多い。この方法では歯科所見記録用紙は統一されている」とICPO(国際刑事警察機構)が勧めるDVI(Disaster Victim Identification:災害犠牲者身元確認作業)を例に出して、日本と海外の取り組みをを比較しました。そして、「歯式といわれる歯の場所を示す記録方法についても、国際標準は、わかりやすくデジタルで書きやすいが、日本では手書きを前提とした記録の手法をとっていたため、近年のデジタル化についていけない部分がある。そのような中で、大規模災害が起きた際、身元判定に国際援助を求める、もしくは援助をすることができるのか」と歯科所見についての課題を提示しました。


藤本氏の報告スライドより

藤本氏の報告スライドより


さいごに、法歯学が活躍する場として「身元確認・歯科個別識別」「Bite Mark(バイトマーク:噛み痕)による異同識別」「虐待や摂食障害などの生活環境に関わるもの」「死因や死後環境に関わるもの」「診療関連死や顎顔面口腔事案に関わる鑑定」の5つに分け、これらについてもそれぞれ「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」といったポイントを踏まえつつ説明しました。藤本氏は「従来の歯科個人識別は、肉眼所見や画像所見を経験知で判断したものだった。そこで、私は経験知に頼らず、客観的に判断するために画像データを数値化し、どのぐらい形が似ているかを算出するシステムを開発した。この方法では口が開かなくても、歯が欠損していても判別が可能であり、やや不鮮明な画像にも対応が可能となる」と新しい技術について紹介し、さらに「この方法が確立すれば、1犠牲者に対し、多くの候補者から対象者を絞った上でのマッチングが可能になる」と、今後の展望について述べました。

この技術を支える社会的背景の一つとして、死因究明等推進基本法が施行されたことが挙げられます。令和2年4月1日に施行されたこの法律は、死因究明はもちろん、身元確認のためのデータベース整備と利用に関するものです。しかし、データ利用の際に他人の生前情報が検索されることによって、改正個人情報保護法の要配慮個人情報に引っかかるのではないか、また匿名での活用か可能なのかということが懸念されています。この懸念点に対して、石塚教授が刑法学者の立場から「生前情報は歯科医師が治療目的で得たものなので、事前に同意を得ないと目的外使用になるのではないか。ご遺族が代わりに承諾するか、あるいは捜査上必要ということで令状を取った上で使用をすべきだと考える」とコメントしました。

藤本氏の報告後、平岡 義博教授(立命館大学)は「アメリカではバイトマーク鑑定が信頼されていないというデータがあるが、それはCTや3D画像を用いたものではなく、あくまでも平面的な傷跡を計測した、肉眼の比較対象からきている信頼性の低さだと考える。今後、実物寸法ではなく形状で比較判断する画像解析とデータ分析が開発され、法歯学会の中で共有し、スタンダードな方法としての使用が増えることで、信頼性が高まるのではないか」と、現在のバイトマーク鑑定の実情、そして今後の期待についてコメント。
また、笹倉 香奈教授(甲南大学・法学部)は、「肉眼所見による鑑定は鑑定人の主観に依存するやり方だが、これについて問題点を指摘されているのか。学会において鑑定手法についての検討や発表はあるのか」と、肉眼所見による鑑定ついて質問。これについて藤本氏は「計測だけでは不十分であることとCT等の利用イメージを報告したのは、法歯学会で私が初めてだった。ここ10年で大学の法医学教室にも徐々にCTが導入されてきたが、それでもまだ導入されていないところが多い。機器がないと発想も古いままに留まってしまい、肉眼所見による主観の依存が発生すると考えている」と現在の鑑定方法の問題に触れながら回答し、質疑応答を終えました。