Need Help?

News

ニュース

2020.12.22

「ヤクザル調査隊の31年」好廣眞一研究フェローが講演【里山学研究センター】

社会とつながるアカデミック・カフェ

里山学研究センター研究フェロー好廣眞一先生が社会とつながるアカデミック・カフェで
        31年間にわたるヤクザル調査隊の活動を報告


 森のある大学 龍谷大学里山学研究センターの研究フェロー・好廣眞一先生が、去る8月11日の午後13時30分より、社会とつながるアカデミック・カフェ(第60回)にて、「屋久島で若者たちが変り、育ったーヤクザル調査隊の31年」という表題で、講演を行いました。
 世界遺産の登録地域の1つである屋久島は、島内における標高差と人間の経済活動の違いにより、本州とは異なる多様な環境が存在し、そこには、多くのヤクザル(ヤクシマザル)が生息しております。しかしながら、ヤクザルの増加にともなって、多くの猿害が発生したため、1989年にヤクザル研究者たちが、猿害の多発に対して何ができるかを相談し、猿害多発地におけるヤクザルの分布を調査することを決めました。これが、ヤクザル調査隊の始まりでした。

 講演は、先ず、ヤクザル調査隊による島内のヤクザルの分布を確認する手法や調査を通して明らかになった個体や群の数、分布先の傾向と標高差との関係などを整理、説明し、次に、この調査隊に参加した多くの若者の声を紹介した上で、若者たちがこの調査隊を通して体験したこと、彼らが変るきっかけになったことや実際に変ったことを探究するという内容で進行しました。
前者の点について、好廣氏は、1989年から90年は調査手法の開発と確立(定点調査員によるヤクザルの群れの声の確認)、91年から92年は海岸域における猿害多発地の分布調査(4人1組の定点調査班による目視での群れの個体数及び構成の確認)、93年から97年は植生の垂直分布に応じたヤクザルの分布調査(例えば、海岸林帯では100頭以上/km2と極めて高い状態の一方でそれ以上の植生帯では30頭/km2と一定状態であることや山頂部では季節によりヤクザルの分布が変化していることなどの確認)を行ったこと、98年以降は植生のかく乱の相違や木々の伐採後の植生の変化に応じたヤクザルの活動の変化をみるために、自然林と伐採地が混在する島内の西部中高度域瀬切川上流(標高700mから1300m)の7.5 km2の地でヤクザルの分布密度及び個体数変動の継続調査を行っていることを説明し、現在に至るまでのヤクザル調査隊の活動を語りました。また、好廣氏は、この1998年以降の継続調査を通してヤクザルの群れの分布及び個体数を毎年、把握できるようになり、海岸林域と比較できるヤクスギ林帯におけるヤクザル調査地を確立できたことなどを指摘しました。
このように、ヤクザル調査隊の一連の活動は、ヤクザルの生態調査を軸にその土地の植生や利用の変化を的確に把握して緻密な分析を行うというものであり、本研究センターが進める自然共生型社会の実現に関わる研究活動にも視座を与えるものです。


<好廣眞一氏のプロフィール>
里山学研究センター研究フェロー
著書に『奇形ザル―野猿公苑からの報告―』(共著、汐文社、1979年)、『上部域のヤクザル―屋久島の冬―』(『モンキー』197-199、1984年)、『志賀高原のニホンザルⅡ 横湯川流域におけるオスザルの離群と入群(その2)志賀A群をめぐるオスザルの動態』(共著、『龍谷紀要』33(1)、2011年)、『森里川湖のくらしと環境―琵琶湖水域圏から観る里山学の展望―』(共著、晃洋書房、2020年)などがある。