Need Help?

News

ニュース

2021.01.08

第32回 龍谷大学 新春技術講演会 ポスターセッションに参加【犯罪学研究センター】

龍谷発“つまずき”からの“立ち直り”支援〜明るい未来創造プロジェクト〜

2021年1月6日(水)、龍谷大学 犯罪学研究センター(CrimRC)は、今年も第32回 龍谷大学 新春技術講演会内のポスターセッションに出展しました。
【昨年の内容>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-4926.html

本学瀬田キャンパスを開設した1989年以降、開催されてきたこのイベントは、今回で32回目を迎えましたが、コロナ状況下ということもあり、全ての講演・発表がオンライン上でおこなわれることになりました。
【イベント概要>>】https://shinshun.ryukoku.ac.jp/

今年のテーマは「⽇本発の明るい未来をデザインする」です。
当センターの出展タイトルは、「龍谷発 “つまずき” からの“立ち直り”支援〜 明るい未来創造プロジェクト 〜」です。
オンライン・ポスターセッションの参加者は5分間の動画を作成し、特設サイトに投稿・公開しています。※当センターの報告のみ、下記YouTubeでもご覧いただけます。

※以下、報告の内容をテキストでご紹介します。

───────────────────────────

犯罪学はどのような学問なのか
みなさんは、「犯罪学」にどのようなイメージをお持ちでしょうか?
その対象が犯罪や非行であるため、多くの人びとの関心は、罪を犯した人の素質や環境、捜査手法、防犯対策に集中しがちです。
イタリアの刑務所や精神病院に勤めていた医師のチェーザレ・ロンブローゾ(Cesare Lombroso, 1835–1909)は、「犯罪学の父」と呼ばれています。ロンブローゾは、観察・実験・調査といった科学的な手法を用いて、犯罪者を実証的に研究したパイオニアでした。彼自身が主張した「生来性犯罪人説(犯罪は先天的な身体的・精神的特徴をもった人物によっておこなわれるという説)」は、後に科学的に否定されましたが*1、犯罪を対象とする研究の発展に大きな影響を与えました。現在の犯罪学は、社会学を中心にさまざまな学問領域の研究者が、犯罪の原因と予防について、科学の目で人と社会現象を観察・分析する学際的なものとなっています。
当センターは「人にやさしい犯罪学」をモットーとし、対人支援を基盤とした科学的根拠に基づく再犯防止のあり方について研究を進めています。

罪を憎んで人を憎まず
「人にやさしい犯罪学」の根底にあるのは「浄土真宗の精神」、ならびに市井に根付く「相互扶助」の精神です。犯罪というと暗いイメージがつきまといますが、私たちは犯罪現象を通じて、私たちの住む社会全体を見たいと考えています。罪をおかした人をつぶさに見てきたプロフェショナルたちは、時に刑罰ではなく、福祉的なサポートが何よりも重要であると主張しました。
例えば、日本では世界に先駆けて1789年(江戸時代後期)に、罪をおかした人のための“更生プログラム・職業訓練専用施設である「加役方人足寄場(かやくかたにんそくよせば)」が設置されました。提案者は「鬼平犯科帳」で有名な火付盗賊改方長官 長谷川宣以(平蔵)です。長谷川が役職についていたのは、ちょうど「天明の大飢饉」の影響が色濃く出ていた時代でした。江戸の街には衣食住を求めて大量の人が押し寄せ、治安が悪化していたのです。人足寄場はそのような背景を持つ人に対し罰を与えるのではなく、自立の手助けをしました。江戸から明治になり、開国によってそれまでの習俗・文化は一変しました。監獄(刑務所)改革の功労者である小河滋治郎は、官職を辞したのち、大阪に方面委員(民生委員)制度を創るなどさまざまな福祉事業をおこします。貧しい人や生きづらさを抱えている人が犯罪に身をやつすことに心を痛めていたためでした。

龍谷・犯罪学のルーツ「教誨師」
「教誨師」という宗教者の存在をご存知でしょうか?「教誨(きょうかい)」とは「教えさとすこと」。対話を通して罪をおかした人たちの心のケアや相談にのる他、時には亡くなった方のお見送りをする宗教者です。明治期より教誨師を多く輩出してきた浄土真宗本願寺派には、罪をおかした人の立ち直りを支える更生保護施設(西本願寺白光荘)*2の運営のほか、保護司(立ち直りを支援を支えるボランティア)となっている方も多数います。龍谷大学には、それらの活動を通して得られた知見が教育・研究などさまざまな形で根付いています。

「日本の刑事政策研究の拠点」へ
教誨活動の歴史と伝統を継承し、教育課程の充実と社会的要請に応えるため、1977年、本学は特別研修講座の一つとして「矯正課程」(1995年「矯正・保護課程」に改称)を開設しました。以来30年以上にわたる教育活動の成果として、矯正や更生保護の分野で実務家(刑務官・法務教官・保護観察官・関連する民間施設の職員、保護司や教誨師等のボランティアなど)を多数輩出してきました。こうした実績を基盤として、2002年には「矯正・保護研究センター」が文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業「アカデミック・フロンティア・センター(AFC)」に採択。「西日本における刑事政策研究の拠点」との評価を受けました。2010年度には、新たに研究・教育・社会貢献を一体として展開する「矯正・保護総合センター」に改組され、文・法・社会・政策の各学部、短期大学部および大学院実践真宗学研究科から選出された委員で運営する全学的事業となりました。
そして2016年、私立大学研究ブランディング事業に「犯罪学研究センター」が採択され、現在に至ります。



犯罪学研究センターの使命
【研究部門】:人間、社会、自然科学をテーマに13のユニットが、犯罪をめぐる現象を科学的に研究し、そこから得た成果を融合させることで、あらたな犯罪学としての体系化をめざします。
【国際部門】:グローバル・スタンダードの犯罪学をめざし、海外の研究教育機関との交流や国際学会での成果発表、そして、すぐれた研究者を招聘してシンポジウムやセミナーを開催しています。また、2021年6月には龍谷大学で「アジア犯罪学会 第12回年次大会」の実施を予定しています。
【教育部門】:調査研究や学術交流の成果を活用し、独自の教育カリキュラムや、ICT教育メソッドの開発をしています。 犯罪学教育の理論と実践。多様なニーズと期待に応える「龍谷・犯罪学」の研究成果を社会へ還元します。


これまで、大学内にとどまらず、地方自治体をはじめとするさまざまな団体と共同事業*3をおこなってきました。

わたしたちの目指す犯罪学は、「人にやさしい犯罪学」。キーワードは、“つまずき” からの “立ち直り” を支援すること。わたしたちの研究は、このように旧来の犯罪学よりも一歩踏み出して、新しい領域にもその射程をひろげています。

「生きづらさを抱えている人に柔軟に対応できる力を持った地域社会」
それがわたし達の目指す明るい未来。その実現に向けて、さまざまな知見やメッセージをこれからも提供できるよう、一層の努力を重ねていきます。

───────────────────────────

【補注】
*1 近年の「脳科学」や「DNA研究」の発展により、ロンブローゾの研究テーマ「罪をおかすのは先天的・後天的、どちらの要因によるものか?」という、(個人的資質に着目した)犯罪原因論の研究に再び関心が集まっています。

*2『更生保護施設は、刑務所や少年院などから釈放された人や保護観察中の人などのうち、頼るべき家族や帰る家のない人などを保護観察所や家庭裁判所から委託されて収容保護し、その自立を促し、更生を助けることで犯罪を防止し、地域社会の安全と社会福祉に寄与する施設です。
現在、更生保護施設は民間経営施設が全国に101施設ありますが、女性専用施設は僅か7施設しかありません。西本願寺白光荘は、7施設のうちの1施設として被保護者に宿所や食事を提供し、自立更生に必要な指導助言を行い、その更生を図ることを目的として運営し、本人に適した就職先の斡旋など、早期自立のための指導・援助を行っています。』
>>参照Link:西本願寺白光荘HP(「白光荘の事業」より引用)

*3 地方自治体との連携:
寝屋川市:犯罪認知件数減少に向けた施策立案事業「犯罪学研究センターから市域の犯罪多発地域の調査・研究及び効率的な防犯施策の提案を受け、市域における犯罪認知件数の減少や体感治安の向上のための施策立案につなげる。」
>>参照Link:(寝屋川市HP「危機管理部主要取組」より引用)

京都府:京都府では、「京都府犯罪のない安心・安全なまちづくり計画」に基づき「防犯」「再犯防止」「犯罪被害者支援」等を一体的に推進し、誰もが犯罪の被害者にも加害者にもならず、安心して安全に暮らせる共生社会を実現するため、「犯罪予防と対人支援」という視点から犯罪学について研究している「犯罪学研究センター」を設置する龍谷大学と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」を締結しました。
>>参照Link:(京都府HPより引用)

「第32回 龍谷大学 新春技術講演会」ポスターセッションについて
オンライン・ポスターセッションの全報告は、特設サイトで2021年1月6日(水)〜1月15日(金)17時まで視聴可能です。視聴をご希望の方は、https://shinshun.ryukoku.ac.jp/ より登録ください(無料)。
また、各報告者は、1月15日(金)午前中まで質問・コメントを受け付けており、頂いたコメントについては、2021年1月13日(水)~1月15日(金)17時の間に、報告者から回答いたします。ぜひ他のセッションもあわせてご覧ください。