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2021.01.12

丸山徳次研究フェローが神戸大学第41回メタ科学技術ワークショップで発表および同大学紀要に掲載【里山学研究センター】

 森のある大学 龍谷大学里山学研究センターの丸山徳次研究フェローが神戸大学第41回メタ科学技術ワークショップで本研究センターにおける里山学研究に関する発表を行い、「問題共同体としての里山学-龍谷大学〈里山学研究センター〉の16年-」と題して神戸大学の『21世紀倫理創成研究第13号』に紀要論文として掲載されました。
 
 紀要論文は、丸山氏が、第1に、本研究センターの設立の経緯やその後の経過に触れ、第2に、「里山」の概念を整理した上で「里山学」構想を論じ、第3に、里山学の制度化形式を「問題共同体」として規定してきたことを説明し、第4に、本研究センターの成果及び反省点(課題)を考察する、という構成です。そして、このような論文構成の中で、丸山氏は、第2、第3、第4の項目を詳述しています。
 第2の項目について、丸山氏は、「里山」の概念が常に曖昧さがつきまといながらも生態学的な研究を通して徐々に拡大していく様相を江戸時代から現代までの歴史的経緯を踏まえて解説し、「里山」という言葉を次の3つに整理します。すなわち、それは、①狭義の「里山」(「奥山」と対比されて、村里(居住地)から近いヤマ(森林))、②広義の「里山」(里山林に田んぼ・畔・水路・溜め池・茅場(草地)等が「セット」になった農業景観であり、「農業的自然と林業的自然の複合」)、③最広義の包括的な「里山」(「里山的自然」(①及び②の両方を意味するもの)であり、里海・里湖・里川等を含む)というものです。その上で、丸山氏は、この「里山的自然」を「人の手が入った自然」と定義すると同時に、「文化としての自然」という表現を「里山学のトポス」と呼称します。そして、丸山氏は、このように呼称するのは、里山学の探究を通じて様々な専門分野がそこにその意味内実を付与していくその共通の土台が「文化としての自然」と考えているからだと述べます。
 第3の項目について、丸山氏は、「問題共同体」とは、社会において解決が求められている問題を巡って様々な専門分野の研究者が集合するものであり、互いに他の専門分野に対しては非専門家であるような研究者の共同体だと指摘します。その上で、丸山氏は、この「問題共同体」では随時専門外から補足的に関連する研究者を組み入れる可能性があり、研究全体の評価を社会的有意性の基準に基づける可能性も開けることを示します。
 第4の項目について、先ず、本研究センターが16年間も続いてきた要因として、丸山氏は、➊コアーのメンバーが学部や専門分野の垣根を超えて意思疎通することの意義を意識してきたこと、➋「里山学のトポス」が抽象的で緩やかであったことが結果としてメンバーの緩やかな連携を可能にしてきたこと、➌「龍谷の森」及びその周辺という共通のフィールドがあり、また、「龍谷の森」の保全運動の熱が継続していること、➍メンバーが「里山問題」を環境問題の1つだと捉えて学問的使命を見出せていることを挙げます。次に、本研究センターの反省点(直面する課題)として、丸山氏は、例えば、➍との関係で「環境問題」と「里山問題」の複雑さ・困難さによって本研究センターが共通の問題点を明示できていないこと、「里山」を主観的にテーマとして取り上げることで、特に、自然科学のメンバーによる研究が難しいこと、すなわち、自然科学の研究者にとっては、「里山」が科学言語ではないことや研究フィールドが限定されることが研究それ自体の動機づけや主題化に困難をもたらしていることなどを提示します。最後に、丸山氏は、哲学の専門家として、「里山学」という構想を掲げ、それが様々な研究分野の研究者を集める契機となり、結果として、本研究センターの創設に繋がったこと、自らが提示した概念(前出の「文化としての自然」や「問題共同体」など)がメンバーの間で共有、使用されるようになったことなどを回顧します。


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上記より紀要論文が閲覧可能ですので是非ご覧ください。

<丸山徳次氏のプロフィール>
里山学研究センター研究フェロー
著書に『岩波応用倫理学講義 2 環境』(編著、岩波書店、2004年)、『水俣学講義・第5集』(共著、日本評論社、2012年)、『現象学と科学批判』(晃洋書房、2016年)、『琵琶湖水域圏の可能性―里山学からの展望―』(共著、晃洋書房、2018年)『森里川湖のくらしと環境―琵琶湖水域圏から観る里山学の展望―』(共著、晃洋書房、2020年)などがある。