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2021.02.15

犯罪学研究センターに所属する研究者が奄美市の再犯防止シンポジウムに登壇

誰一人取り残さない社会の実現のために

2021年2月7日(日)鹿児島県奄美市において、「奄美市 再犯防止シンポジウム〜非行から立ち直りを受け入れられる地域社会へ〜」が開催されました*1。このシンポジウムは、奄美市が「地域再犯防止推進モデル事業」*2を2018年に受託し、同事業が2021年3月に終了することうけて成果報告を兼ねて行われたものです。当日は奄美群島の保護司や福祉関係者を中心に約50名が参加し、盛況のうちに終了しました。

犯罪学研究センターから、浜井浩一教授(本学・法学部、当センター国際部門長、同「政策評価ユニット」長、龍谷大学矯正・保護総合センター長)と竹中祐二准教授(北陸学院大学・人間総合学部・社会学科、当センター嘱託研究員)が登壇し、「非行から立ち直るためには何が必要か」について犯罪学的観点から説明しました。


浜井浩一教授(本学・法学部、犯罪学研究センター国際部門長、同「政策評価ユニット」長、龍谷大学矯正・保護総合センター長)

浜井浩一教授(本学・法学部、犯罪学研究センター国際部門長、同「政策評価ユニット」長、龍谷大学矯正・保護総合センター長)


シンポジウム第1部では、浜井教授の基調講演「罪を犯した人を排除しない社会を目指して〜反省は一人でできるが更生は一人でできない〜」が行われました。当センターの「政策評価ユニット」長である浜井教授は、元法務官僚の経歴と、社会政策の分野に特化した系統的レビューを収集・共有するために設立された国際プロジェクト「キャンベル共同計画」の知見を活用したEBP(evidence-based policy)に基づいた政策提言をおこなっていることから、奄美市をはじめ、さまざまな地方自治体(北海道・鹿児島県奄美市・奈良県・奈良市)において「地方再犯防止推進計画」のための政策立案に協力しています*3。奄美市のモデル事業では奄美市再犯防止推進会議の委員長として、非行に関わるさまざまなケース事例や背景などの情報を関係機関で共有・提供し、多機関連携のための政策アドバイザーをしています。当日は、再犯防止の制度趣旨から昨今の国内外の非行問題、従来の刑事政策立案の問題点について、事例や統計を踏まえながら講演しました。


竹中祐二准教授(北陸学院大学・人間総合学部・社会学科、犯罪学研究センター嘱託研究員)

竹中祐二准教授(北陸学院大学・人間総合学部・社会学科、犯罪学研究センター嘱託研究員)


つづいて竹中准教授が「ISRDプロジェクトとは」と題し、当センターの「意識調査ユニット」「犯罪社会学ユニット」が2019年末に関西のZ市で実施した国際自己申告非行調査ISRD(International Self-Report Delinquency Study)*4について報告しました。少年非行は、万引きや大麻等の薬物使用といった、被害が判明しにくい犯罪が大部分を占めています。他方で、少年の犯罪被害の多くは家族や友人など身近な人からの被害であり、被害少年は警察に通報しない傾向にあります。このような理由から、少年非行の実態は警察統計等の公式統計には反映されにくいとされています。竹中准教授は、①国際比較を通じて、犯罪の加害・被害における国家間の相違点や共通点・傾向を明らかにすること。②少年の非行や犯罪被害に関する理論的課題を研究・分析し、政策提言を行うことをISRDの主目的にあげながら、奄美市においても同種の調査を実施することで、より具体的な実態把握と、地域的要因に対応したより柔軟な理論提供ができると述べ、社会調査の重要性・有効性をアピールしました。
 

第2部では浜井教授がコーディネーター役を務め、地域再犯防止推進モデル事業に関わる実務家3人をパネリスト*5に迎えてパネルディスカッションが行われました。「立ち直りの支援には何が必要なのか」をテーマに、それぞれの役割や課題を共有したのち、議論を深めました。議論の中で次のような意見が挙がりました。
①立ち直りのプロセスはひとそれぞれで、息の長い支援が必要であること。
②多機関連携は、ともすると丸投げや責任のなすりつけあいになってしまう。大事なのは関係者同士がつながり情報共有をしていくなかで、お互いの足りないところを補いあい、支援者の不安を解消していく方向が求められること。
③非行は少年本人だけの問題ではない。親も孤立させないために地域のサポートが必要であること。

こうした意見を踏まえ、浜井教授は「再犯防止という視点を飛び越え、生きづらさを抱えている人たちを地域で支える福祉的ネットワークの構築と支援者同士が率直な意見を共有できる会議体が大事である」と総括し、シンポジウムを終えました。

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【補注】
*1 「奄美市 再犯防止シンポジウム〜非行から立ち直りを受け入れられる地域社会へ〜」:
主催:奄美市、北大島保護区保護司会 共催:龍谷大学 矯正・保護総合センター
>>参照:奄美市再犯防止シンポジウムのお知らせ(鹿児島県奄美市HP)
>>参照:再犯防止シンポジウム(奄美新聞社、2021年2月8日記事)
  
*2 地域再犯防止推進モデル事業(再犯防止等推進調査地方公共団体委託事業):
地域における効果的な再犯防止対策の在り方について法務省が検討するために実施されている。その趣旨は、2016年に施行された「再犯防止推進法」が、国と地方公共団体は連携して再犯防止に取り組まなければならないこと(同法4条、同5条)にある。また、同法8条は、地方自治体が再犯の防止等に関する施策の推進に関する計画(「地方再犯防止推進計画」)を定めるよう努めなければならない、と規定する。
>>参照:法務省>地域再犯防止推進モデル事業(再犯防止等推進調査地方公共団体委託事業)
>>参照:地域再犯防止推進モデル事業における取組状況等について【平成30年度開始分・令和元年12月末現在】(法務省)
>>参照:奄美市・「地域再犯防止推進モデル事業」受託(奄美新聞社、2019年2月4日)
>>参照:令和2年度版再犯防止推進白書(本書163頁、PDF175頁に奄美市の取組紹介)| 奄美市におけるモデル事業は「少年等に対する学習支援及び就労支援」をテーマとする。

*3 犯罪学研究センター「政策評価」ユニットが関わる地方自治体の政策例
たとえば、奈良県では、出所後の受刑者を受け入れるため、財団法人によるソーシャルファームを創設し、出所前の受刑者へ求人情報を提供することで、出所後にスムーズな就労支援をすることを狙いとしている。また奈良市には、元受刑者に対して福祉サービス(住宅提供、生活保護、障がい者支援など)を提供する仕組みを提案している。

*4 国際自己申告非行調査ISRD(International Self-Report Delinquency Study)
非行経験に関する自己申告調査を世界各国の中学生に対して実施し、その結果を比較しようとする国際プロジェクト。自己申告調査は、犯罪加害者・被害者の特徴やその背景の解明、学問的な理論検証に強みを持つと言われる。
>>参照:ISRD-JAPANプロジェクト 

*5 パネリスト:
・梁瀬 次郎 氏(鹿児島県保護観察所奄美駐在官事務所 保護観察官)
・福崎 伸悟 氏(奄美地区障がい者等基幹相談支援センター 相談支援専門員)
・福山 八代美 氏(奄美市教育委員会 統括スクールソーシャルワーカー