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2021.10.19

イギリス・ベトナム・オーストラリア等をつなぎ、アジアにおける終身刑を議論する国際会議に石塚教授がオンライン登壇【犯罪学研究センター】

「拘禁主義国・日本の現状と課題」について報告

2021年10月5日(火)、6日(水)の2日間にわたり国際会議「‘Life Imprisonment in Asia: Law and Practice' Online Conference」*1 がオンラインで開催されました。本大会は、アジアにおける終身刑を議論するもので、イギリス・ノッティンガム大学法学部(School of Law, University of Nottingham)やベトナム・国立ハノイ大学法学部(School of Law, Vietnam National University Hanoi)などが中心となって催し、各国の研究者や実務家が多数参加しました。本会議では次のテーマについて、各国から報告が行われ、議論が展開されました。
・終身刑の導入(誰が、何のために、どのように終身刑を導入するか)
・終身刑囚の処遇(統治、環境、社会復帰へのアクセス)
・終身刑囚の釈放(条件付き釈放、場合によっては刑務所への再収容を含む)
・終身刑に対する国際人権基準の適用
・終身刑囚の人口統計


本大会の演題集(表紙)

本大会の演題集(表紙)


本大会のHP(ノッティンガム大学内)

本大会のHP(ノッティンガム大学内)

終身刑(Life imprisonment)とは、刑事上の有罪判決を受けた人を、終身、つまりその人が刑務所で死ぬまで拘禁する権限を国家に与える刑罰です。しかし、終身刑が継続的に行われており、今後も拡大する可能性があることを考えると、このような制裁による潜在的な人的コストを最小限に抑える環境を整備することが重要な課題となっています。ここ数十年の間に、国際的、地域的、国内的な人権基準が、虐待や無期懲役を含む一種の苦痛や治療から被収容者を守るための重要な手段として浮上してきました。
また、国際的には終身刑(Life imprisonment)の用法は多義的で、仮釈放制度の有無による整理(LWP:仮釈放のある終身刑/LWOP:仮釈放のない終身刑)や、制度が存在する場合はその運用実態による整理など、その実態は多様です。
下図は、Dirk van Zyl Smit教授(ノッティンガム大学法学部)が作成したもの*2を、日本語に訳したものです。



大会初日の10月5日(火)、「Introducing Life Imprisonment in Asia(アジアにおける終身刑の導入)」と題したテーマセッションに、石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)が報告者として登壇し、日本の状況について報告しました。
※報告タイトルおよび概要は下記の通りです。

■石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)による報告

Title:
A Choice by Lawmakers and Lawyers in the Retentionist Country: Which is more Cruel and Unusual, Life in Prison without Parole or the Death Penalty?
タイトル:
拘留主義国の法律家と弁護士の選択:仮釈放のない終身刑と死刑、どちらがより残酷で異常なのか?

Introduction (extracts) :
Japan is one of the few democratic countries, along with the United States of America, that has the death penalty. In recent years, an increasing number of states in the United States have abolished or placed a moratorium on the death penalty, and many jurisdictions have now abolished or suspended the death penalty, either legally or de facto. In Japan, by contrast, both the government and the Diet have retained the death penalty because of the dominant public opinionvits retention, and abolitionists are in the minority on the right.
I will examine how, if LWOP (life without parole) is to be introduced into Japanese criminal justice, the treatment scheme can be improved to make the punishment less unusual, even if still cruel. For the purposes of this paper, the order of consideration is as follows. The legal status of life sentenced offenders de jure; the real situation of life imprisonment de facto; Life of Lifers in penal institutions; Fixed and static treatment and the "Dynamic Treatment Scheme for Lifers".

導入(一部抜粋):
日本は、アメリカ合衆国と並んで、死刑制度を持つ数少ない民主主義国の一つです。米国では、近年、死刑を廃止または一時停止する州が増えており、多くの国では、法律上または事実上、死刑を廃止または一時停止しています。一方、日本では、死刑制度を維持する世論が圧倒的に多いため、政府も国会も死刑制度を維持しており、死刑廃止派は右派で少数派です。
日本の刑事司法に仮釈放のない終身刑が導入されるとしたら、その処遇スキームをどのように改善すれば、たとえ残酷さが残るとしても、異常性の少ない刑罰にすることができるのかを検討したいと考えています。この報告論文では、次の順序で考察しています。事実上の終身刑者の法的地位、無期刑の実情、刑事施設における無期刑受刑者の生活、固定化され(既に)定着している処遇、そして「無期刑受刑者にとって機能的な処遇スキーム」です。

石塚教授は、はじめに日本における死刑制度の是非に関する世論調査を紹介し、日本政府は「世界でもっとも安心・安全な国」と自負しながらも死刑制度を維持し、毎年のように死刑を執行している現状を報告。そして、日本国憲法や市民的及び政治的権利に関する国際規約を引き合いに出しながら、無期刑受刑者の法的地位について、石塚教授は「日本の無期刑については、かつては、『不定期刑説』が通説だった。ほとんどの教科書で、仮釈放があり終身刑でないので憲法36条の残虐な刑罰には当たらないとする説明が書かれていたため、多くの裁判官もそのように解しているのではないか。法務省も同様の意見だったが、1990年代に仮釈放を厳格化し、仮釈放までの期間が長くなり、2000年頃には無期刑受刑者の平均の服役期間が30年になった。また、無期釈放の数も減少していき、ついには年間一桁になった*3。このような実態を踏まえ、法務省は見解を改め、無期刑は一生涯の刑罰であり、仮釈放になったとしても、死ぬまで保護観察や資格制限が付く刑罰という風に見解を変更している。未だ、有権解釈というには根拠が脆弱だが、形式は、判決の宣告時には不定期刑(life sentence=indeterminate sentence)であるが、実態は終身刑(life imprisonment)に近いと言えるだろう」と説明しました。

つづいて、1989年〜2019年の30年間の「死刑判決と無期刑判決の数」や「無期刑受刑者の釈放数」についてグラフを参照し、結果として、懲役期間が長期化し、無期刑受刑者のうち、最低勾留期間である10年を経過していない者は8%に過ぎず、10年〜20年が38.2%、20年〜30年が18.4%となっていること。そのうち半数以上が仮釈放の対象となっているものの、現実には釈放されていないこと。さらには、受刑者の10%以上が30年以上刑務所に収容されており、その大半が70歳を超えていること、刑務所で人生を終える人が増えていることに言及しました。つまり、日本の無期刑は、判決時においてはindetreminate sentence(不定期刑)だが、執行段階ではlife imprisonment(終身拘禁)という意味合いを持っているのです。

石塚教授は報告の結論として、「『終身刑は死刑よりも残酷だ』と言う研究者や、『将来の見えない終身刑の被収容者の処遇は難しい』と言う矯正関係者がいるものの、仮釈放の可能性がない受刑者(マル特無期=Special Lifer)に仮釈放の可能性があると思わせるのは、あまりにもお節介で迷惑な話ではないか。むしろ、人生の最期を自分でデザインするという個人の自己決定権の侵害だ。自分のことは自分で決める、というのが時代のニーズではないか」と述べました。


石塚教授の報告のようす

石塚教授の報告のようす


日本の無期刑受刑者が高齢化していることをグラフで説明

日本の無期刑受刑者が高齢化していることをグラフで説明

今回のテーマセッションでは、他に「世界から見たアジアの終身刑の現状」や「インドにおける終身刑と司法制度」、「ベトナムにおける終身刑と改革の必要性」に関する報告が行われ、160名を超える参加者が集いました。また、続いて行われたテーマセッションでは、マレーシア・シンガポール・インドネシア・バングラデシュ・韓国の終身刑制度について報告が行われ、各国の現状と課題が明らかになりました。

10月10日の「​​世界死刑廃止デー」*4に際して、日本でも死刑廃止と終身刑導入の是非をめぐる議論が耳目を集めています。日本では、2017年から3年連続で再審請求中に死刑が執行されています。議論の終着をまたず、再び日本政府によって刑が執行される可能性があり、国際的な人権保障を考慮した司法制度の改革が喫緊の課題となっていることを再認識する機会となりました。

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補注:
*1 本会議の公式サイトは、英国・ノッティンガム大学法学部(School of Law, University of Nottingham)HPを参照のこと:
https://law.unimelb.edu.au/centres/alc/news-and-events/life-imprisonment-in-asia-law-and-practice-online-conference
本会議は、下記の機関が共催した。
School of Law, University of Nottingham https://www.nottingham.ac.uk/law/
School of Law, Vietnam National University Hanoi http://vnu.edu.vn/home/
International Organization of Educators and Researchers Inc. (IOER) https://www.ioer-worldresearch.org/
Asian Law Centre, Melbourne Law School, The University of Melbourne https://law.unimelb.edu.au/centres/alc

*2 Dirk van Zyl Smit教授(ノッティンガム大学法学部)による資料:
本会議のために作成資料は下記を参照のこと。
https://law.unimelb.edu.au/__data/assets/pdf_file/0010/3919249/van-Zyl-Smit_Dirk-and-Appleton_Catherine.pdf

*3 日本における無期釈放の数:
法務省による無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等については、下記ページを参照のこと。
https://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo21.html

*4 世界死刑廃止デー:
世界死刑廃止デーは、世界死刑廃止連盟(WCADP、本部=パリ)が、2003年に定めたもので、毎年、この日を中心に、世界各地で死刑廃止のためのイベントや死刑廃止国政府からメッセージの発信が行われる。