2021.12.16
【里山学研究センター】共催シンポジウム「琵琶湖流入河川の瀬切れと回遊魚ー社会・生態システムの視点から掘り下げるー」が開催されました。
第37回個体群生態学会 大会シンポジウム(オンライン・2021年11月6日)
第37回個体群生態学会 大会企画シンポジウム
琵琶湖流入河川の瀬切れと回遊魚 ―社会・生態システムの視点から掘り下げる―
2021年11月6日(土)に第37回個体群生態学会大会が龍谷大学瀬田学舎に運営本部を置き、開催されました。その大会の中で里山学研究センターとの共催で大会企画シンポジウム「琵琶湖流入河川の瀬切れと回遊魚 ―社会・生態システムの視点から掘り下げる―」を行いました。
シンポジウムでは里山学研究センターの研究者を中心に、滋賀県の琵琶湖流入河川で発生する“瀬切れ”という事象について4つの講演を行いました。瀬切れとは、河川の表流量が減少し、河床が露出して表流水が途切れてしまう状態をいい、河川に生息する魚類や水生昆虫類などの個体数や群集構造、移動などに大きな影響を与えているといわれています。特に滋賀県は全国でも瀬切れが発生する河川が多く、規模の大きなときでは数キロにわたり瀬切れしている河川もあります。そこでまずは生態学系の学会であることから生物と瀬切れの関係についての講演を行いました。特に今回のシンポジウムでは、生活史に川と湖との間を移動する回遊魚を対象に行いました。
里山学研究センターPDの太田氏は、トウヨシノボリという魚を対象にした研究結果について講演をしました。トウヨシノボリは、普段は河川の中流域で生活をしていますが、産卵し孵化した仔魚は一度琵琶湖まで降下し、そこで1か月ほど成長をします。そして夏場に川を上る遡上を行いますが、瀬切れは夏場に多く発生しておりトウヨシノボリの遡上を阻害している可能性が考えられました。そこで複数河川において下流と中流の当歳魚(0歳魚)数と瀬切れの規模を比較した結果、瀬切れが長距離で発生していた河川では中流域まで当歳魚が遡上できていないことが示唆されました。
株式会社西日本科学技術研究所の沢田氏は、琵琶湖産アユと瀬切れについて講演を行いました。アユもトウヨシノボリと同様に河川で産卵し孵化後、仔魚は琵琶湖まで降下し成長をします。琵琶湖産アユには冬を過ぎ、春先に河川を遡上し中~上流域で成長するものと琵琶湖で留まり続け、秋口に産卵のために遡上するものがいます。沢田氏の講演では秋口に遡上するアユを対象に瀬切れとの関係を比較し、また瀬切れの発生しやすい河川の特徴についても研究を行いました。その結果、瀬切れの発生はアユの遡上にも影響を与え、また天井川化した河川ほど瀬切れが発生していました。
次に沢田氏の講演でも話題に上がった瀬切れ発生の要因について2つの講演を行いました。滋賀県立大学名誉教授であり里山学研究センター研究員の秋山氏は、滋賀県での農業用取水量と瀬切れについて滋賀県湖東を流れる愛知川を例に講演を行いました。愛知川上流には永源寺ダムがあり、永源寺ダムは農業用水のための利水ダムであるためダム直下に幹線水路が引かれ、田に水が送られています。取水量は時期によって設定されており、農繁期には多くのダムの水が幹線水路に回され、川への放流量がほぼ0のときもあります。河川に水が回らなければ瀬切れが発生しやすくなります。しかし、受益地域では現在も水不足問題は発生しているため、すぐに瀬切れ解消につなげることは難しく、この問題は、河川における水利秩序の再編と関わる内容を含んでいるため、短期間における解決は困難であり、農業水利の基盤における変化を環境保全に活かすようなビジョンを共有できる戦略が求められます。
里山学研究センター副センター長の林氏は滋賀県の天井川の形成について講演を行いました。天井川は堤防内の砂礫堆積の進行により、河床面が周囲平野より高くなった河川のことをいいます。天井川の成因として、上流の花崗岩質の山地がはげ山化することによる河川への土砂の流出や、河川周辺で行われている農業からの洪水対策要求など、集水域で行われていた人間活動が挙げられています.そこで明治11年頃における滋賀県下の1,395町村の人口・地目別面積・産業の状況等を記述した『滋賀県物産誌』を用いて、過去の人々の自然に対する働きかけを広域で復原し、現在の天井川との関係を検討しました。その結果、里山として森林管理を行っていた地域では天井川化が進んでおらず、はげ山化するような緑肥利用をしていた地域では天井川化が進んでいました。これらのことから人の社会的利用が天井川化する一要因と示唆されました。
最後に個体群生態学会大会委員長である龍谷大学先端理工学部の三木教授に総括をしていただき、質疑応答などを行い意見を交換しました。110名ほどの参加者があり、大盛況のうちに終了しました。
第37回個体群生態学会 大会企画シンポジウム
琵琶湖流入河川の瀬切れと回遊魚 ―社会・生態システムの視点から掘り下げる―